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陽気な弟と親友ビッチ

アメリカに住んでいると「日本のアイツはどうしてるかな~?」と呟くことはあります……しょっちゅう。

「はぁ……」



店員の黄色い声が響く日本のファストフード店にて、白崎優斗は深ぁいため息を漏らす。



「どぅーしたんでぃ? 白崎くぅん」


「しゃくれて話すな。一生その変顔になるぞ」


「なんでぃ。プロ入りした時のためのキャラ作りだよ、キャラ作り」


「そんな顔を見るのはプロレスで十分だと思うが」



優斗は親友・松中<<まつなか>>の奇妙な言動にただ目を細めた。

向かい側の席の少年はしゃくれを引いて、凛々しい笑みを浮かべる。



「それで?何を悩んでんだよ?」



優斗は愉快な友の心配に小さく笑った。



「いや、心配することはないさ。ただ練習で疲れて…」







「三鳥のことだろ?」


「…………」



あきれるように松中は両腕を頭の後ろに伸ばしながらため息をつく。





「かぁ~!女々しいぜぃ、白崎くん!

 もう5年だぜ?お前、5年もあのモンスターのこと引きづってんだぜ?

 お前、モテるんだからその辺のカワイイ娘でいいじゃんか!

 女子高生だぜ?摘むなら今だぜ?」


「モンスターって呼ぶな。

 あと、お前の女子についてのアドバイスほど説得力のないものはないな」


「な、何を言うか!この甘いマスクをつかまえて……」


(そのキャラが台無しにしてるんだろ……)



優斗はあきれた仕草をやり返す。



「お前って残念だよな」


「えぇ!?何!?

 何かスッゲェ説明不足じゃね!?」



松中がオーバーリアクションに焦っている間、優斗はポテトを口に入れながら窓の外を見た。

目の前に長く美しい髪をなびかせながら歩く女性が通る。



「……三鳥も向こうで髪伸ばしてるかな?

 いや、まだサッカーしてるならポニーテールか……」



そう上の空でつぶやく優斗を向かいの松中がじっとり見つめる。



「……お前も充分残念だと思うぜ」




─────




「だぁ~かぁ~らぁ~。

 ゴメンって言ってるじゃない~、ベル~」


「もういい加減にしてよ、お姉ちゃん!

 私に迷惑をかけるの……も良くないけど、シホさんまで巻き込んで!」


「いや、あたしは別に迷惑でもなかったけど……ムギュ!?」


「あぁ!シホちゃんって良い娘!!

 優しい!マザーテレサ!!」



ベルの姉に思い切り抱きつかれる志穂。



(む、胸が顔に……息できない……)



「だ~か~ら~!そういうのをやめてって言ってるでしょ!」


「何を~?ハグ位いいじゃな~い。神経質な日本人じゃあるまいし」


「あたし日本人なんすけど……」


「あら?そうなの~?

 この学校、アジア人はいっぱいいるけど日本人は珍しいわね~。

 私らイギリス人も珍しいけど」


(何かの対抗意識か…?

 というか確かにこの姉妹、微妙に喋りが英国訛りだな……)



ベルの姉からパッと解放されて一息をつく志穂。



「さっきはゴメンネ~。

 私はベルの2つ上の姉の アンナ=マリー・グリーン よ。

 マリーって呼んでね~。ヨロシク~」


「あ、あぁ。どうも……。

 1年の志穂・三鳥です」



志穂がそう答えるとマリーの目はゆっくりと大きく開いた。



「1年生……?」


(む……なんだ?

 あたし何か変なこと言った?)


「ねぇ、あなた部活とか……」




「お姉ちゃんっ!!!」



マリーの言葉はベルは強く遮って、姉の背中を校舎の出口へと押し始めた。



「お願いだからこれ以上、人に迷惑かけないで!

 ほら、クリスティーナさんも駐車場できっと待ってるよ!」


「あ、あぁ!待たせてるんだったっけ?

 ゴメンネ~、シホちゃん!また今度会おうね~!」


「え…あ、はい。また今度……」


「ほら早く!」



ベルは厄介者を押し出すように姉と出口へ向かった。

ドアを開いて外へ出る瞬間、マリーがもう一度志穂に振り向いて叫んだ。





「私たち女子サッカー部だから~!

 興味があったら会いに来てね~!」


「”私たち”じゃないでしょ!?」




校舎のドアが閉まった。



「女子サッカー……?」


(イギリス人のサッカー……。

 何かすごそうだな)



志穂は特別な感心を見せることもなく、存在をほぼ忘れかけていたステファニーを駐車場で待たせているのを思い出し校舎を出た。



(ま、あいつのことだからそこら辺のイケメンとだらだらダベッてるでしょ)



外に出て確認をするとステファニーは彼女持ちを捕まえてしまったのか、男を挟んで別の女子とえらくもめていた。





─────





「で、アンタ本当にウチに来るの?」


「あったりまえじゃない!!

 あんのクソビッチ怒鳴りまくりやがって!

 このままじゃ怒りで人1人轢いちゃいそうよっ!!」



ハンドルを握りつぶそうな親友を志穂は哀れな目で見ていた。



(数時間前、スピード違反を犯したバカが何を言ってるんだか……)



火に油を注がないように心の中でツッコんでいる内に、ステファニーのパスファインダーは三鳥宅の前にぎこちなく駐車した。


志穂たちは車内から降り、バックパックをトランクから取り出してペンキを塗りなおして日の浅い玄関へと向かった。



「ただいま~」


「おっじゃまっしま~す♪」



玄関を開くと向こうのリビングからドタドタと走る足音が響く。

3秒も経たない内に志穂の面影がある元気な少年が現れた。



「志穂ォ! おかえりぃ~!」


「うん。ただいま」


「あっ!ステファニーも一緒だ!」


「そうよ~!こんにちは~、ナツキ!」



勢い良くハグを交わすステファニーと少年を見て志穂は小さく微笑む。



(……やっぱ弟を良く相手をしてくれる親友は良いもんだな)



ステファニーから離れた志穂の弟・三鳥菜月<<みとり なつき>> は姉を見上げる。



「ねぇ!これから3人でパワプロやろうよ!」


「それ2人プレイでしょ」


「ナツキ。2人プレイなら私と向こうの部屋でs」



ステファニーの後頭部が思い切りどつかれる。



「いったぁ~…。

 やだね~シホ。ジョークよジョーク!」


「目がマジだったぞ」


(ったく。油断もスキもありゃしない……)



志穂は親友の腕を引っ張りながら、玄関前の階段を上り始めた。



「悪いけど、これからこのバカの勉強を見てやんなきゃなんないの。

 菜月もサクセスモードばっかやってないで宿題やりなさい」


「そんなのもう終わったよ~。志穂たちも早く終わらせてね」


(いいよね…。小学生は楽で)



ため息混じりにドアを開け、二人は志穂の部屋に入る。



「いやぁ、ナツキは相変わらずカワイイねぇ。

 ありゃオジサマに似るわ。将来有望」


「アンタどんだけストライクゾーン広いの……?」



志穂はヨダレをたらしている親友にドン引きしながら、机の中からノートパソコンを取り出し電源を入れた。


彼女がウェブブラウザを開くと、それに反応するかのようにステファニーが後ろから頭越しに覗き込む。



「そういやアンタ、フェイスアルバムにアカウント登録した?」


「ふぇいすあるばむ?

 …あぁ。あのソーシャル・ネットワークって奴ね。今流行の。

 まだ作ってないけど」


「ちょっと~。もう高校1年になって1週間も経ってるのよ?

 今の内に流行りに乗らないと私のような友達もう一生作れないわよ!」


(アンタのような奴は1人でも多い気がするよ)



そう心でツイートしながら例の交流サイトを開く。


開いたウェブページは青を基本色としたシンプルなデザインのサイトで、左上に大きすぎない文字で Facealbum とロゴが貼られている。

この質素なデザインは大手サイトの余裕か、と志穂は一人で納得していた。



「ほら。アカウントを作るにはそこの”☆登録☆”って所を押して…」


「見れば分かる。

 ……でも」



カーソルを登録ボタンに合わせて志穂は止まる。



「なぁに?」


「これって友達登録の申請とかする奴でしょ?

 アンタともう一人心当たりを含めて友達2人しかいないんだけど…」


「…それが何よ?

 日本にいる友達とか覚えてないの?」



志穂は小学時代、一緒に遊んでいた男子たちを思い出す。



「そりゃもちろん名前も覚えてるけど……あたしのことなんか覚えてるとは思えないし…。

 そんな覚えてもない奴から申請とかもらって嬉しいのかな?

 友達も少ないし……本当にアカウント作る必要とかあるの?」






志穂は慣れない様子で心の中で思っていることを言い終える。

彼女は変に真面目なことを言ってしまい顔を少し赤くしたが、

その少女をステファニーは目を丸くして見ていた。



「な……何だよ?

 何か言えよ…」





「…………………




 ぷっ。





 







 



 アァ~ッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッwww!!」






ステファニーは突然、腹を抱えながら大笑いを始めた。





「な………

 何がおかしいんだよ!!」


「アヒャヒャヒャヒャwwww!!!

 ウヒッwウヒッwウヒッw」



ネジが飛んだような笑いは続く。



「何笑ってんだ!!?

 その変な笑いやめろ!!」


「ウヒィ~www!!!ウヒィ~ww!!!」


「……だからやめろって!!!

 おいっ、怒るぞ!!だから……!!!





 わ………笑うなぁ!!!バカァ!!!!」















志穂の顔が最高に熱くなった後、ステファニーのラフターは徐々におさまっていった。



「ヒィ~……。

 いやぁ~、こんなに笑ったの久しぶりだわぁ」


「笑いすぎだよ。

 一体何がおかしかったんだ…」


「おかしいって……そりゃあアンタのことよ、シホ」


「はぁ??

 あたしの何がおかしい……」



気持ちを落ち着かせたステファニーは志穂に顔を向ける。



「アンタ……日本で一緒だった友達は友達じゃないの?」


「そ、そりゃ友達に決まってんじゃん」


「だったら何でそんな気を使う必要あんのよ?

 友達にそんな神経質みたいに気遣いをするなんて、どう考えてもおかしいじゃない!

 覚えても覚えてなくとも、とりあえず友達登録するの!」


「そ、そうなの?

 ……いや、それでも友達ぜんぜん少ないし……」


「そんなのアンタまだ1年だからでしょ?

 これから友達なんて部活でも入れば腐るほど増えるわよ!

 アンタ、いちいち考えすぎ!!」



やれやれと飽きれている親友を志穂は神妙に見つめていた。



(……そっか。それはそうかもしれない。

 全力でサッカーで対決していた奴らに何で気を使おうとしていたんだ?

 そして友達の数も、この先どんどん増えるって思う心構えの方が気が楽だし……)



志穂は小さくため息を漏らし、微かな笑みを浮かべた。









(まったく。こんなバカに教えられるとはね……)



彼女はカーソルに手を戻し、登録ボタンをクリックした。






「いやぁ~。

 まさかシホがこんなヘタレだったとは……」


「へ、ヘタレって言うな!!!」

自由で気楽で大らかな金髪女子はよくいますが、こんな説教くさい娘はあまりいません。

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