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クロノブレイク・WORLD END  作者: えんぴつ堂
賢者の卵
14/54

賢者の卵⑦

   


 ジジジジジジジジジ…カチッツ。

 

 

 「へ?」



 不意にオレンジの鉛の海が消え、そして頭上に迫った瓦礫とこの場の白亜の壁にはめ込まれていたステンドグラスが音もなく粉砕されたそのすぐあと!



 ズゴオオオオオウウン!!



 遅れて襲った鼓膜を破るかと思うような轟音!


 

 そして衝撃!




 私は、思わず耳を塞ぎ目を閉じて伏せた!


 つっ!


 例えるなら、まるで戦闘機が目の前で通過したみたいに感じる!



 轟音が過ぎ去り、私はようやく恐る恐る目を開け辺りを確認しようと辺りを見回す。



 「すごい…」



 頭上には大きな穴。


 

 あれほどまでに迫っていた瓦礫は、まるで擦りつぶされた砂利のように地面の白亜の床に散らばりこの部屋の壁にはめ込まれていた巨大なステンドグラスは衝撃により砕け散り格子から淡やかな光が差し込み散らばった破片に反射する。



 綺麗…。

 


 上の雰囲気とは少し違う…此処は多分礼拝堂ってところなのかな?



 「…って、あれ?」



 少し辺りを見回した私は、すぐ傍にあった…いた筈の卵が見当たらない事に気づく!


 「…どこ?」



 私は、細かく砕けた白亜の砂利の残骸に目を凝らす…まさか今の衝撃で砕け散ったとか?



 「ああ、そんな! ねぇ! どこ?! 返事をして!!」



 砂利の山を駆け呼ぶけど、卵からの変事はない…最悪の事態が頭をよぎって背筋がぞっとする!



 

 ガラッツ。



 その時、駆けまわる私の背後で砂利の山が少し崩れた!



 「そこ?! そこにいるの??」



 私は、不自然に崩れた砂利の山にとびついてそのあたりを手で掘り返す!



 ザリッ!


  ザリッ!


 ザリッ!


  ザリッ!



 すると、少しも掘らないうちにややクリーム色がかった卵の先端が顔出した…ほっ…よかっ______。



 ほっとしたのもつかの間、私は息を飲む。



 「…そんな…!」



 砂利の中から掘り出した卵には、無数の罅…今にも割れてしまいそう…!



 ≪ガタガタガタガタ…ガタガタガタガタ…!≫



 腕の中の卵は、まるで氷を通り越しドライアイスに近いくらい冷え切り震える。


 「しっかりして! ねぇ! 返事して!!」



 ≪ガタガタガタガタ…ガタガタガタガタ…!≫



 震える卵の無数に罅からは、白身と思われる汁がこぷこぷと漏れ出す!


 

 「だめ!」



 手で押さえるけど罅が卵全体に広がり過ぎてて抑えが利かない…このままじゃ…!



 「そうだ…ウンディーネ!」



 私は水の精霊獣ウンディーネを呼び出す!



 そう、一時的にこの白身ごと凍らせて応急処置を________!



 ウンディーネは、私の意図を読み取ってその透明な手の平を卵の罅に当てたけどその動きが止まって首を振った。



 「何? どうしたの??」



 コポッツ…コポッツ…。



 困惑したウンディーネの意思が私に流れ込む…『この物体には魔力が利きません…それどころかこれからは魔力も気力も感じません』…え?



 ウンディーネは、続ける…この世界の住人たちは、必ず魔力か気力のどちらかをもっていてましてやその影響を受けない筈がないのに…っと。


 

 「そんな! 本当にどうしようもないの? 回復魔法もダメなの?」



 透明な水は震える。


 「…っ!」


 もう、どうして良いのか分からなくて私はこれ以上卵から白身がこぼれ出さないように罅を覆うように抱きしめた…!



 「ごめん…どうすれば…お願い、頑張って…! 誰か…女神様!」



 抱きしめて、目をつぶって返事のない女神様に祈る事しか出来ない…。



 可愛そうなくらい震える卵。



 なんて…なんて無力なんだろう…。


 どんなに魔力を持っていたって、どんなに女神様の加護を受けていたって、目の前で今にも絶えてしまいそうなこの子に何も出来ないなんて!


 

 「何が勇者だ…何が世界を救うだ…」



 私は、これ以上腕の中の卵の体温が落ちないように魔力を使って自分の体内の水分を振動させて体温をあげる!

 


 

 こんなの何の意味も無いかかもしれないけど、何もしないよりはまし…そうだ!


 この上にはフルフットさんがいる筈、何とか助けを_______トクン。



 「!?」




 不意に、心臓が跳ねて脳裏に奇妙な映像がフッっと浮かぶ。



 寒いくて四角い薄暗い場所。


 寂しくて。


 寂しくて。


 気が遠くなる時間そこにいて。



 そしたら、『あの人』が現れた。



 覚えてる。



 殻の上から触れたあの手の温もりを覚えている。


 あの『血』の味を覚えている。


 冷たい水の中で、私はあの人から足りない部分を補って体を造ったのを覚えている。




 腕の中の卵が弱く…本当に弱く脈打つ。




 そう…あなたも足りないんだね?



 ブチッツ。



 唇の裏を歯で噛むと、あっという間に口の中に血が溢れる。



 ポタッ。



 卵の殻に鮮やかな赤が落ちて、スッと滲み込んだ。



 ≪ゴプッツ!? コボッツ!??≫



 その瞬間、卵が激しく脈打ちドライアイスのように冷え切った体温は一気に跳ね上がる!



 私の血を受けた卵の中では、凄まじいスピードで細胞が分裂して『あるべき姿』へとその肉体を象る…けれど…!




 ≪ヤダ! ヤなんだな! こんなのヤなんだなっつ!≫



 温度を取り戻した卵はそれを激しく否定する!



 「どうして?」



 ≪聞こえる…聞こえるんだなっ! …もうぐこの世界はなくなっちゃうんだな! だから、おで、ここから出ないんだなっ! 絶対に出ないんだなっつ!!!≫



 卵は震え、怯え、もがく。



 ダメ…!


 私の…私の所為だけどもうこの殻は限界。


 すぐにでも肉体を象らなくちゃ、早く『孵』さなくちゃ…こぼれて死ぬ!



 だから、どんなに嫌がってもどんなに否定しても容赦しない!



 「だめ…もうそこから出てきなさい…!」



 意思とは関係なく肉体は速度を上げて形成される中、悲鳴を上げる卵を私は抱きしめる事しか出来ない……。



 「…大丈夫…怖がらないで、私が守るよ…だから____」



 ≪…グスッ…グスッ…ほんとうに?≫



 もう腕の中の卵は、抱えるのがつらいくらいに熱い。


 

 「私がこの世界を壊させたりなんかしない…だから」



 ≪ホントに守ってくれるんだな? このセカイを、みんなを守ってくれるんだな?≫




 ビキビキと罅が卵全体に広がる!



 「…出来る…やらなきゃ、その為に私は______」



 ≪ねぇねぇはホントに出来るんだな? たとえそれが、ねぇねぇにとって大事なのと引き換えでも≫


 


 え?




 パキン。



 卵が割れた。


 

 息を飲んだ私の眼下でもぞりと動く。



 パキッ。


  ペキッツ。


 パリッ…パリッ…。



 内側から窮屈そうに蠢き殻を割ろうとするソレは、疲れ切っているのかその動きは鈍い。



 「…も、もう少しだよ…」



 私の声が聞こえたのか、ソレは縮こまっていた体を一気に伸ばし殻を突き破った!



 

 「う わ !?」




 

 反り返って後ろに倒れていくその体を私は抱き留める!



 白。



 真っ白な髪。



 しっとりと濡れた白い鱗の小さな体。


 

 良かった…温かい…あとは…!



 「息を、息をして!!」



 私はぐったりとしたその体をガクガク揺らす!



 「だめ! え、えっと、じ、人口こきゅ…!」



 「……コポッツ! ゴプッツ!! げほっつ! げほっつ!!」



 訳も分からず唇を寄せようとした眼前で、小さなその子は体液を吐き激しく咳き込む!



 「ぅあ…」

 

 思わず抱きしめた腕の中で見開いたルビーのような赤い瞳が、怯えたように私を上げる。




 良かった!


 無事だ!!

 

  

 私はほっと胸をなでおろし________ガラッ。



 「キリカ!! 上!」



 ソレはギャロの声。



 「え?」


 

 その声に上を見上げた時には、丁度バスケットボールくらいの瓦礫がもうすぐ頭上まで迫っていた!



 くっ!


 ダメ! 剣も魔法も間に合わな____。




 「コード302266:ハードシールド」

 


 舌足らずな子供の声が私の胸にくぐもって響くと、直撃かと思われた瓦礫は頭上で砕ける!



 コレは、ガリィちゃんの時と同じ…魔法?



 この子が?



 でも、何だろうこの違和感。



 「…驚いた…」



 駆け寄ったギャロは、膝をつき驚きを隠せない様子で私の腕の中で震えるその子を覗き込む。




 「待ちわびた…これは千年来の我ら一族の悲願だ」



 そのしっとり濡れた真っ白な髪を撫でたギャロは、視線をあげ微笑えんだ。



 「ギャロ、この子…」


 「古の賢者…我らが先祖『賢者オヤマダ』と同じ能力…もう一族からは出ないと諦めていたがまさかこんな形で…」



 信じられないと、感動と驚きに歓喜するギャロ…賢者?



 賢者。



 その言葉を聞いたそ赤い瞳は、怯えたように私にしがみついた。

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