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女神伝説  作者: Sugary
第五章
64/127

BS2 イオータの動揺

 夜の静寂に響く二人のイビキ──


「 〝覚悟しとけ〟 っつっただけはあんなぁー、あんた~。オレぁ、もっ、食えねーぞぉ~」

「はっはっはぁー。そんだけ食やぁ、十分だ。気に入ったぜ、あんたー」


 ──そんな会話を最後に、ラディと宿主のダルクが酔い潰れてから数時間が経っていた。彼らにつられるように、ルフェラやミュエリ、ネオスが眠り、ただ一人 残ったのはイオータのみ。一人、手酌の酒を飲みながら何かを考えていたようだが、イビキのうるささに思考が邪魔されて考えがまとまらない。──いや、所詮 考えても、悩んでいる彼にとっては、答えの出ない問題なのだろうが……。

 イオータは、壁にもたれ天井を見上げた。

(…あたま…冷やしてくっか…)

 溜め息を付き、最後に注いだ酒をグイッと飲むと、イオータはだるそうに部屋を出て行った。


 火照った体には秋の風がちょうどいい。

 体をすり抜けた風が、熱だけでなく頭の中にたまったモヤモヤまでさらっていく。おそらくそれは、ほんの一時なのだろうが、今のイオータには心底ホッとできた瞬間だった。

 星を見上げながら、フラつく足で向かったのは、宿の裏手にある川の土手。その斜面に腰を下ろすと、そのまま大の字に寝転んで目を閉じた。

 ひんやりした風は草に埋もれた彼の体を撫で、下からは相反する感覚が伝わってくる。地面の冷たさと、温かく包み込むような感覚だ。

(…母なる大地よ…オレをこのまま眠らせてくれ…)

 何も考えずに済んでいる今、自然に守られながら眠りたい…。

 その気持ちは、数ヶ月前、どうしようもなくなって願った時と同じものだった。

 イオータが歩を進めるたび止まった虫の音が、再び周りで聞こえ始める。けれどすぐに、ある方向の虫の音が消えた。


「──誰だ?」


 低い声でそう言いながらも目は閉じたまま。──だが、確実に気配を読み取っていた。

 覚えのある相手だと分かれば、ほぼ同時にその声が聞こえてくる。

「酔ったまま そこで寝たら、間違いなく風邪引くと思うけど?」

「あいにくだが、大地に守られてるんでな、オレは」

 そう言って目を開ければ、ネオスがすぐ隣に腰を下ろすところで、両手を広げていたイオータは、仕方なさそうに起き上がった。

「──お前、さっきまで寝てたんじゃねーのか?」

「…あぁ。だけど、朝から 〝同士〟 の様子が気になってね…」

 ネオスは 〝イオータの〟 とは言わず、敢えて 〝同士の〟 という言葉を使った。その言葉に、イオータも反応する。

「…寝たフリしてたのか…」

「まぁ、そんなところかな。──それで、様子のおかしい理由は?」

「……ん~? あぁ~………」

 〝同士〟 という言葉に、〝ごまかしはナシだ〟 と、暗に言われたものの、イオータはすぐに答えようとはしなかった。

「…実は…ルフェラも気にしてるんだ…」

 同士として気になるのはもちろんのこと、ルフェラの心配事を少しでも軽減、あるいはなくしてあげたという、共人としての気持ちもあったのだ。

「…はは…ルフェラにも気付かれてるとは…オレ様も まだまだだな…」

 同じ 〝オレ様〟 でも、昨日とは打って変わって、とても弱々しいものだった。何があっても平静さを失わない、自信に満ちていた普段のイオータとは正反対だ。その彼をここまで変わらせてしまう 〝理由〟 とは何なのか。

 同士として、そしてルフェラの共人として何かできる事があれば…そう思い聞いたのだが、少々 無神経すぎたのか…と反省した。そして、ネオスが謝ろうと口を開きかけた時だった。

「無用だと──」

「え…?」

 イオータのほうが一瞬だけ早かった。しかしそのタイミングは、偶然というより、敢えて言わせないようにしたのかもしれない。

「…自分の主君に 〝無用だ〟 と言われたら…お前、どうする?」

 その言葉に、ネオスはひどく驚いた。

「イ…オータ…?」

「まぁ、ルフェラが言う事はないだろうがな…」

「……まさか…言われたのか、君は…?」

「あぁ…。優しいヤツだったから、ハッキリとは言わなかったが…。まぁ、そんなところだ」

「ど…うして…?」

「…その質問は、どっちに対してだ?」

「え…?」

「 〝どうしてそんな事を言われたのか〟 なのか、それとも 〝無用だと言われた共人が、なぜ今も尚、生きていられるのか〟 ──」

「それは──」

 共人として無用だということは、つまり、この世に存在する理由も価値もないということ。その理由も価値もなければ、〝死〟 を意味し、今こうして生きている事はあり得ないのだ。

 〝どうしてそんな事を言われたのか…〟 を問う 〝どうして?〟 だったが、今は、そのどちらも聞いてみたいと思った。

「…両方…」

 素直に答えたネオスに、イオータはフンと笑った。そして大きく息を吸い込むと、その頃のことを思い出すようにゆっくりと話し始めた。

「オレの主君は(いくさ)の神なんだ。──にもかかわらず、優しいヤツでな、その性格が力にも影響したのか、持って生まれた力で長けていたのは攻撃より防御のほうだった。もともと戦う事が嫌いだったあいつは、その防御の力さえ目覚めさせないようにしてたんだけどよ、これから先、自分の身を守る為にも、戦術を習えっていうオレの言葉に、渋々承知したんだ。戦術を習うのはかなり遅かったが、戦神だけあってスジがよくてよ…教え始めたらみるみるうちに上達していきやがった。ただ、上達すればするほど、もうひとつの力も目覚めてきて…」

「もう…ひとつ?」

「攻撃の力さ。まぁ、当然といえば当然だな。〝戦神〟 なんだからよ。もしや…と思ったら、案の定、あいつはその力の目覚めを拒否した。けど、神である以上、そのままってわけにもいかねぇだろ? 力の目覚めを拒否するってことは、神としての存在を拒否するってことだ。守られるべき村はなくなり、〝戦の神〟 という神そのものの存在が、あいつの死と共に消滅してしまうんだぜ。それだけは絶対に避けなきゃなんねぇ、分かるだろ?」

 イオータの問いかけに、ネオスは 〝あぁ〟 と頷いた。

「──だからオレは説得した。力が目覚めても大事なのはその使い方だ、とな」

「それで納得を?」

「あぁ。まぁ…別に、あるべき姿になること自体を拒んでるわけじゃなかったし、その必要性も、ちゃんと理解してたからよ。葛藤はあっただろうが、進むべき道を歩き始めたってとこだな」

「じゃぁ、力の目覚めは…」

「もちろん、したさ。しかも、時間はそうかからなかった。ただ、あいつは、〝人を傷付けるこの力は使わない〟 そう言った。でもな、オレはそれでもいいと思ったんだ。神に必要な力は目覚めたわけだしよ、防御の力さえあれば、あいつ自身が誰かに傷付けられることはない。それに、オレがあいつの共人である限り、攻撃はオレが担当すればいいだけのことだと思ったしな。けど…」

 イオータはそう言うと、一呼吸 置いた。

「…けど、ああいう力は人を引き寄せるきらいがあるもんだ。特に、自分の腕に自信があるヤツや、そういう世界を牛耳ろうと企むヤツらがな。旅の途中に何か気になる事があるとよ、オレらみたいな性分は、首突っ込んじまいたくなるだろ? 今のルフェラと同じように、気になって放って置けなくなる。そこで生じる厄介ごとを片付けていくうちに、〝えれぇ、強ぇ二人組みがいる〟 っていう噂が広まって…結果、オレらの命を狙う輩が現れるようになったんだ。そうすっと、必然的に戦わなきゃなんなくてよ…最初はオレとあいつで攻撃と防御を使い分けてたんだがな、敵の数が増えれば、限界だってやってくる。あいつが防御しきれねぇ一瞬を突いて、攻撃しようとしたヤツがいたから、咄嗟にそいつの腹ぁ掻っ捌いてやったさ。けど、次の瞬間、オレが相手してたヤツにここを斬られてちまってよ…」

 ──と、自分の腕を軽く叩いた。

「…そ、それで…?」

「やべぇな…って思ったら、突然周りが二つの色に包まれたんだ」

「二つの色…?」

「あぁ。本質である 〝天の煌〟 と 攻撃の 〝暁の煌〟 だ」

「…ということは……銀色と赤色…」

 神格五弦煌の話を思い出しながらそう呟くと、イオータも 〝その通りだ〟 と頷いた。

「その後は、ほんの一瞬だったぜ。周りにいたヤツは、首や腹から血を流して吹き飛んじまってよ…。さすがのオレも、その時感じた力に、すぐには動けなかった。それからのあいつは変わった…。防御だけじゃなく、あんなに嫌がってた攻撃をも使うようになったんだ」

 そう言うと、イオータはふと何かを思い出した。

「そういや…あの頃からか…?」

「何が…?」

 独り言のように呟いたイオータにネオスが質問した。

「あ…ぁ、いやな…子供好きだったあいつが、いつからか避けるようになったんだ。気付いた時には、いつからか思い出せなかったけどよ…今考えてみたら、その頃だったかもしれねぇ…と思ってよ」

「子供…か…」

「なぁ、ルフェラも子供苦手だったろ?」

「あ、あぁ…」

「前によ、〝なんでだ?〟 って直接聞いたら、あいつ知らねぇって言ってたぜ。何とかのばば様とお前が話してるのを聞いたらしいが、〝妹や弟みたいな存在がいないから接し方を知らないんだろう〟 って言ってたってよ。それに、〝別の理由があるにしても、そのうち分かるだろう〟 って言ってたらしいが…その辺の理由、お前は知ってんのか?」

 知ってるなら教えてくれ…と言わんばかりの質問に、ネオスは戸惑った。

 あの頃からネオスなりに色々考えて、子供が苦手な理由の見当は、おおよそついていた。けれど、今それを彼に話せば、まだ話してないルフェラの過去を話さなければならない。そうなれば、間違いなく彼の話は中断され、ルフェラの話にすりかわってしまう。ここまで聞いておいて、その続きを聞くのはいつになるか分からないとなれば、それこそ、この話を中断するような事は避けたかった。故に──

「いや…僕もまだよく分からないんだ…」

 ──と答える事にした。その返答に、イオータは 〝そうか…〟 と残念そうに溜め息を付いた。

 少々 胸が痛んだが、ネオスはその先を促した。

「それで…そのあとは…?」

「あ…? あぁ…そうだったな…。──まぁ、そんな日々が何ヶ月か続いてよ、オレらの戦術にも磨きがかかってきた…。そんな時にな、失敗しちまったんだ…」

「失敗…?」

「──戦いの最中に以前と同じような状況になってよ、そいつを蹴散らそうとそっちに気を向けた瞬間、それまで相手していた(ヤツ)に刺されちまったんだ…。やべぇ…って思ったぜ。それは、オレがやられたていう 〝やべぇ〟 じゃなく、あいつを狙った敵を蹴散らせなかった…ていう 〝やべぇ〟 のほうだ。前回は、負傷を負ったとしても敵の腹を掻っ捌いてやれたからよかったけどよ、その時は、それができぬままの負傷だ。正直、あいつもやられちまう…って思った。──けどな、その思いが間違いだったんだ。あいつは、隙ができた一瞬に狙ってきた敵の刃をちゃんと見抜いていた。オレだったら対処できない瞬間だが、あいつはその隙でさえ対処できるほどの素早さを持っていたんだ。分かるか? あいつの戦術は、既にオレを越えていたんだよ。それに気付かなかったのが、オレの失敗だった…」

「…で、でも……主はケガをせずに済んだんだろう? 君だって、今ここにいるってことは助かったってことだし…」

 どうしてそれが 〝失敗〟 なのか分からないと言うと、イオータは 〝そんなんじゃねぇんだ〟 とばかりに首を振り、先を続けた。

「あん時は敵の刃に毒が塗ってあってよ…かなり深く刺されたっていうのもあって、ヤバかったんだ…。三日三晩 熱にうなされて、意識も殆どなかった。その間、あいつは必死になって看病してくれてたみたいなんだけどな…。その殆どなかった意識の中でも、時折、フッと戻る事があってよ…その時、あいつが独り言のように呟いたのを聞いちまったんだ…」

「……なん…て…?」

 ネオスの心の臓が僅かに強い音を立てた。イオータも、やはりその言葉を口にするのが辛いのか、ひとつ深呼吸をした。そして──

「…… 〝…情けないよ………足手まといだ…〟 だってよ…」

「……………!!」

「次に目覚めたら、あいつはどこにもいなかった…。あの銀の布だけをオレに残してな……」

「………………」

 ネオスは、あまりのショックに言葉が出てこなかった。

 〝…情けないよ………足手まといだ……〟

 その言葉と共に姿を消したということは、つまり、〝役に立たないものはいらない〟 そういう意味だろう。

「…イオータ…僕は……」

 なんと言っていいか言葉に詰まっていると、イオータは 〝あぁ~〟 と手を振った。

「…気にすんなって。これはオレの問題なんだし、ハッキリ言って、お前たちが抱え込んでる問題の方が大きいしな。安心しろ──」

「…で、でも…もし何かわけがあったら…?」

 そう言った直後、なんて陳腐な 〝仮説の慰め方〟 なんだと後悔した。けれど、イオータはバカにするより、寂しそうな顔を見せた。

「わけ、か…。それは、〝希望〟 からくるもんじゃねーのか?」

「希…望…?」

「あぁ。オレも何度も考えた。考えたからこそ、動けなかったんだ」

「…………?」

「山で道に迷ったらどうする…っていう話をルフェラにした事がある。助けが来るまで待つか、それとも自力で山を降りるか…ってな。その時はまだ、オレは待っていた。もしかしたら、あいつが戻ってくるかも知れねぇ…って。最初はショックでぼーっと歩いてたけどよ、あの村に辿り着いた頃、待ってみようと思ったんだ。いつかは必ず会える。あいつがまだ、オレを求めているなら…とな。けど…半年経ってもあいつに会うことはなかった…。だから苦しくなってよ…いっそのこと、動いちまった方がラクなのかも知れねぇって思い始めたんだ。それなら、あいつに会えなくても 〝仕方がねぇ〟 って思えるだろ?」

「会えないのは、お互いが動き回っているから…と思えるから…?」

「そうだ。実際にはオレを探していなくても、そう思えることで、気持ちがラクになるからな…。それが、ルフェラと初めてメシを食った日の夜のことだ…。結局、あの村でおまえらと接しているうちに、別の希望を持つようになって動くことにしたんだけどな」

「別の…希望…?」

「あぁ。何か変わるかも知れねぇ…っていう予感みたいなもの、かな」

「…そう…だったんだ…」

 イオータは 〝あぁ〟 と頷いた。そして続ける。

「…少しは吹っ切れたと思ったんだがなぁ…今朝の事で、また考えちまった…」

 〝今朝〟 と聞き、それが本題だったと、ネオスは改めて思い出した。

「今朝は何があったんだ…?」

「…うん? あぁ…ちょっと気配をな…感じたんだ…」

「気配…?」

「あいつの気配だ。寝てた時だし、雷が光ったような、そんな一瞬だったからな、確実とは言えねぇけど…覚えのある気配だった。ただ…普通の気配じゃなかったんだよな…」

「──というと?」

「普通は、気配を感じてから消えるまでには時間があるもんなんだ。人が姿を現してから立ち去るまでの時間があるように。けど、今朝 感じた気配は、さっきも言ったように、雷が光ったような瞬間だけだった。しかも二回…もしくはもう少しあったかも知れねぇ…。普通、そんな感じ方はしないんだ…。だからもしかしたら…」

「もしかしたら…?」

 イオータは僅かに考え、そして聞きたくない可能性を口にした。

「共人の力が弱まってきたのか…」

「ま…さか…」

「分かんねーぜ? いいのか悪いのか共夢も見ねぇしな……。ただ、昼間考えてたのはな、もしあの森にあいつがいたなら、自分がどうしたいかってことだった。あいつを探したいと思う反面、会ったところで、やっぱり無用だと言われんじゃねーか…って思うと怖くてよ…。昼間、あいつの気配を探しながらも、心のどこかで見つからないように…って願う自分もいたんだ…」

 イオータはそう言うと、〝それこそ情けねぇよな…〟 と、力なく笑った…。

「…イオータ……」

「あぁ、それと…本当に無用だとしたら、なんで自分が生きてんのか…っつー質問だが、正直、オレも分かんねぇや…。なぜか生きてる…その事実だけだな。もしかすっと、本当に何かワケがあるのかもしれねぇが、今はそういう期待は持たないほうがいいだろ…」

 何も言えないネオスを気遣い、彼の言う 〝期待〟 の可能性も示唆したが、最後の言葉が本音なのだろう…と、この時 ネオスは思った。

「悪かったな、心配かけちまって。けど、安心してくれ。お前らを巻き込むつもりはねぇんだ。明日になりゃ、またもとの 〝オレ様〟 に戻るからよ、今日話したことは、綺麗さっぱり忘れて──」

「イオータ」

「あ、あぁ…?」

 まだ話の途中なんだけどな…と思いながら返事を返すと、さっきまでとは違う、強く真っ直ぐなネオスの視線とぶつかった。

「僕は、これからも君に色々話すと決めた」

「…あぁ、そうだな」

「けど、ひとつ条件がある」

「条件?」

「そう。僕は、君が主君のところに戻るその最後の日まで、気になる事は何でも話すよ。同士として、そして僕らの仲間としてね」

「…あ…ぁ…」

「だから君も、〝巻き込むつもりはない〟 なんて言わずに話して欲しいんだ。気になる事、悩んでる事、全てをさ。まぁ…このことはルフェラには話せないけどね…」

「…………!」

「それが、条件。──悪くないだろ?」

 軽い気持ちで 〝あぁ〟 と言えるような、そんな口調だった。

 イオータは、〝同士として〟 はもちろん、〝仲間として〟 という言葉に、胸の中が熱くなる気がした。けれど、良いも悪いも 〝条件付き〟 は好まない性分。故に、

「──悪いが、その条件は飲めねぇな」

 ──と返したから、予想外の返事にネオスも驚いてしまった。

 それを見たイオータがニッと笑う。

「イオータ…?」

「フンッ。無条件…ってことにさせてもらうぜ」

 〝無条件でも話してやる、同士であり仲間だったらな…〟 そんな気持ちの言葉だったからか、ネオスの顔に、ふっと笑みがこぼれた。

 その時だった──

 宿の方が微妙に騒がしい事に気付いた。

「なんだ…?」

 振り返り目を凝らしてみれば、三人ほどの人影が右往左往している。そのひとつの動きに、ネオスは覚えがあった。

「…ラディ?」

 そう呟くと、必然的に残りの人物がミュエリだと分かった。そして、最後の一人の格好から、イオータが続けた。

「ありゃぁ、宿主のダルクじゃねーか?」

「どうしたんだろう…?」

 そう言いながら、二人が宿の方に向かえば、彼らの姿を見つけたラディたちが、ホッとした顔を見せた。

「ネオス、イオータ…!」

「お前ら…どこ行ってたんだよ? ルフェラ連れて抜け駆けしてんじゃねーぞ? ──って、あれ、ルフェラは?」

 二人の後ろを覗き見るが、そこにルフェラの姿はなく…。それに気付くと、一気に顔が強張った。

「おい、ルフェラと一緒じゃなかったのかよ!?」

「あぁ、オレとこいつだけだぜ?」

 イオータは親指で隣のネオスを指差した。

「マジかよ…。ンじゃ、どこ行っちまったんだよ、ルフェラは!?」

「…いないのかい?」

「いねぇから、探してんじゃねーか。酒が抜け始めて寒くなってきたからよ、目ぇ覚ましたら、ルフェラがいなくて…お前らもいねぇから、てっきり抜け駆けでもしたか…って思って──」

「オレが出てくるときは眠ってたぜ?」

「…僕も…。君が出て行ってすぐだったから…ルフェラは寝てたよ…」

「んじゃ、出てってからそれほど時間は経ってないってことだな」

「──ってことは、そう遠くまで行ってねぇってことだよな?」

 イオータの言葉に、ラディが同意を求める結論を出した。──と同時に、〝オレはこっちを探す〟 と言い残し、駆け出していった。

「ミュエリはダルクさんとあっちを…僕はルーフィンを連れてくるよ」

 ネオスはそう指示を出した。ミュエリとダルクが 〝あっち〟 に向かい、自分もルーフィンを連れてこようとしたとき、イオータの腑に落ちない表情が目に入った。

「どうかしたのかい…?」

「あ、あぁ…ちょっと、気配がな…」

「気配って…誰の…?」

「ルフェラのだ」

「──あるのかい!?」

 意外な言葉にパッと明るくなったが、それはすぐに否定された。

「いや、そうじゃなくて…。出て行った気配がなかったな…と思ってよ」

「それって…まだ部屋の中にいるってこと?」

「いや。部屋の中にはいねぇ。けど、出て行ったなら、気付いたはずなんだけどな…」

 どうも解せないと首を傾げるが、今はそんなことに気を取られてる場合でもない為、その話は中断された。

 イオータは別の道を探し、ネオスはルーフィンのいる小屋に向かった。そして事情を話すと、驚く事に、ルーフィンからも同じ事を聞かされたのだった。


『おかしいですね…』

『え…?』

『出て行く気配は感じなかったですけど…』

『イオータもそう言ってたよ…』

『そうですか。──とりあえず、探しましょう』

『あ、あぁ…』

 二人揃って 〝気配がしなかった〟 とはどういう事なのか。ルフェラを探しつつも、その事が気になって仕方がなかった。共人としての力が弱く、気配を感じる事さえできないネオスにとっては、それだけでも辛い事だ。だが今は、感じる事のできる二人が 〝感じなかった〟 事の方が重大なことだ。

 不安が募り、ルフェラが見つからない事にも焦りを覚え始めた頃──

 ルーフィンが何かに気付いたのか、弾かれるように顔を上げた。そして数秒 辺りを伺うと、突然、ある方向に向かって走り出した。

 慌ててネオスが追いかけていくと、それを見かけたラディたちも彼の後に続いたのだった──

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