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クロノブレイク・WORLD END  作者: えんぴつ堂
賢者の卵
13/54

賢者の卵⑥

 大司教。


 その言葉はおねぇ口調でも、エルフ領の民を守ろうとするフルフットさんその姿はまさに大司教としての威厳と畏怖を感じる。



 恥ずかしい…。



 私、勇者なのに…あんなリザードマンくらい簡単に倒せるのに何もできないなんて…!


 バチン!



 そのリザードマンは、眼前の鎖の残をその太く大きなトカゲの尾で振り払いその爬虫類特有の目をギョロギョロさせながらこちらに歩を進める。

 


 「やぁ~ん☆ 身分不相応な力を使っているからすっかり正気を失ってるわ…どうしたものかしらん☆」



 フルフットさんが迫りくるリザードマンに向けてロッドを構え、困ったように眉を下げた。



 「…フルフットさん、私…私にやらせて下さい!」


 

 「あらん☆ 勇者ちゃんが出る幕じゃないわよ」


 

 「いいえ、やらせて下さい…大丈夫…剣も魔法も使いません」



 私は、セーラー服のスカーフを結んで皺を整えフルフットさんの前に出た。


 軽く拳を握って右足を前に踏み出し体の中心線をかばうように隠して膝を軽く曲げてステップを踏むと白銀のブーツがかかとを鳴らし短かいスカートプリーツが揺れる。


 「あら☆ やっぱり良く似合うわね~☆」


 フルフットさんは、見えそうで見えない短めのスカートと白銀のロングブーツの間を凝視してる…変態…!


 

 私は、舐めまわすような変態的視線を黙殺し顔の前に拳を構え脇をしめ目の前のリザードマンを見すえる。



 拳を握るなんて本当に久しぶり…こうやって誰かと対峙するのは空手の全国大会いらいじゃないかな?


 

 高校で空手部に入っていた私。


 部員なんてどんどん辞めて行って、最後の全国大会には遂に私一人になちゃってたっけ…。

 


 「がああああああああああ!!!!!」


 

 敵を前に、ぼんやりとしていた私をリザードマンの咆哮が呼び戻す。



 

 「大丈夫? 勇者ちゃん?」


 「はい…!」



 私は、白亜の地面に敷かれた深紅の絨毯を蹴った!



 殺しはしない…!


 拳で戦闘不能にする!




 「はあああああ!!」



  ボクッ!



 懐に飛び込みリザードマンの鎧の隙間、人間で言うところの肝臓の辺りに拳を打ち込む!



 入った!



 「っが!? ぐぅう!?」



 一瞬怯んだリザードマンの隙を私は逃さない!



 スパァアアン!



 私は、脇腹を押えくの字に曲がったリザードマンの顎先に掌底を喰らわす!



 普通の人間ならコレで片が付くけど…!



 「ぐるるるるるるるぅう…」



 顎先からの衝撃でのけぞった長めのトカゲの頭が、唸りながらもたげギョロリと睨む。



 「はぁあああ!!」



 私は立て続けにひじ打ち・裏拳からの胴回し回転蹴りコンボを打ち込だ!



 「ガフッツ! ぐるううう!!」



 身に着けた漆黒の鎧が砕けるけど、連打に2・3歩後退しただけでリザードマンは踏みとどまる!



 確かな手ごたえなのに、なんて頑丈…殴っても殴っても倒れない…!



 「あはっ…」



 やだ、私…笑ってる?


 自分の口元が緩んでいるのが分かる…。


 空手の試合でこんなに全力で戦えたことなんてあっただろうか?


 楽しい…人間相手じゃすぐに壊れちゃうから。



 連打を浴びせて前蹴りを決めると、リザードマンは白亜の壁に叩きつけられて瓦礫に沈む。



 「もっと…」


 

 私は、リザードマンの砕けた鎧の襟を掴んで立たせる。


 ああ…なんだか熱に浮かされたみたいに頭がふわふわする…。

 


 「ぐぁ…かはっ!」



 呻くリザードマン。


 

 あれ?


 私…こんなに殴って…痛そう…。



 「ねぇ、もっと遊ぼうよ」


 

 立たせたリザードマンが、ふらふらと何とか直立を保つのを確認して襟を放してステップを踏み地を蹴る!



 「カエセ…」



 目玉をギョロギョロとさせるリザードマンは、焦点の合わない眼球で宙の私を捉えようとしながらつぶやく。



 カエセ?


 『返せ』って事?


 

 て、言うかリザードマンって喋れるんだ。



 そう思考するけど、振り上げた足は脳天に踵を落とそうと落下を始める。

 

 

 

 『踵落とし』


 

 私の得意技。



 普通の試合では使えない頭部への直接攻撃_____そのモーションを止める事なん______!





 「だめええええええ!!」



 リザードマンの眼前に駆け込むふわふわのグレーの綿毛にスカイブルーの瞳!



 「ぱぁぱぁを苛めるなああああああああああ!!!」

 


 が、ガリィちゃん!??


 リザードマンを突き飛ばし、その幼児特有の短い手をめいっぱい広げるガリィちゃん!


 ダメ! このままじゃガリィちゃんに踵落としが直撃する!


 

 止められない軌道。



 魔力、間に合わない! もうだめ_______!



 ガリィちゃんに容赦ない踵が迫る!




 ≪コード:372844ファィンシールド≫



 「え?」



 ソレは小さな子供の声。



 その瞬間、ガリィちゃんの頭上に小規模だけど魔法陣が展開される!



 ガッツ!


 パキィイイイイン!



 接触する踵、魔法陣は破壊されたけど何とか軌道がそれて私の踵は地面を叩く!



 良かった! 


 助かっ________ゴキッツ、ビキビキ!



 瓦礫の地面に広がる罅。



 「嘘っ!?」


 

 私とガリィちゃんを巻き込んで、地面の白亜の床が罅から崩れて崩落する!



 「が、ガリィちゃん!」


 「うにゃぁああ!?」



 バランスを崩して落下するガリィちゃんに手を伸ばすけど、その体をしゅるんと太い緑の尾がからめ上へと引き上げた!



 良かった…!


 落下する私が、宙ぶらりんになるガリィちゃんにほっと胸をなでおろした時だった!



 ズルッ。



 ガリィちゃんの背負ってた籠から、あの卵が滑り落ちる。



 「うにゃあああああ!! だめぇえええええ!!」



 悲鳴を上げるガリィちゃん。 



 落下速度の速い卵は、先に落ちる私にあっという間に追いついて追い越そうとする!


 …大変!


 このまま地面に叩きつけられたら、きっと卵が割れちゃう!

 


 「も…少し…!」



 空中で身動きが取れない中で私は卵に手を伸ばす…地面が迫ってる…!



 卵を『守らなきゃ』!


 伸ばした手が触れ、私は卵を抱きかかえ身を縮めた!



 トクン。



 え?



 胸に抱えた卵が脈打つ。



 温かい…生きてる?



 そうか…ガリィちゃんを守ったのはアナタなの?



 卵は震える。


 しかし、そこから伝わるのは底冷えするような冷たさ。


 

 どうしたの?


 恐いの?


 腕の中の卵は震え続け、冷たさを増していく…。


 

 「大丈夫…もう怖くない…」



 私は卵を抱きしめる。



 ≪コワイ! こわいんだな!≫



 ソレは、まるでピリピリとした静電気。



 ああ、ごめんなさい…私、ガリィちゃんとアナタになんて事_____!



 ≪ちがう!≫


 

 声に出さなかった私の思考を読み取ったように卵は震え、伝わるビリビリが強くなる…!



 ≪聞こえる、聞こえるんだな…怖い音≫



 音?


 

 ≪みんな…みんな、なんで聞こえないんだな? こんなに、こんなに怖い音なんだな!≫


  

 泣き出しそうなビリビリは抱きしめる私の手から全身を駆け、卵の温度は急激に下がって体温を奪う。



 ≪世界のコワレル音…崩れる音…どうして誰も聞こえないんだな…コワイ! コワイんだなっつ! ヤなんだなっ!≫



 抱きしめた卵の中に蹲り震える小さな子。



 胸が締め付けられる。


 

 どこか懐かしいような愛おしいような切ない感情…前にもこんな事があったっけ_______ダン!!?


 

 「かはっつ!?」



 ふと、そんな事を考えていると背中に凄まじい衝撃を感じて息が詰まる!



 その時、私は自分が卵を抱えたまま地面にそのまま叩きつけられた事に気が付いた。



 背中から突き抜けるような衝撃に、息が出来ない…っ私っ一体なんメートル落ちたの?


 

 ううん!


 それよりも…!



 「けほっ! かふっ…はぁ、はぁ…よか った…!」



 私は腕の中の卵が無事なのを確認して安堵する…けど!


 

 バッと見上げた天井。



 天井から崩れ落ちる床の瓦礫!



 「グ…ランドリオン!」



 痛いみに強張る体を無理やり起こし、地面にへたり込んだまま私は手を掲げると馴染みの感触と共に聖剣グランドリオンが現れた!



 けど!


 迫りくる瓦礫が…!



 「くっ…まにあわ_____っ?」



 ドクン。



 私の心臓が、一回大きく脈打つ…そしてその瞬間。



 目の前が夕日のようなオレンジに染また!



 また?!



 高速で迫りくる瓦礫のスピードが止まる…ううん、止まったように見えるくらいゆっくりになる!



 コレ…さっきと同じ…息が出来ない…ソレに体がまるで鉛の海に浸かっているみたいに重い…!




 ≪大丈夫なんだな! 今、ねぇねぇはまるで時間がゆっくりになったように感じているんだな≫




 へたり込んだ膝の上の卵が震える。



 感じている?


 私だけ?



 ≪ん! 今、ねぇねぇの周りはものすごく重いと思うけどホントはちゃんと動けるし息もできるんだな!≫

 

 

 動ける…うん、さっきもかなり重かったけど何とか腕をあげられたけどこのままじゃあの降ってくる瓦礫を避けられない!



 ≪だいじょぶなんだな…ねぇねぇ! あの瓦礫に向かって剣を振って欲しいんだな!≫



 振る?


 斬るじゃなくて?



 言われた瓦礫を見すえる…間合いなんて全然遠い、振っても当たらないよ?



 私は疑問に思いながら剣を振るおうと、卵を膝からゆっくりゆっくり下して鉛のようなオレンジの海の中へたり込んだ体を奮い立たせる!




 ッ…くっ…!

 


 重い…!



 フルパワーで両手で握った剣を振るおうとするけど、すごい抵抗!



 オレンジの鉛の海は、振り抜こうとする刃を行かせまいとしているみたい…!



 ぃ…このぉおおおお!



 パン!



 その時、何か水圧の壁を突き破ったような感触がしてスカッっと抵抗をまるで失くし振り抜ける!



 振った…!


 振ったけどこれでなにが_________パン! パパパン!




 ソレは、波紋。



 振りぬた軌道に合わせて、まるで湖面を叩いたような波が間合いなんか全然遠い瓦礫に触れ次々と弾けたような音を立ててまるでゼリーのように砕け散る!



 ナニこれ?



 ≪衝撃波…ソニックブームなんだな≫



 ふわりと地面に立つ卵が、振動する。



 ソニッく…なにその切斗の持ってた格ゲーに出てきそうなの…ちょっとカッコイイ!



 ≪今、ねぇねぇが切ったのは【音速の壁】なんだな! それを突き抜けて発生した衝撃波で広い範囲の物体が粉砕されたんだな! この空間ではどんな固い物でもスライムみたいに簡単い破壊されれるんだな!≫

 

 

 卵…ついさっきまであんなに怯えていたのに、振動から伝わる≪声≫はとてもしっかりしている。

 



 よぉおおし!



 私は鉛のように重いオレンジの抵抗の中、残りの瓦礫を破壊するため剣を振るう…あれ?



 軽い!?




 ≪あ" 待つんだなっつ!≫



 卵が叫んだ時には遅かった!

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