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女神伝説  作者: Sugary
第五章
61/127

BS1 ネオスの不安と感じる力

 真夜中の森の中──

 できるだけ、傾斜の少ない平らな場所を見つけたルフェラたちは、消えた火を取り囲むようにして、ぐっすりと眠っていた。

 少し離れた所からは川の流れる音が、周辺からは木々のざわめきが聞こえてくる。

 最初の頃は慣れない野宿というのもあり、自然の音でさえ目が覚めたものだが、最近では野宿に慣れたというのはもちろん、体の疲れも重なって、ラディのイビキにも起きないほど熟睡するようになっていた。

 ただ一人、ネオスを除いて、だが…。

 彼は横になりながらも、ある不安を抱えて眠れないでいた。眠らなければ…そう思い目を閉じてみるものの、その気持ちとは裏腹に目が冴えてくる。

 〝おやすみ…〟 と言って火を消してから、何度目だろう。

 ネオスが寝返りを打って溜め息を付いた時だった。

「…眠れねーのか?」

 ハッとして目を開ければ、隣で同じように横を向いて寝ていたイオータだった。

「あ…ごめん…うるさかったか…な…?」

 他のみんながどうであれ、イオータの眠りはいつも浅い。故に、ネオスの寝返りだけでも目が覚めるのだ。

 イオータは、そんなネオスの言葉にフンと鼻を鳴らした。

「うるさいのはあいつのイビキの方だ。それに、浅い眠りには慣れてるからな。──まぁ、最近では、あいつのイビキに慣れつつあるってーのが、恐ろしいけどよ」

 イオータは、そう言ってフッと笑った。

「──で、何で眠れねーんだ?」

「……………」

 その質問に答える代わりに、ネオスはそっと起き上がり、何気に月の光を避けて眠るルフェラに視線を移した。

「ルフェラ、か…」

 そう言いながら、イオータも起き上がる。

「よく…眠ってる…」

「あぁ、そうだな。いいことじゃねーか」

 〝そうだろ?〟

 ──そう言いたげな口調に、ネオスは返事ができないでいた。

 眠れる事はいい事だと分かっているのに、素直に喜べない。その理由を、イオータはまだ分からなかったが、何か深く悩んでいるという事だけは分かった。

「…なぁ?」

「…あ、あぁ…?」

「ちょっと…向こうで話さねーか?」

 熟睡している為、その場で話をしてもいいのだろうが、万が一の事を考え、イオータは敢えて 〝向こう〟 へと誘った。それだけ、ネオスが抱える悩みは秘密ごとなのだ。──特に、ルフェラには。

 イオータは彼の返事も待たず、さっさとその 〝向こう〟 へ歩き出した。

 今いる場所から数歩離れれば、差し込む月の光はほんの僅か。

 ネオスは、イオータを見失わないよう、慌ててそのあとをついていった。

 川の音が少しずつ大きくなってくる。しばらくすると、耳で聞いていた川の流れが目の前に現れた。──とは言え、湧き水が溢れ、岩の間を流れ落ちる、できたばかりの小さな川だが…。

 そこでは月もよく見え、お互いの表情もハッキリと見る事ができた。

「やっぱ、秋だな。空は澄んで高くなってきたし、月も一段と綺麗に見える」

「…あぁ」

「もうそろそろ、野宿が厳しくなるなぁ?」

「そうだな…」

 わざわざ あの場所を離れて話す内容でもないため、ネオスの返事もいまいちだ。いや、それ以上に、不安で頭がいっぱいなのだろう。

 それを表情で読み取ったイオータは、早速、本題を切り出すことにした。

「──それで? ルフェラの何が悩みなんだ?」

「……………」

「おい…?」

 〝言えよ、同士だろ?〟

 そう 目で促され、ネオスは軽く目を閉じ息を吐き出すと、その 〝不安〟 を口にした。

「…やっぱり僕は…ルフェラの共人にはなれないのかも…って…」

「はぁ?」

 それは、イオータにとって予想外のものだった。

 なぜなら、その悩みは前に解決済みだからだ。

「何でまた、その話なんだよ? ──言ったろ? 共夢を見るのがその証拠だって──」

「それが見れなくなったら?」

「なに?」

「共夢が…見れなくなったんだ……」

「いつから…?」

「数日前……」

 ひどく落ち込むネオスをよそに、その理由が分かったイオータは、呆れたように大きな溜め息をついた。

「──ったく、そんなことかよ」

「そんなことって──」

「それはなぁ、〝見れなくなった〟 んじゃなくて、〝見なくなった〟 んだよ」

「え…?」

 わけが分からないという目を向けるネオスに、イオータの口元がフッと緩む。

「ラディに感謝するんだな」

「ラディに…?」

「あぁ。今回はあいつのお陰だ。──ってか、オレのアドバイスのお陰でもあるな」

(アドバイス…?)

 心の中でそう繰り返すと、それが聞こえたかのようにイオータは続けた。

「言ったんだよ、あいつにな。自分の過去をルフェラに話してみろって」

「──── !」

「驚いたか?」

「あ…ぁ…そりゃ──」

 〝なぜ、イオータがラディの過去を知っているのか〟 はもちろん、それを聞いていたとして、〝いつ、それをルフェラに話したのか〟 、そしてなぜ、ルフェラを傷付けるかもしれない過去を、話すよう勧めたのか…驚きと共に疑問が湧いてくる。

「オレも驚いたぜ。まさか、ラディまで他の村の出身だったとはな。しかも、死ぬつもりで村を出てきたっていうじゃねーか?」

「…あぁ。妹が死んだのは自分のせいだと思ってね…。でも、あれはラディのせいなんかじゃない…」

「そうだな、オレもそう思う。──けど、事実はどうであれ、本人がそう思っている以上、苦しみは同じだ」

「……だから?」

「あん?」

「だから…ルフェラに話すよう勧めたのかい…?」

「あぁ。ラディもあいつに救われたって言ってたしな」

「…罪の意識から…誰かの為に何かをしたい…そう思ってるルフェラに、その事が必要だと?」

「……何が言いたい?」

「ルフェラは、本当の意味でラディを救ってはいない。過去の救いは一時的なものなんだ…。

僕も、ラディの様子がおかしいのはなぜか…って聞かれて、過去の事が引っかかってるんだろうとは言ったけど、その内容までは言えなかった…。記憶を失くす前の話だったから…できるなら、知らないままでいて欲しかったんだ…」

「……………」

「…特に、誰かの為に…そう思っている今のルフェラには……」

「ルフェラを余計 苦しませる事になる…あるいは、傷付けるかもしれない…そう思ったからか?」

「あぁ…。君だってラディの過去を知ったとき、その可能性を考えたんじゃないのか?」

 〝なのに何故?〟

 そんな目を向けるネオスに、イオータは大きな溜め息を付いた。

「──ったく、お前ら二人は…そろいも揃って同じ事 考えやがってよ。大事な相手を傷つけたくないばっかりに、〝今 必要な事〟 を見失ってんじゃねーよ」

「……………!?」

「ルフェラが、罪の償いの為に、〝誰かの為に何かをしたい…〟 そう思ってるのも知ってるさ。それに、ラディの過去を話せば、少なからず、自分の救いが一時的なものだと知って傷付く事もな」

「だったらどうして──」

「あいつにとって今必要なのは、自分の気持ちを分かってくれる相手が傍にいるってことなんだよ。自分の救いが一時的だと知って傷付く事よりもずっとな」

「──── !!」

 その瞬間、ネオスは 〝目を覚ませ〟 と頬を叩かれた気がした。

 そこまで言われて、ようやく彼の行動を理解できたのだ。──いや、そこまで言われなければ理解できなかったというべきだろうか…。ただ、どちらにせよ、ネオスにとってそれは、情けなさと、自分に対する腹立たしさを感じさせる事だった。

「…な…さけないな…僕は…。失くした記憶を話すこともできなければ、共夢に入って助ける事もできない…。その上、ルフェラの気持ちを知った気になって、本音さえ見抜けないなんて…」

「あぁ~…まぁ、そう自分を責めんなって。とてつもなく大事な相手だからこそ、考えすぎて見えなくなっちまうんだろ。それに、お前らの旅はまだ始まったばかりだ。オレが見失うなら問題だが、今のお前らならしょうがねーさ」

(──って、こんな言葉じゃ納得できねぇか…)

「……………」

 無言のまま川の流れに視線を落とすネオスを見て、イオータは 〝どーっすかなぁ…〟 と頭をかいた。

「なぁ、ネオス。ルフェラにとって一番の理解者は、共人であるお前だ。どんな事があろうと、あいつが最後に頼るのはお前しかいないし、それは間違いじゃない。だからって、最初から完璧な共人になろうとするのは間違ってるぜ。しかも自分一人で解決しようなんてな」

「……………」

「ルフェラの性格を考えてみろよ? 頼りになるお前までが、何もかも一人で抱え込んじまったらどうなる? この先、あいつが何でもお前に話せるようになったとしても、そんなんじゃ、心閉じちまうのも時間の問題だぜ。あいつが、お前に頼りたいと思っても、これ以上、お前を苦しませたくないと、一人で抱え込んじまったらもともこもないんだからな。それでもいいのかよ?」

「それは…」

「──だろ? ルフェラの為を思うなら…あいつを支えたいと思うなら、常に、お前自身の心を平静に保つことだ。その為には、身の周りにあるものを上手く使うんだよ。今回は、ラディの過去が 〝役に立った〟 ぐらいの気持ちでいればいい。要は、考え方だ。──どうせ、お前のそういう考えすぎる性格を見越して、何とかっていうばば様も、あの二人を旅に同行させたんじゃねーのか? まぁ…あんな過去がある以上、他にも何か考えがあるんだろうがな」

 そう言われて、ふと、ネオスの脳裏にある言葉が思い浮かんだ。


 〝お前はいつも物事を深く考え過ぎる。特にルフェラの事になるとな。悪いことではないが──〟


 それはよく、パーゴラのばば様から言われた言葉だった。何度も言われているにもかかわらず、今更ながらイオータに言われて実感するとは…。

 ネオスは思わずフッと笑ってしまった。

「な、なんだよ今度は…?」

「いや…同じ事をパーゴラのばば様に言われたのを思い出したんだ…。〝深く考える事は悪い事ではないが、考え過ぎると本質を見失うぞ〟 って。何度も言われてたのに、今初めてその言葉を実感したものだからさ…まだまだ未熟なんだなって」

「おいおい、今更かよ…?」

「でも…何か肩の力が抜けたよ。未熟だって思った瞬間、一人でやれない事が当然なんだって分かったからさ…」

「そうそう。そうやって自分の力を認めちまったほうが、逆に、問題解決の糸口を見つけやすいもんだ」

「そうだな。──これからはもっと頼ることにするよ。特に、同士の君に」

「あぁ、頼れ頼れ。オレが共人に必要な図太い神経を教えてやるからよ、覚悟しとけ?」

 半分は冗談と思えるような口調だが、あながちウソではないと、ネオスは思った。

「それよりよ…」

 軽く笑った直後、イオータは真剣な眼差しで声を潜めた。

「…お前、最近 何か感じなかったか?」

「何か…って…?」

「う~ん…なんかこう…押される空気ってゆーか…体が痺れる感覚ってゆーか…。けど反面、その感覚に引き付けられるってゆーかな…」

 曖昧な感覚ではあったが、ネオスには覚えがあった。

「あぁ…確かに…。ここ数日くらい、気になってる感覚ではあったけど…」

「…そうか…なら、話は早いな」

「……………?」

 そう言うと、イオータは自分達以外 誰もいないはずの周囲に意識を集中させた。その行動が何を意味するのか、ネオスはすぐに理解する。怪しい気配がないか確かめる為だ。

 こんな夜中に、しかもこんな山奥に誰が他にいるのだろか…。

 そんな疑問を抱きつつも、イオータがそこまで注意するということに、おのずと緊張が走る。これから話す事が、それだけ重大で、且つ、人に聞かれてはまずい事なんだと理解させたからだ。

「いいか、ネオス。その感覚は、おそらくルフェラから発せられるものだ」

「ルフェラから…!? それってもしかして──」

「あぁ。多分、新しい力の目覚めだろう。どんな力かっていうのは分かんねーんだけどな、ちょっと気になるんだ」

「──というと?」

「う~ん…それがな……」

 イオータはそう言うと、何かを考えるように黙ってしまった。

「…イオータ…?」

「あ、あぁ…わりぃ…。いや、それがな…正直、オレにも分かんねーんだ…。ただ、今までに感じた事のない強さだからよ…。しかも、完全に目覚めてない状態で、だぜ…?」

「それじゃぁ、まだ強くなると…?」

「あぁ。その力が何にどう作用するか分かんねーけど、ちょっと、気を付ける必要があると思ってよ…」

「あ…ぁ…」

 剣術に長けたイオータが、それも、自分より遥かにレベルの高い共人から、〝今までに感じたことのない強い力〟 だと言われれば、ネオスの不安と緊張は更に高まる。

「分かった…僕も気を付けるよ…」

 その口調と表情に緊張を感じ取ったイオータは、

「あくまでも、〝ちょっと〟 でいいぜ?」

 ──と片目を閉じながら、指で 〝ちょっと〟 を形作った。心配性で考え過ぎるネオスを気遣ってのことだ。そして更に、

「オレ様がついてんだ。任しとけって、なっ?」

 ──と、軽い口調で肩を叩かれてしまえば、ネオスの緊張もフッと緩む。

 〝今までに感じたことのない力〟 だと言いながら、冗談交じりに、自分の事を 〝オレ様〟 と言ってのけるから、ネオスも安心できるのだ。

「──さてとっ。そろそろ寝ようぜ?」

 話は済んだと元の場所に戻ろうとするイオータに、以前から聞きたいと思っていた事が頭をよぎり、ネオスは思わず呼び止めてしまった。

「…イ…オータ…?」

「なんだ、まだ何かあるのか?」

「い…いや…その─」

 〝どうして主と別れることになったんだ…?〟

 その言葉が喉の所まで出かかったが、今の状況からいって、聞く時期ではないのかもしれない。

(もう少し余裕が出てからのほうが、イオータも話しやすいだろうか…)

 ──そう思うと同時に、〝他人(ヒト)の問題にくび突っ込んでる場合かよ?〟 と言われるのが関の山のような気がして、今回は出かかったその言葉を飲み込む事にした。

「…おい?」

「あ、あぁ…その、ありがとうって言おうと思ってさ…」

「はっ、なんだそんなことか。言ったろ、気にすんなってよ。なんてたって──」

 そう言うと、ネオスの胸を軽く二回叩き、

「──なんだからよ」

 ──と付け足した。その意味を、ネオスは十分に理解した。


 〝同士なんだからよ〟


 ──そう言ったのだ。

 ニカッと笑ったイオータの顔と、何か熱くズシッとくるものを胸に感じ、ネオスは改めて彼の存在を心強く思った。

「──よしっ。んじゃ、戻るとするか?」

「…あぁ」

 その返事と共に、ようやく二人は元の場所へと戻って行った。

 森に住む全ての生き物が眠りにつき、草木を踏み分ける彼らの足音のみが、大袈裟に思えるほど響き渡る。

 話をしたことで幾分か気持ちがラクになり、お互いが 〝これで眠れる〟 と帰りの足取りも軽くさえ感じていのだが──

 その異変に気付いたのは、途中、眠っているはずのラディの声が聞こえてきたからだった。しかも、とても慌てた様子で…。

 咄嗟に、〝何かあったのか?〟 と顔を見合わせた直後、二人も慌てて戻ってみれば、ラディの腕の中で、苦しそうに胸を押さえたルフェラが蹲っているのが見えた。

「ルフェラ──!?」

「どうしたんだ!?」

 同時に発せられた声に、ラディがハッと顔を上げる。その顔は怒りと不安と安堵が入り混じっていた。

「お…前ら…どこ行ってたんだよ、こんな時に──!?」

「いったい何があったんだ!?」

 まるで、そんな不安と怒りの質問はどうでもいいとばかりに、何があったのかを急かすと、イオータは、同時にルフェラの体にも触れた。

「分かんねーよ…オレもミュエリに起こされて気付いたんだけどよ…その時にはもう こんな状態で……胸が痛いってゆーから、オレもどうしていいか分かんなくて…」

(胸…? 心の蔵…か…)

「さっきまでもっと酷くて……これでも落ち着いてきた──」

 そこまで言った時だった。

「ラディ! ラディ!! 汲んできたわよ!!」

 慌てて戻ってきたのはミュエリだった。近くの川から水を汲んできたのだ。

「あ…ネオス…イオータ…!」

 さっきまでいなかった二人が戻っている事に、ラディ同様、少なからずホッとしたミュエリだが、そんな場合ではないと、すぐに水の入った木筒をラディに渡した。

「…ルフェラ…? ほら、水だ…飲めるか?」

 すぐさまイオータも体を支え、胸を押さえたまま蹲っているルフェラの上体をゆっくりと起こした。

「おい、大丈夫か?」

「…ぁ…はぁ……はぁ……つっ…っ…」

 胸の痛みは死を感じるものだ。ルフェラもその恐怖を感じていたのだろう。彼女の呼吸は、荒く震えていた。

 ラディはその口元に木筒をあてがうと、少しでも飲もうと口が開くのを確認してから、そっと水を流し込んだ。

 すぐには飲み込めなかったが、それでも息を整えながら、コクンと喉が動くのを確認できた。

「よ、よし…いいぞ…。そしたら次はゆっくり深呼吸してみろ、な?」

 苦しいながらも、必死な顔のラディが見えているのだろう。ルフェラも、出来る限りその言葉通りにしようと必死だった。

 震える呼吸で大きく息を吸い、一緒になって吐く真似をするラディに合わせ、ルフェラもゆっくりと息を吐いた。

 そして何度か繰り返していると、ようやく胸の痛みも治まり、呼吸も整い始めたのだった。

「…どうだ…? まだ苦しいか…?」

 心配そうに尋ねるラディに、ルフェラは小さな笑みを見せた。

「…あ…りがと、ラディ…もう、大丈夫…」

「ほ…んとか…?」

「…うん…」

 ずっと体に力が入っていた為か、疲れてすぐには動けなかったが、それでも 〝ほんとに大丈夫〟 と、何度も頷いた。

 その言葉と笑みに、ようやく皆の顔にも安堵の表情が戻った。

「とりあえず、明日どっかの村に着いたら、病の先生に診てもらおうぜ、な?」

 そんなラディの言葉に、ルフェラは素直に頷いた。おそらく、眩暈だけならその言葉を拒否しただろうが、死を感じてしまうほどの胸の痛みに襲われては、〝大丈夫だ〟 と思えないのはもちろん、自分の体がどうかなってしまうのではないか…という不安もあったからだ。

 素直に頷いたことにホッとしたと同時に、今度は、ネオスが手際よく消えている薪に火をつけ始めた。

 冷や汗で濡れたルフェラの体を温めるためだ。

 イオータもすぐに例の布をルフェラに掛け、ラディと共に火の近くへ連れて行った。

 赤く燃える火を前に、ルフェラの体を心配しながらも、他愛のない会話が交わされていく。それは暗黙の了解のように、ルフェラが寝入るまで続いたのだった──

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