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007 Welding magic(溶接魔法使い)

ここは扶桑ふそうの国、都は内陸部の平野にあり、都から南方の海のそばに、中堅都市の天羽あまう市がある。天羽市は造船と軽工業で名をはせる工業都市である。

この街では多くの魔法使いが様々な工業製品を作り出しているが、また新製品の開発のために魔法も開発している。



ある研究所の窓から研究員らが見える。



両極に高圧の電流を流し、電圧差で溶接棒を溶かし、さらにその熱で溶接する部材の温度を上げて、溶着させるという電圧融解型溶接を行ってるようだ。


「だめだこりゃ!電気魔法だと魔法力消費が大きくて、作業初めて2時間ぐらいでエンプティしてまう。これを仕事として成立させるなら、大魔法使いレベルの魔法容量がいる。5倍も改良しようがないし、これを改良したとしてもそうは望めないなぁ。方法変えるしかないか?」

「親方!」

「親方じゃねえ!!研究主任様だ!!いつまでも鍛冶屋のつもりでいるんでねえ。」

「おっす!主任!!意見いいですか?」

「おう!」

「火ぃあてて溶かしあわすってのは?ダメな方法なんですか?」

「おまいも、ハンマー使う鍛冶職人なら金属の特徴知ってるだろう?鉄にせよミスリルにしろアルミナにしろ、大まかな金属特性は変わらない。溶かしあわすって上で何がネックになってるのかはうすうすはわかるだろう?」

「おっす!主任!熱伝導とか熱の拡散の事ですかい?」

「わかってるじゃねえか!おまいもいっぱしの職人だなあ!」

「刀の鍛造の時に異種金属どうしを重ね合わせていて、なんで溶けるまでのエネルギーをかけてるにも関わらず、融解接合しないのかと思いました!」

「そうだ!

金属を溶かすにせよ、熱く熱するにせよ、熱を加えるというのは同じだけど、ただ熱するっていうのはエネルギーを無駄に使い過ぎる傾向にある。

そして炎だと加熱がどうしても広範囲になり、部分的過熱というのがむつかしい。たぶんネックはここら辺が問題なのだろうが、それを解決するには特性改良とかじゃなく、技術改良がいるのだと思う。

その技術的な難問がいま俺たちのまえにたちはかってる!!そりくりかえるほどの崖のようだ!!どうしたらいいか、全くわからん!!神も解決策も無いものか!!」

「ンーーーーーーー、主任!!いいですか?」

「なんでえ」

「この間のメシ時にコモン用の工具業者からのカタログ見ながら食べていて、そこでモンロー・ノイマン効果を利用した鉄骨補修工具っていうのを見たことがあります。

それの使用方法の画像添付を起動したところ、超重量貨車が何度も走行しているうちに鉄道レールが部分的に削ぎ落ちるように割れることがあるそうです。そんな部分を修理のために、削がれたレール部分を耐熱性のレンガで囲み鋳型にしていました。そこに補修用の鉄骨材を上にのせて、その上にその工具を設置し、それに火を点けると、下向きに白い炎が噴射され、10分ほど煙でもうもうとしていました。レールがある程度冷えたあと、鉄材で凸った部分を回転砥石の工具で磨いてました。

この工具を取り寄せしてみませんか?融解のヒントになるやもしれません。どうです?」

「モンロー・ノイマン効果ってのはわかるが、そんな道具は知らねえな!確かに今詰んでどうにもなっていないから、何らかのヒントにでもなると助かるな。早速手配してくんな!」





 

それから5年後


天羽市鍛冶ギルド 職業訓練センター 溶接学科



「魔法宣誓! 炎よ顕現せよ!

竈よりいでし、原初の炎、炎を大きくたらしめん!

赤より青く、青より黄色く、黄より白く、温度を高めん!

さらに噴出口を円筒に並べ炎を集約せん!」」


 呪文が読むにつれ、目を焼くような白く明るい炎が出現する。

目の保護のため屋外用の色眼鏡を着用。片手に溶接棒をもち、溶接する部材近くでうんこすわりをする。

円錐に炎が噴出している芯になる部分に、溶接棒を差し込むと溶接棒が溶けはじめ噴炎により飛ばされる。さらに噴炎が溶接部を加熱し、溶けた溶接棒が接合箇所に付着し溶接部を融解させ、溶けた溶接棒が接合部に堆積し、溶接がなされていく。溶接棒と浮遊する噴炎を刻むように少しづつ位置を微調節しながら、溶接個所を移動していく。それらの作業を延々と繰り返して数メートルの溶接をしている。


「ジリジリジリジリ」


「ふう!終わったわ!!」

「ええ、これで今日の授業はおわりね。帰りにお茶して帰らない?」

「たまにはいいわね。」

「カフェ・セリカなんてどう?」

「お話ししながら、お茶するには最適ね。」


「今から飲みに行かないか?」

「いや今日はやめておくよ。魔力を使い過ぎてちょっとめまいがするんだ、今日はかえって早く休むよ。」

「なんだよ、みんな未成年ばかりだからお前しか誘えないんだぞ!でも確かに顔色悪いな。また一緒に飲もうぜ!」

「おう。」


「来週の水曜日は異種鋼材の接合実技か・・・・・」

「むつかしいよな!先輩にコツでもないか相談に行かないか?」

「いいねえ。」

「先輩帰ってしまわないうちに捕まえに行こう!」

「誰に聞く?」

助実スケザネ先輩と、先輩といつも一緒にいるほど仲のいい太一タイチ先輩はどうか?」

「俺、あの先輩らは苦手だから、声掛けにくいよ。でもそれは良いと思う。」

「じゃあ、早速行こうぜ!!」

「「おう!」」



本来ギルドの職業学校には鍛冶科・素材精錬科・鍛冶設備科が存在し、どれもが3年制で全校生徒数も80人ほどだった。そこに頑丈な鋼鉄船を販売しこの地域の造船技術力を高めたいという、天羽市大名の赤羽根アカバネ男爵と、鉄鋼船の独占販売をもくろむ造船商会らにより、学科設立の資本が出資されることになった。溶接魔法は高噴出の炎魔法を位置を変えたり噴出炎の調節をし、さらに溶接棒を操るという、非常に複雑な技術職なので、しっかりした溶接技術を習得させるため、鍛冶ギルドの訓練学校に0.5年を3回という1.5年制の変則的な実技メインの短期学科が成立することになった。そして呼びかけたところ、100人もの魔法使いが入学することになり、また次回も同数の魔法使いが入学し、この盛況につながった。


あと半年もすれば最初の卒業になる。溶接魔法使いとしての就職のために、各造船所の生産計画部の社員が集まり、会合を持つことになった。溶接魔法使いの配分などは商会規模により分配率をきめるまではスムーズに決まったのだが、技術系の職人を帯同したある商会から、溶接検査技術者の提案があり、そこまでの考えのなかった商会は慌てることになった。


溶接検査技術者というのは、魔眼によって溶接の甘いところを探すという仕事である。もっぱら完成直前の船内を歩き回って溶接個所を見ていく。ダメなところは赤いマーカーをつけていき、あとで溶接技術者が手直しをして、一日で1船は見ることができるため、全商会でも当面1人入れば事足り、品質向上に努めるには必要な人材であるという説明があった。この魔眼というスキル持ちは数が少なく、魔眼というスキルは生まれつきのもので、魔法とは本来関係のないもので、数万に一人、さらに透視能力ともなると数百万に一人ぐらいの発現のため確保がむつかしく、全商会と男爵のツテで魔眼持ちを探し、全商会で雇おうという提案がなされた。準備の無かった商会の社員も必要性が理解できその案に乗ることになった。また全商会の秘密を守るという観点から、契約魔法を受け付けてくれるという条件も出された。



最初の商業向け鉄鋼船がそれから2年後に竣工した。




そしてさらに3年後。

「今日は扶桑国、国王陛下並びに王妃様を、めでたき日にむかえることができ、この赤羽根、非常に光栄です。国王陛下!訓示をお願いします。」

赤羽根男爵みずから風系の拡散波動魔法で場内司会をしている。

国王が立ち、手を振った後、

「この喜ばしき日に立ち会えたことをうれしく思います。この鉄鋼でできた戦船イクサブネ太平丸は、丈夫なだけでなく鉄鋼の厚みもあるので、攻撃魔法そして魔砲にも抵抗性が高くなっており、防御力が倍化しています。それだけでなく大型なので威容があります。一番の目的はわが扶桑国の国力を示すことにあります。では、バンザイ!」

「「「「「バンザイ!!国王陛下バンザイ!!扶桑国バンザイ!!」」」」

万歳の掛け声と共に、舫綱がほどかれて、船が港の海面に波を立てて滑り込み、その威厳を示すことになった。




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