絶海の孤島にて金持富豪殺人事件が起きたんだが!?
日本海には魚釣島という島がある。領土問題を抱えているという、膝に爆弾を抱えたサッカー選手のような島だ。あるいは、肘に爆弾を抱えた野球選手のような島かもしれない。ともかく、そういう火薬庫のような島がある。
問題は、似たような名前をした島。釣魚島という島が太平洋側にある事だ。
とかくインターネットで検索しようにも同じような名前の魚釣島が出てくるので、目立つことはない。
訪れるには、沿岸の小さな漁村の小さなエロ本しかおいていないような本屋の店主に特殊な注文をしなければならず、そうして、やっと小さな小舟を出してくれるそうである。
その釣魚島には館があった。名を万宝館。
世界中の宝で満たすのを目的とした立派な造りの館である。貯蔵されている作品は9999作品であり、名前にはあと一つ物足りないというものである。
「な、なんてことだ」
その館の食堂で、四人の大人が立ち竦んでいた。
四人の視線は、食堂の中心に倒れる一人の男へと向けられている。いや、男らしきものだ。体を適度にちぎりぱんのように分断されてはいるものの、人の形になるように整えられている。丁寧に顔だけ入り口を向くようにしているのが趣味が悪い。
男の名前は唐山金持。この館の主であり、東京都内にいくつものビルを持つ不動産の役員である。
すっと男の傍に立ち寄った銀大地は手を取ると脈をとった。が、何の温もりも拍動もないので、首を横に振る。
「いや、バラバラ死体なんだから、当然だろ」
冷静に突っ込んだのは、金持の一人息子、唐山文無。震える手で煙草を取り出すと銜えた。
「相続を、相続の手続きをしないと」
そう、慌てふためく婦人は、金持の47番目の妻、都道府県子である。彼女の珍しい名字を残すために、夫婦別姓を導入している。さすがに都道府県という苗字はもう、彼女一人だけだそうである。
「まって、それより、警察でしょ」
より事態を静観していた少女、古野真人が言う。金持が妾に産ませた子供である。
「この島に、この死体と暮らして三日。もう、さすがに警察を呼ばないと」
「真人。それは駄目だ。この島には殺人犯がいるんだ。それをこの探偵さんに解決してもらわないと」
「絶対に逃げてるとおもうんだけど、それより、真人。相続放棄してくれる?」
「失礼、この死体、三日もここに?」
探偵、銀大地は金持の手と固い握手をしたままに聞く。
真人はうなずき、事情を説明し始めた。
三日前、食堂を訪れた真人が金持の死体を発見した。そして、通報をしようとしたが、文無がそれを止めたのだ。と、いうのも、生前から金持は「死後に警察を呼んだ際には、財産を国に寄付する」と言っており、借金まみれの文無はそれを恐れ、止めたのである。同じ理由で、都道府県子も引き留め、数には逆らえず、警察はいまだに呼べていない。
代わりに、金持の知人である探偵、銀大地を読んだという手筈だ。
「なるほど、あの当時、この島にはあなた方しかいなかった」
「えぇ、そうです。使用人たちはこの島にいません。すべて私、都道府県子が行っております」
「今も、あなた方しかいない」
銀大地は、そう言うと、硬く握っていた金持の手をぽとりと食堂の床に落とし、歩き始める。食堂の中には調度品、美術品が数多くある。しかし、そのどれもが血生臭そうな槍や斧、残虐な首狩り部族の使った武器の日本刀があった。
「探偵さん、凶器はこの調度品ですか?」
「いいえ、そうとは思いません。この調度品の中には、血の付いた物が一つもない」
美術品として日本刀を手に取る。抜き身の日本刀は、真剣であるのがぱっと見でもわかった。
銀大地は日本刀を手に、窓の鍵を確かめ歩き、立ち竦む三人の後ろ手に回り、食堂の扉を閉める。
「なるほど、当時は密室。そして、容疑者はあなた方三人」
「私たちが殺すはずがないわ」
「えぇ、まぁ、そうですね」
用心に越したことはない。食堂の鍵を閉める。
「しかし、あなた方が容疑者なのは間違いない。しかし、私にはそれを確かめる術もない。科学捜査もできない。鑑識も、警察も、こない」
「なら、どうするんだって、探偵さんよぉ」
後ろから文無が、銀大地の肩を掴んだ。
「なので、本当に申し訳ない」
振り向きざまに、銀大地が刀を振るった。
文無の手首が落ち、切られた肘先からぴゅーっと真っ赤な血が水鉄砲のように噴き出た。
そのまま、返す刀でもう一方の手首を落とす。
両の手首を失って文無は、文字通り打つ手がない。
「消去法で、解決します。あ、それと、サカモトデイズって眼鏡ないほうがかっこいいですよね」
「い、いやあああああああ」
都道府県子が叫び、銀大地から逃げようと走り始める。その一歩を踏み出したところに、銀大地は日本刀を投げつけた。都道府県子の右胸を日本刀が貫き、その勢いのままに、床に磔にする。ずずっと自重で都道府県子が床に倒れ、日本刀が屹立していた。
「まぁ眼鏡って、ほら、あれじゃないですか。デバフですよね。おしゃれメガネって、お洒落な人がしているからであって、眼鏡自体はお洒落なんじゃなくて、不細工製造マシーンだと思うんですよ。医療器具だからさ」
「な、何を言っているの」
「あ、ごめん。その、こうやって雑談を交えると恐怖心なくなると思って」
真人が一歩、二歩とあとずさりする。
「あなたがお父様を殺したの?」
「まさか。私は探偵ですよ。探偵と警察官は殺人をしません。あ、そうでもなかったな。結構、警察官も人を殺してるね。あぁ、名探偵コナンとかの世界の警察は優秀だよね。フィクションだから、いいよね。美人だし」
「何を言って」
「あー、いや、まぁ、いいじゃん。そういうの」
調度品の中にある槍に目を真人が向けた。それを掴もう、と、ぱっと走り出した真人であるが
「カジキマグロ!」
奇怪な掛け声とともに、銀大地が床に転がっていた都道府県子のハイヒールを手に取り、力任せに投げつけると、真人の手をハイヒールの踵が貫いた。都道府県子の足も一緒についてきている。
激痛と恐怖が、真人の頭を支配した。それで、十分。
突然、視界がぐんと下がった。
自分の太ももが、日本の足が直立し、その前に自分が倒れている。
「ガチ物の二刀流だな。人間の足投げ、そして、一刀両断。俺がショーヘイオータニだ」
「さ、殺人鬼……」
「いいね。殺人鬼探偵とでも名乗っておこうかな。でもさ、正義を成すためには仕方ないと思わないか? この島には、殺人犯が一人いて、誰かを突き止める事が難しい。なら、これしかないと思うんだよね。まるで、1タス1が2であるように」
がさがさと音がする。
見れば、文無が扉を開けようと肘先でもぞもぞとしている。
大きな大きなため息を吐き出し、都道府県子の身体から日本刀を抜くと、それを手に文無に近づいた。
ひっと恐怖を文無が口と股から漏らす前に、銀大地がぱっと首を切り落とした。
ぴゅっぴゅーっと鮮血が飛び散る。
「さ、これで、この事件は解決だね」
「あのさ、探偵さん。最後に言っておくけど、消去法ってこういうのじゃないと思う」
そう言うと、真人は力なく目を閉じた。
安らかな寝顔である。
「ねーるのーだー、ねーるのだー」
そう上機嫌に、銀大地は歌いながらスマホをぱぱっと操作する。
すると、しばらく後に不機嫌そうな顔のメガネ男が現れた。ただの強度近眼である。
「あのさ、あの本屋の合言葉最悪なんですけど、何が「にゃにゃめにゃにゃじゅうにゃにゃどの角度でアントニオ猪木が力道山と西野カナを殺さなかったのか」だよ、馬鹿じゃねーの」
「マジのバカは、ここまで読んでる人だよ。あるいは、ヤクきめてるから、これが聖書に見えてるはずさ」
「意味わからんこと言ってんじゃねーよ。この狂人が。それで、この4つの死体を処理しろって言うんだな。毎回思うんだけど、この消去法名推理、本当に止めてくれよ。普通に殺し屋として働いたほうがいいって。殺し屋協会とか、殺し屋連合とかあるって、ぜったい」
「あれってジョンウィックのパクリだよね」
「元ネタはもっとあるって。じゃなくてー」
銀大地は、古い友人の手を地面から拾い上げ、眼鏡男に渡した。
「頼むよ。友人からの頼みとして、さ」
メガネ男は、ため息を吐き出すとビニール袋にその手を入れた。
次から次に死体をばらして、ビニール袋に入れていく。
「俺もあんたの友人として言っておくんだぜ。それで、殺人犯はわかったのか?」
「さぁ? おっと、見ろよ。最後の最後、一つの作品が出来た」
メガネの男は銀大地に言われ、そちらを見た。
ビニール袋の中身、その中身では4人の家族が仲良く、安らかな顔で死んでいた。
「一万個目のお宝は、家族、だったんだよ!」
「悪趣味糞探偵」
メガネ男の言葉を、銀大地が無視したのは友情だった。
((おしり)




