7 身に付けた赤い球の捜索 <1> ※
次の日、あたしは久しぶりに懐かしい気持ちで目を覚ました。
最近、夜中によく聞く騒音で起こされることなく朝を迎え、リズミカルな包丁の音が聞こえてくると、次第に子供達の話し声も耳に届いてきた。そして、食器を並べる音がする頃には、空腹感を思い起こさせるような、いい匂いが漂ってきた。
思い出すのは自分の家。当たり前のようにこんな状況を布団の中で感じていた。今や、その当たり前も、懐かしく、同時に幸せだと思える。あたしはしばらく夢見心地な状態でその幸せに浸っていた。
もう少ししたら起きようと、心の中では決めていたのに、布団の誘惑とはすごいもので、知らぬ間にニ度寝していた。そして、気付いた時には子供達の声もなく、ただ ただ静かな時間だけが流れていた。
あたしはその場で大きく伸びをすると、服を着替え、布団を片付けた。そして、昨日の夜 食事をした部屋に行くと、ちょうど一人の女の子が玄関の戸を開けて入ってくる所だった。
──確か、あの子はシリカ…。
そう思うや否や、シリカはあたしの存在に気付き笑顔を向けた。
「オハヨ、おねえちゃん!!」
「あ…おはよう、シリ──」
「見て、これ? ねぇ、どぅお?」
「え…?」
シリカはあたしの傍に駆け寄ってくると、まん丸の目を向けて そう切り出した。一体何が 〝どう?〟 なのか、すぐには分からなかったが、特に なにかを見せるわけでもなく、ただ、幾度となく頭を振る姿を見てると、ようやく言いたいことが分かってきた。
「可愛いわよ、とっても。他の子には真似できないわね」
「ほんと? 似合ってる?」
「もちろん!」
シリカの笑顔は更に増した。
「ジーネス姉ちゃんもそう言ったの!」
こういう時の同じ言葉は、自信に繋がるようだった。
「あのね、あのね…ジーネス姉ちゃんにしてもらったの。そしたら、二番目のおにいちゃんがやってきて、これ付けたら似合うぞって言って付けてくれたの!」
シリカは、そう言って二番目のおにいちゃんに付けてもらった髪飾りを指さした。
「ほんとの花なんだよ。お外に行って採ってきてくれた」
「そう、よかったわね」
「うん!」
シリカは髪の毛を二つに分けて、耳の上の方で結んでいた。その結び目の所に本物の花を髪飾りとして付けていたのだ。
──にしても、二番目って誰のことだ…?
「…それで、ジーネスはどこに行ったのかな?」
とりあえず話が一段落した為、あたしは新たな質問をしてみた。
「ジーネス姉ちゃんはお仕事…畑に行ったよ。それから二番目のおにいちゃんは散歩でぇ、一番目のおにいちゃんはワンちゃんとお散歩…それから、三番目のおにいちゃんは…えっと、えっとぉ…まだ、寝てる!」
「そ、そう…」
誰が一番目で誰が二番目か…名前こそ出てこないものの、今の会話で充分 分かった気がした…。
「おねえちゃん、ご飯あるよ。一緒に食べよ?」
「あ、うん…」
小さな手に引っ張られ台所に行くと、シリカはオタマを取って鍋の蓋を開けた。彼女にとって台所の台は少し高く、つま先で立たないと鍋の中身が見えないぐらいだ。あたしは、フラフラしながらも つま先立ちで一生懸命用意をしている彼女の姿を見て、素直な気持ちで頭をなでてしまった。
「シリカ、ありがとね。あとはあたしがやるから。もしよかったら、ラディ…三番目のおにいちゃん起してきてくれないかな?」
「うん、いいよ!」
オタマと笑顔をあたしにくれたシリカは、バタバタと足音をたててラディの部屋に向かっていった。
今まで 〝こうしなきゃいけないんだろうな…〟 とか、〝こうすればいいのかな…〟 と、考えながら子供と接していたあたしにとって、こんなにも自然に手や言葉が出るとは思ってもみなかったことだ。子供が苦手なあたしにとっては不思議な事だったが、その反面、心のどこかが温かくなったのも事実だった。
しばらくして、机の上にすべての食事が並ぶと、ようやくラディの声も聞こえてきた。
「ほら、おにいちゃん。早く、ゴハンだよぉ~」
「あぁ~」
まだ寝たりないのか、ラディはシリカに手を引っ張られ、歩いてきた。当然のことながら、目は閉じている…。同時に、タイミングよく散歩に行っていたネオス達も戻ってきた。
「ただい、ま…」
あたしが起きているとは思わなかったのか、そう言ったネオスは一瞬 驚いた顔をした。
「お帰り──って、どうしたのその汚れ?」
散歩に行ってたはずのネオスとイオータは、いつぞやのラディと同じく土にまみれていた。
「あ…その…」
「散歩なのよね!?」
思わず確認してしまう…。
「あ、ああ…」
「取っ組み合いしたんだよ。な、ネオス?」
「え…!?」
イオータの思わぬ返答に、今度は あたしが驚いた。
「あんたとネオスが!?」
「まさか。コイツとだよ」
イオータはそう言って足元を指さした。言われるがままあたしの視線も彼の足元に移る。だけど、その事実にはもっと驚いた。
「ルーフィンが!?」
「ああ」
「ア、アハ…冗談はやめてよね。それこそ 〝まさか〟 よ」
「おいおい、信じねーってのか?」
「だって、あり得ないもの」
「なんでだ?」
「だって、ルーフィンはいつも冷静沈着なのよ。少しくらいジャレたりする事があっても、取っ組み合いなんか──」
「──まるで人間だな」
「え!?」
その言葉に一瞬、ドキッとした。
「 〝冷静沈着〟 っつー言葉は、フツー、人間に使うもんだろ?」
「え…あ…そ、そうかもしれないけど…別にいいじゃない、誰に使ったって。だいたい、ルーフィンとは物心ついた時から一緒にいるけど、一度だって取っ組み合いになったことなんかないわよ」
「今までがそうだからって、絶対とは言い切れねーだろ?」
「…………」
「それによ、一日中あんたと一緒にいるわけじゃねーんだし、あんたの知らねー所では案外ハメ外してたりするかもよ。それに、取っ組み合いする相手がいなかったか、あるいはそういう遊びをしなかっただっけっつーこともあんだろーが?」
「そりゃ…」
イオータのまともな意見に、あたしはそれ以上の言葉を見つけられなかった。
「──にしても、なかなか激しかったんだぜ。なぁ、ネオス?」
「あ? ああ…」
「ま、最初はちょっかい出してもノッてこなかったんだけどよ、挑発していくうちにテンションも上がってきて、あっちゅーまにタックルの連続よ。そのうちネオスにも飛びかかっちまって…いやぁー、いい汗かいたぜ、なぁ。──お前も楽しかっただろ、ん?」
イオータはそう言って、ルーフィンの頭を両手でワシャワシャと挟み撫でした。
イオータの言う事がすべてウソだとは言い切れない。だって、彼の言う通り、丸一日ずっと一緒にいるのはここ最近の事だし、今まで そういう遊びをしたことがないのも事実だからだ。だけど、やっぱり信じられない。──ううん、というより、ルーフィンがネオスに飛びかかるなんてことが想像つかないのだ。
仕方ない…ここはもう──
「確かめるしかないわね…」
「なに!?」
「え…!?」
イオータが驚きの声をあげた時、反射的にあたしも声をあげていた。
「確かめるって、どうやってだ?」
「え…? あ…」
しまった…!
あとでルーフィンに聞いて確かめようと思ったこと、つい口にしてた…。
「あ…だからその──」
「まさか、あんたが取っ組み合いすんじゃねーだろーな?」
「え…?」
確かめる別の方法が思いつかず口ごもるあたしに、イオータから発せられた その答えは、とてもありがたいものだった。
「そ、そうよ。それが手っ取りばやいでしょ…」
「あ…いや、でも…やめた方がいいと思うぜ?」
「なんでよ?」
「だから…」
不思議なことに、今度はイオータのほうが口ごもってしまった。
「あ…ほ、ほんとに、激しいから…危ないよ、ルフェラ」
「…そ、そうそう。その通りだぜ。──あ…ほら これ見てみろよ。この傷なんか、コイツの爪で引っかいちまってよ…思ったより すんげー鋭い爪してんだ、これが。しかも、こういう傷は結構 痛いんだぜ。それから ここは噛みつかれて──」
「…………」
ネオスの助け舟に、まんまと乗ったという感じの、このイオータの態度…。絶対、怪しい…。でも、まぁ、これ以上 つつき合いしてると、あたしもボロが出しそうだし…。
「──分かったわよ。分かったから、手 洗ってきて。あたしたちは、先に食べてるからね」
「お? おお、了解!」
イオータは少し安心したかのように軽く返事をすると、ネオスと共に手洗い場へと向かった。そしてあたしが小さな溜息をついた時だった。
「だぁめぇ~」
いきなり制する声が飛んできて、咄嗟に後ろを振り返った。
「いいじゃねーか。ルフェラも 〝先に食べてる〟 って言ったんだぜぇ?」
あんなにも眠たげ…というか、寝ながら歩いていたラディが、目の前の食事を目にした途端、意識が鮮明になったらしい。今や箸を持ってお皿に手を伸ばそうとしている腕を、必死になってシリカが引っ張っていたのだ。
「おねえちゃんと一緒に食べるのぉー」
「あ~、分かったよぉ。ルフェラぁ、早く箸 持ってくれ…オレ、もう死にそ~」
ラディはそう言うと、反対の手で箸を掴みあたしに突き出した。
食事するだけなのに、こんな必死な顔するなんて…そう思うと、苦笑する他なかった。
「ルフェラぁ、なに笑ってんだよぉ」
「え…べ、別に。──それじゃ、食べようか?」
「おう!」
あたしがラディから箸を受け取り机の前に座ると、ようやくシリカも掴んでいた手を離した。
「いっただきぃ~す!!」
「いただきまぁす」
昨日の夜とは大違いで、今朝の食事は出だし緩やかだった。ところがイオータが戻ってくるなり、一気にペースが速まった…。
「おねえちゃん達は、いつまでここにいるの?」
「え…?」
空腹を満たそうと黙々と食べていた最中、突然シリカからの質問があった。しかも難しい…。
「そ、そうねぇ──」
「あのね、ジーネス姉ちゃんが言ってたの。〝いつまでいるのかなぁ…〟 って聞いたら、〝今日、出て行っちゃうかもしれないし、明日かもしれない〟 って。それ、本当?」
「あ…うん…どうかな…?」
「シリカ、もっといてほしいなぁ。そしたら、いっぱい…いぃ~っぱい、おにいちゃん達とも遊べるし、おうちで待ってても、みんな寂しくないもん…」
「みんな…?」
「うん」
「そーいや、他の連中はどーしたんだ? 一緒に朝メシ 食わねーのか?」
〝みんな〟 と聞き、今更になって他の子供達がいない事に気付くラディ…。
「みんな、お仕事だよ」
「お仕事ぉ?」
「うん。いろんなお仕事。ジーネス姉ちゃんと一緒に畑に行ったり、お魚さん採りに行ったり、それから…木を拾ってきたり、いろいろ…」
「へぇー、エライんだな。──で、シリカはなんの仕事だ?」
「シリカは お留守番してるの」
「留守番?」
「うん。でも、明日はお仕事だよ」
「………?」
「あのね…順番なの。畑に行ったり、お魚 採ったり、お留守番したりするのは、みんな順番にまわっていくんだよ。それで、シリカは、今日お留守番する日なの」
「はぁ、なるほどな。エライな、シリカも」
その一言で、シリカは満面の笑みを浮かべた。そして、しばらくすると一番知りたかったであろう答えを聞かぬまま、食事が終わってしまった。
お世話になっている事もあり、食事の後片付けぐらいは自分がしようと動き出したのだが、シリカはあたしの手から茶碗を持っていくと、ぎこちないままにもチャキチャキと片付け始めた。その姿は、どう見ても楽しんでいるように見える。〝片付けなければ…〟 という思いではなく、仕事を与えられているという喜びを感じているようなのだ。
あたしは ふと、自分の事を思い返していた。ケルプ実を収穫する事が、あたしの仕事だった。その仕事は、別に嫌いじゃなかったけど、少なくとも、彼女のように楽しんではいなかったように思う。確かに、最初の頃は大人の後をついてまわっているだけでつまらなかったけど、そのうち一人任せられるようになった時は、認められたんだという実感と責任で、嬉しい気持ちと同時にすごく張り切っていたはず。そう、今のシリカのように、毎日が楽しかったのだ。それがいつしか、幾度となく繰り返されてる毎日を、やらなきゃいけない仕事としてこなしていくようになった。今は、あの村に戻ってケルプ実を収穫する事はできないけど、もしできたなら、当たり前のよう過ごしていた毎日が、実は幸せなことなんだと自覚して、あの仕事を楽しみたいな…。
あたしはシリカの後姿を眺めながらそんな事を思い、同時に、仕事の邪魔をしないよう心に決めた。
そんな時、台所で仕事にとりかかったシリカを確認したイオータが、タイミングを見計らったように本題を切り出した。
「──で、どーするよ、これから?」
それは、昨日のうちに話しておくべきことだった。
食後というのもあり、それまでリラックスしていたあたしは、その一言で背筋を伸ばした。両手を後ろにつき、足を投げ出していたラディも、思わず身を乗り出す。
「どうやって、赤守球を見つけ出す?」
姿勢を正し、話し合うつもりだったが、イオータの質問に答えるものはおらず、彼は再び言葉を変えて問いかけた。しかし、質問内容が変わったところで、求める答えは同じなため、無言の状態が続いてしまう。そんな中、楽観的…というか、何も考えてないであろうラディの声が隣で聞こえてきた。
「聞けばいーじゃねーか」
それはまるで、〝簡単だろ? 何をそんなに難しく考えることがあるんだ?〟 とでも言いたげな顔だった。そして、〝そうだろ?〟 と付けたしながら、あたしたちの顔をグルッと見渡すラディに対し、あたしたちは一様に同じ態度を表した…。
「な、なに…溜息ついてんだよ!? なぁ、ルフェ──」
「あんたはどー思う?」
理解できないラディの言葉を遮って、イオータが続く。
「……あたしは…正直、分からない…のよね」
無責任な答えだと自分でも思ったが、分からないことをもっともらしく言うなんてこと、このあたしにはできるはずもなく、結局、呆れられるのを覚悟でそう言った。ところが、イオータはそんなあたしをほんの数秒見ていたものの、呆れたり怒ったりするどころか、表情ひとつ変えずに、視線をネオスへと移してしまったのだ。
一方 ネオスは、目を伏せて無言のまま首を横に振る…。
せめて、自分と同じ 最年長のネオスからは、何かしらの方法が聞けるかも…という期待があったのだろうか、彼の無言の答えに、イオータは小さな溜息をついた。
そんなイオータに、ネオスが聞き返す。
「イオータ…君はどうなんだい?」
「オレか? オレは見ての通りさ。分かってたら質問する側になんかならねーよ」
なるほど、表情ひとつ変えなかったわけだ…。
「──そう、か」
「お、おい…ちょっと待てよ。なんなんだよ、その 〝そうか〟 っつー言葉は!?」
溜息をつかれた理由も分からず、言葉少なに交わした会話が 〝そうか〟 で締めくくられたうえに(別に、それで話し合いを終えたつもりは、あたし達にはないんだけど…)、自分だけついていけない焦りからか、ラディは少々苛立った口調で待ったをかけた。
「だいたい、なんで分かんねーんだよ? さっきも言ったじゃねーか、聞けばいいってよ。それに、ルフェラだって言っただろ? 見つけ出してみせるって。オレ、ちゃんと聞いたんだぜ、カイゼルに話してるのをよぉ。アレは、なにか考えがあったからじゃねーのか?」
「…ないわよ」
「ない…って、おまっ…。じゃぁ、なんであんなこと言ったんだよ!?」
「仕方ないでしょ。あの状況では、ああ言うしかなかったんだから──」
「けどよ、できねーことをできるっつったら──」
「じゃぁ、あんたは言えるわけ!?」
なにも考えず批判するラディに、あたしは怒りが一気に湧き上がってきた。
「何とかしたくてもできなくて、ずっと悩んでた彼女が、勇気を出してあたし達に話したのよ。もし…本当に、黒風が盗まれた赤守球によって呼び起こされてるものだとしたら 尚更、村を治めてる者にとって、そんな失態を他人に話そうなんて思う? たとえ、ミュエリを助ける情報というのが表向きの理由だとしても、あたし達はただの旅人なのよ。──でも、彼女は話してくれた。これがどういう意味を持ってるか分かってんの!? ほんの僅かな希望を…もしかしたら何とかできるかもしれないっていう希望を、あたし達に抱いたからじゃない! そんな彼女達に、どういう顔して 〝できない〟 って言えるのよ!?」
「あ…そ、そうだな…。オレが…悪かったよ、悪かったから…。な、そう、怒んなって──」
怒りで急速に体が熱くなり、それによって、めぐり巡った血が勢いよく脳に到達した。普段 行き届かないところまで血が通うと、眠っていた脳細胞も活発に動き出すのか、気が付けば、あたしは言いたいことを噛みもせず一気に吐き出していた。そのうえ、タイミングよく ラディから 〝悪かった〟 という言葉が聞かれたためか、あたしの怒りや興奮は不思議なほどスッーと引いてしまった。
「──だったらよぉ、やっぱ、オレが言うように聞いてまわればいいんじゃねーのか?」
「ダメよ」
〝見つける方法が誰も思いつかないのなら、これしかないだろ?〟 と言うラディに、あたしは即答した。
「なんで?」
「あたし達が赤守球を探してるってことは、この村の人にバレちゃいけないの」
「…なんで…なんでだよ!?」
あたし一人だけならまだしも、他の二人までもがその言葉に頷き、ラディは更に理解できなくなったのか、あたし達の顔を何度となく覗き込んだ。
「もしあの黒風が、ホントに赤守球の仕業だったとして、なんでそういうことをするのかは分からないけど、少なくとも、持ち主は赤守球を盗られたくないって思うでしょ?」
「あ、ああ…」
「という事はよ、盗られたくない物を誰かが狙ってるとしたら、今以上に黒風を呼び出してその誰かを襲ってくる可能性が高い。それに、赤守球はリヴィアの村から持ち出されたのよ。普通に考えれば、彼女の村の人間が取り戻しにきたと思うでしょうね。となると、彼女の村が襲われるのは目に見えてる…分かる?」
「フム…なるほど、そういう事か。──じゃぁ、これからどーすんだよ?」
「だから、それを今 話し合ってんでしょーが」
「ああ、そうか、そうだな」
ようやくあたし達の話し合いのレベルまで到達して、方法が見つからないことが分かったからか、ラディはそう言ったきり黙ってしまった。
しかし──
「じゃぁ、こーゆーのはどうだ?」
途端に何か閃いたのか 〝これは絶対に名案だ!〟 とでも訴えるかのように、彼は目を輝かせた。そして更に続ける。
「家に忍び込んで探すんだよ」
〝な、いいアイデアだろ?〟 と自信ありげに付け足すラディに、あたし達の反応はまたもや溜息しか出てこなかった。
「な、なんだよ、その溜息は──」
「あんた、それ本気で言ってんじゃないわよね?」
「マジに決まってんだろ。なんだよ、何が気にくわねーんだ!?」
「どうやってバレずに忍び込むのよ? しかも、分かってんの、一軒や二軒じゃないんだからね!?」
「分かってるさ。だからよぉ、オレたちが一人一人バラバラで泊まらせてもらって、その夜に家ん中 調べれば、案外簡単に見つかるんじゃねーか? まぁ、その間、オレと離れ離れになっちまうから寂しいかもしれねーけどよ、それもしばらくの間で──」
「ムリよ」
話が少しづつズレていった為、あたしは最後まで言わせないよう、即 否定した。
「なんで──」
「初めて入る家の中を人に気付かれずに探すなんてできっこない。少しでも怪しまれたら、途端に 〝泥棒だ〟 って村中に知れ渡って、泊まらせてもらうどころじゃないのよ。それに、そうなったら、この村から追い出されるだろうし、最悪、リヴィアの村が襲われることも覚悟しないと…」
「チェー!! いいアイデアだと思ったんだけどなぁー。盗られたくないっつーもんなら大事なもんだし、そーゆーのって、案外みんなおんなじ所に隠してたりするもんだろ? だから、そーゆー所を探しゃすぐ見つかると思ったのによぉ…」
「甘いわよ。見落としてたら何にもなんないし、ましてや当てずっぽうなんて…。だいたい、一日一件だなんて時間のかかりすぎよ。それに──」
と、そこまで言うと、あたしは 〝ハッ〟 として、その後の言葉を飲みこんだ。
「それに…なんだよ?」
「え…あ、ううん。何でもない」
あたしは慌てて首を振る。
「なんでもないわけねーだろ? 言いかけたんなら最後まで言えよ。気になって集中できねーじゃねーか」
「ホントよ。ホントに、何でもないから」
「い~や、絶対なんか──」
「〝あたしが襲われる前になんとかしなきゃ〟 だろ?」
ボソッと呟いたイオータの一言に、あたしはギクッとした。
「え…マジ…!?」
「あ…」
「そうなんだろ?」
「あ…だから…その──」
「は、はは…お前、そんなこと心配してたのか? 大丈夫だよ、そんなことはさせねーから」
「そんな保障、どこにあんのよ?」
「ほ、保障はねーけどよ…。大丈夫だって、マジでオレが守ってやっから。な、そのためにオレは──」
そこまで言うと、まずいことを言ったかのように、あたしと同じように黙ってしまった。
「なによ、そのためになんなの?」
「あ…? いや…まぁ、なんだ。オレを信用しろって事だ、な」
ラディは 〝任せとけ〟 というように親指を立ててウィンクした。
「…………」
──ったく、一番信用ならないのがあんただって、何度言ったら分かるんだろ…。
あたしは、またひとつ、さっきから同じような溜息をついた。
肝心の 〝話し合い〟 は、名案が浮かばず、なかなか進まない。最初は自分でも考えようとしたが、本当に何も浮かんでこないのだ。しまいには考えることさえやめてしまいそうになる…。
そんな、諦めムード漂う沈黙の中、仕事を終えたシリカが満足げな顔で戻ってきた。一瞬、この場の異様な雰囲気に足を止めそうになったが、ネオスを見るなり惹き付けられるように駆け寄って行った。そして、口を開く。
「おにいちゃんの、キレイね。何のお守りなの?」
その言葉に、あたし達は一斉に彼女の方を見た。
〝いったい何のこと?〟
これがみんなの気持ちだ。もちろん、ネオスも何を言われてるのか分からず、キョトンとしている。
「なんの事だ、シリカ?」
代わりに質問したのはイオータだった。
「これ…お守りでしょ? シリカも持ってるんだよ、ほら」
そう言ったシリカは、ネオスの首を指差したのち、自分の首にかかっていた紐を両方の手で引っ張り出すと、そのお守りとやらを見せてくれた。
「へぇ…いーもん持ってんな。──で、何のお守りなんだ?」
今度はラディが質問した。
「んっとね…病気やケガをしないようにだよ。ジーネス姉ちゃんに貰ったの。あのね、この袋の中には小さな小さな神様が住んでて、一緒にいると、シリカを守ってくれるんだって。だから、シリカ、失くさないように首からぶら下げてるの。よく 失くすから、ジーネス姉ちゃんがそうしなさいって。おにいちゃんもそうなんでしょ?」
「え…? あ…いや…」
「でも、本当に、キレイね。こんなにキレイなお守り見るの、シリカは初めてだな…」
シリカの耳はすでにネオスの言葉を聞き入れなくなっていた。ネオスの首から見えるキラキラした鎖をうっとり見つめているのだ。
一方、あたしはというと、彼女が喋るたびに思考能力を包んでいた霧が晴れていく気がしていた。そして今、その霧がなくなり、彼女の言葉がヒントとなって作られた案を、ハッキリと口にする事ができるようにまでなった。──そう、閃いたのだ。
その閃きはネオスやイオータも同じだったようで、あたしと目が合うなり、深く頷いたのだ。ラディはネオスの首にかかっている物がお守りではなく 〝想いの石〟 であることをシリカに説明していたが、あたし達の頷きに気付くや否や、またしても自分だけのけ者にされたという不満を訴え始めた。
「なんだよ、また オレだけ のけ者か!?」
「別にそんなことしてないわよ」
「い~や、絶対 のけ者にしてる!」
「してないってば!」
「してる!」
「してない!!」
「じゃぁ、なんで三人だけで頷いてんだよ?」
「名案が浮かんだからよ」
「ほらな。やっぱ、そーじゃねーか」
「何がよ?」
「その名案とやらを三人で話してたんだろ? オレが 〝想いの石〟 を説明してる間によ」
「だから、話してないし、のけ者にもしてないって言ってるでしょーが!」
「ウソだね! 話もしないで頷けるわけねーだろ? テレパシーがあるわけじゃねーんだしよ──」
「しつっこいわね、あんたも。名案は浮かんだけど、それはネオス達も同じだったのよ。内容は話してないけど、今までの会話から閃いた事はきっと同じよ。だいたい、な~んにも浮かばなかったあんたの脳みそがどーかしてんじゃないの!? あたし達に文句を言う前に、自分のノータリンを責めなさいよね!」
「ノ…ノータ…!?」
それまで、〝のけ者にされた〟 という、いわば 被害者的な立場でモノを言っていたラディは、〝自分が悪いんだ〟 という思ってもみなかったあたしの言葉に、かなりのダメージを受けたようだった。ところが 〝ノータリン…ノータリンだって…!?〟 と何度も呟くラディの隣では、イオータが面白そうに口を挟む…。
「お~ぉ、出たねぇ、キッツイお言葉が」
「──悪かったわね、キツくて」
あたしはそんなイオータをキッと睨みつけた。
「い~やぁ、別に悪かねーさ。どっちかってーと、オレは結構スキな方だぜ、そーいうキツイ所」
「あ~、そう。ありがとね」
──嫌味か、こいつわ…。
「あ…いや、ちょっと待てよ?」
「何よ?」
「っつーかぁ、おもしれーんだよな、あんたの言葉って」
「はぁ!?」
「言葉はキツイけど、しっかりと的を射てるしよ。なんてったって、いいタイミングと独特の言いまわしで突っ込むから、笑っちまうんだよな、これが」
「それって、褒めてんの? けなしてんの?」
「褒めてるに決まってんだろ? ──なんだぁ、そんな気がしないとでもゆーのか?」
「少なくとも、嬉しい気持ちにはなんないわね」
「そうか、それは残念だ」
「…………」
あまりにも普通の顔でそう答えるもんだから、あたしには彼の言ってる事が冗談か本気か判断できなかった。
「ま、余談はこのっくらいにしてよ…話を元に戻そうぜ?」
余談…ね。
〝あんたのその態度が、尚更、不理解野郎と呼ぶのに相応しいわ…〟 と言ってやりたい気持ちは山々だったが、これ以上、余談を増やして、時間をムダにするのも大人気ないわよね…と思うと、喉の所まで出かかっていたその言葉を飲み込むことにした。そして、未だに 〝そうさ、どうせオレはノータリンだ…〟 とイジけてるラディに視線を移すと、彼の顔を両手で挟み込み、強制的にあたしの方を向かせた。
「いい、ラディ。これから本題に入るから、よっく聞いてなさいよ!」
「…あ? ああ…」
「──じゃぁ、あたしから言うわね。結論から言えば、それと同じ物を探そうと思ってるんだけど、どう?」
あたしはそう言って、シリカがしたのと同じように、ネオスの首を指さし、ネオスやイオータに問いかけた。
「ああ、異議なしだぜ」
「僕も、〝右に同じく〟 だよ」
「そう、よかった」
「え!? あ…おい、ちょっと待てよ。だから、三人だけで納得するなって。オレは異議どころか理解できてねーんだぜ──」
〝よく聞いてなさいよ〟 と言われて、一字一句聞き逃すまいと、全神経を耳に集中させていたようだが、聞こえてきた短い結論さえ理解できなかったラディは、納得するあたし達の顔をキョロキョロと見つめ焦っていた。
一方 あたしは、自分の考えたことが予想だけでなく、他の二人が考えたことと同じだという事が分かって少しホッとしていた。
「大丈夫よ、ラディ。ちゃんと説明するから」
「おお~、頼む。してくれ!!」
「──いい? 赤守球を手に入れた者は、取り戻されたくない…つまり、盗られたくないって思ってるのよね?」
「ああ…」
「──という事は、盗られない為にどうするかってことを考えればいいのよ。そうすれば、おのずとその方法が見つかるの」
「だからぁ、隠すんだろ? フツーは…」
「確かに、それもひとつの方法よ。でも、この場合は違う。大事な物だからこそ、一番安全な方法を選ぶのよ」
「分け…わかんねーよ…」
「──お守りよ」
「はぁ?」
「お守り。大事な物なら、自分で持ってる方が、より安全だと思わない? 家のどこかに隠したって、盗まれたらどうしよう…っていう不安は残るでしょ? 家を留守にするなら尚更、その不安も大きくなるし、実際 盗まれたら意味がない。だけど、自分で持っていれば、盗まれることもないだろうし、常に持っているということも確認できるのよ。それに、いつでもその赤守球から黒風を呼び起こす事だってできるしね」
「なる…ほど…」
あたしの言ってることが少しづつ理解できてきたのか、ラディの顔からは焦りの色が消えてきた。
「あ…でもよ、肝心の方法はどーすんだよ? そいつが、いつも持ってるって分かったところでよ、本人を見つける方法がわかんねーなら意味ねーんじゃねーのか? ポケットの中に手、突っ込んで調べるわけにはいかねーし──」
「だから、〝お守り〟 なのよ」
「……?」
「いくら、本人が持ってたって、ポケットに入れたり手で持ってたりするワケないでしょ。落としたらなんにもなんないんだから」
「じゃぁ、どうやって──」
「さっき、シリカが言ったでしょ。〝失くさないように首からぶら下げてる〟 って」
「あ、ああ…! そうか!!」
「そうよ、分かった?」
「ま…ぁな。──けど、首からぶら下げてる奴なら、他にもいっぱいいるんじゃねーのか?」
「だから、ネオスと同じ物を探すのよ」
「……?」
「いい? ──リヴィアに金守球を見せてもらった時、彼女も首にかけてたのよ。ネオスと同じような銀の鎖についた金守球をね。それに、シリカはこうも言ったでしょ。〝こんなキレイなお守り見るのはシリカは初めて〟 って」
「そ…うか。だから、銀色の鎖を首からぶら下げてる奴を捜しゃいいって事なんだな?」
「そうよ。ようやく、本当に分かったみたいね」
「おう!」
「よかった…」
「──あ、あれ…? けどよ…」
「な…によ、まだなんかあんの?」
「いや、その…よ、もし、その鎖が外されて、代わりに紐がつけられてたらどーすんだ?」
「それも、たぶん大丈夫よ」
「なんでだ?」
「気付かなかった? リヴィアがしてた金守球の鎖は留め金がなかったのよ。一連の鎖だった…。つまり、あの守球から鎖を外すことはできないの。何かで切らない限りはね」
「そ…うか。お前、よく見てたな」
「まぁ…ね…」
「さすが、オレのルフェラだ!」
見つける方法も、その根拠も分かり、ラディはいつもの調子を取り戻した。
「オレの…は余計よ」
「──ンな事あるかぁ。大事な言葉じゃねーか。なぁ、シリカ?」
ラディはそう言ってシリカに同意を求めた。
しかし──
「シリカ…よく分かんない…」
「そ…そうか…?」
「ごめんね、おにいちゃん」
普通ならムシしても構わないようなラディの言葉に、シリカは律儀にも謝った。
「いや、謝るこたぁねーぞ。そのうちシリカにも分かる時がくるからな」
「ほんと?」
「ああ、もちろんだ」
「じゃぁ、〝ノータリン〟 も?」
「な、なに!?」
それまで 〝おにいちゃん〟 らしい口調だったラディは、シリカのその一言で一変した。もちろんあたし達も、思わぬ質問に驚き、表情が固まる…。
「シリカ…ノータリンも分からないの。でも、それも分かるようになるかな?」
シリカにとっては分からないことを素直に質問しただけに過ぎず、もちろん、悪気なんてない。それは彼女の真剣な目を見れば分かることなのだが、ラディにとっては、かなり厳しい質問だった…。
「あ…いや…それは分かるようにはなる…けど……別に分かんなくてもいいぞ…」
「どうして…?」
「どうしてってか…? あ~、だからよ、その…なんだ…」
「…………」
「つ、つまりだなぁ──」
不思議そうに見上げるシリカに対し、助けを求める彼の視線はあたしに注がれた。
「──言い訳が見つからないなら素直に教えてやれば?」
「だぁー!! なんで、お前はそーやっていつも、オレをイジメるんだよ!?」
「──さぁ?」
追い討ちをかけたうえに、からかい半分で肩をすくめる。
「ルフェラァ──」
「ダメよ。そんな声出して、肝心の質問をそらそうとしても!」
「うっ……」
浅はかな考えが見抜かれ、途端に言葉に詰まる。そんな彼を見かねたのか、再びイオータが口を挟んだ。
「──まぁ、早い話が、その言葉を使わずに済むんなら、それにこしたこはねーって事さ。使う必要もなけりゃ、知る必要もねーんだしな。それに、言わずに済むんなら自分も幸せってことだしよ。──だろ?」
前半はラディに、後半はあたしに視線を合わせた。
上手い話術(?)だ…。
少なくともラディは、視線を合わせなかった後半の理由を気にする事はない。つまり、再び言い合いする事を避けられるのだ…。案の定、彼の話術にはまった、単純頭のラディは満足げに頷き、シリカに最後の言葉をかけた。
「──そういう事だ、シリカ。分かったか?」
「……ふぅ~ん…」
明らかに理解してないと分かる 〝ふ~ん〟 だったが、話をそらしたかったラディにとっては、ありがたい返事だったようだ。
「よし! じゃぁ、仕事にとりかかろうぜ!」
とにもかくにも、自分の窮地(?)を脱してホッとしたのも束の間、新たな質問が来ないうちに退散した方がいいと思ったのだろう。両膝を叩いて立ち上がると、まるでこの場から逃げるように出て行ってしまった。
──ったく、な~にが、〝よし!〟 よ!?
相変わらず、単純・おバカな頭なんだから…。
情けなくて言葉もでないあたしたちは、苦笑いだけ残し、立ち上がった。
すると、それまでラディが出ていった扉を見つめていたシリカが、あたしたちの動きに気付き、振り返る。
「お仕事…あるの?」
なんとも、まぁ、寂しそうな目をするんだ、この子は…。
「みんな行っちゃうの…?」
「ああ。ちょっと、失くし物を探しに、な」
「じゃぁ、シリカも探す…」
「え…?」
「シリカも一緒に探すから連れてって?」
「あ~、いやそれは…」
「何を探せばいいの?」
今まで散々 〝お守りを探す〟 と話していた事を、シリカは聞いてなかったようだ。
それほどネオスの鎖が気になっていたのだろうか…? あんなにすぐそばで話していたのに…。
ああ、やっぱり、子供の頭はよく分からん…。ヘタすりゃ、ラディより分からないわ…。
「ねぇ、ダメ…?」
「…………」
今度はラディと同じような境遇に立たされてしまったイオータ。
子供は純粋な気持ちがある分、約束事は守ろうとする。今回の場合、その約束というのが赤守球を探していることを黙っているということなのだが、言っちゃいけないと言われてる事を隠そうとするあまり、会話がぎこちなくなったり、ついつい喋ってしまうというのも、また、純粋な気持ちを持つ子供なのだ。もちろん悪気がない事も分かっている。
ただ、そういう事を知っている以上、一緒に連れていかない方が賢明だと思っているイオータだからこそ、言い訳を考えているのだろう。
と、イオータが言い訳に困っているという事が分かったところで、子供との会話が苦手なあたしに助けを求められても、非常に困るため、敢えて目を合わせないようにしたのだが…。
そんな時、ずっと黙っていたネオスがシリカの両手を取って、目の前で座り込んだ。そして優しい口調で話しかけた。
「──シリカ、ごめんね。僕たちが探す物はとっても大事な物なんだ。シリカが手伝うって言ってくれるのは本当に嬉しいけど、大事な物だからこそ、自分達の手で探したいんだよ。分かるかな?」
「…………」
「例えば、シリカの大好きなジーネスが迷子になったら、みんなで一斉に捜し始めるだろ?」
シリカは俯き加減で小さく頷いた。
「でも、誰よりも早く、自分がお姉ちゃんを見つけ出したいって思わないかい?」
「……お…もう…」
「だよね? だって、大好きなお姉ちゃんだもんね」
今度は大きく頷く。
「僕たちが探してる物も、それくらい大事な物なんだ」
シリカは、ネオスの言うことをジッと聞いていた。
彼女にとってのジーネスの大切さと、あたしたちにとっての赤守球の大切さは、ハッキリ言って比べられるものじゃないと思う。それはジーネスの大切さが勝ってるとか劣ってるとかという問題じゃなく、ただ、幼いシリカに分かりやすく説明する為の例え話に過ぎないのだ。それに赤守球は、あたしたちにとって大切なものというより重要なものといった方が正しいだろう。
それでも、シリカはその小さな胸で、ネオスの言葉を一生懸命 理解しようとしていた。それこそ、はじめのうちは納得しきれず…というよりは納得したくなくて体を左右に振っていたが、ネオスの瞳から伝わってくる想いを彼女なりに受けとめたようで、最後は笑顔で頷いていた。
「…分かった。シリカ、いい子でお留守番してる。でも、早く帰ってきてね。約束だよ」
「うん、分かった。早く帰れるように、一生懸命探してくるよ」
我を通さず納得してくれた彼女の頭を撫でると、ネオスは更なる笑顔を向けた。そしてつられるように彼女の顔も明るくなる。そんな彼女を見て、あたしたちはホッと胸を撫で下ろしていた。
「じゃぁ、行ってくるよ」
「うん。気を付けてね!」
シリカはそう言うと、赤守球を探しにいくあたし達を見送った。