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女神伝説  作者: Sugary
第四章
52/127

BS6 ラディの悩み

 ひと目見て地図を覚えたイオータは、ラディが待つ場所を少しだけまわり道して、到着した。

 目の前には男の背中。その背中越しにそっと囁く…。

「──お前、今頃死んでるぞ?」

 そう言い終わるが早いか、〝おぅわっ──!!〟 と飛び退いたラディ。振り向きざま目に映ったイオータを見て、〝…って、てめぇ──〟 と叫びそうになったが、今の状況を思い出し、慌てて自分の手で口を塞いだ。

「後ろ取られた事にも気付かねーなんて、殺してくれって言ってるようなもんだぜ?」

「…くっ……い、今のはこっちに集中してたからだ! それに、まだ途中段階なんだぞ!?」

 黒風の事が発端で、ラディは皆に内緒でイオータから剣術を習っていた。黒風の一件が終わっても──習っておいて損はないため──今も続けているのだが、あくまでもまだ、途中段階。人の気配だの、背後をとられないようにするだの、そんなことが出来るはずもなく……ましてや、背後に立ったのが、自分の気配を消すことのできるイオータなら、尚更のことだ。

 故に、〝途中段階〟 と聞けば、イオータだって納得の態度を見せる。

 もちろん、そんなことはハナっから承知した上で、からかっているだけなのだが……。

「そりゃ、そうだな。──で、こっちは変わりないか?」

「あ…? あぁ、今んとこな」

「そうか…。それにしても、まさかこんな展開になるとはなぁ。ルフェラから聞いて驚いたぜ」

「まったくだ。けど、オレはそれ以上にあの親父にムカついてるぞ。なんか、信じて損したぜ」

「確かにな。──あぁ、もう飯食いに行っていいぞ。あとは朝までオレが見張ってるからよ」

「あ…あぁ……分かった」

 交代すると言われ、その返事が微妙なことに気付いたイオータは、宿に帰ろうと歩き出したラディの背中に、珍しく直球を投げかけた。

「──ケンカでもしたか?」

「なに…!?」

「ルフェラとケンカでもしたのかってきーてんだよ」

「べ、別に…」

 その反応は、明らかに 〝イエス〟 だった。

(──ったく。ほんと、どっちも分かりやすい性格だな)

「とぼけんなよ。だいたい、ルフェラもお前もウソつけねー性格なんだから、正直に吐けってーの」

「な…なにが──」

「あいつ、バレねーように顔を洗ってから部屋に入ってきたみてーだけど、真っ赤な目を見りゃ、誰だって気付くぜ、ついさっきまで泣いてたって事ぐらいな。しかも、あの性格だ。人に頼らず、できるだけ自分でやろうとするのに、オレがラディと交代するって言ったら、素直に頷きやがった。普通それでピンとくるだろ? 帰ってくる直前まで、お前と一緒にいたのは、話を聞けば分かるんだしよ。だとしたら、お前と何かあったんだろうってな。顔を合わしたくないんだか合わせにくいんだか、それは知らねーけど、あの様子じゃ、お前が宿に帰りつく頃には、タイミング見計らって風呂に入ってるか、早めに布団の中にもぐりこんでるかどっちかだろ。まぁ、ケンカっつっても、お前相手に泣きそうにねーから、概ね、お前が傷付くようなことでも言ったんじゃねーかなぁーっていう、推測だけどな」

「…………………」

「──それに、さっきのお前は、見張りに集中しているようには見えなかったし。どうせ、ルフェラの事が気になってたんだろ?」

 自信たっぷりに言い放った推測に、ラディは一言も言い返せないでいた。そこへ、首を振らせない一言が追加された。

「──吐いちまえって」

 これにはもう、ラディの立場がネオスだったとしても、両手を挙げるしかないだろう。

 〝そうなんだろ?〟 と、再度 目で訴えられ、ラディは観念した。

「…あぁ、そうだよ…!」

 ふてくされたように呟けば、イオータは溜め息と同時に 〝やっぱな〟 ともらした。

「──それで、何を言ったんだ?」

「…いや…何ってよ……す、既に言ったことを、あいつが忘れてて…それをもう一度 言えってゆーから……んじゃ、言う代わりに、お前も教えろよって言っちまって、それがあいつを傷付けて──」

「お、おいおい…。話が全く見えねぇって…」

「そうか…?」

「──ったりめーだ。もっと、分かるように説明しろ」

「分かるようにって…よ…」

「紙に書けば、あらすじどころか箇条書き程度の説明だぜ、今のじゃ。分かるのは書いた本人だけだろ?」

 流れ的には順を追っているのだろうが、あまりにも説明が足らなさ過ぎだと、イオータが更なる説明を求めれば、一瞬沈黙したものの、ラディは自分なりに頭の中を整理して話し始めた。

「…オレの…過去を話せって言ったんだ…」

「お前の…過去…?」

「……ああ」

「ラミールの過去の記憶がない…って知って話しただろ? それを話すかどうかってよ」

「あ、ああ…」

「ミュエリやネオスは本人が知りたいなら教えるべきだって言ってたけど、オレは反対した。 〝忘れたい事のひとつやふたつ、生きてりゃ誰にでもあるんだし、親が忘れてた方が幸せだって言ってんだから、それでいいじゃねーか〟 ってな」

「ああ」

「リヴィアの村にいたときも、変な態度見せちまって…。それで、ルフェラが気付いたんだ。オレにとって、忘れたい過去があるんじゃねーかって…」

「へ…ぇ…それで?」

「確かに、忘れられたらどんなに楽か…って思う過去はあるさ。それが原因で、一時は死のうとまで考えたんだからな」

(な…に…!?)

「…けど、その時のオレを助けてくれたのがルフェラなんだ」

「じゃぁ…その過去をルフェラが忘れてるってことなのか?」

「ああ。──でもまぁ、しゃあねーっちゃぁ、しゃあーねーんだけどな。十年前、初めて会った時に一度だけ話したことだからよ…」

「………………」

(死のうと思った時が初めて会った時…?)

「──けど、いくら忘れてるっつってもよ、二度も言えねーだろ? あいつに助けられたのに……あいつのお蔭で今のオレがあるって言っても過言じゃねーのに…実際は、未だに引きずってるなんてよ…? もし、そんなこと言ってみろよ? それこそあいつを傷つけちまう…。だから、思わず言っちまったんだ。 〝お前の悪夢を話してくれたらな…〟 って…」

(は、はは……なるほどな。そりゃムリだ…。話せる部分だったとしても、性格的に話そうとはしねーだろうしな…)

「…嫌なこと思い出させて…触れられたくない事まで触れちまって……やっぱ、相当 傷つけたよな…?」

「ん~…まぁ、どっちかっつったら……自己嫌悪のほうじゃねーかぁ?」

「自己…嫌悪…? なんでだよ? 自己嫌悪なら、オレの方だぜ? 悪夢の原因がシニアの死だろう…って事ぐらい、言わなくたってオレにも分かるさ。だから尚更、助けたいと思ったんだ。そりゃ、何にもできねーかもしれねーけどよ、なんか、話せばラクになるかもしれねーじゃねーか? もっと、弱音吐いて、もっと頼ってくれてもいーのによ…いつだって自分ひとりで背負い込んじまって…見てらんねーんだよ。なのに、自分の事よりも、オレが引きずってる過去に気付いて、少しでもラクになれれば…って言うんだぜ? もう…参るだろ? なんか、オレ…情けねーわ、腹立つやらでよ……そんでもって傷つけて…自己嫌悪もいいとこだ…」

 珍しいほどの落ち込みように、さすがに、イオータも手を貸そうと思ってしまう。

 まぁ…それ以上に、自分が引き出したことでもあるため、責任を感じているのだが…。

(とりあえず、一歩踏み込んでみるか…)

 イオータは覚悟を決めて、口を開いた。

「…なぁ?」

「……あぁ?」

「お前の過去…話してくれねーか?」

「………………」

 突然の申し出に、一瞬 躊躇ったラディだったが、

(ルフェラ以外に話すのなら、誰も傷つかねーし…オレさえ我慢すれば、隠さなきゃなんねーことじゃねーしな…。背負う十字架見せて、バッシングされた方が、ある意味 救われるのかもしれねぇ…。とりあえず、経験したことから言えば、こいつに話したほうが、無難だよな…)

 ──と、色々 考えて話す事にしたのだった。




 そして、数十分が過ぎた頃──

「──これが、全部だ」

 ──という言葉で、話が終わった。

 さっきより、スッキリした顔になったラディとは反対に、イオータの心はどんよりしていた。けれど、それまでのラディの態度や気持ちが分かりすぎるくらい分かったため、納得することはできた。

(──ったく、なんなんだよ、コイツらの背負う過去はよ…。それに、そんな過去を聞いてりゃ、十年前っつっても、普通は覚えてるもんだろ?)

 そう思った矢先、ふと、ネオスの話を思い出した。

(…いや、ちょっと待て…。十年っつったら、ちょうど…ルフェラの記憶が失くなった頃だよな? ──ってことは…ラディの過去を聞いたのは記憶を失う前…?)

 その結論に、〝あぁ〟 と納得した。

(そうか…。こいつの過去は、忘れたんじゃなく、記憶を失ったからなのか…! だとすれば、こいつの過去を話すことで、今のルフェラを救えるんじゃねーのか? いや…単に忘れていて、あれが 〝その場しのぎの救い〟 だったと気付いたとしても、今のルフェラは救えるはずだ…!)

 僅かな時間に考えをまとめていたイオータは、導き出した結論に 〝間違いない〟 という確信を持った。

「お前さぁ…」

「…あぁ?」

「あいつに話してみろよ?」

「……なん…でっ……」

「確かに、過去を話せば、あいつは傷付くかもしれねぇ。けど、今のあいつを救うことはできるぜ」

「……………?」

「助けたいんだろ?」

「あ…あぁ…そりゃ──」

「だったら、話せよ。オレが保証してやる。お前が過去を話すことでルフェラが救われるってな。しかも、今のルフェラを救えるのは、お前だけだ」

「────!!」

「ま、すぐにとは言わねーけど、考えとけよ?」

「………………」

 返事は返ってこなかったが、ラディの表情から、時間の問題だというのは分かった。それが分かり安心したイオータは、いつもの調子を浴びせかける。

「─それにしても、考え事があると、真っ先に死んじまう男だな、お前は?」

「はぁ…?」

 いきなり話が変わり、目がテンになるラディ。しかし、イオータは構わず続けた。

「戦術をマスターしても、考え事があったら、すぐに後ろを取られるってことだ」

「──ンだと!?」

「特に、ルフェラの事に関しちゃな」

「フンッ。それがどうした。ルフェラの為に死ぬくらいどうってことねーから、いいんだよ!」

「おぃ、おぃ…それは ちと意味が違うんじゃねーか?」

「違わねーよ! ──それに地震で死ぬよりはマシだしな!」

「はぁ?」

 思わぬ言葉に、今度はイオータのほうが黙ってしまった。しかし、すぐに理解する。

「お前…ひょっとして、地震が来たらぜってぇ死ぬって言われたクチか?」

「…あ、あぁ…。昔…ルフェラにな…」

「は…ははは……あはははは……」

「な、なんだよ…!?」

「いや…マルチな死に方があって、ドッキドキだなーと思ってよ」

「てめぇ…バカにしてんだろ!?」

「別にぃ」

「──だいたい、〝マルチ〟 はそういう使い方しねーだろーがよ!?」

「そうか? お前の 〝ルフェラの為に死ぬ〟 ってゆー意味に比べれば、まだマシだと思うけどなぁー」

「な…んだとぉ──」

「まぁ、まぁ…いいじゃねーか。──とにかく、ルフェラを救える方法が見つかったんだしよ」

 〝なっ〟

 ──と、肩を叩かれたラディは、〝ルフェラを救える〟 という言葉だけで 〝それもそうだな〟 と、落ち着いてしまった。

 そして、先ほどの会話などすっかり忘れて、〝じゃぁ、あとはヨロシクな〟 とだけ言って宿に帰っていったのだった。

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