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イベント・春 (2025)

卒園間近の子ども園




「せんせーともだちってなんにんつくればいいの?」

 お歌の授業を終えるとユウちゃんが聞いてきた。

(ユウちゃんは深く考える子だからなあ)

 入園から卒園までの三年間を振り返って私は思う。

(たまにいるのよね。よく気がつく子って)

 敏感というか繊細な子がいると昔教わった。

(これもひとつの個性よね)

 だから私は真剣に答える。

 

「そうね。心から分かり合える友達なら」

 しゃがんで目線を合わせいつもの声で話しかけた。

「両手で数えられるぐらいかな」

「それだけでいいの?」

「うん。知人とか親友とかいろいろあるからね」

「いろいろ?」

「そう、いろいろ。だからこれだけは覚えておいて」

 少し声のトーンを落として私はユウちゃんに言う。

 

「いろんな人がユウちゃんの周りにいるってこと」

 ユウちゃんはこれからいろんな人と出会うだろう。


(学校の先生や給食の人、警備員さん……)

 星の数ほどの人と関わっていく。

(いろんな人がユウちゃんの人生に関わってるのよ)

 考えこむユウちゃんを優しい気持ちで見守る。

 

「んーわかった!」

「わかってくれた?」

「うん!みらいのユウちゃんにまかせる!」

「そっか、未来に任せるか」

「たいせつっぽいからわかるまでおぼえとく!」

 覚えておこうとする気持ちが私をうれしくさせた。


      ☆     ☆     ☆ 


「あユウちゃん!お母さん迎えに来たよ!」

「ほんとだ!せんせいさよーならー!」

 ユウちゃんは下の子をおんぶする母親に駆け寄る。

 私はさようならと返し、手を振って見送った。

 ユウちゃんの母親はわずかに会釈(えしゃく)する。

 そしてユウちゃんと手をつないで帰っていく。

 

(もうすぐ卒園か……月日は早いなあ)

 ユウちゃんが来た日が昨日のように思える。

 入園した子を育てて卒園で見送るのを繰り返す。

 そんな日々を私は過ごしてきた。


      ☆     ☆     ★ 


(ユウちゃんはいつまで私を覚えててくれるかな)

 私は知っている。

(子ども園のこと覚えてるのってごく僅かなのよね)

 記憶を辿っても学生時代のことばかり思い出す。

 少しだけ悲しくなってきた。

 大きく深呼吸して気持ちを切り替える。

 

(私は知っている)

 ユウちゃんの母親がベビーカーを探していた。

(おんぶや抱っこは大変だから)

 肩や腰に負担がかかる。


『赤ちゃんが泣くのは寂しいときもあるのよ』

 園長先生の言葉を思い出す。

(だからぬくもりを、スキンシップを求めるのよね)

 寝かせやいすに座らせると泣く理由のひとつ。

(昔は親や親戚や地域の人が助けてくれた)

 今はかなり変わっている。

 

(核家族や結婚や出産の晩婚化だもの)

 歳を取るとおんぶや抱っこがつらくなっていく。

(親を頼ろうにも移住するとなかなか、ね)

 ワンオペ育児になりがちだからこそ助けがいる。


(男性の育児休暇は助かるのに)

 浸透の速度にもどかしさを感じた。  

(だからこそのベビーカーか)

 海外には目合わせや語りかけ、ハグがあると聞く。

 赤ちゃんの目線にあわせて笑ったら笑う。

 そうすることで赤ちゃんは安心する。 

(語りかけやハグも一緒よね)

 赤ちゃんが愛されてることに気づいてもらう。

 そのためにちゃんと言葉で愛を伝える。

(大好きだよとか生まれてくれてありがとうとか)

 愛してるとか言葉にすると恥ずかしくなった。


(日本は行動で教えられるのに)

 おんぶや抱っこ、手をつなぐ。

 日本伝統のスキンシップの強さを改めて思い知る。 


(こういう時日本の(ゆる)さは便利よね)

 クリスマスやバレンタインは海外のものだった。

 それを受け入れられる日本は懐が深いと思う。

 

(八百万の神々の信仰だからかな)

 クリスマスの直後に正月が来る。

 混在一体なイベントがそう教えてくれた。


(子ども園と一緒よね)

 日本伝統と海外の育児から学んだを思い出す。

(幼稚園と保育園のいいとこどりよね)

 ふたつを混ぜるからこそできることもある。

(育児も日本と海外のを合わせるだけ)

 子どもの性格と家庭環境に合わせていく。

(おんぶや抱っこを減らしたらハグとかを増やす)

 純粋な愛を教えるのが大切。

(園長先生の子育て相談の答えはいつもこれよね)

 子育ての負担を減らす。

 園長先生なりのマニュアルなのだろう。


(ユウちゃんの敏感さも神様からのギフトだっけ)

 個性として伸ばすやり方を園長先生は進めている。

 親御さんたちにもそう教えていた。


      ★           ★ 

 

「うん!元気でた!」

 センチメンタルな気持ちをどうにか克服できた。


「明日からの卒園式の予行練習、気合いれるぞ!」

 そう言って私は職員室へ歩いていく。


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