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第20話: 黒フードの謎の男

 「アングリーボルケーノ」──。


 そこは、真っ赤に焼けた溶岩が地表を這い、噴き上がる煙とともに周囲を灼熱の世界に変えている地獄の場所だ。


 "怒の魂"が実体化した怒のイザベルが支配している《《はず》》のその場所は、一行が足を踏み入れた瞬間、奇妙な静寂を漂わせていた。


「ここが"怒の魂"が眠る場所のはずだよな?」

 

 アストリアが額の汗を拭いながら辺りを見回す。


 荒々しい口調とは裏腹に、表情にはわずかな不安が浮かんでいた。


『何故だ....。魔力はおろか、"怒の魂"の波動さえも感じない....。』


 セラフィスが訝しげに呟く。


「どうもおかしいわね……魔獣の気配がない。」

 

 マチルダの手が弓を握りしめる。


 戦闘の準備を怠らないその姿勢に、冷静さと不穏な空気が入り混じる。


「……あれを見ろ!」

 

 一歩後ろを歩いていたローハンが、朽ちた溶岩の裂け目を指差した。


 その先には、砕けた岩の上に佇むように倒れている女の姿があった。


「怒のイザベル……?」

 

 皆が駆け寄り、その女性の顔を覗き込む。


 しかし、その姿はまるで人形のように動かない。ただの残骸だ。


「……誰かが先に倒したってことか?」

 

 低い声で呟くアストリア。


 その言葉に、一同の視線が周囲へと集中する。


 その時だった。物陰で何かが動く気配を感じたのは。


「待て!」

 

 ローハンの声が響く。


 一瞬の静寂の後、影が駆け出した。


 黒いフードを深く被った謎の人物だ。


「逃がすな!」

 

 アストリアが剣を抜き、勢いよくその後を追う。


 マチルダも弓矢を放つ準備をしながら続いた。


 しかし、謎の人物は追いつかれる気配を見せず、火山の崖沿いを軽やかに走り抜ける。


 やがて、人物は岩壁の裏側に滑り込み、一行の視界から完全に消えた。


「くそっ……!」

 

 足を止めたアストリアが地面を叩くように拳を振り下ろす。


 その顔には苛立ちと疑念が交錯していた。


 アングリーボルケーノの近くにある小さな村は、荒れた土地にもかかわらず静かな暮らしが広がっていた。


 住民達は一行を見ると多少の警戒心を見せたが、次第に話を聞くと協力的になった。


「あの黒フードの男を見たことがあるか?」

 

 アストリアが村人の一人に問いかける。


「見たぞ……たしかに見た。黒い服を着て、杖を持った旅の魔法使いだ。名前はギルバートとか言ってたな。」


「ギルバート?」

 

 マチルダがその名前を繰り返す。


「それで、そのギルバートはどこに向かった?」

 

 ローハンが急いで次の質問を投げる。


「確か....北の『クライアイスランド』だと言っていたな。あの氷の土地は、"哀のイザベル"が支配していると言われている。とても恐ろしくて誰も近づこうとする者はいない。あんた達、あいつの知り合いなのか?」


「いや、ただ、そいつはただの旅人じゃなさそうだからな。」

 

 アストリアは険しい顔で言い放った。


 村の宿で休む間もなく、一行は情報を整理していた。


 ギルバートという名の旅人──彼が"怒の魂"を奪い去り、さらに"哀の魂"を狙っているのは間違いない。


 しかし、何故彼がそんな行動を取るのか、全く分からない。


「イザベル姫を襲ったのは闇の魔法使いだと言われている。」

 

 アストリアが椅子に腰掛けながら言う。


「そうね。イザベル姫から"喜・怒・哀・楽の魂"を奪い、四方に散らせた張本人。それが闇の魔法使いだとされている……。」

 

 マチルダが静かに答えた。


「ってことはさ、そのギルバートってやつが闇の魔法使いなんじゃねえか?俺達が回収しようとしてる魂を先回りして奪ってんだろ。」


 ローハンの声には怒りと焦りが滲んでいた。


『でも、そう断定するにはまだ早いと思う。』

 

 セラフィスが慎重な口調で言う。


『確かに彼が怪しいのは分かる。けど、イザベル姫を助けるためには、まず"怒の魂"を取り戻さないといけない。』


「分かってる。でも、今はとにかく、そいつを追うんだ。」

 

 アストリアは剣を握り直し、立ち上がった。


 こうして、一行は「クライアイスランド」に向かう準備を整え、再び旅路を急ぐこととなった。


 しかし、その背後には、見えざる闇と真実の影が忍び寄っていることを、まだ誰も知らなかった....。

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