006 Magic field gun (魔砲の歴史)
最近配備の進む兵器に「魔砲」というものがある。
仕組みは地球でいう所の蒸気砲とほぼ同じ。
タンク内を蒸気によって満たし、加熱をし続けることで、高圧の蒸気をためて、バルブを開放させることで、一斉に蒸気は砲身に殺到し、砲塔の中の砲弾を加速させて、砲弾を5~8kmほどの目標まで打ち出す。
蒸気を魔法で作り出す機構のみが魔法化されている。蒸気を作り出す窯部分に大型の魔法コンロを取り付けることで蒸気発生装置が付いているのだが、砲身以外の重量物である水タンクは別にしているので、大幅な軽量化をすることができた。遠距離攻撃用なので非常に砲身が長い。それでも金属使用が少ないため、通常は牛6頭なのだが、場合によっては移動速度が遅いが牛2頭での移動を可能にしている。
蒸気は空気中の開放時の伝達速度、すなわち爆発力が、火薬に比べると1/10以下と圧倒的に爆発速度が遅いため、火薬爆発をのような速い爆発を閉じ込め必要がないために、砲身とチャンバーを軽量に作ることができる。冶金学がすすんでいないため、爆発物を使用する発射方式が採用されない。
砲は薄い鉄のパイプで作られており、筒の内部はつるつるでライフリングはない。弾の外装にライフリングが刻まれているので、打ち出されると弾が回転をはじめる。回転することで、弾の直進安定性は高い。
昼の攻撃というのが決まったら、魔砲兵はまず10時間前に釜の掃除と砲の掃除を始める。ごみや汚れは蒸気発生に影響を与えるせいである。砲を使ったあとでは砲や釜の温度がやけどするほど熱いため、事後に掃除はせずに事前に掃除をすることになっている。
そのあと給水タンクと釜をパイプでつなぎ、釜に水を入れていく。そのあと魔砲兵が窯に集まり、魔法力をコンロに注いで、コンロを発熱させて、水をお湯にしていく。魔法をずっと注ぎ続けるわけにもいかないので、交代しながら6時間ほどすると蒸気がようやく高圧になる。
予定の2時間前にはほぼ発射準備を終える。2時間前に準備態勢を整えるのは、作戦時間変更に備えて、2時間ほどのマージンをとっているためである。
正午の合図とともにバルブが開かれる。近く弾が打ち出された瞬間「バシューーーー」っていう排気音しか聞こえないが、少し離れたところその蒸気音は低音になりほぼ聞こえなくなる。その代り「ドンッポーーーン」という音を聞くことができる。すこし愉快な音と共に弾が射出される。
窯はすでに温度が上がってるので少し圧が残ってるのだが、そこに給水をし始めるとまた一気に冷えてしまい、圧が正常になるのに5・6時間はかかることになる。このタイムラグがこの兵器の重大な欠点ともいえる。
そのため運用としては2・30の砲塔を集め、一斉に打ち出した後、そのまま移動を始める。移動を終えてまた設置し、発射準備してまた発射。それを日に3回ほど繰り返す。
最近では高速釜によって時間短縮が測られてはいるが日の出てるうちに5回打てればいい方だった。
そんなところに技術革新が起きた。魔砲が蒸気式から圧縮空気式に変わった。
いままで、圧縮空気も考えられていた。考えられた最初は魔術など使わずに、手押し式のポンプと逆止弁を空気を閉じ込めるタンクにつないで、人力でひたすらポンピングする。この方法が採用されなかったのは効率が全く蒸気砲と同じで、魔法使いでなくても携われるというのが利点であるのだが、ポンプ兵を一基当たり20人ほどで蒸気砲と同等で、50人いればさらに発射間隔が短くなる。
しかし有事には国民徴兵制が施行されるので人手不足とか雇用費とかは戦時国債で賄えるのだが、10基で500人もの雇用、100基で5000人とかは効率が悪くて見送られた。
そんなところに鍛冶技術で大量の空気を高速で圧縮する技術が発明された。発明のきっかけは羽根技術の進化による。
動力は相変わらずボイラーなのだが、そこから噴き出る蒸気圧を、タービンという羽根を廻して、高速回転運動を、ギアダウンをして、トルクフルなピストン運動にし、ピストン運動を空気を加圧し、圧縮空気を作り出す。というメカニズムになった。
魔砲兵団の魔砲編成変更は必要になったが、これによって今までの魔砲兵の炎使いの魔法使いを解雇せずに同数のままで、魔砲数を2倍に増やすことができ、なおかつ発射速度が数倍になったので、30分に1回の発射になり、攻撃力が2倍に増やすことになった。
もう一つの変化が、弾のバリエーションが増えた。今までの弾は弾を高いところに打ち上げ、ドスンと落ちる重力エネルギーのみの質量弾のみだったのに、そこに爆裂弾という弾種を選択できるようになった。弾の中に鉱物結晶を仕込み、落ちた時の衝撃で結晶が変形し圧力を感じたとたん結晶が爆散する。その周りに飛散物質を詰め込んでおき、砲弾を打ち出し、地面にぶち当たると爆散飛散し周囲のもの・人をズタズタに引き裂く。着弾周囲の飛散し兵士の死傷させる。今までは攻城兵器としての用途しかなかったものが、対地攻撃にも使えるようになった。
この結晶は水分に敏感で蒸気魔砲では使えなかったのだが、空気魔砲の開発中と同時期に結晶が発見され、配備と共に正式採用されたという興味深い逸話がある。
というように魔砲は進化してきたのだが、ある魔法学者の研究発表を聴講していた技術者のアイデアから、とある魔砲の基礎設計が掘り起こされることになった。
その魔砲の基礎設計というのが爆裂によって爆裂弾を打ち出すというものだった。実際は爆裂結晶で実験は行われたのだが、移動が簡易な重量で製作された魔砲は、爆発したエネルギーを砲底で受け止めきれず底が爆ぜた。爆ぜないぐらい厚みを持たせると、10頭立ての牛でも引けないばかりか、車輪が柔らかな地面にめり込み、魔砲の基本コンセプトの「発射すぐ移動」というのが実行できずに、試作だけされたものの結果の改良点が見つからず廃案になっていた。
そのアイデアの元になった魔法学者の研究は、「魔法物質と自然物質違いと、それの成り立ち」というものだった。「魔法の性質と自然物質の成り立ち」という論文の内容を、簡潔に部分的に抽出すると、「魔法物質というものが世に存在するが、それはある自然現象を魔法物質に取り込んでしまった結果ではないか?」というものだった。
聴講していた技術者の脳内では思考を発展させて、「爆裂は炎の魔法の上級版であるので、炎の性質が噴出する近くにその魔法を閉じ込めることになった魔法物質があったのではないか?」「もしそうであるなら空気を閉じ込める水晶もどこかにあって、爆裂鉱物結晶のように製造できるのではないか?」「その空気圧縮の功績のようなのが作れるのなら、爆裂の魔法の速度では金属が破裂するが、空気の爆発だとそこまでのものではないだろう。今の空気圧縮よりも爆発の速度よりは大きくできそうで、発射速度の2倍増が可能だろう。」「廃案になったあのアイデアに使えるのでは?」という結論に達した。
でもその結論だけではなく、研究所上層部の思惑はさらに、「そのアイデアだと今の冶金学の延長であり、砲も大改造することがないというメリットが見込め、軍の予算承認も受けやすい。」「魔法師は後方でひたすら空気爆裂結晶を製造し、前線では魔法師が必要のない魔砲の運用ができる」「非常時の国家総動員法にも対応しやすい」というメリットばかりがあとから追加された。
翌日には技術者のアイデアは、兵器研究所にアイデアを伝えて、稟議了承されて、予算が付くことになり、翌週から研究を始めることになった。
技術者の名前はキリコ=オクタビアン。研究所内ではオクタビアン技術主任と呼ばれている。。国名は機密事項のため伏せておく。
助手2人と共に、国内の爆裂水晶の発掘地を地形図に落とし込む作業を始めた。地形における関連性を見つけるためだ。結果は何の関連性も見つけられなかった。そこで何らかの見落としがあるんじゃないかと、研究所内の地質学者の協力を仰いだところ、地図を一目見るなり、
「爆裂水晶は太古の活火山帯に多く分布してるんですね。」と、
「どういうことですか?」
「少し待っていてください。自室にある書物で説明できるかと思います。」
少し待ってるとかの研究員が戻ってきた。
「ええと、このページのここを見てください。
この国のものではありませんが、太古の造成活動で生まれた様々な溶岩がだいたいこんな感じで分布しました。さらに造成活動により地層がゆがまされて、その後の浸食活動で表面をならされ、谷が刻みます。そして今の表層がこんな感じになっています。分布図のこのマークが太古の大昔は火山があったという所と言えます。これが我が国の分布図がこれなので、だいたいマークの部分と重なっています。」
「おおっ!」
「お役に立てましたかな?」
「ええ!」
「何の研究を・・・・。失敬、こういう事は聞いてはいけないのがこの研究所の決まりでしたな。また何か地図・地形・地層・鉱物でお困りのことがあれば、お尋ねください。では。」
「ありがとうございます。」
バタンと音を立てて、地質学者が出ていくと、
「やった!!糸口が見えたぞ!!チナ!チル!これで爆裂水晶がやはり火の性質を持ってるという事を証明できそうだ!!」
「そうですね!やった!!やった!!」「これで方針が決まりそうですね。」
「で、あとはほかの性質を持つ魔法結晶の存在確認と、なければなぜないのかという証明をすれば、今のような人工魔法結晶の製作ができるやもしれんン。」
「「そうですね!」」
「今日の作業内容は大幅変更して、フィールドワークにしよう。チナ!ケータリングの準備!チル!ガードマンと車両の手配を!」
「「はい!主任!」」
「私は作業道具の準備をする!あとは宿泊あるのでおのおの個人の用意を!」
「「はい!」」
「岩石露出のおおいウインダミア山地へ鉱物採集と、隣国近くの鉱山に鉱物購入に向かう!」
「「はい!」」
「3時間後に正面玄関に集合!!」
「「わかりました!」」
♪「丘越え 緑の牧場 抜ける青空 小さな流れの小川~」♬
「ご機嫌だね、チル!」
「うん。」
「どしたの?」
「チナ、仕事だけど、こんないい天気に、みんなでお外だから、きもちがいい。」
「そうだね、私もそんな気分だよ。」
風魔法結晶弾式の魔砲のお披露目はそれから1年半ほど後の事だった。