16.悪辣傭兵落胆
沼沢の中央の陸地にある第二拠点内部には長い縦穴を降りきると、人が数十人くらいは余裕で住めるほどの広い空間がある。
沼沢の湿気を通さないように鋼鉄製の外壁を張り巡らした涼やかな空気が漂う。
薄暗い地下にある光源は古びたランプがいくつかあるのみで、外音が完璧に遮断された防音空間だった。
「よっと!」
「沼沢の中央にこんな立派な隠れ家があるなんて……驚きました」
「ほぼ使ってないから私も半年ぶりくらいに来たっすけどね。お茶入れてくるんで適当にくつろいでもろて」
「ありがとうございます」
イシェルは久々に来たと言っていたが、中は意外と綺麗な状態で維持されていた。
上から降りてくるガレンを待っていると、彼女がお茶を淹れてくれる方が早かった。
「どうぞ〜」
「ええ……ところで彼は?」
「あーもう。ボス〜!」
イシェルが入り口の方に大声で呼びかけると、暫くしてガレンが降りてきた。
「もー何やってんすか。外にずっと突っ立ってたら外部の人間に見られちゃうでしょうが!」
「いやだって。ここのこと排水溝って皆が言うから」
「そんなことで一々拗ねないで欲しいっす……というかそれ以上に話し合うべきことがあるでしょうに」
ゲルシー公爵を打倒するための共闘。
本来であれば頭の中はそのことで一杯になるはずなのだが、ガレンは他のことを考えていられるほど心に余裕があるように見受けられた。
「いやだって……ここ俺のお気にの場所だからさ……」
「あー面倒くせぇ〜そういうのは暇な時に考えてくださいよぉ!」
──というのは私の考え過ぎだったみたいだ。
落ち込み方が本気である。
項垂れるガレンの背を叩き、イシェルは鼻息荒く椅子に腰を下ろした。
「そんで。こっからどうするんすか?」
本題に入った。
ゲルシー公爵打倒の具体案がガレンの口から語られ……。
「排水溝……には見えねぇと思うんだけどなぁ」
「いつまで引きずってんねん! ナヨナヨすなぁ!」
どうやら真剣な話はまだ始まりそうにない。