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女神伝説  作者: Sugary
第四章
39/127

BS1 共夢

「…ぃ、おい…ネオス!? おい!!」

 体を揺らされ、ネオスはハッと目を覚ました。

「おい…大丈夫か? うなされてたぞ…?」

 月明かりに浮かんだラディの表情が、ひどく驚いているのが見えた。そして、ネオスを挟むように──つまり、ラディと真向かうように──座っていたのはイオータだったが、彼の場合、驚きというのとは程遠く、どこか惜しんでいるように見受けられる。

「大…丈夫かよ…?」

「あ…ああ…。ルフェラが──」

「ルフェラ? ルフェラがどうかしたのか…!?」

 殆ど無意識のうちに口走りながら、顔に手を当てれば、思った以上に汗をかいていることに気付き、一気に正気を取り戻した。

 布団から起き上がったネオスの体は、びっしょりと汗をかいていた。夏の蒸し暑い空気でさえ、汗で濡れた体には涼しく感じられるほどだ。

(あれは…ひょっとして──?)

「おい──」

「ラディ、ルフェラを見てきてくれないか?」

 〝ルフェラがどうしたんだよ!?〟 と続けようとしたラディの言葉は、ネオスではなく、イオータによって遮られてしまった。

 さっき見た夢のリアルさから、すぐには質問に答えられないだろう…そう、判断したからだ。

「な…んで、ルフェラなんだ…?」

「いいから、ちょっと見に行ってくれよ?」

「………あ…ああ…」

 〝ルフェラが…〟 と発せられた所で、それは所詮、夢のこと。その夢にうなされただけなのに、なぜルフェラを見に行くのか…その理由が全く分からない。しかし、イオータの口調がどことなく命令に近く感じ、ラディは慌てて部屋を出て行った。

 そんな彼の後姿を見送ったイオータは、しばらくして、再度 口を開いた。

「ルフェラの夢、だろ?」

 落ち着いたイオータの声が、ネオスの早打ちする心臓を落ち着かせていく。

「…変な…夢だった。まるで、僕自身がルフェラになったみたいで…」

「ああ…だろーな」

 〝分かっている〟 とでもいうような答えが返ってくれば、驚かないはずがない。

「だろーな…って、いったい──」

共夢(ともゆめ)さ」

「共…夢…?」

「ああ。ただの夢じゃねーぜ。主にとって抱えきれないことが、夢となって共人に流れてくる…それが、共夢だ」

「つまり…今、僕が見た夢は、ルフェラが見てた夢…?」

「ああ。多分、同じようにうなされてるな、あいつも」

「…………」

「言っとくが、共夢は主の心の叫びだぜ。一人では抱えきれなくなって、無意識のうちに助けを求めている。それ故に、夢の中の出来事も、主の感情も、うそ偽りないものなんだ」

「そ…んな…。だとしたら…あんなことを一人で抱えるなんて辛すぎる…!」

「だから、流れてきたんだろ。お前の助けを求めて、な」

「僕の…たす…け…?」

「──多分…今見てたのは、ルフェラが赤守球を取り戻すところか、あるいはシニアの死…ってとこじゃねーのか?」

 イオータの言葉に驚きながらも、その通りの為、小さく頷いた。

 見ていたのはその両方だったのだ。

「でも、どうしてそれを?」

「分かるさ。ルフェラが 〝生きる〟 ことを選んだからって、そう簡単に心の十字架がなくなるわけねーからな」

 シニアの死があり、〝殺して!〟 と叫んだのは数日前。カイゼルから話を聞かされ、ようやく 〝生き抜く〟 ことを誓ったのもついこの間だ。

 そして、村を離れてから最初に泊まった日の夜が、今日だった。

(ああ…そうか、そうなんだ…。ルフェラが生きると誓ったことで、僕もホッとしていたけど、ルフェラにとっては全てが解決したわけではないんだ。深く心に刻み込まれた闇は、今もなお、ルフェラを苦しませている…!)

「…なぁ、月の変化って、気付いたか?」

「え…?」

 突然、夢とはまったく関係のない言葉が聞こえ、理解できぬまま顔を上げれば、イオータは、いつの間にか窓辺に腰掛け、空を見上げていた。

 ネオスも月を見ようと窓の方を見てみるが、自分の座っている所からでは、星しか見えない。

「…変化…って?」

 ようやく口にできたのは、その質問だけだった。その答えの意味を待っていると、彼の視線は、月から部屋の中にいるネオスに移された。

「あいつ、月の力を手に入れたぜ。ルフェラを森で見失った…あの夜に、な。違うか?」

 〝見ただろ?〟 というその目は、共夢を指していた。

 あれが、うそ偽りない出来事だとすれば、確かに、共夢で見ていた。シニアに刃を向けられた時、ルフェラが月から降り注ぐ光を手にした、あの力だ。

 その時の事を思い出しながら、ネオスは無言で頷いた。

「でも、どうしてそれを…?」

 同じ言葉を繰り返すしかない自分が、なんとも情けないとは思いながらも、同じ共人として、落ち込んでばかりもいられない。彼が知っている事は、ネオスにとっても知る必要があるからだ。

「月の輝きが増したからな。ある程度の力を持ったヤツ──オレぐらいになると、そういう変化が分かるんだ」

「………そう、か」

「──赤守球を取り戻す時もそうだが、シニアを殺めてしまっただけでも、心の中に背負った十字架は大きい。その上、月の力を手に入れたんだ。腕を切られた恐怖や、人を殺めた十字架、不思議な力を手にした不安…全てを、あいつは自分ひとりで抱え込んでいる」

「その…通りだよ…」

「そこで、抱えきれなくなったが為に、助けを求めてきたってわけだよな。──さぁ、どうする?」

「どうする…って…」

「いつものように、聞き出すか?」

 その質問に、しばらく考えたが、ネオスは力なく首を振った。

「話を聴いて、ルフェラの抱えるものが少しでも軽くなるなら、いくらでも聴くよ。一日中だって、ずっと傍にいて、話を聴く。だけど、生き抜くことを誓ったルフェラが、その苦しみを口に出すとは思えない…」

「──だよな。何でもかんでも一人で抱え込むうえに、簡単に弱音を吐かねぇのが、あいつの性格だからなぁ」

「ああ…」

(一体、どうすればいい? 無意識とはいえ、ルフェラから助けを求めてくるのに、僕にできることといったら、流れてくる共夢をみることだけだなんて! ああ、ルフェラ…ルフェラ…教えてくれ…僕は何ができる!? ルフェラの為に何ができるんだ!?)

 自分の力のなさに、苛立ちと情けなさが交じり合い、それを堪えるかのように膝の上に置いていた拳をギュッと握り締めた。

 そんなネオスを見て、イオータは小さな溜め息を付いた。

「まぁ、そう、自分を責めんなって。今の状態だったら、誰が聞きだそうとしても、あいつは答えないさ。──ただ、助けられないとは言ってないだろ?」

「…………!?」

 その言葉に、ネオスはハッと面をあげた。

 その目は、微かな希望に食らいついた獲物のようだ。

「じゃぁ…何か方法が?」

「ああ。もっと、正確に言えば、共人にしか助けられない。けどな、助けようと思ったら、全てがバレる事も覚悟しなきゃなんねーぜ?」

「え…?」

 共人にしか助けることができない…そう言われて、ならば、絶対に助けたいという思いが体中の血を沸き立たせたが、〝全てがバレる〟 と聞いて、一瞬に目の前が曇り始めた。

(全てが…バレる…?)

 どういう事だろうと、心の中で繰り返す。

「いいか? 共夢は、さっきも言った通り、単に、同じ夢を見てるってだけじゃねーんだよ。なんつーのかなぁ…主と共人が同じ体験をして、その経験を共有することで、負担を減らすことができるってゆーかな…。ただ、主のほうは、その夢が共人のほうに流れてることは知らない。だから、流れてきた夢の中に共人が…つまり、ネオスが入り込まなきゃなんねーんだ」

「僕が…?」

「ああ。もちろん、いつもってわけじゃねーぜ。時間が解決する時もあるからな。けど、入り込む必要のある時は、夢の中のルフェラに届くよう、強く想わなきゃなんねーんだ。それから、同じ体験を通して、現実では言えない主の言葉を聞きだしたり、恐怖で震えてるなら、抱きしめてやればいいんだよ。他にも、色々話せばいいしな。ただ、今回の場合、ルフェラ自身のことはもちろん、お前が共人だってことは内緒なんだろ…?」

「……それが…バレると?」

「…少なくとも、そういう話に近づくのは間違いねーな」

 いまいちイオータの言っていることが理解できず、〝どうして?〟 の一言さえ返せないでいると、彼は再び口を開いた。

「共人として、共夢の中に入り込み、ルフェラを助けるという事は、必然的に、お前が誰かっていう事はもちろん、ルフェラが普通の人間じゃないって事まで話す必要がある。単に、同じ夢を見てるのとはワケが違うんだからな。分かるか?」

 半ば呆然としながら聞いていたネオスは、頷くことさえ忘れていた。

(そういう…ことか…。なぜ、ルフェラの夢に入り込むことができるのか…そういう説明が必要なんだ…。ルフェラを助ける為には、ただの夢話ってわけにはいかない…それはつまり、ルフェラと僕の正体を話す必要が出てくるという事なんだ…!)

「まぁ、今すぐどうしろとは言わねーけどよ、これからいろんな力を身に付けていくんだ。心の十字架だけでなく、様々な不安から、壊れちまう可能性が出てくるのは、時間の問題だと思うぜ?」

「……………」

「うなされている時、偶然にでも、あいつの夢に入り込むかと期待したんだけど、ラディが起こしちまったしなぁ…」

 その言葉で、ようやくイオータの表情が分かった気がした。

 起こされた時、惜しんでいるように見えた、あの表情のことだ。

 ネオスが、そう納得した矢先、ルフェラの様子を見に行っていたラディが、不可思議な面持ちで戻ってきた。

「よぉ、どうだった?」

「あいつも…うなされてた…」

「そうか…」

「行った時は、既にミュエリが起こした後だったけどよ…涙の後があったから、よっぽど怖い夢でも見てたみてーだ。──けど、なんで分かったんだ、ルフェラがうなされてるって?」

「いや、別に。ちょっとしたカンだな」

「カン…?」

「それで、今はどうしてる?」

 イオータの返答に不審がりながらも、新たな質問が投げかけられたため、ラディはそれ以上の追求をすることができなかった。

「水飲ませてやって、しばらく話してたら落ち着いてきたしよ…。ルフェラも、〝大丈夫だから〟 の一点張りだったから、後はミュエリに任せてきた」

「そうか。──んじゃ、オレらも寝よーぜ?」

「え…だってよ──」

「大丈夫って言ってんだから、いいじゃねーか。もし、またうなされても、ミュエリがついてんだろ?」

「あ…ああ…まぁ、そうだけど──」

 〝そういう事が言いてーんじゃねぇんだけど…〟 と思いながらも、さっさと布団に潜り始めたイオータを見れば、それ以上、何も言えなくなる。続いて、ネオスも布団に入れば尚更だ。

 結局、ラディも渋々ながら、布団に入ることにしたのだが、もちろんのことながら、イオータ以外の二人はすぐに寝付くことはできなかった…。

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