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4.リベンジに燃えて



「えぇっ! ターゲットの女を殺し損ねちゃったんすか!」


 帰還後。

 暗殺依頼の失敗報告を行った時のイシェルの反応は面白いほどに大仰なものだった。

 イスに深く腰掛け、俺は煙草に火を灯し天井に煙を吹かす。


「あの女、天恵持ちだった。どういうわけか、俺の鋼糸の束縛を突破しやがって……マジでムカつくわ」


 完全に決まったと思ったのに、直後にあのザマだ。

 鋼糸に引き千切られた形跡はなく、ただ不可解に縛りが緩んで彼女の脱出を許してしまった。


「ほらぁ。私が一緒に行った方が良かったっしょ?」


「あーもう。うるさいなぁ。次はお前も連れてくっての!」


「へへっ。もう! ボスは私がいないとダメダメなんすからぁ」


「語弊のあることを言うな。しくじったのは今回だけだ。あの女に次はねぇよ」


「えー本当ですかー?」


「茶化すな。ぶっ飛ばすぞマジで」


 卑しい顔をしたイシェルを無視して、レイラ=ハシュテッドの特徴が載せられた依頼書に再度目を通す。

 ゲルシー公爵から渡された調査内容じゃまだまだ生温い。

 レイラ=ハシュテッドの天恵に関する情報を隅から隅まで探り尽くしてから、殺し方を絶対に見つけてやる。

 灰皿に煙草の火先を押し付け、俺は不機嫌な気持ちを大きなため息で表した。


「……はぁ。次こそは大金手に入れるぞ」


「そっすねぇ。次は……私もいるんで確殺できるはずっすよ。絶殺です」


 リベンジに燃える俺同様、イシェルもまた残忍な殺し屋の瞳で愛用している大鎌を砥石で磨き上げていた。


「天恵持ちの正義者気取りのクソ女め……今に見てやがれよ」


 息を吐くように出てきた雑言にイシェルはケラケラと笑いながら言う。


「あははっ! ボス。それはもう仕事云々じゃなくてただの私怨じゃないすかぁ!」


「うるせぇ! 私怨を抱いて何が悪いんだよ! 俺の完璧な暗殺計画に泥塗りやがって! せっかくコツコツ積み上げてきた依頼達成率に傷が付いちゃうだろうが!」


「あ、もう今回ので経歴に傷付いちゃったっすね!」


 ちくしょう。

 これで仕事の依頼件数減ったら、あの女を地の果てまで追い詰めて、死ぬより苦しい思いをさせてやる!


「あっそうだ! 昨日ボスが暗殺失敗したじゃないすか!」


「あ? したけどなんだよ?」


「実は私も、運びの仕事ミスっちゃって……報酬半額でしたぁ。へへっ?」


 このクソイシェル……大物依頼をミスった俺のことを全然咎めないと思ったら。


「てめぇ! 運びの依頼くらいちゃんとこなしやがれ!」


 廃屋には凄まじい怒号が鳴り響いた。

 

「えーボスだって依頼失敗したじゃないすか!」


「俺のは相手が天恵持ちだったんだから仕方ないだろうが。お前のお手軽仕事と一緒にすんな」


「わ、私だって小汚い野盗に目を付けられて大変だったんすよ〜」


 猫撫で声で許しを乞うのが余計に腹立たしいが、彼女の指摘通り俺自身も暗殺に失敗している以上あまり強くは言えなかった。


「だ〜分かった! お前の失敗には目を瞑る」


「よしっ。儲け!」 


「反省してなかったら、アジトから締め出すぞ?」


「次こそは必ず成功させて見せますとも」


 めちゃくちゃ演技くさい。

 色々と言いたいことは喉元まで出掛かっていたが、今日はもうこれ以上大声でカロリーを消費したくない。

 ため息を一つ吐き出してから、俺は廃屋の奥へと歩く。


「俺は寝る。お前もあんま夜更かしすんなよ」


「夜更かしって、もう日昇ってますけど……」


「とにかく、さっさと寝ろ。いいな?」


「りょ〜か〜い」


 何も上手くいかない一日だった。

 明日は切り替えてまた仕事をこなそう。

 脳裏に焼き付いた嫌な記憶を無理やり忘れるように寝床の上で目を瞑った。

 薄いボロボロのカーテン越しにはほんのりと日が差し始めていた。


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