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女神伝説  作者: Sugary
第六章
82/127

3 追われる少女 ※

 ディトールの家を出たあたし達は、間もなくして、宿探しより欲求を優先することになった。

 それは、太陽が真上から僅かに西に移動する時刻。

 街中を漂う食べ物のいい香りが、息を吸うたび鼻孔を刺激し、あっという間に忘れていた空腹を呼び起こしたのだ。とはいえ、どこかで食べるにしてもお金は持っていない。あるのはリヴィアに貰った、あの石だけで…けれど、宿代として払う事の出来た価値ある石なら、お金にだって変えられるはずだと、換金屋を探す事になったのだ。

 街の人に聞けばそれはすぐに見つかり、全ての石──あたしとネオスの石──を換金することにした。

「全部で五万ルシア…。かなり高価なものだったのね…」

 思った以上の大金に三万ルシアをネオスに預けると、二千ルシアほどポケットに入れて、残りのお金を元の袋に戻した。そして、手首に巻いていた布を取ると、袋のヒモを手首に掛けて、その袋ごと布でシッカリと巻きつけた。

 それを見ていたネオスがクスッと笑った。

「えらく厳重だね」

「だって、こんな大金持ったことないし…平気であの球を持っていたと思うと、今更ながら恐ろしいわ」

「知らないほうがよかったとか?」

「少なくとも、知らないほうが心臓にはいいわよね」

「あはは…確かに。でも、共通したお金を持っていないのは不便だし、遅かれ早かれ価値は分かるものだしね」

「まぁね…。とりあえず肌身離さず身につけることにして……今やるべき事をするのみ、ね」

「やるべき事?」

「そっ! この煩い腹の虫を黙らせるのよ!! 行くわよ、ネオス、ルーフィン」

 あたしはそう言うと、さっきから気になっていた食べ物の出所を探りに、足早に歩き出した。

 それは小麦の粉を焼いたもので、野菜とこんがり焼いた鶏肉のようなものが挟んであるものだった。街の人はそれを歩きながら食べていて、さっきからいい香を漂わせながら、あたしの横を通り過ぎるから、たまらなくなったのだ。

 川をさかのぼるように、彼らが歩いてくる方向とは逆に歩いていると、ようやくその店を見つける事ができた。

 食べ物の名前は、〝クァバナ〟 と書いてあった。

「すみません、これ三個 下さい」

「ハイヨ! 一個 二十五ルシアだから、三個で七十五ね! でも、おじさん、ベッピンさんには優しいからね、五個まとめてなら百二十ルシアにマケちゃうよ!?」

「ほんと? じゃぁ、あと二個追加!」

「え…!?」

「ヘイ、毎度あり~!」

「…ル…フェラ…?」

『誰が食べるのです?』

 ……え?

「あっ……」

 思わず出してしまった 〝二個〟 というサイン。サッと引っ込めたものの、時既に遅し…で、おじさんはニコニコしながら袋に追加して入れていた。

「や…だ…何か思わずノリで──」

 〝言っちゃった…〟 と無言で付け足せば、ネオスが 〝ノリって…〟 と呟いたのはほぼ同時だった。その時の顔といったらあまりにも間抜け顔で──きっと、ネオスもあたしの顔を見てそう思ったのだろう──二人してぷーっと吹き出してしまった。

「あ…あはははははは──」

「や、やだ…もう──」

 これじゃぁ まるで、ラディかミュエリと同じだわ…。

 そう思いつつも、素直に笑えたのが何だか嬉しかった。声を出して笑うのも、ノリで何かをやっちゃうのも、思えば、もう随分となかったものね。

 イオータのこともあったけど、一時的とはいえ離れている今は、余計なことを考えるのは止めよう。

 あたしは、笑いながらそう割り切る事にした。

「ヘイ、クァバナ五個お待ち! 値段はマケても美味さはマケてないからね!」

 おじさんの軽快な言葉に、あたしとネオスはまた笑った。

 お金を払って品物を受け取る時もまだ笑ってて、そのままの流れで 〝ありがとう〟 と言って別れると、

「いい笑顔だよ、二人とも」

 そんな言葉を掛けてくれたから、あたしも更なる笑顔で答えた。

「ありがとう。でも、おじさんの笑顔にはマケるわ」

 ──と。


 店を離れたあたし達の空腹感は最高潮を迎えていて、今すぐにでも他の人みたいに食べ歩きをしたかったのだが、ルーフィンの事を考えるとそういうわけにはいかない。故に、あたしは袋を抱えながら、どこか適当に座って食べれる場所がないかと探し始めた。が、建物が並ぶ街中はどこもかしこも賑やかで、落ち着いて座っていられる所などなく…結局、あたし達はこの街に来た時に歩いていた川沿いに向かうことにした。

 小川の土手は狭いものの、座って食べる分には問題なかった。

 ようやく腰を下ろして袋を開けると、中から香ばしい香が温かい蒸気と共に立ち昇る。あたしはそのひとつをネオスに差し出し、もうひとつをルーフィンの前に置いた。そして、自分の分を取り出すと、二人の顔を交互に見合った。

「では、早速……頂きますっ!」

「頂きます」

『頂きます』

 声を合わせて 〝頂きます〟 を言えば、かぶりついたタイミングも同じで、更には──

「ん~、おいしぃ~!!」

「うん、美味しい!」

『美味しいですね!』

 ──と、感想まで同じタイミングだったから、おかしくて笑ってしまった。それはとても他愛もないことだったけど、何かすごく嬉しくて幸せを感じるものだった。

挿絵(By みてみん)

 どれくらいぶりだろう…こんな気分になったのって…。

 あたしはクァバナを頬張りながら、ふと考えてみた。

 美味しいものをお腹いっぱい食べて、みんなで声を出して笑ってさ……ラディやミュエリは相変わらずの言い合いで… 〝またなの!?〟 って呆れる事もしょっちゅうだったけど、退屈はしなかったのよね。

 森の中で沢山の木苺を見つけたときも、村のみんなに採っていってあげようとか言ってたのに、気が付いたら三人とも頬張ってて…お互いが口の周りを真っ赤にしてるのを見て笑い転げたのを覚えてる…。すごく楽しくて、すごく幸せで…こんな時間がいつまでも続けばいいのにね…って、いつだったかネオスに抱きついてそう言ったっけ…。

 ──と、そこまで思い出して 〝あれ?〟 と思った。

 こんな時間がいつまでも続けばいいのにね…ってことは、そんな時間が終わるのを知ってたって事?

 今さっき思い出していたことなのに、何故か急に夢を見ていたような感覚に陥った。

 ネオスに抱きついてそう言ったのは…きっと、ずっと小さい頃の記憶よね…? 五歳とか六歳とか、そんな歳で……ネオスは八歳か九歳のはずだけど、抱きついた時のネオスはもっと大きかったような…。それに、三人って誰だっけ…? あたしとネオスともう一人……ラディはまだ出会ってなかったはずだから、ミュエリってこと? でも、もう一人も男の子だったような気が──

『……フェラ?』

「…ルフェラ」

 もっとハッキリ思い出そうと目を閉じたところで二人の声が聞こえ、手繰り寄せようとした記憶は、一瞬にして消えてしまった。

「ルフェラ、あの子──」

「あ、うん…何?」

 一瞬、どっちに返事をしようか迷ったが、再度 話しかけてきたのはネオスだった為、心の中でルーフィンに謝ってからネオスとの会話を優先した。

「あの子、ちょっと様子がおかしくないかい?」

 そう言われてネオスの視線を追えば、少し薄汚れた布を頭からすっぽりと覆っている子供の姿が目に入った。顔は隠れて見えないが、足元から見える服装から男の子だというのは分かった。ただその足元はおぼつかず、時折フラついては通行人とぶつかりそうになっていた。

「まさか、ラディと同じ陽射しと水の病にかかったんじゃ…」

「この季節に?」

 それこそ、まさか…という顔をした。

「…そう…よね…」

「──とにかく、行ってみよう」

「うん…」

 あたしは最後のひとくちを放り込むと、急ぐネオスの後を追った。

 一足先に駆けつけたネオスが声を掛けると、少年は鈍い反応で顔を上げた。が、そのあまりの顔色の悪さに、あたし達は一瞬 言葉を失った。──と次の瞬間、

「…す…みま……」

「────!!」

 消えそうな声が聞こえたと思ったら、そのままグラリ…と前のめりに倒れたではないか。瞬時にネオスが受け止めたものの既に少年の意識はなく、もともと色が白いせいか、一見すると死んでいるような顔色の悪さだった。

「ネオス…まさか……」

「大丈夫、気を失ってるだけだよ。でも、早く先生に診てもらわないと…」

「そうね…大変な病かもしれ──」

「血の気が足りないだけよ」

「……え?」

 語尾に掛かるように聞こえたのは、〝何てことはない〟 とでも言うような女の子の声だった。それが座っているあたしの頭の上の方から聞こえた為、当然のように振り向くと、少年を覗き込むようにして立っている十三・四歳くらいの少女がそこにいた。

 あたしと目が合った少女が、再度 同じ言葉を繰り返す。

「だから、血の気が足りないだけだって」

「血の気が…足りないって……」

「こんな身なりだもん、栄養のあるもの食べてないんじゃない? 〝あっかんべー〟 ってするみたいに、下瞼の裏 見てみてよ。きっと真っ白よ?」

 そう言われ、その通りに下瞼をひっくり返してみたら、

「──ほらね?」

 彼女の言った通り、真っ白だった。

「あたしも大した物は食べてないけどさ、この子はよっぽどかもね。ほら見てよ、この肌──」

 そう言って腕を取ったところで、少女の表情が変わった。

「何、どうしたの?」

「え…あ、ううん。それより、この子うちに連れてきたら?」

「え……?」

「だって、このままここで寝かせとくわけにもいかないでしょ? 病の先生に診せたって、どうせ栄養のあるもの食べなさい、って言われるだけだしさ」

「……そ…う?」

 少女に問いながら、〝どう思う?〟 とネオスを見やれば、彼も半信半疑ではあるが、〝そうさせてもらおうか…〟 と頷いた。

「じゃ、決まりね。──こっちよ、ついてきて」

「あ…ちょ、ちょっと──」

 〝ついてきて〟 と言った時には、既に背を向けて歩き出していて、あたし達は慌てて少年を背負い彼女のあとを追った。

 十三・四歳の背丈では人ごみに紛れるとすぐに見えなくなる。それでも何とか見失わずに済んでいるのは、彼女の着ている服が他より目立つ色──鮮やかな黄緑色──だったからだろう。

 それを知ってか知らずか、少女は後ろを振り返ることなく、さっさと人の間をすり抜けていった。

 しばらくして人通りが少なくなると、更に細いわき道に入った。そこはもう、建物も店も賑やかな街からは程遠い感じで、何気に後ろを振り向けば…なるほど、賑やかなのはこの街の中心部分だけなんだと分かった。

 両脇に建ち並んでいたレンガ造りの家々も、この細い道に入ってからはグンと減り、更には殆どの家が木で造られていた。

 少女が軽やかに駆け上がっていく階段の上には、このまま山の中に入っていきそうなほどの木々が見えていて、その景色はあたし達にとって馴染みやすいものだった。

 階段で一気にペースが落ちたからか、ようやく少女がこちらを振り向き立ち止まってくれた。待ってくれるのね…とホッとしたのも束の間、

「情けないなぁ、二人とも。あたしんち、この階段を登りきった所だから。先行っちゃうよー」

 階段の上を指差しそう言うと、これまたさっさと駆け上っていくではないか。

「ネオス…」

「うん?」

「…若いっていいわね」

 体力的なことはもちろん、この状況──ひと一人を背負って歩いている状況──でのミュエリのような発言に怒るのも大人気ないし…と溜め息混じりに呟けば、一瞬驚いたものの、すぐにクスクスと笑い出した。

「だったら、僕たちも負けてられないな。この歳で 〝おじさん〟 〝おばさん〟 なんて呼ばれるのは、さすがに勘弁して欲しいしね…」

「おば…!? じょ、冗談じゃないわよ、そんなの…」

「うん。だから急ごう」

「もちろん。──って言いたけど、ネオスは大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。あと少しだし…案外 軽いんだ、この子」

 そう言うと、〝じゃぁ、行くよ〟 とばかりにペースをあげた。

 階段を登りきった所にはかなり古びた家が一軒しかなく、彼女の出迎えがなかったものの、あたし達は迷わずその家の玄関をまたいだ。

 どれくらい前に建てられたのだろうか。手入れさえされていれば、木の味わいが出てくるものだが、それを通り越したというよりは、単にボロボロ…という感じで、どう見ても普通の生活レベルではない。だとしたら気になるのは、この家とは少々釣り合いの取れないあの服だ…。

 何気にそんな事を考えていると、部屋の奥から彼女が現れた。

「こっち、こっち。さぁ、上がって」

 手招きされて案内された部屋には、板の間に薄い布団が用意されていた。ネオスが少年を下ろそうとするのをあたしも手伝って布団に寝かすと、ようやく、ホッと一息つく事ができた。

 顔色はまだ悪いが、倒れた時よりは幾分かよくなっていたから、尚更ホッする。

「とりあえず、目が覚めるまでは何もすることないしなぁ」

 どうしよう…という間があってから、ふと思い出しように続けた。

「そういえば、まだ名前言ってなかったよね? あたしはルシーナっていうの。おねえさんたちは?」

 〝おねえさん〟 と呼ばれたことにドキッとしながらも 〝よかった〟 という笑みが僅かにこぼれてしまった。

「あたしはルフェラよ。それから、彼はネオス」

「ルフェラさんにネオスさんかぁ。じゃぁ、あの子は?」

 そう言って視線を移したのは玄関のほうだった。

「あぁ、彼はルーフィンよ」

「狼…だよね?」

「えぇ…でも──」

「人を傷付けたりしない、頭のいい子だよね」

「え…?」

「目を見れば分かるんだ、あたし。雰囲気もそうなんだけど、すごく信頼しあってて、おねえさんの言う事は絶対に聞くって感じ」

「…そう?」

「うん。でも、おねえさんを傷付ける人には容赦ないかもね。危険な目にあったら命懸けで守ろうと思ってるくらいだもん」

 〝絶対そう〟 と言い切るルシーナに、あたしとネオスは驚いて顔を見合わせた。

「ねぇ、それとさ…」

「うん、何?」

「あ、あの人どうなった…かな?」

「あの人?」

 どの人だろう…と思いつつも、突然、聞き辛そうな口調になった事の方が気になった。

「ほら…川に落ちちゃった人、いたじゃない…?」

「川…? あぁ、ラディの事?」

「そ、そう。その人。大丈夫だった? 風邪、引いたりとかしないよね?」

「それは大丈夫よ。まぁ、ちょっと足は挫いちゃったけどね。でも、どうして? 何か気になるの?」

 一瞬、なんでラディが川に落ちた事を知ってるんだろう…と思ったが、偶然にも近くにいて見てたなら知っていてもおかしくないと思った。ただ、何故それを気にしてるのかが分からなかったのだが…。

「う…ん…っていうか…あたしが落としちゃったから…さ…」

「…え!?」

 思わぬ言葉に、あたし達の声が僅かに響いた。

「落とした…って…え…でも、ぶつかったのは男の子だったはず──」

 そう言いかければ、ちょっと申し訳なさそうに…でも半分以上は得意げな笑みを見せ立ち上がった。そして、突然スカートを脱ぎ始めたから尚驚いた。

「ちょ、ちょっと──」

 慌てて止めようとしたが時既に遅く、ネオスが目を逸らすより早く、彼女のスカートは取り払われてしまった。──が、同時にホッと胸を撫で下ろした。

 いきなりの事で驚いたが、それは大きい布を巻いてあるだけのようで、しかも、その下には膝上のズボンを履いていたのだ。

 鮮やかな黄緑色の布は、裏を返すとズボンより濃い茶色をしていた。ルシーナは茶色の方を表にして上半身に巻きつけると、ズボンのポケットから布紐を取り出し、腰の辺りで縛った。更には、反対のポケットから茶色い布を取り出すと、髪の毛を隠すように頭を覆い、後ろで結んだのだ。その襟足から見える髪の毛は少し刈り上げられていて、見た目は髪の毛が長いなんて気付かないほどだ。

 クルリとあたし達に後ろを見せれば、それは紛れもなく男の子の姿で、人ごみに消えて行った少年に間違いなかった。

「どう、驚いた?」

「え、えぇ…でも、どうしてそんな格好を?」

「う~ん…まぁ、簡単に言えば 〝おとり〟 かな」

「おとり?」

 オウム返しの質問に、ルシーナが 〝うん〟 と頷いた。

「ちょっと人に追われてるのよねぇ、あたし。──って言っても、追われてるのは 〝男の子のあたし〟 で、あいつらにしてみたら、どこの男の子かは分からないんだけどね。だから女の子のあたしは、絶対に疑われないってわけ。そしてもうひとつ言うなら、こうやって裏と表の色を変える事で、あたしは別人だって印象付けてるのよ」

 なるほど、と思った。家とは不釣合いな色にしているのは、人の目に印象付ける為の作戦てわけか…。

「どう、頭いいでしょ?」

「…そうね…」

「あ、でもこれ内緒だからね? 追いかけてるのが実は男じゃないって分かったら、あたしだってバレるのも時間の問題だろうしさ…。だから絶対、誰にも言わないでよ、ね?」

「…う…ん、分かった。でも一体──」

 頭に巻いていた布を外し、上半身にまとっていた布を元のスカートとして巻きなおすルシーナを見ながら、誰に追われているのか、あるいは どうして追われているのかを聞こうとした。が、ちょうどその時、少年が目を覚ましたため、出かかった質問は当然のように飲み込むしかなかった。

「やっと気がついたかぁ~。──で、どう? 気分は」

「…は…い…。さっきよりはいいです…けど……」

「そっ。じゃぁ、あたしはちょっと用意する事があるからさ…」

 そう言うや否や、ルシーナは 〝けど〟 のあとの言葉を聞かずに、さっさと部屋を出て行ってしまった。

 せっかちというか何というか…。人のことはあまり気にせず、自分の思った事をパッパパッパやっちゃう所は、ミュエリそっくりだわね…。まぁ、二人とも悪気があってやってるわけじゃないとは思うけど…?

 ミュエリを相手にしていて慣れっこだからか、それとも──口調はともかく──まだまだ子供だからか、腹が立つよりは 〝しょうがない〟 という気持ちの方が強くて、あたしは小さな溜め息を付いた。

 そんな時、

「大丈夫かい、君…?」

 ネオスの声が聞こえて振り向けば、起き上がろうとする少年を手伝っているところだった。

「大丈夫? もう少し横になってたほうがいいんじゃない?」

「いえ…これくらいなら大丈夫です。それより、ありがとうございます、助けて頂いて…」

 最後に見た顔がそこにあり、少年はネオスに頭を下げた。

「あ、いや…助けたって言ってもここまで運んだだけで何も…」

 〝していないから…〟 と続けようとしたが、少年はそれだけで十分だとばかりに、再度 頭を下げた。そして部屋の中を見渡すようにして聞いた次の質問は、おそらく、〝けど〟 のあとに聞きたかった事だろう。

「あの…ところで、ここは…?」

「あぁ…ここはさっきの子、ルシーナの家よ。とは言っても、あたし達も初対面なんだけどね。本当は病の先生に診てもらおうかと思ったんだけど、診てもらっても大してすることはないだろうからって…それでここに」

「そうでしたか…」

「…ねぇ、こういう事はよくあるの?」

「え…ぇ、まぁ…。でも、大したことはありませんから──」

「ほーら、できたわよぉ」

 〝心配しないでください〟 という無言の言葉を遮るように、ルシーナが何やら持って現れた。

「これを食べて、これを飲む。いいわね?」

 そう言って差し出したお盆の上には、三つ葉の入ったお粥と、お茶があった。

「大したものじゃないし、お腹も空いてないかもしれないけど、〝助けてくれてありがとう〟 とか、〝迷惑かけたな〟 って少しでも思ったら、ここはあたしの言う事を聞いて食べる。分かった?」

 優しいのかそうでないのか…ほぼ強制的に 〝うん〟 と頷かせると、ルシーナは少年にお粥とさじを渡した。彼女の勢いに押されつつも、それを受け取った少年が食べるのを見れば、ルシーナの顔には満足げな笑みが浮かんでいく。そして、更にミュエリのようなペースで話しかけ始めた。

「それでさ、あんた名前は何ていうの?」

「僕は…タ…タウルです」

「ふ~ん、タウルかぁ。あ、あたしはね──」

「ルシーナさん…ですよね?」

「あれ、もう知ってるの?」

「はい。今、この方から聞いた所で…とは言っても、あなたの名前だけですけど」

 そう言われて、〝そう言えばそうだったわね…〟 と、あたし達が慌てて自己紹介すれば、またまた、彼女のペースで質問が飛んだ。

「歳は?」

「…十三です」

「十三!? やだ、あたしと同じじゃない! そんなヒョロっとして弱そうだから、てっきり年下だと思ったわよ」

「………………」

 ほんとに思った事をズバズバと言う子ね、この子は…。もう少し言葉を選ぶというか、心の中に閉まっておかないと…。

 あたしとネオスは、七年後のルシーナの未来が見えたようで、二人して同時に溜め息をついてしまった。──が、もちろんルシーナが気付くことはない。

「それよりさ、タウルって 〝いいトコ〟 の子なんでしょ?」

「え…?」

「なんで家にいなかったのよ? 何しに来たかは知らないけど、何か用事があるなら誰かに頼めばよかったんじゃないの?」

 何故そんな風に思い込むのか…。

 あまりにも突然で、尚且つ飛躍した質問にタウルが戸惑うのは当然のことで、あたし達もすぐには聞き返せなかった。

「あ、あの…一体 何の事を言っているのか…」

「ダメよ、とぼけたって。──っていうか、ごまかそうとしてもムダなんだから」

「どういう事、ルシーナ?」

 そこまで自信を持って言う理由は何なのか…。

 あたしの質問に、チラリとこちらを見ただけのルシーナは、タウルが覆っている布の隙間を指差し続けた。

「そんな薄汚れた布で隠してるけど、着ている服を見ればどっかのボンボンだってことくらい分かるんだから」

 その言葉にタウルがハッとし、慌てて指差された隙間を布で隠した。その仕草を目にしたルシーナの自信が更に増す。

「ボンボンなら食べ物だっていいもの食べてるはずだし、普通だったら血の気が足りないなんて有り得ないもん。それが真っ青な顔して倒れるなんて、もともと体が弱いって事でしょ? その肌の白さを見れば、ずっと家の中に居たことぐらい分かるんだしさ」

「……………」

 なるほど、と思った。

 腕を取って表情が変わったのは、いい服を着ていると分かったからなのね。それで、ここまでのことを推測して家に連れていこうと言い出したのか…。

 子供にしてはすごいじゃない…。

 彼女の観察力と推測に感心していると、ルシーナはタウルがお粥を食べ終わっている事に気付いて、お茶を勧めた。

「ほら、これも飲んで」

 言われるがまま口にしたものの、タウルは顔をしかめた。

「…まぁ、あまり美味しいものじゃないけどね。でも、体にはいいんだから…ちゃんと全部飲むのよ」

 何が何だか分からないタウルだったが、ルシーナには敵わないと思ったのだろう。半ばヤケクソのように無言で一気飲みした。

 そんな姿に満足そうな笑みを浮かべるのはルシーナだが、どこかホッとしているようにも見えたのは、きっと気のせいじゃないだろう。

「──それで? 何で一人で出てきちゃったわけ?」

「それは…」

「それとも誰かと一緒に来たけどはぐれちゃったとか?」

「……………」

 話が元に戻ったことで、タウルの表情が強張っていた。

「ねぇ…?」

「…人には…頼めない事も、言えない事もあるんです…」

 それはつまり、一人で出てきたという答えであり、あたし達にも言えないという事なのだろう。けれど彼女は気にしなかった。

「ふ~ん。でもそれって大事な事なんでしょ? そんな体を押して一人で出てくるくらいだもんね。でもさ、死んじゃったら終わりよ?」

「ちょ…ルシーナ!?」

 〝死ぬ〟 という言葉をさらりと言ったから、反射的に注意したが、ルシーナは続けた。

「何をしようとしてるか知らないけど、そんな体で持つわけないじゃん。まぁ、すぐにその目標が達成できるならいいけどさ。近くに信用できる人がいるんなら、その人に手伝ってもらった方がいいと思うわよ、あたしは」

「……………」

 それが単に、興味本位で聞き出すための話術なのか、それとも信用できる人がいないならあたしが協力するから…という意味の言葉なのか…。それはあたしでもよく分からないが、どうやらタウルの心は動いたようだった。

「……人を…捜しているんです…」

「…人を? ──って誰を? 名前は?」

 身を乗り出すルシーナに、タウルが俯き加減で首を振った。

「名前も分かんないの? じゃぁ、男か女かは? 年齢や体格とか…あとは何があるかな…えっと…えっと……髪型とか…そうだ、何か特徴は?」

「…いえ……」

「やだ…ひょっとして何も分かんないとか…?」

 もしそうなら、ある意味、〝言えない事〟 ではあるわけだ…と思っていると、タウルはその言葉を否定すると共に、思わぬ事を言い出した。

「会った事もない…女の子です…」

 しばし無言の後、〝……はい?〟 と返事したルシーナの顔からは、明らかに理解できていないという色が見えた。

「僕にも、それしか分からないんです…」

「それしか…って…」

 既に何をどう聞けばいいのか分からないルシーナの代わりに そう繰り返したものの、申し訳なさそうに俯くタウルを見れば、その後の言葉は続かなかった。

 だけど──

 会った事もない人をどうやって捜すというのだろう。名前も顔も、特徴ひとつ分からないというに。

 それに、捜す理由は?

 何か話を聞いたにせよ、病弱な体を押してまで捜す必要がどこにあるのだろうか。

 もし、タウルにとってそれだけ大事な事だとしても、人に言えないほどの事って一体なに…?

 考えれば考えるほど、タウルの抱えてる事がとても深刻なような気がして、ただただ、この場の空気が重く感じられていった。

 そんな沈黙を破ったのは、玄関から聞こえた女性の声だった。

「…ルシーナ、お客さんなの?」

「…お、お母さん!?」

 驚いたルシーナと共に玄関の方を振り向くと、両手一杯に野菜を抱えた母親が、既に玄関を上がり部屋に入ってくるところだった。

 母親は線の細い色白な女性で、いかにも病弱という感じだった。だから、ルシーナが驚いた理由も次の言葉ですぐに分かった。

「お母さん、寝てたんじゃないの!?」

「えぇ。今日はとても気分がよかったから、頼まれた仕事を仕上げて届けに行ってたのよ。──それで、この方たちは?」

「あ…えっと、ルフェラさんとネオスさんよ。それから…」

 説明しながら、ルシーナは母親の荷物を預かり始めた。

「あの子はタウルっていうの。街の中で突然倒れちゃったから、ここに運んでもらったのよ」

「まぁ、それは大変だったのね…」

 簡単に説明を済ませたルシーナが台所のほうに消えていくと、母親がタウルの傍に座った。そして、空になったお椀と木の湯のみを目にして、ルシーナ同様、少しホッとした笑みを浮かべた。

「あの子のお粥、食べたのね?」

「あ…はい。とても美味しく頂きました」

「それはよかったわ。でも、お茶は美味しくはなかったでしょう?」

「そ、それは…」

「いいのよ、正直に言って。私も毎日飲まされているんですもの」

「毎日…ですか!? それは、お気の毒で─」

 飲まざるを得なかったお茶の不味さを思い出したのだろう。思わずそう言ってしまったことに、ハッと口をつぐんだタウル。母親はそれを見て、クスクス…と笑った。

「す、すみません…」

「いいのよ、本当にそうですもの。でもね、あれはあの子の愛情なの」

「…愛情?」

「えぇ。私やあなたみたいに体の弱い人に対する愛情。ちょっと口が悪い時はあるけど、それも全て愛情あってのものなの。だから許してあげてね」

「あ…はい…」

 どんな愛情なのかは分からないが、毎日飲まされている母親に言われては、そう答えるしかなく…けれど、母親はその返事に満足したようにニッコリと微笑んだ。そして、〝あぁ、そうだ…〟 とポンと手を叩いた。

「あなた達、一緒に夕飯 食べていかない?」

「え…?」

「今日の仕事の報酬が思ったよりよくてね、思わず買い込んじゃったのよ。おすそ分けしてもらった野菜も沢山あるから──」

「──お鍋ね!?」

 突然、母親の後に続いたのは台所から戻ってきたルシーナだった。

「えぇ、そう。お鍋は大勢で食べた方が美味しいし…どうかしら?」

「うん、それいい! 栄養もいっぱいだしさ。ね、そうしなよ、おねえさん達!」

「…え…でも……」

「タウルは絶対だからね!?」

「ルシーナ。お母さんはお客さんに聞いてるのよ?」

 〝勝手に決めないの〟 と無言で注意され、ルシーナは渋々と黙った。それを確認し、母親が再度、あたし達に尋ねた。

「どうかしら、皆さん?」

「……あ、あの…僕は帰ります…」

「どうしてよ、タウル!?」

 強制的に食べさせようとしていたタウルが断り、思わずルシーナが叫んでしまった。

「ルシーナ」

「だって、お母さん……」

「すみません…。僕も皆さんと一緒に食べたいとは思うのですが、黙って家を出てきてしまったので……」

「あらあら…。それは家の人が心配するわね」

「はい…」

「じゃぁ、今度は家の人に言ってから食べにいらっしゃいな?」

「ありがとございます…」

 優しい言葉に、タウルがそう言って頭を下げた。

「じゃぁ、おねえさん達は?」

 理由を聞けばタウルを引き止めるわけにもいかず、ならばあたし達だけでも…という思いが伝わってくる、そんな口調だった。

 ここであたし達までもが断ったら可哀想よね…と思いつつも、別に、一緒に食べる事を嫌がってるわけではない。あたし達にはしなきゃいけないことがあって、ずっとここにいるわけにはいかないのだ。

 どうしようか…とネオスを見れば、彼もまた同じように困った顔であたしを見ていた。

 その様子が 〝いい返事〟 を期待させなかったのだろう。

「別に嫌ならいいんだけどさ…」

 半分はふてくされるように、そして半分は寂しそうに言ったから、あたしは慌ててそれを否定した。

「別に、嫌ってワケじゃないのよ。ただ…先に泊まる所だけは見つけておかないと…と思ったから──」

「泊まる所? え…じゃぁ、川の人はどこにいるの?」

「ラディたちは、たまたま通りかかった人が助けてくれて…。二・三人なら…って、そのまま泊まらせてもらえる事になったのよ」

「じゃぁ、おねえさん達はあぶれちゃったってこと?」

「まぁ、そういうことね…」

「ふ~ん、そうなんだ。だったら、うちに泊まれば?」

「…え?」

「予備のお布団はひとつしかないけど、あたしがお母さんと一緒に寝れば二人分できるし…それでよければ、だけどね。──それに、おねえさんの友達に悪いことしちゃったから、何かしなきゃなぁ~って思ってたところだし。ねぇ、お母さん、泊まってもらってもいいよね?」

「え、えぇ、それはもちろんよ。だけど…」

「だけど…?」

「 〝友達に悪いことしちゃった〟 ってどういうことなの?」

「あ…」

 思わぬ言葉を拾われ、〝しまった…〟 と口を押さえたが、その仕草が余計に母親の注意を引いた。

「ルシーナ?」

「いや…ちょっとね…走ってたらぶつかってさ…おねえさんの友達を…その…川に突き落としちゃったっていうか…」

「まぁ! ──それでケガとかは大丈夫だったの? ちゃんと謝ったんでしょうね?」

「それが…足を挫いたみたいで…あ、謝りたかったんだけど…その…急いでたっていうか…止まってられなかったっていうか…」

「ルシーナ!?」

「ご、ごめんなさい! ちゃんと、明日、謝りにいくから…」

 肩をすくめたルシーナに、〝当然です〟 と答えた母親が、次いであたし達のほうに向き直った。

「本当にごめんなさいね。普段から女の子らしくしなさい、って言ってるんだけど…まさか、ケガまでさせちゃうなんて…」

「あ、いえ そんな…大したことありませんから…。数日で歩けるようになるって言われたし…ねぇ?」

 あたしがネオスに同意を求めると、彼も無言で頷いた。

 〝十日〟 が 〝数日〟 だとは言えないけれど、もともと、ラディが無理やり変な方向に曲げたりするから酷くなっちゃっただけで…それはルシーナのせいではないもの。

 最後にもう一度、〝本当に大したことありませんから〟 と付け加えると、母親は少し申し訳なさそうに微笑んで、軽く頭を下げた。

「…それじゃぁ、私は夕飯の準備でもしようかしら。ルシーナ、あなたはタウルさんを送ってあげてね」

「う──」

「あ…僕なら大丈夫です。一人で帰れますから…」

「だめよ」

 〝うん〟 と頷くより早くタウルが断ったものの、即座に首を振ったのは母親だった。

「そんな体で、また途中で倒れたらどうするの?」

「でも、これくらいはいつもの事で──」

「甘いなぁ。それは家でジッとしてるからでしょ? だいたいね、一人で帰れるわけないじゃん。ここがどこだか分かんないのにさ」

「……………」

 気を失ってる間に連れてこられたんだから分かるわけない…というルシーナの言い分は当然で、タウルもそれに気付き黙ってしまった。

 その様子にルシーナが満足げに頷いた。

「それから、お母さんは何もしなくていいよ。夕飯の準備はあたしが帰ってからするからさ」

「大丈夫よ、ルシーナ。言ったでしょう? 今日は気分が良いって」

「そうだけど…いつまた悪くなるか分かんないでしょ? この前だって調子が良いからって張り切ってたら、急に倒れちゃったし…」

「あれは、お母さんも反省してるわ。久しぶりに体が軽かったから嬉しくて…ついつい、今のうちにやれるだけやっておこう…なんて思ったから…」

「ほらぁ。お母さんは 〝加減する〟 ってこと忘れちゃうから、そうなっちゃうのよ」

「でもね──」

 親子逆転のような会話がまだまだ続きそうだが、無理をして欲しくないというルシーナの気持ちは十分に伝わってくる。だから、あたしは二人の会話を止めた。

「あの…タウルはあたし達が送って行きます。ラディたちにも泊めてもらえるところが見つかったって報告しにいきたいし。だから、ルシーナはここにいてお母さんを手伝ってあげてくれる?」

 そう提案すれば、ルシーナは即座に 〝うん〟 と頷いた。

「じゃぁ…タウル、行こうか?」

「…はい」

 立ち上がったタウルが 〝お世話になりました〟 と丁寧に頭を下げたあと、あたし達は彼を送りに家を出た。

 そして数段下りた所で、再びルシーナの声がした。振り向くと、手に何やら持って走ってくる。

「タウル、これ持って行きなよ」

「え…?」

 突然、目の前に差し出したのは片手で握ったくらいの小さな袋。けれど、タウルはすぐに受け取らない。その為、ルシーナは彼の手を取って握らせた。

「何ですか…?」

「さっきのお茶よ」

「お茶…」

 明らかに嬉しくないその顔に、ルシーナが不満を口にする。

「何、その顔ぉ?」

「い、いえ…」

「美味しくないから飲みたくないのは分かるけど、そういうものこそ体には良いんだからね。一週間分くらいはあるから、ご飯食べる時にちゃんと飲むのよ!?」

「…分かり…ました…」

「…あ、でも皆には内緒だから、見つからないようにね。いい? それから──」

 どうして内緒なのかが疑問だが、それを質問する間は与えられず、タウルはあたしの横で頷くしかなかった。

 そして、タウルの視線があたしに移った。

「おねえさん、気にしなくていいからね」

「…え?」

「あたしんち貧乏だし、なんにもないからさ、泊まっていいのかなぁ…なんて思ってるでしょ?」

「それは…」

 両替もできた事だし、お金を払った方がいいとは思ったけど…。

「だから、気にしなくていいって言ったの。あたしにはね、何も言わなくてもお金くれるヤツがいるんだ。今日だってほら…」

 ──とポケットから出したのは、数枚の千ルシア紙幣だった。くれたにしては、握り潰したような跡が気になったものの、それ以上に気になったのは、くれた人を 〝ヤツ〟 と呼んだことだ。けれど、〝だから、ちゃんと戻ってきてよ?〟 と、どこか願われるような視線を向けられてしまったから、あたしもタウル同様 頷くしかなかった。

「じゃ、そういうことだから、気を付けてね!」

 ルシーナは笑顔でそう言うと、クルリと背を向けて家に戻って行った。

 あたし達はそんな彼女の姿が消えてから、再び階段を下り始めた。


 他愛もない会話をしながら街の中心部に行くと、ルシーナの家に行く前に比べて微妙に慌ただしさがあることに気が付いた。祭り事があるとかそういうのではないのだろうが、気にしながらも暫く歩いていると、タウルが 〝ここで…〟 と別れを切り出したのは、彼が倒れた場所だった。

 向かう先は人ごみの多い方向で、尚更 一人にはできないと言ったのだが…。身なりを隠すくらいだから知られたくないのだろう。頑なにそれを拒否した。

 知られたくないと思うのなら無理強いするわけにもいかず…結局、あたしが掛けた言葉に気になる返事を返したまま、そこで別れる事になったのだった。

 そうして、彼の姿が見えなくなってからラディたちのもとへ行ったのだが、そこで微妙に慌ただしさを感じた理由を知った。

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