6.審問にかけられて
「着いたぞ。馬車から降りろ」
乱暴に腕を掴まれ、馬車から引き摺り下ろされるとそこは薄暗い地下牢の入り口だった。
多くの衛兵が俺たちの脱走を警戒して配備されており、一子悪党に対する扱いにしては些か大袈裟にも思えるものだ。
「ガレン=バレフ。並びにイシェル=ロードナー。貴殿らは我がロード王国の近衛騎士レイラ=ハシュテッド殺害未遂の容疑に掛けられている。何か異論はあるか?」
重厚な声音の男がそう告げる。
「ちょっと、ボス……私関与してないのに勝手に共犯扱いされてるんですけど!?」
「あーまあ、どんまい。俺と一緒に地獄に落ちよう」
「あぁもう。このボス人間のクズ過ぎて嫌になりそう……」
隣にいたイシェルは俺の耳元に顔を近付け、不服そうに愚痴る。とばっちりを受けたことに関しては同情しているものの、結局犯罪者であることに変わりないので、アジトが衛兵にバレて捕縛された時点で、詰んでしまった事実は覆りようがない。
「もう一度聞く。罪を認めるか否か。どちらだ?」
無意味な審問だ。
否定すれば、偽証したとして罪がより重くなり、認めればそのまま極刑ルート。
賢い者はその場ですぐに罪を認めて減刑の可能性に賭けるものだが……。
「はい! 私、レイラ=ハシュテッドさんの暗殺未遂には一切関与してないっす!」
隣のアホな部下は清々しいほどに容疑を否認する。
誇らしげに無罪を主張しているが、見てみろよあの鬼のような衛兵の形相を。
「はぁ。馬鹿かお前」
「んなっ!? 馬鹿とはなんすか、馬鹿とは! 無実なのを宣言して何が悪いか!」
「全く。これだから頭の足りないお馬鹿は困る。いいか手本を見せてやろう」
今にも眼光で射殺してきそうな衛兵を宥めるように俺は申し訳なさそうな表情を浮かべながら深々と頭を下げる。
「はい。レイラ=ハシュテッドを殺そうとしたのは俺たちで間違いありません」
「えちょっ! なんで私まで巻き込むッ……むごっ!?」
「……黙ってろ?」
「ぐ、ぐ……っ!」
この出来レースにゴールはただ一つだけ。
罪を認めて、極刑を受け入れることのみだ。
こちらに反論の余地など与えられていない。
彼らの感情を下手逆撫ですれば、最悪その場で斬り殺される可能性だってある。一旦牢にぶち込まれる猶予が生まれるか生まれないか。
この審問はその是非を問うものである。
イシェルの腹部を思い切り蹴り飛ばし、余計な言葉を吐かせないようにした。
後は衛兵次第だが果たして……。
「なるほど。では貴殿らは素直に罪を認めると……そういう認識で良いのだな?」
「はい。その通りです」
「…………承知した。では沙汰が下るまで暫しの間牢で待て。刑罰は追って知らせる。二人を連れて行け」
「「「「はっ!」」」」
審問は無事に終わった。
このイシェルが罪流れたさに余計に場を掻き乱すアクシデントがあったものの、ほぼほぼ予定通りの展開である。
俺とイシェルは地下牢の奥へと連行された。
「わ、私は無実っすよぉ!!」
イシェルの無様な叫び声は、地下牢の入り口が閉じられた後も微かに外へと漏れ聞こえるのだった。




