20.金庫一刀両断
厳重な警備を無理やり突破し、ミルシス社の建物内部へと侵入することに成功した。
静かな廊下をゆっくりと歩んでゆくと、下へと続く階段が現れた。
「……なんだか拍子抜けっすね」
「大した抵抗もありませんし、増援が来る気配もないですしね」
外の警備が大勢であったのに対して、内部での接敵はほとんど起こらなかった。
「建物内部に50も警備がいるって、嘘なんじゃね?」
「ちょっボス! 私の調査結果を疑うんすか!?」
「実際に敵と全然遭遇してねぇしな。リサーチミスでもしたんじゃねぇのか?」
「いやいやいや! ゴロゴロいましたよ。馬鹿みたいに資金投じたキラキラ成金装備の奴らがね!」
「どうだかな」
「んぎぃぃぃぃぃッ!! 私絶対失敗してないもん!!」
イシェルの抗議を聞き流し、俺は欠伸を一つ。
脅威の感じられない敵地など単なるお散歩コースでしかない。
静寂に包まれたままの建物内部を一歩一歩進んでゆくと、鉄条網や鎖で覆われた厚手の鉄扉が目の前に現れた。
「……金庫」
「まあ……裏帳簿があるってんなら、この中だろうな」
「ただじゃ開かなそうっすけどね」
コンコンと金庫を拳で叩くイシェルは面倒くさそうに眉を顰めた。
俺は試しに鋼糸を金庫目掛けて振りかざす。
鈍い金属音と共に鉄壁の守りに阻まれた鋼糸は、金庫の扉に浅い傷を付けただけで、弾き返されてしまった。
鋼糸で切り裂くには強度がやや足りないか。
「……はぁ。切断するのは無理そうだな」
「なら鍵を探しに行きますか?」
「いや。そんな悠長に時間をかけてはいられない。さっさと裏帳簿を入手して、増援が湧いて出てくる前にずらがりたい」
「ならやはり、強行突破するしかないですね」
剣を引き抜いたレイラは深く息を吸い、鉄扉に向かって剣を構えた。
「そんなほっそい剣で斬れるわけ……」
「はっ!」
「──っ!?」
分厚い金庫の鉄扉。
剣の斬撃など普通は通るはずもない、だがレイラの放った一閃は綺麗な太刀筋を残して鉄扉を一刀両断してしまった。
「ま、マジか……!?」
「あ、あり得ないっすよ……」
レイラ=ハシュテッド。
彼女と手を組んで正解だったかもしれない。
少なくとも今の一撃をもろに喰らっていたら、誰であろうと命はないだろう。
涼しい顔で剣を納め、金庫の中へと迷わず足を踏み入れる彼女の姿は、巨悪であるゲルシー公爵に立ち向かうに相応しい立ち振る舞いだった。