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第2話: 闇の誘惑

 ある夜、セラフィスは城の図書館で「黒魔術の禁断書」に目を通していた。その本には「他者の魂を乗っ取り、その体を支配する術」が記されていた。


 その禁断の術を前に、セラフィスの心は揺れ動いた。


 しかし、彼の目の前に儚く映るアストリアは消えかかっていた。


 その夜、遂に彼は自ら命を絶ち、兄の身体を奪うために魂を解放した。


 アストリアは翌朝、急激な疲労感と頭痛で目を覚ました。体に妙な違和感がある。視界が霞み、思うように体が動かない。


 やがて、その原因が自分の中に存在する謎の懐かしさの正体に気が付いた。


 「セラフィス、お前なのか?」

 

 アストリアは朦朧とする意識の中、必死に呼びかけた。


 しかし、体は反応せず、何者かが彼の体を勝手に動かし、城を徘徊し始めた。


 セラフィスはアストリアの体を使って、彼が味わうことの出来ない「力強さ」を堪能し、城内で好き放題に振る舞っていた。


 精神領域にいるアストリアは、弟の存在を感じ取り、必死に抵抗を試みたが、セラフィスの意志が強く、身体の主導権を奪い返すことが出来ない。


 体の中での意識が交錯する瞬間が訪れた。アストリアはその隙を突いてセラフィスに問いかけた。


「セラフィス、何故こんなことをするんだ?お前は俺の弟だろう?」


 すると、彼の心の中でセラフィスの声が響いた。


「兄さん…君は強く、僕は弱い。だから、君の体が欲しかったんだ。僕は、ずっと君のように自由に動くことに憧れていた。」


「自由に動きたい?それなら、俺にも一つ言わせて欲しい。俺は愛する親の顔も、大好きな自然の姿も何一つ知らない。お前が語る世界の素晴らしさがいつも羨ましくて仕方がなかった。俺達はお互いを支え合ってきたはずだ!」


 アストリアは、弟が抱いていた苦しみに気づけなかったことを悔やみつつも、何とか説得しようとした。


 しかし、セラフィスの意志は止まらなかった。


「僕はもう、君の弟でいるつもりはない。僕はこれからアストリアとして生きる...。僕の意志で、僕の望むように!」


 アストリアは、全身の力を振り絞り、弟の意志に対抗しようとした。


 二人の魂が激しく衝突し、内なる戦いが始まった。


 アストリアは決して体を奪われまいと、心の奥底で弟の欲望と対峙した。


 激しい戦いの中で、アストリアはある光景を目にした。弟が幼い頃に苦しんでいた姿が、彼の心に映し出されたのだ。


 セラフィスがどれだけ己の不自由さに苦しみ、アストリアへの嫉妬と羨望を抱えてきたかを知り、彼の胸は締め付けられた。


「セラフィス…お前の苦しみに気づけなくて、すまなかった。」


 アストリアは静かに謝罪し、その思いを弟に伝えた。


 その瞬間、セラフィスの意志がわずかに弱まり、弟の心に葛藤が生じたようだった。


 アストリアはその隙を突き、体の主導権を取り戻すと、心の中でセラフィスに語りかけた。


「お前は俺の弟だ。俺はお前を守りたい、これからもずっと。だから、こんなことはもうやめよう。俺達は互いに支え合う存在なんだ。」


 セラフィスは、その言葉を聞きながら、やがて静かに涙を流すような感覚を覚えた。


 そして、アストリアの温かい思いに触れたことで、自らの行いが間違っていたことを悟り、彼の中で心が解きほぐされていく。


「兄さん…ごめん。僕は…僕は間違っていた。やっぱり僕は弱い。兄さんみたいに強くなれないや。」


 セラフィスの声は、どこか切ない響きを帯びていた。


「いいや、お前は強い。」


 アストリアは心の中で涙を流しながら弟を優しく抱きしめ、その魂が穏やかに眠りにつくのを見届けた。


 こうして、アストリアは再び肉体の自由を取り戻した。だが、決してセラフィスの心を忘れない。彼は弟の思いを背負いながら生きていくと誓った。

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