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004 Deep diver(深きに潜る者)

私の名前はハリル:マラケシュ。マラケシュ族のハリル。

私の仕事はイリス国の潜水士。

港の底をさらい巨大な船を港に入れる作業や、建築物の海中作業や、海軍の極秘任務についたりもする。海海中での長時間の作業を生業としている。


イリス王が国内すべて掌握している完全王政だ。王の名は第102代キムリューシャ:イリス。王の横に立つのは王妃シオロイス:イリス。

イリスの名は王と王妃しか名乗れない。王子・王女はソアイリスと名乗る。「太陽のイリス」という意味で次期継承者と知れる。


貴族という特権階級は存在しないので、王自ら国政を古代のころは行っていたが、国政が複雑化し始めたころに官僚化した。王自ら有能な国民を召し上げ、官僚にすえて、国を管理運営統治させている。


イリス国は、北の極点から南の極点にかけてまたがるベーリング海洋という海に突き出ている半島にある。半島はちょうど中間位置の赤道上にあり、西の方向に大陸から突き出たような半島にある。北からの海流と南からの海流が半島を滑り台の様に半島先端をすぎたところで合流する。


ベーリング海洋に沿って、大陸の縁に小国がたくさんある。それらの小国背後には4000メートルを超す、山々がそびえている。大陸に沿って船が移動し、港ごとに商売を行い最終的にこのイリス国にたどり着く。

赤道近くに来ると温帯のため、低気圧が多く発生して強烈な風が吹く。風の向きも頻繁に入れ替わる。そのため、風で動く船はイリス国付け根にある、二つの大型の港に停泊して天候回復を待つ。

その待っている日数分港につながれることになる。この時の港の停泊使用料がこの国の財源の一つだ。年間予算の15パーセントも停泊使用料で稼ぎ出す。

2つの海流の合流と、赤道付近の熱帯性低気圧と、大陸山脈から吹く強風が、この王国の栄えることになった礎だ。


その北と南にある半島付け根にある港を巨大なトンネルでつなぐという大計画が発表された。船主からは停泊時間の短縮という利点、王国には停泊料以上の徴収料の増額という目的のためとされた。


穴を掘り、山を削るため、魔法が使える土木・鉱山技術者が世界中から集められた。

その大計画の概要はこうだ。

①港から半島背骨となる山地の手前まで運河を掘りすすみ。運河の完成後運河に水を入れ、洞窟から出る掘削土の処分のため運河を利用。

②洞窟と運河の大きさは外洋帆船がすれちがえれるほどの幅と高さで作る。洞窟全長は山地の幅から25kmほど。

③洞窟内と運河で帆を張ると予想しえない動きをするので、運河走行時・洞窟移動時は帆をたたむ。その時の移動に牽引機を使う。船を傷めないように、船の大きさ形状をえらばないように、帆船の喫水線をフロートで包み、そのフロートを引っ張るという牽引式をとる。護岸からではコントロールできないので、牽引機を運河と洞窟の水の中に取り付ける。


こうやってみると建設中は潜水夫の仕事はほぼない。仕事は完成後の水中にある牽引機の船への取り付けと保守点検だ。工事に着工したのは生まれる前だ。ようやく建設終了が近いらしい。オープン準備のために潜水夫の教官という仕事を依頼されるようになった。


この世界の潜水夫がどういう方法で水中にもぐるのかまず説明がいることだろう。われらは生物なので肺呼吸をしている。水中では肺の中の空気はどんどん濃くなり、最後には呼吸ができなくなる。われらには魚のようなエラの器官は無い。しかしこの世界にはそれに代わる技術である魔法がある。


潜水夫は空気を魔法で作り出す。水圧に押しつぶされないように魔法で身体強化する。海中は深くなると暗くなるので明かりの魔法を唱えることもある。


魔法を利用したスキンダイブという素潜りもある。でもそれは長時間、さらに深くまで潜る必要がある潜水夫ではその方法は使えない。そのために潜水夫と呼ばれる仕事が存在するからだ。


作業場所は様々な深さに潜ることになる。例えば作業時間が長くなり、浮かび上がる時間が取れなくなったりすると、潜るだけでも30分はかかる深さの時、作業中に魔法切れ起こした時は、水圧と空気の欠乏で死に直面する。非常に危険な仕事である。


まずは作業前には、体を覆うスーツを着て、水中用のヘルメットをかぶる。


実際、魔法切れが起こったときは、

まず、浮かぶために腰のおもりを外す。

スーツ内の空気があるので空気を作り出す魔法をキャンセル。

深い水中だと海面方向もわからないぐらいの暗さになる。ライトの魔法は空気を必要としないので非常に優れるが魔法消費があるため緊急時にはキャンセルする。ライトを消すと海面方向わからずパニックになるが、ヘルメット内の機械的な装置である浮力計を頼りに海面方向を目指す。

水圧で押しつぶされないように、身体強化の魔法だけは最後までし続ける。浮力計で海面を確認したところで身体強化の魔法も解除する。


安全装備としてのヘルメットとスーツを着るとカエルになる。ライトの魔法を目のところに灯すためヘルメットがそういう形になっている。カエル型の大型水性魔族と間違えられないように、いたるところに派手なペイントが施される。私の場合はイリスの国旗とマラケシュ族の部族旗を交互に重ねているのをスーツの前後に書いてある。またそのペイントが個人を水中でも識別でき、海中での作業をはかどらせることにもなる。


座学をしてまずは簡単な知識を詰め込む。


そしてだいたいほとんど覚え込ませれたら、カエルスーツで実際に潜る実技を始める。人は先祖がどうだったかまでは知らないが、普段は水中にすむようにはできてはいない。


まずは頭ぐらいまで浸かるプールに入って。魔法の練習をする。魔法を行なうことが息をするぐらいまで自然にできるぐらいまで体に覚え込ませる。

潜水夫の魔法の基本は「空気生成」「身体強化」「ライト」だ。

空気生成は水から空気を抜き取るようなイメージ。

身体強化は騎士たちのような武器や移動を早めるような筋力的な身体強化でなく、体の皮を固くさせる部分硬化のイメージだ。

ライトのイメージはよくわからない。暗い夜道を歩いてるときに、何も見えないので小さな太陽がほしいとイメージしたところ使えるようになった。

いずれも小魔法で可能。しかし作業をしながら3つの魔法を使いっぱなしになるため魔法の消費が早い。そのためか時間を忘れるなどすると、水中での事故が多い。


はじめにじっくり時間をさいて、しつこいほど練習をさせる。ここを手早く済ませてしまうと、緊急時のパニックに陥りやすく、魔法制御を失敗して死の確率が増す。プールの練習が終わってようやくひよっこどもの殻が取れたぐらい。



次は海に潜る。まずは座学の時の注意事項の事実確認。

①空気と圧力の関係。またその危険性。

②水中での意思伝達。手信号復習確認。

③水中の作業練習。浮力も重力もないので、体の固定が効かない。体の使い方の講習。


ここでは頭を使うこともじっくり覚えさせないといけない。この仕事に就くやつは基本的にむこうみずなのが多いから、感情に流されるのが多いが、そのままではいけない。水中ではぼけーとする奴や、短慮な奴や、何もできない奴は不要というか危険だから必要ない。


まずはスーツを着た状態で、浜辺から歩いて海中に入っていく。この時海岸にいるヒマ人たちに「カエルの軍団」と揶揄される。生徒の中には恥ずかしがるやつもいれば、いきりだつのもいる。


俺?何年冷やかされてると思ってるんだ?冷やかされ過ぎて気にもならなくなったヨ。


まずは空気生成の魔法だけで海に潜る。斜面の海底を歩いて下っていく。だいぶ息苦しくなるぐらいの深さで集団を停止させる。ここでの実体験は水圧を自覚させることだ。地上で袋を広げ、空気をためた袋をそのまま沈めて持ってきた。ここで水圧に押しつぶされて小さくなった空気の袋を見せる。そしてまた水面まで歩いていく。その時に袋のあわがどんどん大きくなってくる現象を見せる。


この世界の深海への対応は、身体強化魔法で肉体を覆い地上の圧力のまま深海まで持っていく考えだ。そして身体強化魔法で深海の圧力にも耐える。


そんなことが教官としての俺の仕事だ。

潜水夫が一定数に達するまでこの仕事がある。専門学校として運営されるので長期の夏季休暇などは無いが、在学期間が2年ほどになるので、毎年30日ほどの帰省休暇がある。この期間は船で帰省するのが一般的なので、天候がいい時期が選ばれている。



ちょうどこの期間にディープダイバーの競技がイリス国の沖の水中の峡谷で行われる。有志を募って船を借り、半島の先端方面のダイブポイントに行く。大会はスキンダイブで行われる。スキンダイブっての言うのは器具を使わずに魔法力のみで潜る方法。

海中峡谷の深部に、国名の由来にもなったイリス神の神殿があり、その神殿の祭殿にある箱に黄金の名札を入れて、潜って浮かび上がるまでの時間で競うという、黄金の名札が寄進されるので、神事の側面もある大会で、2年に一度開かれる。参加料は黄金の名札代と船のチャーター料のなる。名札に30000クレジット、30金貨ほどかかる。それは稼ぎの1/6ほどだ。


今更のようだが、魔法使いには「小魔法使い」「中魔法使い」「大魔法使い」「神大魔法使い」の4ランクあるが、この大会は小魔法使いのみだ、魔法量に頼って勝負ではなく、魔法技術によって勝負という側面が強いためだ。だからわかってもらえたと思うが私は小魔法使いである。潜水夫としては最上級クラスの4種なんだがな。


何もない大海原に10隻もの大型船が浮かんでいる。観戦のためのイリス王族の乗る海軍船に、イリス海軍から多くの将兵が参加するための海軍の参加船。近くの国交のある国からの観戦・参加船も集まる。そのため参加選手は300人を超える。


選手はいかだの上の舞台にて奉納舞を踊り、舞台の端にある飛び込み台から飛び込み、深海のイリス神殿を目指す。深さは300リーグで、1リーグ=1メートルなので、水中神殿までは300メートルほど。神殿中央の祭殿に名札を収め、浮かび上がる。浮かび上がっていかだの上にあがりきってタイマーが止められる。

全選手が潜った後、名札が収められた箱を潜水士によっていかだに上げられて、本当に神殿までたどりついたのかを審査する。その後成績発表でこのときようやく自分の記録がわかる。


水中でほかの選手の札を操作しようとすると、イリス神による「タイタンフィート」により制裁されるので、変な考えは起こさないほうがいい。

勝者は参加者と観戦者、神官たちにたたえられ、名誉と神からの報奨「ラック」を受け取る。

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タイタンフィート:

海洋神の踏みつけ。巨大な足が忽然と時空から現れ、雷と共に落ちてくる。速度もさることながら、対象者は体が固定されるので逃げることができない。

ラック:

イリス神からの幸運。幸運なのでたいしたことはないが、対象が様々なことまでに影響があり、一代で莫大な財を成すことができる。効果は次の勝者が決まるまでの期間。

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ようやく俺の出番だ。

今回の奉納舞は鳥をイメージした舞にした。昨年は魚の舞を踊ったのだが、ピチピチ体を揺さぶるためか、集中に向かなかったらしく記録が全く振るわなかった。今年腕を掲げるように大きく広げ、ゆったり体を上下に揺らす鳥の舞にしてみた。呼吸を整え、水中での魔法イメージをして、精神を高める。舞が終わった。集中完了!


「魔法宣言! 空気発生。念動操作。ライト。」

水中に飛び込む。身につけるものはゴーグルと下半身を覆うズボンと、腰に付けた浮力相殺のおもりと、手に握った任意に選べる水中沈下のためのおもりだけ。


手に握るおもりにより、急激に沈降し始める。水中の温度がわずかにぬるさを感じていたものが、ひんやりとした水に変わる。そうしてるうちに体の周りに空気が発生し始めた。手に持つ錘でどんどん沈降していく。水の色が透明から空のようなブルーになって、さらに深みのあるブルーに変わる。色が深くなった途端体を縛り付ける圧力がだんだん高まっていく。


前回の大会の後にいいアイデアを思いついた。それから休みの日に使用できるように魔法練習に励んでいた。今回はその新方式で挑んでいる。ぼちぼちその魔法の全体がわかるようになるはず。


体を中心にして念動力で空気をためる水槽のような結界を張る。その結界の中に空気をためておく。水の圧力は念動によって釣り合うようにコントロール。そうすると空中に浮くように中心に俺がいる。

明かりは結界内に入れると空気と水の屈折率により、外の様子がわからない。なので明かりは結界の外で固定。大きな泡の中は暗い。なので外からの様子は、鏡でコーティングされて様な真ん丸なものが水中を沈んでいるように見える。


おもりの効果でもうすぐイリス海中神殿だ。ライトの魔法が上向きに照らされていて、深さから水温も低く、海藻などが神殿に生い茂ることもなく、非常に荘厳な雰囲気がある。


神殿の入り口をくぐり、金の札を神殿に奉納し、すぐ浮上に取り掛かる。浮上までのタイムが成績になるので、ここでぐずぐずできない。



おもりを手放すと急激に浮上し始める。ここからがこの魔法の真骨頂。


浮力は水を押しのける容積が大きなほど浮力が大きい。大きな船が浮く物理化学だ。そしてこの魔法は水中で泡のバルーンを展開するので、水を押しのける浮力が、他のどの選手よりもこの浮力が大きい。なので急激な浮上が見込め、浮上スピードが誰よりもアドバンテージがある。


外部からの水圧と内部からの念動力でその圧力を相殺してる。圧力は浮上するほど水圧が弱くなる。潜るときはおもり重量が決められてるので沈降スピードはさほどでもない。でも浮上のスピードが速い、念動力のバランスが非常に難しい。それを一年かけて練習してきた。


このバランスってのがむつかしい。失敗しているとすでに死んでいる。というのもバリアーを適正に張れると、外部圧力とバランスとれてるために、海の上と同じ圧力の中にいるのと同じ。最悪な状況だと、反バリアーの圧力調整に失敗すると、海中深部でいきなり水圧が身体に圧し掛かると体がPOMとなりデッドすることになる。浅部ならそこまでは起こらない。でも競技はイリス海中神殿で非常に深いところにある。


もう一つの問題が魔法力だ。念動に使用する魔法力は小魔法なんだが、小魔法としては消費量が大きい。それを供給できるかどうかが問題だった。それを練習量で最適化し、なんとかギリギリ持つぐらいまでの実力を得た。



説明してる間に暗かった水面がどんどん明るくなってきた。


なんだけど・・・・・魔法力が枯渇してきた。すごく眠い。意識を保てなくなるほど。


あといかだの上に自力で上がらないとゴールとならない。このままいくと魔法力が枯渇する。


目印の水深を表すロープを見るともう10メートルほど、ここからなら魔法キャンセルして、自力で水面まで上がることができる。そして泡の中なので魔法も唱えられる。


「キャンセル!」


唱えた瞬間、空気の泡は体から急速に離れた。あとは肺にたまった空気だけで海面のいかだのはしごを目指す。梯子に触れて、腕を引き、体を持ち上げ、いかだにのぼる。


タイムが呼ばれて、歓声が上がる。体力も使い切り、魔法力が切れたのがわかった。そこで意識がなくなった。



表彰の前に意識が戻った。寝ていたようだ。



その時記録を聞かされたが、1分ほども更新したときかされた。

嬉しさが込み上げてきた!!

歴代の優勝者の中で、記録を60秒も塗り替えたビックネームとして、私の名前、ハリル:マラケシュが歴史に刻むことになった。そして名前を重んじるマラケシュ族にとっても喜ばしい事だ。


こうして私の祭りが終わった。

次の奉納蔡は4年後だが、この魔法をさらに効率化させて、泡の容積を増やし浮上速度を上げ、タイムを縮めたい。次回もこの名を刻みたい。



しばらくすると「世紀の大工事」の完成祝蔡がある。

国名の由来でもあるイリス神をたたえる、、国王主催の特別奉納蔡がある。期間が短いので泡の拡大までは望めない。この魔法を知ったほかの選手がチャレンジしてくることだろう。私も練習どころでなく、小魔法使いとしての、魔法力の大きい選手による混戦になるだろう。私はそこまでの魔法力はないが、この方式によるアドバンテージがあるので、混戦に混じることは可能だろう。



「負けへんで!!やったるわい!!」

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