意味不明のギンギラ
ピカッピカッ、カメラマンが炊くフラッシュの様な光が俺を襲う、サングラスでもあれば気にしなくて良くなるのだろうが生憎ここにはそんな洒落た物はない、あるのは『水』『プランクトン』それに『クソでかくてクソ煩くてクソ強いおさかな』だけだ。
そんな事を考えながら俺は深海へと潜って行く、深海に近づくと光がなくなるからピカピカの餌食にならなくて済むのだ、言うなれば俺の家、しかし無断訪問するお客が多すぎるから全く寝られない、まるで宗教の勧誘だ、実際にされているのは死への誘いだが。
そんなこんなで光が全く届かなくなってきた、周りは薄い青から濃い青に変わってきた、ここにいるだけでも多くの人は狂うだろうにこの海はそれだけじゃない、深海の生物は過酷な環境に耐えるため歪な形をしている、それはこの場でも適用され、出会う生物は皆……ブサイクだ、アンコウみたいな形の奴は下顎がしゃくれ過ぎてて人が住めそうな空間になってるし、サメみたいな形の奴は尻尾が剣になってやがる、なんでそんな進化したんだ、そんな場所にあっても使わないだろうが、どれもこれもぐにゃぐにゃしてて綺麗と思える生物がいない。
しかし、俺は大体二ヶ月程前に『人間みたいな上半身に魚の尻尾』つまり人魚に会った事がある、そう、それは……俺がまだ自分の身体に慣れていなかった頃だ……
いつものように力任せで深海魚共をバッタバッタとなぎ倒していた時だった、どこからか悲鳴が聞こえて来たんだ、この悲鳴に何かビビッと来た俺は軟体動物の様にグネる身体を駆使して悲鳴が鳴った場所へと全速力で駆けていった、身体がかなりの高スペックであるからだろうか、俺が駆けていって約30秒ほどで着いた、その場は深海に似つかわしくないほどに明るく、その空間には、金髪の髪に控えめに育った胸、それを覆う大きな貝殻、人魚らしさの塊、つまりザ・人魚とでも言うべき少女が、豚みたいな鼻、平坦な顔、異常なまでの出っ歯、ザ・ブサ男みたいな男に襲われていたのだ!
これはいかんと突撃しようにも俺の身体は海蛇としか表現出来ない程に軟体動物化している、しかも鱗のギラギラによって明かりが反射して目が痛くてまともに動けない、……反射?多少の無理をして瞳を開けてみると先ほどまでキャッキャッウフフ?をしていた目の前の人魚とブタ男がこちらを見ている、なんだなんだ、見つめられても仲間にはしないぞ。
「ギャアアアアアァァァ!!!」
人魚がマイク無しとは思えない程の声量で叫び出す、釣られて豚が、
「アアアアアアアァァァ!!!!」
まるでターザンの様な悲鳴を出す、むむ、豚のくせにブヒィじゃないのか、しかし三人中二人が叫んだんだ、釣られたっていいじゃない、そんな軽い気持ちで俺は、
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!」
と叫び越えを上げる、ふふ、声量では負けないぜ?
とドヤ顔していたら何故か俺は人魚の集団に囲まれていました、まる。
あれれー?おかしいぞー?なんで俺が緊縛プレイされなきゃいけないんだ!人魚の集団に一瞬のうちに囲まれて一瞬のうちに縛られていた、くそ、ここはSMプレイ専門の店だったのか、あのザ・人魚もきっと豚に攻められて喜ぶ変態に違いない、くそぉ、前世で会いたかったぜ。
そんな事を思っていると人魚集団のなかから小さな何かを持ったグラマラスな人魚が前に出てくる、なんだなんだ、あれは鞭か?俺は今から鞭で叩かれるのか?くっ、俺がMでなければグラマラス人魚は死んでいたぜ……
私の名前はエイミー、海を護る種族、シーテクトの長……の娘よ、シーテクトの存在意義は海の平穏を護る事と——海の神であるお方の乱心を収めさせる事、そもそも乱心は1000年に一度あるかどうかという程に珍しい、海の神も地の神も空の神も、非常に寛大であるからだ、その寛大なお方を乱心させるほどの物とは一体……そんな邪念を振り払って、目の前に居る、海の神を見る、訳あって拘束されているがその力はチラリと見るだけで嫌と言う程に分かってしまう、海王と言われる存在が最近死体で発見されたのも海の神である目の前の存在が原因と噂されている、海王は海の神よりも数段劣ってしまっているが私達が50人集まったとしても手も足も出ずに死んでしまうだろう相手だ、手も足も出ずに死ぬのは勿論、私達が、だ。
しかし海王程度に負ける私達が海の神を拘束出来ている理由は我々の一族シーテクトの秘宝のお陰、としか言えない、拘束するための秘宝『キコウナワ』、特殊な結び方により拘束の力を何倍にも引き上げているらしい、そしてもうひとつの秘宝『ノート-P-C』一度しか使えぬ秘宝だが、今回ばかりは説得は無理だと判断、判断理由?それは私達の肌に刺さるように感じられる『殺気』だ、秘宝であるキコウナワの力がなければ今頃シーテクトの一族は滅んでいたと直感で分かる。
第二の秘宝を砕かれたらそれまで、キコウナワは破られ海は大混乱に陥るだろう、第二の秘宝を渡す役目は私、本来渡す役目は親であり長であるお父さんの筈なのだが、いざ渡すとなった時『ごめんお腹痛いんだ』などと言って逃げ出した、私だって痛いわ、主に胃が。
どのようにして第二の秘宝を渡すのか、それは誰にも分からない、ならばなぜ一度しか使えぬ事が分かるのか、それは長に聞いてもわからない、一度しか使えぬ秘宝の説明書があるならば今この場で音読でもしてやりたいが、そんな都合のいい物は無い、少なくとも3000年のうちには見つからなかった、
「エイミー、……頑張って!」
そんな声援を送ってくれるのはかれこれ16年の長い付き合いの幼馴染、リザだ、彼女は今回、海の神を惹きつける為の囮になって貰った、死ぬほど怖かったと思うのに、それを感じさせない程に力強い瞳をしている、その瞳を見ていると自分まで勇気を貰える、その勇気がなくならない内に私は駆け足気味で海の神に近付く、海の神は一言も喋らずにこちらを警戒した目で見てくる、私はリザに貰った勇気を奮い立たせて第二の秘宝を————投げつけた、毎日欠かさず鍛えていた筋力のお陰か秘宝は海の神目掛けて飛んでいく、そして秘宝は海の神の身体に当たり——弾けた。
シーテクトの皆が安堵していくのが分かる、先程まで紫外線のように突き刺さっていた殺気が乱れつつあるのだ、最終的に一分も立たずに殺気は消え去りむしろ祝福の力を感じるほどまでに優しさを取り戻していた、これにて一件落着!!