ファンタジーショートショート:臆病な勇者
その国では、国の危機の際には王子が先頭に立ち乗り越えよという言い伝えが残されていた。そしてその国に今、魔王が現れたという過去最大の危機が訪れていた。
そして言い伝えの通り、その国の王子に魔王討伐の使命が与えられ、王子には先祖代々伝えられている勇者の装備が与えられた。魔王討伐へは王子を補佐すべくその国の精鋭が揃えられた。
出発前の顔合わせの時、失礼の無いようにと緊張していた精鋭たちの前に王子が現れた。
「よ、よろしく…お願いします。」
そこにはおどおどして、猫背になっている王子がいた。殆ど城で挨拶をする位しかしたことの無い者達であったが、王子のあまりの頼りなさそうな感じに暗雲が立ち込めた。
それでも行くしかないと腹をくくった精鋭達。しかしその旅は別の意味で過酷を極めた。
最初、城の近辺で出くわしたスライムに
「ぷるっぷるしてる。こんなの剣なんて効かないんじゃ…」
「大丈夫です王子!ここのスライムは弱いので剣で叩けば直ぐ倒せますよ!」
と叩いて見せたり。
またある時岩で出来たゴーレムの襲われると
「こんな硬いもの剣が効くわけが無い!」
「大丈夫です王子!今魔法使いたちが弱体化させていますし、何よりその剣は先祖代々伝わる聖剣です。切れない物はありません!」
と王子を鼓舞して見せたり。
またある村で歓迎を受けていると
「住民の目が怖い…」
「何をおっしゃいます!皆王子に期待しているのですよ。答えてあげねば!」
と叱りもした。
何かにつけ弱音を吐く王子をなんとか魔王城まで連れて行くことが出来た。
「この扉なんて立派な…行きたくない…」
「何言ってるんです!貴方の城の門の方が立派ですって!」
精鋭達が王子の首根っこを捕まえ引きずるように入っていった。
どうにか奥の奥まで進みやっと魔王を見つけると、その威圧感に王子は気絶寸前になっていた。その王子を頬を張り、気合を入れなおしそしてどうにかこうにか魔王の討伐に成功するのだった。
魔王討伐の知らせを持ち帰った王子たち。その国は祝賀ムード一色になった。そんな中王宮で王子と王子にそっくりな人物が話をしていた。
「よく魔王を倒してくれたな!俺の影武者よ。これで俺はこの国の王になれる。さぁその勇者の装備を俺に渡せ!」
なんと魔王を打ち倒したのは影武者だったのだ。影武者は魔王討伐という余りの大役に弱りに弱ってたのだ。影武者も王子の命であるためその装備を渡そうとした。しかし装備が外れない!
「どうした!何をやっている。俺に渡すつもりが無いのか!」
もたもたしている影武者に激高する王子。しかしそこへ1人の老人が入ってきた。
「馬鹿者!その装備はもう所有者を認めてしまった。もうお前に装備する事はできん!そもそもその影武者は弱腰ながらも決して逃げることなく討伐してみせた。それを何だお前は!先祖代々の言い伝えも他人に押し付けるとは!」
入ってきたのはこの国の王であった。
「次期王は影武者であった君だ!いや我が息子よ!そして王子。お前から王位継承権を剥奪し影武者と立場を入れ替える。今度からお前が影武者だ!」
その決定に愕然とする王子。しかし決定はもう覆る事はなかった。
その後影武者が王となり、弱腰ながらも皆に支えられよい国を育てていったと言う。