【漫才】百人一首を切っ掛けに和歌に目覚めた女子大生キョンシー
ボケ担当…台湾人女性のキョンシー。日本の大学に留学生としてやってきた。
ツッコミ担当…日本人の女子大生。本名は蒲生希望。キョンシーとはゼミ友。
ボケ「どうも!人間の女子大生とキョンシーのコンビでやらせて頂いてます!」
ツッコミ「私が人間で、この娘がキョンシー。だけど至って人畜無害なキョンシーですから、どうか怖がらないであげて下さいね。」
ボケ「どうも!留学生として台湾から来日致しました。日本と台湾、人間とキョンシー。そんな垣根は飛び越えていきたいと思います。こんな風にね。」
ツッコミ「いやいや、両手突き出して飛び跳ねなくて良いから!」
ボケ「実はさ、蒲生さん。うちの大学の留学生の寄り合いで、百人一首大会をやる事になったんだよね。」
ツッコミ「おっ、それは良いじゃない!留学生同士の交流促進にもなるし、日本文化の理解にも繋がるし。」
ボケ「それは良いんだけど、百人一首大会に備えて色々準備しないといけなくてね。」
ツッコミ「そりゃ確かに、百人一首を覚えるのは大変だと思うよ。使われている言葉は古語だし、縁語や掛け言葉みたいな和歌特有の修辞法はあるし。特に台湾出身の貴女の場合は、第二外国語として日本語を勉強している訳だからね。」
ボケ「いや、私の場合は身体の強張りを治さないといけないからね。こうやって両手を前に突き出していたら、フライングになっちゃうし。」
ツッコミ「えっ、そっち!?キョンシーの死後硬直って、温かくなれば緩むんじゃなかったの?」
ボケ「この時期になるとキョンシーにも色々あるんだよ。だけど春の時期を詠んだ百人一首の和歌は良いね。例えば『花の色は 移りにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせし間に』という歌なんか、色褪せていく桜に歳を取っていく自分を重ね合わせていて、物悲しくてグッと来るよ。」
ツッコミ「それは世界三大美女の一角である小野小町の和歌だね。国語の授業が懐かしくなるなぁ。」
ボケ「世界三大美女?ああ、妲己に呂雉に則天武后ね。」
ツッコミ「それは中国三大悪女!炮烙の刑とか人豚とか、恐ろしい事をした人達じゃない!小野小町はそんな危ない人じゃないから。」
ボケ「じゃあ、楊貴妃に西施に貂蝉の三人?」
ツッコミ「それは中国三大美人。世界三大美女では楊貴妃しか合ってないし、小野小町は何処に行ったのよ?」
ボケ「遣隋使の一員として『日出処天子』の国書を運びに行ったんじゃない?」
ツッコミ「それは小野小町じゃなくて小野妹子!性別まで変わっちゃったじゃない!小野小町はクレオパトラや楊貴妃と並ぶ世界三大美女の一人で、在原業平と並ぶ六歌仙の一人なのよ。」
ボケ「ああ、在原業平なら知ってるよ。確か小野小町の頭蓋骨を東北で見つけた人でしょ?」
ツッコミ「知識の覚え方が独特過ぎるよ!確かにそういう怪談もあるけど…」
ボケ「そりゃ私はキョンシーだからね。死者だの幽霊だのは友達みたいなものだよ。でも、さっきの和歌を踏まえた上で今の怪談を聞いたら感慨深くならない?歳を取る事を気にしていた小野小町が、最終的には頭蓋骨になって在原業平に発見されるなんてさ。」
ツッコミ「確かにそうかもね。絶世の美女である小野小町も、やがては歳を取って亡くなってしまう。諸行無常を感じてしまうね。」
ボケ「小野小町も私達に相談してくれたら良かったのに。そうすれば小野小町は、キョンシーとして永遠の若さと美しさを得られたんだよ。」
ツッコミ「貴女ったら何て事を言うのよ!そういう発言はドラキュラ伯爵にでも任せておきなさい!」
ボケ「それでね、蒲生さん。私も小野小町に倣って和歌を詠んでみたんだ。雅号も屍小町って決めたんだよ。」
ツッコミ「キョンシーだからって、屍で良いの?小野小町にかなり寄せて来ているけど…」
ボケ「初めて詠んだ和歌は、こんな感じだよ。え〜っと、『春来れば 香り漂う 桃の花』だったかな…」
ツッコミ「こらこら、額の御札を短冊代わりにしないの!だけど、なかなか良い感じの上の句じゃない。」
ボケ「それで、下の句はこうだよ。『再度強張る 殭屍の四肢』と…どうかな、蒲生さん?」
ツッコミ「どうかなって、それは私のセリフだよ。上の句と下の句を繋げると、『春来れば 香り漂う 桃の花 再度強張る 殭屍の四肢』でしょ。どういう事なの?」
ボケ「蒲生さんには何度か話したけど、私達キョンシーは桃の木で作った木刀で攻撃されると物理ダメージが入っちゃうんだ。」
ツッコミ「ああ、キョンシー映画に出てくる道教の道士は、そうやって戦っているね。」
ボケ「だから桃の花の匂いが漂ってくると、思わずビクッとなっちゃうの。それでせっかく春になって死後硬直が緩んだのに、また身体が固くなっちゃうんだ。」
ツッコミ「さっき貴女が言っていた身体の強張りって、もしかしてそういう事だったの?」
ボケ「そうなんだよ、蒲生さん。『暖かい春を素直に喜べないから、ホントに困っちゃうね』という春のキョンシーならではの想いを詠んだ和歌だよ。」
ツッコミ「困っちゃうのは私の方だよ!そんなキョンシーあるあるを聞かされても対応出来ないから!」
ボケ「そう?神戸の元町に住んでいる御隠居キョンシーには共感して貰えたよ。鉄観音茶を飲むなり、『ワシも桃の花の匂いを嗅ぐと、年甲斐もなく身体が強張ってしもうて…』ってしみじみと呟いてね。」
ツッコミ「貴女と元町の御隠居さん位しか共感出来ないネタはやめて!私は人間だからキョンシーの内輪ネタまではフォロー出来ないよ。」
ボケ「じゃあ、蒲生さんもキョンシーになれば良いじゃん。」
ツッコミ「ちょっと貴女、なんて事を言うのよ!」
ボケ「キョンシーになれば実質的に不老不死だから、ずっと若いままでいられるよ。たとえ蒲生さんが歳を取ってからキョンシーになったとしても、アンチエイジングを頑張れば今くらいの外見年齢に戻れるから。」
ツッコミ「えっ、それってホント?じゃあ、私が後期高齢者になった頃にでもキョンシーにして貰おうかな。その時には頼んだよ。」
ボケ「やった!これで日本キョンシー総会に新規会員が増えるよ!」
ツッコミ「こらこら、私はまだ人間だっての!」
ボケ「これから私の事は気安く『パイセン』と呼んでくれて良いよ、蒲生さん。」
ツッコミ「いきなり先輩風を吹かすんじゃないの!そんな事を言ってたら、春風が桃の花の香りを運んで来たじゃない。」
ボケ「あっ、桃の匂いだ!また関節が硬直しちゃう!」
二人「どうも、ありがとう御座いました!」