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女神伝説  作者: Sugary
第三章
32/127

9 意外な一面 <1> ※

〝今日は、ルーフィン連れてかねーからな〟

 出かけに、捨て台詞の如く吐いたラディは、あたしの返事も待たず、さっさと家を出て行ってしまった。すぐに、後をつけるようルーフィンに頼んだが、なぜか、彼はあたしの横で立ち尽くしたままだった。

 ルーフィンに限ってあり得ないとは思うのだが、何に釣られたのかと、考えてしまう。ネオスならまだしも、ラディの言う事を聞くなんて、今までになかったからだ。

 しかし、ルーフィンにだって、自分の意思というものがある。理由があるにせよ、ないにせよ、ムリに押し付けるのはよくないだろう…。

 仕方なく、あたしは、その日 一番の溜め息をつく代わりに、彼らの後姿を見つめ 〝サボったら承知しないわよ〟 と、一人 呟くしかなかった。



『すみません…』

『え…?』

 森に入ってしばらくすると、あたしが気にしていると思ったのか、ルーフィンがそっと心の中に囁いてきた。

『ラディの言う事を聞いてしまって…』

 〝申し訳ない…〟

 心底、そう思っているような口調が、あたしには、とても奇妙に感じられた。

 誰の言う事を聞こうが、聞かまいが、それはルーフィンの自由だからだ。なのに、ラディの言う事を聞いたというだけで謝るなんて、どう考えても変だろう。─ともすると、言う事を聞いた相手がラディだったからというよりは、あたしのいう事を聞かなかったことを謝っているようにも思えてしまう。

 そりゃ、従順なペットとして犬を飼ってるなら、〝ご主人様の命令に背いた…〟 な~んて思うかもしれないだろうけどさ…。あたしにとってのルーフィンは、ペットじゃなく、仲間…だものね…。飼ってるなんて、とんでもないわ…。

『謝る必要なんてないわよ、ルーフィン。ただ、ちょと、気になっただけだから』

『気になる? ──何がです?』

『何に釣られたのかなぁ…って』

 沈みがちなルーフィンの気持ちをほぐすように、あたしはイタズラっぽい目を、彼に向けた。

 一瞬、沈黙が流れる。

 図星だ…という 〝沈黙〟 よりは、思いがけない言葉に、その意味を理解することができなかった時の 〝沈黙〟 に近かった。案の定、一呼吸も置くと、すぐに理解を示した。

『まさか、そんな…。私は別に──』

 これがラディだったら、明らかにウソをついている…と思う反応なのに、ルーフィンが言うと、素直に受け止めてしまうから不思議だ。出かけに疑ったことなど、一瞬にして、吹き飛んでしまった。

 まぁ、普段からの信頼度が違うからなんだろうけどね。

『冗談よ、冗談…』

 〝そんなことは、決してありません〟 と、強い口調で…しかも必死に訴えているのを聞くと、なんだか可笑しくて、笑えてきてしまう。

『ル、フェラ…?』

『ごめん、ごめん。──ホントはね、サボってないかな…って思ってたのよ』

『ラディたちが、ですか…?』

 釣られたかも…という疑いが晴れて、途端に、いつもの冷静なルーフィンに戻った。

『そうよ。ほかに誰かいる?』

『いえ…。でも、多分それは大丈夫だと思いますよ』

 あら、意外な返答…。

『どうして?』

『昨日、一緒に行動しましたが、至って真面目でしたから』

『それは、ルーフィンが見張ってたからでしょ? 見張り役がいなくなった今日は、かなり手を抜いてると思うけど?』

『あの人たちにとって、私がいる、いないというのは、正直、関係ないです』

『どういうこと?』

『私が、ただの狼だからですよ』

『……?』

『彼らがサボっていたとしても、そのことをルフェラに告げ口できる存在ではありません。少なくとも、私をただの狼だと思っている彼らには、ね』

『あ、まぁ…それは、そうだけど…』

 確かに、ルーフィンを見送った時、自分でもそう思ったわよ。だけど──

『それに 万が一、サボっているのを阻止されるかも…と思ったとしても、私が阻止する行動なんて、たかが知れてますから』

 なるほど…。

『──じゃぁ、ホントにラディたちは真面目だった、っていうこと?』

『はい』

『へ…ぇ…。なんか、意外だなぁ…』

『そうですか?』

『そうよぉ。だって、口を開けば、バカの一つ覚えみたいに 〝ハラ減った〟 を繰り返すじゃない?』

『 〝ルフェラ、愛してる〟 とも言いますけど?』

『やめてよ、ルーフィン。それは敢えて、言わないようにしたんだから』

 珍しく、ルーフィンのツッコミが入って、思わず苦笑いを浮かべた。

『──でも、ルフェラ』

 ルーフィンの口調が、またすぐ元に戻る。

『彼らは、あなたが思うより、ずっと真面目な人間ですよ』

『え…?』

『ケンカばかりしていた相手とはいえ、仲間がひとり 連れ去られたのですから。ラディだって、軽々しく考えてはいません。ミュエリのことはもちろん、黒風に狙われているあなたのことも、真剣に考えているほどです』

『ルーフィン…』

『それに、イオータだってついていますからね』

 まるで、太鼓判を押すように、そう付け足した。

 〝サボる心配はない…〟 と、信頼できる相手に言われ、本来なら、ここで安心するはずだった。いや…もちろん、その心配は消えたが、同時に、ショックでもあった。二日前、イオータとの会話を思い出したからだ。


〝一応は仲間だろ? ケンカばっかしててもよ。そいつを助ける為に、あんたが体力づくりしてるとなると、〝オレも一緒に付き合うぜ〟 とか何とか言って、ついてくるに決まってるさ〟


 あの時は、あまり深く考えなかった。

 あたしがイオータに戦術を習っている事を、彼らに知られたくなかったし、ラディが納得する理由を見つけるのが、一番の目的だったから…。あの言葉が意味する彼の真面目さには気付かなかったのだ。

 ルーフィンの言葉は、あたしに 〝いったいラディの何を見てきたのか?〟 という疑問を抱かせた。

 何年も一緒にいたあたしより、ほんの数日間、共に過ごしたイオータの方が、ラディの本当の姿に気付いていたってことでしょ…?

 〝真面目〟 だっていう実感は湧かないけど、それでも、自分の知らない部分があるのは確かなわけで──

挿絵(By みてみん)

 あぁ…なんだか、とても情けないわ…。

 あたしは、この日 二回目の溜め息をついてしまった。


「まるで、百面相だね…?」

 ルーフィンが足元を離れ、一人 その情けなさを感じていたら、ふいに、ネオスの声が聞こえてきた。

「ひゃ、ひゃく…?」

「そう、百面相…」

「…………?」

 〝知ってるよね?〟 とでも言うかのような顔で繰り返すもんだから、あたしも、〝知ってはいるけど…〟 という思いを込めて、不思議な顔を返した。

「ルフェラの顔だよ。急に笑ったかと思えば、真面目な顔になったり…そうかと思えば、今みたいに不思議な顔になったり…。さっきまでは、凄く落ち込んでるようだった」

「あ…ああ…。それは…えっと──」

 ルーフィンとの会話中は、声を出さないよう 気を付けてるけど、表情だけは どうも隠しきれないのよね…。

「何か、思い出してた?」

「う、うん…まぁ…。ラディの事とか、イオータの事なんかを…ね…」

「へぇ…どんな?」

「ど、どんな…?」

 ネオスは 〝そう〟 と言うように軽く頷いた。

 〝百面相〟 の理由を言えばそれで済むだろうと思い、さっきまで考えていたラディ達の事を口にしたのだが、読みが甘かったわ…。森の中じゃなければ、村人に聞いたりして忙しいけど、ここじゃ、誰もいないから、話を聞く時間がありすぎなのだ。

 彼らの 〝なに〟 を思い出していたのか、なんて聞かれても、〝百面相〟 するほどの事など、すぐには出てこない…。

「え、えーと…その…」

 視線を頭の上で泳がせ、必死になって考えてみる。

 そして、ようやく出てきた言葉は──

「き、昨日のラディの態度…とかね…」

 ──だった。

「ジーネスに、子供のことで声を荒げた…?」

 咄嗟に出てきた言葉だったが、改めて考えてみると、気になっていた事でもあった為、そのまま話を続けてみようと思った。

「うん…。初めて見たもの、あんなラディ。──らしくなかったっていうかさ、別人に思えた」

「そうだね。僕も、あれ以上 言わせられなくて思わず止めてしまったよ」

「あたしも。ヤバ…って思ったから止めようと思ったんだけどね、ネオスのほうが早かったわ。でもさ、子供好きなのは分かるけど、それだけが理由なのかしら、あの態度って…?」

「……う、ん。多分、まだ過去のことが引っ掛かってるんじゃないかな?」

「か…こ…?」

 思いも寄らぬ言葉に、一瞬 思考が停止しそうになった。そんな あたしの態度に、ネオスがハッとする。

「覚え──あ、いや…聞いていない?」

「う、うん…」

「そっか…」

 一瞬、寂しそうな顔をしたというのもあるが、この時のあたしは、ネオスが言い直した言葉に、何の疑問も抱かなかった。

「ラディに…何かあったの?」

「あぁ…うん──」

 言おうか 言おまいか悩んでいたようだが、あたしには分かっていた。

 ネオスという人間は、お喋りじゃない。人の弱点や苦手とすることを簡単に言わないのは、あたしの事に限ったことじゃないのだ。故に、答えは──

「こういう事は、僕が言う事じゃないからね。本人から直接聞くのが一番だと思うよ。ただ、教えてくれるかどうかは分からないけど…」

 ──だった。

 さっき以上に、気にはなったが、ネオスの言い分は正しい。だから、それ以上のことは聞かないし、聞けなかった。

「そうね…。また、機会があったら、それとなく聞いてみるわ」

「…うん。ごめん、なんか また悩みの種を増やしたみたいで…」

「やだ、気にしないでよ。もともと、気になってたことなんだから」

「そう?」

「そうよ。それにさ、ネオスには、いっつもいろんな 〝悩みの種〟 を打ち明けて、気持ちを軽くしてもらってるんだし。一つぐらい増やされても、怒ったりしないって」

「そっか…。なら、安心した」

 ネオスがそう言って、小さく笑ったので、あたしも笑顔で頷いた。

 ──そんな時だった。

 ふいに、何かを感じて、あたしは思わず足を止め、後ろを振り返った。しかし、森の木々や草 以外、気になるものは見当たらなかった。

「──ルフェラ?」

 突然の行動に、ネオスが呼びかけるが、あたしは、それに答えもせず、注意深くゆっくりと辺りを見回してみた。

 しかし、やっぱりと言うべきか、何もない。

「どうかした、ルフェラ?」

「あ、ううん…なんでも…」

 〝なんとなく、誰かに見られてるような…〟 と、言おうとしたのだが、同時にここが森だという事も思い出し、やめた。なぜなら、森には 〝妖精〟 がいるからだ。視線の犯人が妖精なら、ネオスに言ったところで、気付くはずもなければ、見つける事だって不可能なことだからだ。

 あたしは、苦笑いをしながら 再び歩き始めた。

「──それにしても、誰もいないわねぇ?」

 あたしは、数メートル先を歩くルーフィンを追いつつ、辺りを見渡しながら呟いた。

「うん。まぁ、それが当たり前なんだろうけど…」

「そうよね。森の中だもんね…」

「あ…」

「な、なに?」

「今、〝本当に、こんな森の中に彼女がいるのかな…?〟 って、思った?」

「そ、そりゃ──」

「ひょっとして、まだイオータのことを?」

「え…?」

「ほら、イオータにも特別な力があるとかなんとか言って、疑ってただろ?」

「あ、あぁ…その事、ね。──彼は、シロだわ。ジーネスの話を聞いたら、疑ってたことすら忘れてたの、実は。それに、本人から、潔白だっていう根拠を聞かされたしね…」

「そっか…」

 その表情が、なんとなく ホッとしたようにも見えたのは、気のせいだろうか?

「──ねぇ、ネオス?」

「ん…?」

 あたしは、ついさっきルーフィンと話していたことを、ネオスにも聞いてみたいと思った。

「今日のラディたちって、サボってると思う?」

「──それって、ルーフィンを連れて行かなかったから?」

「う、ん…まぁね…」

「そうだね──」

 ネオスは、ほんの少し考えるように視線を上に向けた。そして、何かを確信したかと思うと、再びあたしに視線を移した。

「ラディは…ああ見えて 結構、真面目だったりするからね。多分、サボってないと思うよ」

「そぅ、か…」

 そうよね…。ラディが真面目だっていうのは意外でも、ネオスが その事に気付いていたことには、納得できる…。

「ルフェラ…?」

「え…あ、ごめん…。なんか、あたしだけなんだなぁ…と思ってさ…」

「なにが…?」

「ラディが意外に真面目だって事。あたし、全然 気付かなくて…。数日一緒にいたイオータでさえ、ちゃんと知ってたのに…」

「イオータが…?」

「うん。ハッキリとは言わなかったけどね、ウラを返せば、そういう事だった。──今朝だって、ラディが、ルーフィンを連れて行かないって言った時、すぐに 〝サボるな、こいつわ…〟 って思ったし…。ラディに対して、〝真面目〟 なんて言葉、これっぽっちも浮かんでこなかったもの…」

「もしかして、それが 〝百面相〟 の本当の理由?」

「え…?」

「…図星、だね?」

「…………」

 ネオスがそう言って、いつものような笑みを向けたので、あたしは しょうがないというように、溜め息をついた。

「参ったなぁ…。ネオスには、ウソ付けないわね…」

「それは、違うんじゃないかな…?」

「…どういうこと?」

「つまり、僕に、じゃなくて、ルフェラがウソを付けないだけだと思うよ」

「あたしが…?」

 それこそ意外で、少々驚いた声を出したのだが、ネオスは 〝当然〟 とばかりに無言で頷いた。

 〝そんなわけ…〟 と、咄嗟に頭の中で否定するが、同時に、再びある言葉が脳裏をかすめた。


 〝あんた、時間のムダって言われたことねーか?〟


 あ…ぁ、なるほどね。

 結局、イオータはあたしの性格まで見抜いてたってわけ、か…。

「その、通りかも…」

「まぁ、そこがルフェラのいい所でもあるんだけど?」

「そうかな?」

「もちろん。──だってさ、ルフェラが悩んでるなぁ…ってことが、すぐに分かるだろ?」

「ネオス…それって、すごいレベルの低い話なんじゃない?」

「ははは……そうかも。──でも、そのお蔭で、ルフェラの相談役をかって出れるから、少なくとも僕にとっては、ありがたいんだけどなぁ」

「ネオス…」

 自分のことさえ まともに分かってなかったんだと、落ち込みかけたあたしだったが、冗談とも取れるネオスの言葉を聞いて、不思議なほど気持ちが軽くなっていった。

「……ありがと」

 ネオスは 〝どういたしまして〟 とばかりに、優しく微笑んだ。

「──で、話を元に戻すけど、知らなかったからって、落ち込むことはないと思うよ、ルフェラ」

「え…?」

「僕も、ラディが意外と真面目だっていうのに気付いたのは、ここ最近なんだ。まぁ、思い出した…っていうほうが正しいかもしれないけど…」

「そ…うなの?」

「ああ。旅をするようになってから、ルフェラたちがいない 夜とかに話すことが増えて…それでようやく、ね。普段が普段だから、気付かないのもムリないよ。特に、ルフェラの前では不真面目に振る舞ってるからさ」

「そう…なんだ…」

「うん。──ホント言うと、今朝のことも、ちゃんと理由があるんだ」

「理由…?」

「そう。ルーフィンを連れて行かなかった理由は、自分がサボる為じゃなくて、ルフェラの道案内をさせる為 だったんだよ」

「…どうして?」

「昨日、自分達が森の中を歩いていて、ルーフィンに助けられることが多かったんだって。道もない、木々に囲まれた森では、どこを歩いてるか分からなくなるし、ルーフィンがいたから、無事に帰ってこれたって。だから、ルフェラや僕が森に行く時も、ルーフィンがいたほうがいいって思ってね。それに、ルーフィンは頭がいいから、昨日歩いた場所以外のところに連れて行ってくれるだろう…って考えてのことだったんだ」

「それって、もしかして…?」

「うん。ラディの提案」

「………そ、う」

 ラディがそんなこと考えていたなんて知らなかった…。

「ほ~ら、また、落ち込んでる」

「え…だ、だってさ──」

「言っただろ? 特にルフェラの前では不真面目に振る舞ってるって。それはつまり、ウラを返せば真面目だってことに気付いて欲しくないってこと。ルフェラが気付かないのは当前の事なんだから」

「う…ん…」

「それに、何度も言うようだけど…僕だって、この旅をするまで気付かなかったんだから」

 〝故に、落ち込むことは、全くない〟

 そう、言っているようだった。

「ん…。でもさ、どうして、ラディはホントのこと言わなかったんだろ? 最初から、ルーフィンに道案内させるって言えば、それで済むのに──」

「──ルフェラ?」

「ん…?」

 極々、当たり前の疑問を独り言のように口にしたのだが、ネオスからは意外な言葉が返ってきた。

「意外ついでに、言っちゃうけど、あれで、なかなかテレ屋なんだよ」

「…って、だれが?」

「ラディだよ」

「え…うっそ…?」

「ほんと。だから、ラディが意外と真面目だって分かっても、気付いてないフリしてあげたほうがいいと思うよ。僕もそうするからさ」

「う、うん。分かった。──けど、ホント 意外だなぁ。まぁだ、信じられない…」

「そうだね。僕だって、実際にラディの意外な一面を見るまで…いや、最初は、実際に見ても信じられなかったからね。どっちが本当のラディなんだろうって?」

「そりゃそうよ。あたしだって、絶対、信じられないわよ」

 実感の湧かないあたしは 尚更、ネオスの言葉に同意した。そして、二人で笑ってしまった。

「──でも、大事なことだよね」

 笑い声も収まり、一息つくと、ネオスは静かな口調で呟いた。

「……なにが?」

「こういう 〝意外な一面〟 を発見する事も、自分が知ってるつもりになってたっていう事に気付くのも、さ」

「そう、ね…。でも、その度に、落ち込んじゃうけどね…」

「確かに。だけど、それが、旅の目的のひとつでもあるんじゃないかな?」

「旅の…?」

「うん。〝自分を見つける〟 ってことは 〝自分を知る〟 って事だからね。どれだけ、今までの自分が見えてなかったか…。落ち込むけど、とても大事な経験だよ」

 そこまで言われて、あたしはハッとした。

「自分を見つけるって…そういう事だったの…? あたし、てっきり、表向きの理由だと思ってた…」

「表向き…って…。なんか、ウラばかり読んでるね、さっきから…?」

「あ…」

 ネオスの一言に、あたし達は思わず笑ってしまった。

「あ~あ、あたしの知らないことって、まだまだたくさんあるのね。全て知ってるとは思ってなかったけど、身近なことぐらいは、知らないことなんてないと思ってたわ…」

「そうだね。いつも行ってた森だって、あれほど広いとは思わなかったし──」

「ほ~んと」

「ま、それも いい勉強になったってことで──」

「そうね。そう思うことにするわ」

「うん」

 あたしは、この旅が、単に 〝追い出された〟 わけでなく、ばばさまの言葉どおり 〝自分を見つける為〟 の旅だと分かって、とてもホッとした。

 もっとも、本当の目的がもうひとつあったのだと知るのは、もう少しあとになってからなのだが…。

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