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女神伝説  作者: Sugary
第五章
74/127

10 罪人との前哨戦 ※

 頭の中に響き渡る声とひどい眩暈によって気を失ったあたしは、体の揺れと頬を叩かれる刺激で目を覚ました。

 どれくらいの時間が経ったのかは分からないが、未だ残る眩暈の気持ち悪さと、なぜかここにいるイオータの肩越しに木々が見えたことから、まだ同じ場所にいるのだという事は分かった。

「…おぃ…大丈夫か…?」

「…ぁ…イ、オータ…」

 そう呼んで、聞こえた自分の声に違和感を覚えた。呼ばれたイオータも僅かに眉を寄せたが、その違和感を追求するほど落ち着いていられる状況ではなかったのだろう。すぐに、状況説明を求めてきた。

「いったい何があったんだ!?」

「何って…あたしもよく分からない…彼女に触れた途端、急に目の前が真っ暗になって──」

 なに…この声…?

 まるで別人みたいじゃない……。

 〝別人〟 という言葉に思わず体を動かしてみたが、体の感覚はもちろん、探るようにした手が地面に触れた為、ホッとした。

 この際、声はどうでもいいわね…。

「──それより、どうしてここに…?」

「ルフェラの気配を感じたんだ。ここに来てみれば、いきなりネオスが 〝あんたを頼む…!〟 って叫んで林の中に入っちまうし…いったい、どこに行ったんだ、あいつらは…!?」

「あいつら…って…彼女も…エステルさんも行ったの…!?」

 その言葉に、イオータがひどく驚いた顔をした。

「な…に言ってんだ、お前…!?」

「なに…って──」

 聞き返そうとしたあたしの言葉を遮ったのは、スッと視界に入ったラディだった。その彼が次に発した言葉に、あたしはわけが分からず絶句した。

「大丈夫かよ…? エステルはお前だぞ…?」

「………………!?」

 ポカンとするあたしに、更にミュエリの声が飛んでくる。

「ネオスはルフェラを追いかけて行ったのよ」

「え…ちょ、ちょっと待ってよ……あんた達こそ何言ってんの…? あたしはここにいるじゃない?」

「…はぁ!?」

「あたしはルフェラよ!? いくら夜だからって見間違えるにも程が──」

「おぃ、おぃ…いい加減にしろよ!? あいつはな、暗闇にいたってルフェラを見失う男じゃねーんだ。それに、あんたがここで死にかけてたって、ルフェラを追いかけるヤツなんだぜ? 間違えるわけねーだろーが!」

「そんなこと言ったって…現にあたしはここにいるじゃない!」

「だからぁ──」

「あたしは──」

 なんだかよく分からなかったが、とにかく、もう一度 何があったのか整理しようと、否定するイオータを遮った。

「あたしは…テトラに連れてこられたのよ…。いきなり頬を叩かれて…目が覚めた時は、既に彼女自身になってた……。彼女がされた事を、あたしも同じように感じた…ひどい…あまりにもひどい経験だったのよ…!」

 そう言うと、あたしはまた涙が出てきてしまった。

 実際に襲われたのはテトラだが、あの感覚はまるで自分が襲われたみたいだった…。それほどリアルで気持ちが悪かったのだ…。思い出すだけで吐き気さえ催しそうになる…。だから彼女の気持ちがよく分かったのだ。

「お…い…?」

「…テトラと話したあとは…急に体が重くなって…気が付いたらネオスがいたの…。そこにエステルさんがやってきたのよ…。自分でもよく分からないけど…無意識のうちに彼女に手を伸ばしてた…。その手に彼女が触れた途端、いきなり後ろから弾き飛ばされるような感じがして……また…真っ暗な場所にいたのよ…。そこは不思議な空間で…なんか、上手く言えないけどエステルさんの目で物事を見てた…。そしたら今度はすごい眩暈に襲われて…気が付いたら今になってて……もう…何が何だかよく分からないけど…でもあたしは──」

 理解できるかどうかは別としても、順を追って話していくと、イオータの顔が変わってくるのが分かった。そして、〝でもあたしは、正真正銘のルフェラよ!〟 と続けようとした時、一瞬早く、〝まさか…〟 という言葉がイオータから漏れ、次いであたしが言おうとした事を恐る恐る口にしたのだ。

「お…前…ほんとにルフェラなんだな…?」

「そうよ…! だから最初から言ってるじゃない…!」

「そ…うか…そういう事か…」

 一人納得するイオータに、〝マッタ〟 を掛けたのはラディだ。

「お…ぃ…そういう事ってどういう事だよ…? こいつはどう見たってエステルだろーが!?」

「──中身だ」

「はぁ!?」

 余計わけが分からないと返せば、次のイオータの説明には、あたしも自分の耳を疑った。

「つまり、ルフェラの魂が体から離れ、エステルの体に入ったってことだ」

「なっ──!?」

「どういうこと──!?」

 ラディと同時に叫んだのはミュエリだった。その問いに、

「そのまんまさ」

 ──と軽く答えると、イオータは 〝よく聞け〟 とばかりにあたしの両腕を掴んで自分のほうに向けた。

「──いいか、ルフェラ?」

「…ぁ…あ…ちょっと待っ…何を言って──」

「いいから、聞けって!」

 質問する前にとにかく聞け、と両腕を掴む手に更なる力が加わった。

「──お前に触れていたテトラの御霊が、お前の魂を追い出したんだ。エステルに触れた時、後ろから弾き飛ばされた感覚がしたのはそのせいだ。それと、お前が真っ暗な中でエステルの目で見てたのは、おそらく彼女の記憶だろ。今はお前がそいつの中に入り込んだショックで、気を失ってるんだろうがな…」

「…ぁ…た、魂を追い出されたって……あたし…死んだ…の…?」

「バカ。まだ死んじゃいねぇよ。──ただ、あんまり長いこと離れてると、結果的にはそうなっちまうからな…早いとこ体を取り戻さねぇと…」

 信じられない結論だった…。そして、信じたくない結論でもあった…。御霊に触れられたというだけでも現実離れしてるのに、この上、体から追い出された魂が他の人の中に入るなんて……。

 あ…ぁ…だけど──

 本当に自分の体じゃないのかと恐る恐る顔に触れてみれば、その手の中に収まる感触がいつもと違い、更に確認するように視線を落とせば、着ている服がこの場に現れたエステルのものと同じだという事に、信じざるを得なくなってしまった。そして、あの言葉が脳裏を横切った。


 〝少しだけ、貸りるね〟


 あれは…このことだったんだ…。

 改めて、そう思った。借りるといったのはあたしの体だったんだ、と。

 その時の表情から、納得したと悟ったのだろう。イオータは溜め息を付くと同時に手を離した。

「とにかく、あいつらを追いかけねーとな…」

 そう言いながら林とは逆の方に目を向けた為、つられるようにそちら見れば、ちょうどタリアと旦那さんが松明を持って走り寄ってくるところだった。

 たまらず、ラディが松明を受け取りに走った。そして一緒になって戻ってくると、一本はイオータに、一本はミュエリに渡した。

「ルフェラは家で休ませてもらえよ、な? ぜってぇ、オレらがお前の体取り戻して──」

「いや──」

 ラディの言葉を遮ると、イオータはあたしに自分の松明を差し出した。

「動けるなら、あんたも来たほうがいい。─どうだ?」

 それは、動けるかどうか…という質問だった。

 もし この体があたしのものなら、きっと今頃は鉛のように重くて起き上がることさえできなかっただろう。それは、〝テトラの心〟 から目覚めた時の事を思い出せば分かる事だ。

 魂が自分の体から離れてエステルの中に入ったのは、驚くと共にショックでもあるが、今は動けることが素直にありがたいと思う。

 二人の想いを知って、何もせずジッと待ってるなんてできないもの…。

 故に、答えは決まっていた。

「──行くわ」

 あたしは差し出された松明を受け取ると、強い意志を見せるようにスッと立ち上がった。その姿にイオータが 〝よし〟 と頷けば、ラディもそれ以上 止めることはしなかった。

「──ンじゃ、行くぜ?」

 イオータがルーフィンの背中をポンと叩き、彼らの匂いを辿るよう指示すれば、彼も急ぎましょうとばかりに駆け出した。あたし達は慌ててタリアに頭を下げると、ルーフィンを見失わないよう後を追ったのだった。



 林は森へと続き、方向からすればあたしたちが野宿していた場所へと向かっていた。

 なぜその方向なのか、いや、それ以前に、なぜ山に入っていったのか…その理由を知っているのはあたしだけだ。故に当然の疑問があたしの前後で飛びかった。

「…にしても…な…んで…あいつ、こんな山ン中に…!?」

 道なき道を駆けていくため、所々、言葉が途切れていた。

「さぁな。ただ…ルフェラの体を奪ったからには、何か…したい事があるんだろーが…」

「やり残した…事…か…?」

「あぁ…」

「それって…彼女の魂がこの世に…留まってる理由ってこと…? つまり、彼女の願い…?」

「多分な…」

「けど…山だぜ…?」

「そ…うよね…誰かに会いたいとかいうなら…両親だろうし……こんな山の中に彼女の願いがあるとは──」

「だったら、コイツに聞いてみろよ?」

 イオータはそう言って、後ろにいるあたしに親指を向けた。

「エ…エステルにか…?」

「ばぁ~か、中身のルフェラに決まってんだろ?」

「あ…あぁ、そうか……って、なんでルフェラが──」

「あ…なた…何か知ってるの…?」

「……………」

 軽く腕をつかまれグイッと引っ張られれば、あたしだけでなくみんなの足も止まった。すぐには答えれないでいると、イオータが付け足す。

「まぁ…ハッキリとは分かんなくても、なんとなく…っつーのはあるんじゃねーのか? あいつ自身になって同じ経験したんならな。──そうだろ?」

 会話に参加しないことや、あたしがルフェラであると説明したことから、その理由を知っていると推測したのだろう。でもきっと、イオータにとってそれは 〝推測〟 ではなく、〝確信〟 なのだろうと思った。だから、あたしはその理由を口にした。

「………復讐…しにきたのよ…」

「復──!?」

 恐ろしい言葉にミュエリは手で口を押さえた。

「…ふ、復讐…って誰にだよ…? まさか…自分を助けてくれなかったジェイスにってゆーんじゃ…」

「おいおい、よく考えろよ。復讐する相手つったら──」

「──犯人よ」

 あたしは時間短縮とばかりに即答した。

「犯人が分るのはテトラだけ…。彼女の脳裏には、忘れたくても忘れられないくらい、犯人の顔が焼きついてるのよ…」

「…じゃ…あ…もしかして…そいつがこの山ン中に…!?」

 あたしは 〝そうよ〟 と無言で頷いた。

「でも…どうして今もその犯人がこの山にいるって分かるのよ? だって半年も前のことでしょ?」

「そ…そうだよな…。もし、山からそいつがやってきて、また山の中に消えてったとしても、まだここにいるとは──」

「それが、いるのよ」

 当然の疑問に、あたしは当然のように答えた。

「どう…いうことだよ…?」

「森を…この山全部を自分達のテリトリーにしているからよ」

「それって…この山ン中に住んでるってことか…?」

「えぇ、そう。そして数日前、あたしはその犯人とこの森で会ったのよ…」

「なんだって…!?」

 その告白にはさすがのイオータも驚いていた。

 〝数日前〟 というのが、いつのことなのか…向かおうとしている場所と 〝ヤバイ人を見かけたから…〟 と急いで山を下りた日のことを思い出せば、容易にその日が推測できる。故に その質問はなかった。ただ、言葉の違いにひとつのウソがバレてしまった。

「単に 〝見かけた〟 だけじゃなかったんだな…?」

 あたしはバレた気まずさに無言で頷くと、何があったのかを簡単に説明した。

「…朝、顔を洗いに行ったら急に濃い霧が出てきて…気が付いたら三人の男に囲まれてた…。その時、男が言ったの…。〝巣にかかった獲物はご主人様に食われちまうものだ〟 って…」

「やだ…なにそれ…」

「…お…い…ご主人様に食われちまう…ってまさか──」

「あぁ、そのまさかだろうな。けど、巣にかかったって言う意味が──」

「──クモよ」

「クモ…?」

「白糸の巣を張って、そこにかかった獲物は自分達の好きなようにする。男なら生きて帰さず、女ならテトラみたいに扱う……それが 〝クモ賊〟 のやり方なの」

「クモ賊…!?」

「山をテリトリーにしてるって言ったけど、実際はその境目なんてないも同然。自分達が 〝ここがオレらのモノだ〟 って言ったら、そうなるだけのことなのよ。もしかしたら、被害者はテトラだけじゃないかもしれない…」

「マジかよ…?」

「そ…んな…」

 想像以上の説明に二人はそのまま言葉を失った。そんな中、冷静に物事を考えていたのはイオータだった。

「ラディ」

「あ…あぁ…?」

「お前は…ミュエリを連れて戻ってろ」

「は…ぁ…!? なんで──」

「 〝賊〟 が三人だけだと思うか?」

「────!!」

「それだけここが危険だってことだ」

「だ、だったらミュエリとルフェラを戻した方が──」

「いや、ルフェラはオレが連れて行く。魂を元に戻すのが先だからな。それに…賊の仲間まで現れてみろ。いくらオレでもお前ら全員を守るなんて無理だ。戦いの最中に守らなきゃなんねーものは少ない方がいい」

「── ! そういう…ことかよ…」

「あぁ」

 暗に、自分達がいたら足手まといなんだ…と言われ、一瞬カチンときたラディ。けれど、今の状況とそれを覆すだけの力を持っていないことを考えれば、ここで意地を張るのは賢明でないこともすぐに理解できたのだろう。更に言えば、イオータも悪気があって言ったのではなく、それが事実である以上どうすればいいのかを指示したまでの事。故に、ラディは悔しい気持ちを抑えるようにギュッと拳に力を入れると、〝分かった〟 と小さく頷いたのだった。

「その代わり…ぜってぇ、ルフェラを守れよな!」

「あぁ、任しとけ」

 ──と言い切るや否や、不意にイオータの顔に緊張が走った。その変化にラディも気付く。

「なんだ、どうかしたのか…?」

「あ…? あぁ…」

「なんだよ…?」

「いや……やっぱ、お前ら戻んなくていいかなーって思ってな」

「はぁ!?」

「──ってか、戻らせてくれねぇみたいだからよ」

「──!?」

 そう言って自分の剣に手をかけるのと、あたしたちを取り囲むように男たちが姿を現したのは殆ど同時だった。松明の一本も持っていないという事は、それだけ夜目が利くという事だろうか…。

 反射的に、あたし達は背中合わせに身を寄せた。

「──ったく、今日は特に無断侵入者の多い日だぜ」

 剣を担ぐように肩に乗せ、面倒臭そうに一人の男が前に出てきた。

 その男と周りの仲間の距離を確認しながら、小声で話しかけてきたのはラディ。

「お…い…ひょっとしてコイツらって…?」

「あぁ。噂をすればなんとやら、だな」

「じゃ…ぁ…この人たちがテトラを…!?」

 〝どうなんだ?〟 と三人の質問が無言の状態であたしに向けられた。

 ジリジリと近寄ってくる男たちの姿が、距離を保とうと差し出す松明の明かりによりハッキリと浮かび上がる。

 ガッシリとした体格に、これ見よがしに付けられた野性的な飾り物。腕には 〝賊〟 を象徴する刺青がされており、どの男も同じような不精ヒゲを生やしていた。クモ賊に間違いはなかったが、ミュエリの質問に対する答えは 〝イエス〟 ではなかった。

「──その仲間よ」

「確かか?」

 腕の刺青には、どれも黄色い目のクモが描かれていた。ただひとつ違うのは目尻にその 〝象徴〟 とするものが彫られてなかったことだ。

「…テトラを襲った犯人の目尻には、腕と同じ刺青が入ってた…。あたしと会った男たちもそう。三者三様、赤と黄色と青の目をしたクモの刺青がね」

「なるほど。──ってことは、そいつらが各集団のリーダーってわけか?」

 腕にのみ刺青がある男たちを目にして、導き出されたひとつの答えがイオータの口から発せられ、あたしは視線を男たちに向けたまま 〝多分ね〟 と頷いた。その答えを聞いていたラディが、肝心な質問を投げかけてきた。

「──で、どうすんだよ? このままじゃ、あとにも先にも行けねぇんじゃねーのか?」

「あぁ、全くだな…」

「全くって…」

「おい、おい!」

 これから…という大事な話の途中に、男の声が飛んできた。

「何をごちゃごちゃ話してんだか知らねーが、無断侵入の罪は重いんだぜ?」

「そうそう。しかも、ここ最近のオレたちは特に気が立ってるからなぁ」

「──罰則に手加減はしねぇ、ってか?」

 鼻でも鳴らしそうに続けたのはイオータだった。

「はっ、よく分かってんじゃねーか」

「あぁ、よぉっく分かってるぜ。男と女の罰則が違う事も、気が立っていようがいまいが、もともと罰則に手加減がねぇってこともな」

「へ…ぇ。オレらが何者か知ってるってことか?」

「目撃者を消す事で存在すら知られねぇとでも思ったようだが、残念だったな」

「別にぃ。お前らを消せば済む事さ」

「だが生憎、オレらは獲物になるつもりも罰則を受けるつもりもねぇんでな」

「はは、この人数相手に勝つ気でいるのか、てめぇは?」

 その言葉に、二十人ほどの男たちが 〝バカじゃねーのか〟 と笑った。けれどイオータは冷静だった。男たちが笑う中、再び彼はあたし達に小声で話し始めた。

「ラディ、お前はオレの剣を使え。こいつらの相手はオレがする。お前はミュエリだけを守ってろ、いいな?」

「あ、あぁ…。けど、ルフェラはどうすんだよ?」

「しょうがねぇ…ルフェラはルーフィンと先に行かせる」

「え…!?」

「な…に言ってんだよ…? こいつらの仲間は他にもいるんだぞ!? 一人で行かせたら──」

「だからとっとと片付けんだよ。戦いに集中できればこんなヤツラ相手に時間はかからねぇ。すぐに追いついてやれるさ」

「けど──」

「大丈夫だ、心配すんなって。それに、いざとなったらアイツが守ってくれるだろーからな」

「アイツ!? ──って誰だよ!?」

「ひとつの望みだ」

「はぁ!?」

「いいから、ほら。──まずは、この円陣を抜けるぜ」

 イオータがそう言って長い剣を抜きラディに手渡すと、男たちが一斉に自分の剣に手をかけた。

「…へぇ。本気でオレらとやる気なんだな?」

「やる気なんてもんじゃねぇ。─やるんだよ」

 そう言うと、あたしとミュエリを庇いつつ、松明の炎で敬遠しながら円陣を突破した。

 囲まれていた状況から向き合う形になり、イオータが後ろにいるあたしを見もせずに、もう一本の剣を 〝持っていけ〟 と差し出した。

「で…も…それじゃ あんたが──」

「心配すんな。目の前にはこれから不要になる剣がいくらでもある」

 それはつまり、相手を倒し剣を奪い取るという意味だった。確かに、イオータにとってそれは容易なことなのだろう。二十人の男相手に素手で戦うのは無理でも、一人の男から剣を奪うのは容易いことだと、剣術を教えてもらった時の動きを思い出せば分かる事だった。

 ただあたしは、剣そのものを手にしたくなかっただけなのだ。本来なら自分の短剣さえ持つのも怖いのだが、それを敢えて持っているのは自分への戒めの為。犯した罪を忘れず二度と同じことを繰りかえさぬよう…そう自分に言い聞かせる為だ。

 今の状況が危険で、万が一の為に…と渡されたとしても、その万が一の時にコントロールできない 〝あたし〟 が現れたりしたら…そう思うと、素直に受け取る事ができなかったのだ。

 そんなあたしの気持ちを知ってか知らずか、イオータは別の理由を付け足した。

「──それに、あんたがこれを持って行かねーと居場所が分かんねーんだよ」

 それがどういう意味かは分からなかったが、居場所が分からなくなると言われれば持っていかないわけにもいかず、更には 〝早く行け〟 とばかりに剣を押し当てられたため、あたしは無言で受け取りルーフィンと共に先へと急いだのだった。



 剣を腰に差したあたしは、松明を片手に走り続けた。

 足元が暗い上に、岩が突出した斜面やぬかるんだ地に何度か転びそうになる。いや…実際、松明で片手が塞がっているせいでバランスが取れず、地面に手をついていた。

 急がなきゃ…と焦れば焦るほど疲れも重なってかうまく進めなくなる。しまいには、何だか目の前がチカチカとしてきたから、さすがにダメだ…と思った。

「…ルー…フィン……はぁ…はぁ……ごめ…ちょっと…待って……はぁ……」

 地面に手を付き肩で息をしていると、数メートル先を走っていたルーフィンが戻ってきた。

『…大…丈夫ですか…?』

 体は違うのに、変わらずルーフィンの声がスッと入り込んできて、思わずあたしの目に涙が浮かんだ。

 周りに誰もいないというのは分かっていたが、声を出して喋るには呼吸が乱れすぎていた。

『ごめん…ルーフィン……休んでる暇なんてないって分かってるんだけど──』

『ル…フェラ…!』

『え…?』

『あ…いえ…すみません…。心の中で話すあなたの声がいつものと同じなので……』

『あ…ぁ…そっか…。心の声はエステルの声じゃないんだ…』

『はい。──こんな時に言うのもなんですが…あなたの声が聞けてホッとしました。イオータの結論を信じなかったわけではありませんが、あなたである証拠を知り得た気がして…』

『あたしも…ルーフィンの声が聞けてなんか すごく安心した…。きっと、姿かたちが変わっても、ルーフィンだけは気付いてくれるわね…』

『姿かたちが変わっても……』

 そう繰り返したルーフィンはどこか寂しそうな目をした。

『ルーフィン…?』

『あ…え、ええ…もちろんですよ。ありとあらゆる人に声をかけて、あなたを見つけてみせます』

 人間じゃないのに……ううん、そうじゃない。人間じゃないからこそなのだろう。自信を持ってそう言ったルーフィンの言葉が、あたしにはとても力強く感じた。

『…ありがとう、ルーフィン』

『いいえ。──さぁ、どうです? 歩けますか?』

 走るのが無理なら歩くだけでもいい。とにかく先に進まなければ…と、少し呼吸が落ち着いたのを見計らって、そう続けた。

 あたしが答える代わりに立ち上がると、ルーフィンはすぐに元の場所まで進み、あたしが近付いてくるのを待った。

 ところが──


「────!?」


 ボンヤリ見えていたルーフィンの近くに、いくつもの黒い影が浮かんだのに気付いた。

 な…に…?

 そう思ったのは ほんの一瞬。それがすぐにクモ賊の仲間だと分かった。

「ルーフィン!」

 途端に背筋がゾッとして、思わずこっちに戻ってくるよう呼び戻したものの、それからどうしていいか分からない。後ずさりすれば、その分 相手も近付いてくるし、囲まれるのも時間の問題だった。

 赤…? それとも青…?

 半ばどうでもいい疑問を考えながら、気付けばイオータに渡された剣の柄を握っていた。その姿が見えていたのだろう。

「一人でやる気か?」

 一人の男が可笑しそうに笑った。

 その言葉にハッとする。もちろん一人でやれるはずもなく…万が一、イオータのような腕があったとしても、今のあたしに剣を抜く勇気などあるはずもない…。だから、震えながらもその手を離してしまった。

「ま、それが賢明だよなぁ?」

 語尾を上げたのは、周りの男たちに対するものだった。すぐに 〝へへへ…〟 といやらしそうな笑い声が漏れる。

 〝近寄ってこないで〟 と更に松明を突き出せば、ニヤけた男の顔が浮かび上がり、その不気味さに、手の平はもちろん体中から嫌な汗が滲み出てきた。

『ルフェラ…』

 張り詰めた、それでいて冷静な声が聞こえた。

『……ルー…フィン…どうしよう…どうしたらいい…?』

『──先に行ってください』

『…え?』

『私が彼らに飛び掛りますから、その一瞬の隙を見てここを抜けるのです』

『あ…な、なに言ってんの…そんなの無理よ…。相手は一人じゃないのよ!?』

『分かっています。でも囲まれてしまえば、それこそ終わりです。とにかく今はこの状況から脱しないと』

『そうだけど…』

『進む方向はこのまま真っ直ぐです。走り出したら後ろを振り返ってはいけません、いいですね?』

『でも──』

『大丈夫ですよ。私を信じてください』

 な…にが大丈夫なのよ、ルーフィン…?

 あたしが無事にここを抜け切れるってこと…?

 それともルーフィンが無事でいられるってこと…?

 あたしはその両方じゃなきゃ嫌なのよ…!?

 たった一匹の狼が、自分より大きい相手に──しかも多人数の人間相手に──何ができるっていうのよ、ねぇ!?

 そこまで言いたかったのに、最初の言葉さえルーフィンには届かなかった。〝信じてください〟 と言うや否やスッと足元を離れ、あたしの前に立ちはだかったからだ。

挿絵(By みてみん)

 どう…すればいいのよ…このままルーフィンを置いていけるわけないじゃない…。

 ねぇ、ルーフィン……!

 恐怖と不安…それに何もできない自分の不甲斐なさに涙を浮かべながら、凛と立ち向かうルーフィンのうしろ姿を見ていることしかできなかった。

 そんな時だった──

 一瞬、目の前に違う光景が浮かんだ。

 な、なに…今の…?

 ボンヤリとだけど…両手を広げた誰かのうしろ姿に見えた気がしたのだ…。

 ま…ぼろ…し…? それともエステルの記憶…?

 気のせいかとも思い何度か瞬きをしていると、不意にこちらを振り返ったルーフィンと目が合いハッとした。

 その目が、ある言葉を伝えていた。


 〝行きますよ〟


 それが死を覚悟した目だったら、あたしの足は動かなかったかもしれない。でも見合った目は本当に大丈夫だという、自信に満ちたものだった。故に、何か不思議な落ち着きを取り戻し、あたしは目だけで 〝分かった〟 と答えた。

 そして、ルーフィンが顔を元に戻した直後──

 戦闘体勢から飛び掛ったルーフィンの攻撃に、一瞬、男たちの動きがあたしから逸れた。その隙を見逃さず走り出す…!

 もちろん、すぐに気付きあたしに掴みかかってこようとしたが、あたしは持っていた松明を無造作に振り回し、その手を逃れた。

 男たちの壁を抜けたら、ルーフィンに言われた通り後ろは振り向かなかった。──ううん、振り向けなかった。一瞬でも気を抜いたら足場の悪さに転んでしまうから──

 足元に集中し、無我夢中で走り続ける…!

 …はぁ…はぁ…はぁ………っく…はぁ…はぁ…

 早くなる鼓動と荒くなる呼吸が、徐々に苦しさを増していく。だけど止まってはいられなかった。止まったら終わりだもの…!

 それぐらい気を張って走り続けた。なのに…!

 庭というだけあって、慣れた場所ではあっちのほうが有利だった。灯りがいらないくらい夜目が利けば、体力だってあたしとは比べ物にならない。そんなヤツ相手に敵うわけがなかったのだ…!

 追いかけてきた男の手が、あたしの肩を掴みそのまま後ろへと引き戻した。

「────ッ!!」

 その強さと勢いに、飛ばされたように地面に転べば、痛いっ…と漏らす間もなく、大きな体があたしの上に覆いかぶさった…!

 強い力で両手を押さえ付けられ、瞬時に思い出されたのは、テトラ自身になった時の事…!

「…ぁあっ……はぁ…はぁ…!」

「──ったく、手間かけさせやがって…」

「…はぁ…はぁ…は、放して…よ…!」

「せっかく捕まえた獲物を逃げると分かって放すヤツがいるか?」

「………くっ……!!」

「それにな、逃げれば逃げるほど狩人の血は騒ぐんだぜぇ?」

 転げ落ちた松明の火が、すぐ近くで燃えている。その炎に薄っすらと浮かぶのは、この暗さでも分かるほど血走った目だった。

 もう、人間でもなければ男でもない。ただのケダモノの目だ…!

 ゾクリ…と背筋が凍り、恐怖が倍増した。

 荒々しい息をしながら男の顔が首筋に埋もれる…!

「……や…ぁ──」

「…うがっ──!?」

 抑え付けられていた手に思いきり力を込めた瞬間、そんな男の声と共に体の重みが消えた。

 反射的に男の姿を追う…!

 そこには、牙を剥き出して腕に噛み付いているルーフィンがいた…! 男の腕からは血が流れ、それでも腕の肉を噛み切るくらいの勢いで口を左右に振る…!

「くっそ…!」

「ルーフィン…!!」

 思わず叫べば、キレた男がルーフィンを叩き飛ばしたところだった…!

「ルーフィン!!」

 飛ばされてどこかに思いきり体をぶつけたのか、痛みの悲鳴が響いたまま、何も聞こえなくなってしまった。

 ルーフィン──!!

 姿は見えないものの飛ばされた方角は分かり、咄嗟に駆け出したが、すぐに周りの男たちに取り押さえられてしまった。

「…い…や…放して………いっ……!」

 必死にもがいたが、もがけばもがくほど男たちの手には力が加わり、更には大人しくしてろ、と後ろで腕を捻り上げられてしまった。

 腕から血を流した男は左手でその血をすくい取り、まるでその味を確かめるようにペロリと舐めた。次いで、あたしを見据えたままゆっくりと近付いてきた。

 再び、あたしの体が恐怖で凍りついた。けれど、黙ってはいられなかった。

「…ルー…フィンが死んだら…許さないから…!」

「はっ! どの状況でそんな事が言える? お前 一人だろうが?」

「…一人じゃないわよ…まだ他に仲間がいるんだから…!」

「はは…どこにだ? どこにもいないじゃねーか。それになぁ、譲ちゃん。あんたの仲間が一人や二人いたところで、この人数に勝てるわけねーんだよ」

「か…勝てるわよ…」

「なに…?」

「二十人や三十人が束になってかかったって、足元にも及ばないくらい剣術に長けた仲間がすぐここに来るわよ…!」

 そうよ…!

 すぐここに来るんだから…!

 あいつらを片付けてすぐに追いつくって言ったんだから…!!

 そうでしょ、イオータ!?

 なのに…なのになんでよ…!?

 なんでまだ来ないのよ…!?

 心の中ではそう叫んでいたが、あたしはそれを悟られないよう強気で叫んだ。イオータがすぐ近くにいたら、この場所が分かるように…と。

「さっき…あんた達の仲間に会ったわよ。だけどあたしは生きてる。それがどういう意味か分かるでしょ!? 彼はものの数秒で五人を倒したわ。しかもあたしを守りながらね!」

「へ…ぇ、だったらなんで、今そいつが一緒にいないんだ? そこでやられちまったからじゃねーのか?」

「守りながらは大変だから、あたしが先にそこを離れたのよ! それに、彼がやられてたら、今頃、あんたの仲間があたしを追いかけてきてるはずよ!」

 理屈になっているような、なっていないような説明だが、あたしはウソを並べた。とにかく、イオータが来るまで何とか時間を稼がなきゃ…と思ったからだ。

「あんた達も覚悟する事ね! 彼があたしを助けたら……この手が自由になったら、あたしがあんたの体をズタズタに引き裂いてやるから…!」

 剣を抜く勇気もないのに、殺してやるという同じ意味の言葉を吐き出した途端、相手が誰であれ、人を殺める気持ちになっていた自分にハッとした。と同時に、パンッという乾いた音と共に右頬に衝撃が走った。

「────ッ!!」

「だったら、そいつに見つからなければいいだけだ、そうだろ?」

 頬の痛みは 〝黙ってろ!〟 という警告だった。

「それとも、オレの舌でも突っ込んで黙らせてやろうか?」

「………っく……」

 思わずギュッと口を閉じれば、男がニヤッと笑った。

「そうそう、そうやって大人しく口を閉じてな」

 そう言ってあたしの顎を荒々しくグイッと持ち上げる。少しでも抵抗しようと顔を背ければ、ジンジンとする頬を生暖かい舌が這った。

 …………ッ!!

 睨んでやろうと思っても、恐怖と気持ち悪さで目も開けていられない…。体は震え、閉じた目からは堪えきれず悔し涙が溢れてきた…。

 男の舌と無精ヒゲのザラザラした頬が、ゴワついた手と共に首筋を荒く這い回る。

「…ぅ……くっ………!」

 も…う…何やってるのよ……イオータのバカ……ウソつき……テトラみたいに殺されたら…一生呪ってやるから……!!

 目の前の男にされている仕打ちに負けないよう、精一杯の悪態を心の中でついた。だけど、本当は願ってる…。

 お願いだから…早く…助けに来て……!!

 懸命に飲み込んでいた言葉が、もうあと少し遅かったら喉元を通過していただろうというその時──

 〝ジッとしてて…〟

 そんな声が微かに聞こえた。──と思ったら、突然、体の感覚が消えた。そして、なに…? と思う間もなく、あたしの意思ではない言葉が口から発せられた。

「起こしてくれてありがとう」

 とても冷静な口調だった。その口調の違いに男も驚き顔を上げた。

 その瞬間──

 声もなく男の顔が苦痛に歪み、次いで視界がグルっと反転した。そしてそこに映ったのはあたしを取り押さえていた別の男の顔。その男の口から 〝ウグッ…〟 という声が聞こえると、同じように顔を歪ませたのだった。

 な…に…いったいどうしたっていうの…?

 体の感覚がなくなっているのに、視界に映るのは呻き声を上げて次々と倒れていく男たちの姿…。男が剣を振り回せば、見覚えのある剣がそれに太刀打ちする。そして、次の瞬間には男の体が裂かれ血が吹き出していた。

 な…んなの…?

 あの剣は…イオータに渡された剣……。ま…さか…もう一人の 〝あたし〟 が現れて戦ってるっていうの…!?

 あ…ぁ…でも…違う……何か違う……何かが……!

 いったい何が──!?

 そう心の中で強く問いかけた時だった。ふとイオータの言葉が頭の中で蘇ってきた。


 〝お前に触れていたテトラの御霊が、お前の魂を追い出したんだ〟

 〝今はお前がそいつの中に入り込んだショックで、気を失ってるんだろうがな…〟

 〝いざとなったらあいつが守ってくれるだろーからな〟

 〝ひとつの望みだ〟


 ──ハッとした。

 も…しかして…エステル…?

 そう自分に問いかけて、即座にそうなんだと思った。

 エステルは剣術に長けたジェイスの妹。あたしに刃を向けたあの日、エステルは二階の窓から飛び出していった。その身軽さから、エステルもまた剣術に長けていると、イオータは確信したんだ…。

 そして、彼女はあたしの魂が体に入ったショックで気を失った。その彼女が目を覚ませば、いざとなった時に太刀打ちできる…それが 〝ひとつの希望〟 だったんだ…と。

 エステルの記憶をエステルの目線で見ていた時と同じ…。体の感覚はないものの、その動きは驚くほど素早く、男たちの剣裁きをはるかに上回っていた。相手の攻撃をかわしながら、周りの状況を見極め、更にまた攻撃を出すなど…彼女の視界と思考がジッとしているあたしの中にまで入り込んでくるようだった。

 す…ごい……。

 圧倒されているのは男だけじゃない…あたしもだ……。

 ジッとしててと言われなくても、きっと動けない…。それくらい呆然と見ていた。

 それからしばらくして、周りが静かになり視線が定まると、エステルはゆっくりとある方向に歩き始めた。その方向を、あたしは瞬時に理解した。

 ルーフィン…!

 自分の体でないため、ゆっくりと歩いていることに気持ちだけが急く。

 そして木の根の草を掻き分けたとき、彼女とあたしの視界にはグッタリと横たわるルーフィンの姿があった。

 ル…ーフィン……ルーフィン……!

 エステルの手がルーフィンの体に触れると、何かを確かめるように数秒そのままだった。

 ね…ぇ…大丈夫なの…? ルーフィンは生きてる…? ねぇ、教えて……!

 自分の手で触れる事ができない以上、そう尋ねるしかなかった。すると、あたしの声が届いたのか否か、エステルは独り言のように呟いた。

「肋骨が…折れてる…」

 ……え!?

「でも大丈夫。命に別状はないわ…」

 ほん…とうに…?

 安心する言葉にホッと息を漏らし尋ねたが、それ以上の返事は返ってこなかった。聞こえていなかったからか、それとも本当に大丈夫だからなのか、それは分からない。ただ、エステルは倒れている男の服から適当な布を引き裂くと、ルーフィンの胸部を固定してくれた。そしてそっと抱き上げ男の近くに移動させると、炎が小さくなった松明を拾って目印のように地面に突き刺したのだ。それによってルーフィンの苦しそうな息づかいがよりハッキリと浮かび上がる。

 ルーフィン……ルーフィン、ごめんね……。あたしのせいよね…あたしが何もできなかったから──

 この手が自分の意思で動くなら、抱きしめて謝りたかった。手当てだってあたしがしたかった…。だけど今は無理…。エステルの意識が前面に出ている以上、あたしはただただ彼女のすることを見ていることしかできないのだ…。

 ごめんね、ルーフィン…。

 あたしは、もう一度 彼女の中で謝った。すると、それが合図にでもなったのか、エステルはイオータから渡された剣をルーフィンの傍に置くと、遺体が掴んでいた長い剣を奪い、ルーフィンが言った方向に向かって走り出したのだった──

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