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女神伝説  作者: Sugary
第三章
20/127

4 黒風の謎と推測 <2>

 あたし達はミュエリの代わりに加わったイオータと共に、昨日 食べに行った店へと向かった。あまり人の出歩く姿を見なかった昼間の状況が特別なのか、それとも、自分の歩く前さえもろくに見えない普段の状況が特別なのか、自分の村しか知らないあたしにとっては判断しがたいことだ。だけど、あふれんばかりの人が行き交うサマを見てると、昼間の状況が夢だったんじゃないかと思えてくる…。そのうえ、ひと一人がさらわれたっていうのに、何事もなかったような村人の態度を見てると、余計そう思えてくるのだ。

 あたしは、ふと 〝皆さん、同じですから〟 というカイゼルの言葉を思い出した。 あの言葉は、結局 〝いつものこと〟 ということだった。

 毎日の事でこういう事でさえ村人は慣れてしまったのだろうか…。だとしたら、なんか悲しい…。

 あたしはすれ違う村人の表情を見てるうち、だんだん気持ちがブルーになっていった。

「ルフェラ…?」

 ふいに肩をたたかれ少々ビックリしたが、同時に聞こえたネオスの声で後ろを振り返った。

「え…なに…?」

「前…」

 目が合うや否や、それだけ言うと、反対の手で前方を指さした。何かあるのかと思い再び前を見たのだが、ちょうどその時、今の今まで すぐ前を歩いていたラディとイオータの顔が、他の人たちによって見えなくなるところだった。

「あ…うっそ…。ちょっと待って──」

 前を見て歩いていたはずなのに、考え事してたあたしは、彼らの姿を見ていなかったのだ。

 ここで離れたらあの時と同じだ。いくらなんでも同じ事だけは繰り返したくない。

 あたしは慌てて彼らの顔が見えなくなった方へ走り始めた。しかし、この混みようでは走れるわけもなく、焦れば焦るほど思うように前に進めなかった。

 途端に、後ろを歩いていたネオスが前に出た。そしてごくごく自然にあたしの腕を掴み引っ張ってくれたのだ。最初のイオータとは違い、掴まれた腕は痛くなかった。

 そう…よね。ネオスは痛くなるほどきつく握らない…。ううん、握れないわ、きっと。

 あたしは、改めてネオスの優しさに触れた気がした。

 ネオスのおかげと言うべきか、さっきまでのブルーな気持ちが少しやわらいだ。

 とりあえず、ネオスに引っ張られるがまま前に進んでいくと、あっという間に彼らのところまで追いついた。ありがたい事に、ラディ達はあたしが離れたことに気が付いていないようで、空いたテーブルを見つけるや否や、〝あそこだ〟 と二人声を揃えて更にスピードをあげた。

 四人揃ってテーブルにつくと、それぞれが食べたいものを注文した。そして、全ての品が届けられると、あたしは即座に一青を店の人に渡した。

「なんだ、おごってくれるのか?」

「そうよ。昨日おごってもらったし、今日は助けてもらったから…。ま、おごるっていうほどの料金じゃないけどね」

「いや、ありがたくおごられるぜ」

 女がおごることに反発するかと思いきや、以外にも、素直に受け入れた。

「──んじゃ、いただきます」

 礼儀正しく両手を合わせると、イオータはそう言って食べ始めた。あたしとネオスも箸をすすめたが、隣にいたラディは、珍しくいつもの調子が出なかった。

「どうしたのよ、ラディ?」

「あ…? ああ…」

「あんたも食欲ないの?」

 イオータには聞こえないよう、小さな声で聞いてみる。

「いや…」

「じゃぁ、なんなのよ?」

「た、助けられた…ってどういうことだ?」

「え…?」

「さっき言っただろ、今日は助けてもらったって──」

「あ、ああ…その事…」

「どういう事だよ?」

「黒風に襲われそうになったから──」

「な…黒風に!?」

「そうよ。その時イオータがあたしの短剣を使って追い払ってくれたの」

「そ…んな事があったのかよ」

 ラディは 〝信じられない〟 といった具合にあたしを見つめた

「──あ…もしかして、あの時うずくまってたのはそういうことだったのか?」

「そう…だけど。──あんた、あたしが腰抜かしたのってなんだと思ったわけ?」

「あ…? いや…ミュエリが連れ去られたことがショックで──」

「あ…そう。確かにミュエリが連れ去られたのはショックだったけど、それだけならあそこまでの恐怖は感じなかったわよ。──ほら、食欲があるんなら食べたら? イオータに全部食べられるわよ」

「あ、ああ…」

 あたしはそれまで止めていた箸をまた動かした。

「ねぇ、それよりさ、一つ分からないことがあるんだけど」

「なんだ?」

 口一杯に頬張りながら、それでも次の皿に箸を伸ばそうとしていたイオータは、あたしの質問に反応した。

「いや…あんたには分からないと思うんだけど、ミュエリはなんであんたの忠告を聞かずに外に出たのかって事よ」

「そりゃ、買物に行きたかったからだろ?」

「それは分かってるわよ。だから、その忠告を無視してまで買いたい物って何だったのかなって──」

「たぶん、〝想いの石〟 だと思うよ」

 静かに答えたのはネオスだった。あたしとラディは一斉にネオスの方を見る。一方イオータはチラッと見ただけで、黙々と食べる事に専念していた。

「想いの石…?」

「うん」

「なに、それ…?」

「二つの石がセットになったペンダントみたいなものだよ。両想いの人同士がそれぞれ一つづつ持っていると、どんなに離れていても、お互いの気持ちが伝わってくるという石らしいよ。持つ人によっては、その石で相手の姿まで映し出す事ができる不思議な石だとも言ってた」

「そんな石があるの…?」

「ああ。実際、本当の事かどうかは分からないけどね」

「そう…。だけど、どうしてネオスがその事を知ってるの?」

 あたしはなぜその石の事を知ってるのか、そして、なぜミュエリの買いたい物がそれだと分かったのかという二つの意味を含めて質問してみた。

「昨日いろんな店に寄った時、そういう噂を聞いたんだ。それで、その石が売ってるという店に行ったんだけど、もうすでに閉まっていて──」

「それで、次の日に買うつもりだったのね」

 ネオスは無言で頷いた。

「あ…もしかして、ミュエリがいたところって、その店の近くだったの?」

「うん、すぐ目の前」

「じゃぁ、ネオス達があそこに…あたし達がいるところにきたのは、それを思い出して?」

「まぁね…」

「そう、だったんだ…」

 黒風の真下にあたし達がいるんじゃないだろうなっていうぐらいの感覚できたんじゃなかったのか…。闇雲に捜してたあたしとは違うって事ね…。やっぱりネオスはよく気が付く。あたしは改めて、彼の冷静な判断に感心した。

 ところが、ネオスの顔はなぜか雲っていた。まぁ、ミュエリがいなくなったから明るい気持ちにはなれないけど…。

「どうしたの、ネオス?」

「え…?」

「なんか、さっきより沈んでるけど──」

「そ、そうかな…?」

「うん。──なにか気になる事でも?」

 あたしの質問に、ネオスはしばらく考え、それでもキッパリと言い切った。

「いや、何でもないよ」

 それだけ言うと、再び目の前の食事に手をつけ始めた。

 そんなネオスの様子を見て、正直あたしは腑に落ちなかった。本当に 〝何でもない〟 なら、即答できたはずなのだ。だけど、本人が 〝何でもない〟 と言い切った以上、ここでしつこく聞いても教えてくれないだろう。相手が 〝人に心配かけたくない〟 という優しい心を持つネオスなら、尚更の事だ。

 あたしは 〝絶対、何かある〟 とふんだにもかかわらず、ここはネオスが話してくれるのを待つ事にした。そして、あたしもなくなりつつある料理に手を伸ばしたのだが、今度はラディの箸が止まった。

「──もしかして、お前 責めてんのか?」

 一瞬ドキッとしたかのように、ネオスの体がびくついた。

「責めてるって…どういうこと?」

 あたしは何も言わないネオスの変わりに、質問した。、

「ミュエリが連れ去られた事さ。もっと早くに あいつがあの店に行くって気付いてれば、連れ去られずにすんだんじゃないかって、自分を責めてんじゃねーだろーな?」

「え…そ、そうなの、ネオス?」

 ラディの意外な言葉に、あたしは思わずネオスの腕を掴んだ。

「……………」

 それこそ、〝そうだ〟 とは言わないものの、あたし達の顔を交互に見つめると、すぐさま視線を落とした。

「ちょ、ちょっと待ってよ…。ネオスは悪くないわよ。どっちかっていったら、あたしの方が責任感じなきゃいけないくらいなのに。あの時、ミュエリの近くにいたのはあたしだし、助けようと思えば、助けられたかもしれないもの──」

「──ムリだな」

「え…?」

 あたし達 三人の会話に入ったのは、さっきまで食べる事に専念していたイオータだった。

「な、なんでよ──」

「あんたも見ただろ、あのスピード。奴は風だぜ。いくら猛獣の形してるっつったってよ、人間みたいに実体があるわけじゃねーんだ。風を見て 感じる事が出来ても、蹴飛ばしたり殴ったりできるような相手じゃない。どんなに近くにいて、守りたい奴に覆い被さったって、ありとあらゆる隙間から入りこんで、空中に放り出されるさ。──それに、あんた達が互いに責任の被り合いしたって、ミュエリは帰ってこねーぜ」

「…………」

「──だいたいよぉ、一番の責任は、人の忠告ムシした本人にあるってもんだ」

 確かに、イオータの言ってる事はあたってる…。だけど…。

「──あ、あんたって…結構 冷たいわよ…ね…」

「そうかぁ? ここじゃぁ、優しいって評判なんだけどな」

「どこがよ?」

「決まってんじゃねーか、全部だよ」

「──んなわけないでしょ。大体、本当に優しかったら、キレイだって言ったり指輪までプレゼントした女の名前が分かったっていうのに、〝ふ~ん〟 の一言で終わったりしないわよ」

「それは、お前、そんなに興味がなかったっていうだけだろーが」

「だからぁ、優しかったら、興味のない人に対して、思わせぶりな態度とらないって事よ。それに、今の話だってそうよ。確かに、人の忠告ムシしたミュエリが悪いけど、ひと一人がさらわれたっていうのに、平然と食事できるあんたが、信じられないわよ」

「おいおい、それはオレに限った事じゃねーぜ」

「どういうことよ?」

「見てみろよ。いくらオレでも、一人でここまで食えねーよ」

 そう言って、イオータは目の前の皿を指さした。なくなりつつある皿の上は、すでにほとんどが空だった。そしてあたしとイオータの見てる前で、最後の鶏肉に箸をつけたのは、ラディだったのだ。

「そ…のようね…」

「だろ? ──それよりよ、どーする?」

「なにが?」

「まだなんか頼むか? それとも宿に帰るか?」

「あ…あたしはもういらないわよ。ネオスは?」

「あ、ああ。僕も…」

「そぅ。じゃぁ、宿に戻りましょ」

「──お、おい。何でオレには聞ーてくれねーんだ?」

 〝さっさと席を譲る〟 為、その場を立ち上がったのだが、その瞬間、ラディの不満な声が耳に届いた。

「聞く必要ないでしょーよ。イオータと同じぐらい食べてんだから。それとも なに、まだ食べるの?」

「まだって、おまっ…。なんか冷てーなぁ。──まぁ、いつもの事だけどよぉー」

「どっちなのよ。いるの、いらないの?」

「い…らねーけど…」

「だったら、ほら、行くわよ。他にも待ってる人いるんだから」

「わ、分かったよ…」

 不満げな顔でそれだけ返事すると、仕方なさそうに席を立った。

 再び人ごみをかき分け、あたし達は込み合う店をあとにした。

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