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永訣

作者: 藤田謙志

今のこの気持ちを、私はどう表現すればいいのだろうか?

あなたはいつも私の傍にいてくれた。

それはまるで、桜の木の根元にひっそりと咲くタンポポの花のように。

あるいは、お守りのごとく肌身離さず持ち歩くスマートフォンのように。


あなたは私にとって大切な人であったことに、疑う余地はない。

むしろ大切な人と言うよりも、絶対に必要な人であった、と言った方が正確かもしれない。

それは空気のように、普段は何気なく接していても、それが無くては生きていくことが出来ない、いわば生きていくための必需品のような人だった。


またあなたは、私が人としてこの複雑な世の中を生き抜いていくための、大事な道標でもあった。

これから私が一歩ずつ歩んでいくであろう、この先が見えない未来に向かって、あなたは私を導いてくれるはずだった。

それはもしかしたら、ある種の神のような存在であったかもしれない。

自らは決して自己主張をすることなく、それでいて私を輝かしい世界へと連れて行ってくれる、そんな存在であったのだ。


そして、もしもあなたがいなかったら、と考えると、私は絶望の淵へと追いやられてしまうだろう。

もしもあなたがこの世にいなかったら、もしもあなたと出会っていなかったら、私はもうこの世にはいなかったかもしれない。

あるいは一人ぼっちのまま、誰にも心を開かずに生きていたかもしれない。

それは、自らの死を覚悟した天才小説家や、保健所へと連れて行かれる野犬のように、この世に何の希望も夢もない、ただ死を待つだけの人間のままであったに違いない。


しかし、あなたと出会った私は、間違いなく変わった。

いや、生まれ変わった。

あなたのその、おおらかで温かい心が、私を生まれ変わらせてくれたのだ。

それは、海に浮かぶ巨大な氷塊が、やわらかな波折りによって少しずつ溶けていくように、世の中に失望していた私の心を、あなたはゆっくりと解きほぐしてくれた。

時にはサーカスの調教師のように、厳しくも接してくれた。時には赤ん坊をあやす母親のように、優しくも接してくれた。そして私は、あなたと出会ってから、これから歩んでいく未来に希望と言う光を見つけることが出来たのだった。


それなのに、あなたは私の前から消えてしまった。

それはあまりにも突然の出来事だった。

まるで蝋燭の火が風で消えてしまったかのように、私はあなたを失ってしまった。

それはあまりにも突然過ぎて、私は未だに信じることが出来ないでいる。

あなたが死んでしまうなんて。私を置いて死んでしまうなんて。


私はまた、一人ぼっちになってしまった。

もう、あなたに頼ることは出来ない。寄り添うことも出来ない。

これからどうすればいいか、私は一人で決めなければならない。そう、たった一人で。


やはり、私は今のこの気持ちを、どう表現すればいいのかわからない。

一年経ったらわかるだろうか?

五年経ったらわかるだろうか?

それまで私は生き抜くことが出来るのだろうか? 


そして、最後に一言言わせてください。ありがとう。


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