02 警吏
衝撃で仰け反って背後に倒れ、額に手をあてながら悶絶する。それでも生きているのは殺傷能力のない不死性弾を使っているからだろう。
彼女は男の足を狙っていた。だが発砲の衝撃で銃口があらぬ方向を向き、弾丸が意図しない場所に飛んでいった。
恐る恐る角から顔を出すと2発目3発目と立てつづけに発砲しているが、やはり狙いは滅茶苦茶だった。
てかよく見ると目をギュッと閉じて引き金を引いている。もう勢いだけで撃っている。
とんでもなく射撃が下手だ。銃を持たせてはいけないレベルだ。味方に当ててしまう。
でも彼女の身を案じてここまで来たオレにとっては上々の展開だった。男は逃げたし警吏たちもすぐ駆けつける。
彼女は安全だ。だったらオレがここにいる意味はない。誰にも知られないうちに立ち去ろう。
額を擦りながらそう決意したときだった。銃撃から必死に逃げる引ったくり犯がオレのいる路地に向かってきた。
ヤバい巻き込まれるっ!
急いで反転してもと来た路地を引き返す。早く大通りに出て男をやり過ごしたいが、疲労した身体では速度がでない。
「どけぇっ!!」
背後から男が怒鳴ってきた。どけと言われても何処にどけというのか。
「どけってんだよおっっ!!!」
振り返ると男がナイフを振り上げてあと一歩の距離まで迫っていた。
殺してでも押し通るつもりらしい。深く考える余裕はなかった。ふらつく身体を無理やり動かし、振り下ろされたナイフを回避してすぐ男の顔面をガッシリ掴んだ。
そして渾身の力で壁にぶち当てた。
攻撃の勢いでオレ自身も壁にぶつかって尻もちをついた。目の前で星が舞っている。少しでも気が緩むと意識を失いそうだ。それでもなんとか立ち上がる。
はやく大通りに出なければならない。まだ彼女はこの路地に来ていないがもし来たら、そして現場を見られたら終わりだ。
一瞬、正当防衛を主張できるかもと考えた。背後からナイフで襲われたんだ、一発喰らわすくらい問題ないだろう。と、引ったくり犯に目をやると頭が壁の形に大きく凹み、行き場を失った脳ミソが鼻と耳から噴き出していた。
焦りと疲労で抑制が利かず、攻撃に余計な力が入ってしまった。こんなの見られたらオレは素性を疑われる。飛戒団で高めた身体能力のせいで窮地に立たされる。やはり逃げるしかない。
だがそこまでだった。
とうとう足を前に出す力すらなくなり、糸が切れたみたいにその場に倒れこんだ。
親父は言った。娘のそばにいてくれと、守ってくれと。親父は戦火で死にかけていたオレを拾ってくれた。そして愛情たっぷりに育ててくれた。
オレにとって親父は世界のすべてであり目に見える神だった。そんな親父の最期の頼みだからどうしても叶えたかった。
でも駄目だった。レテシアを守るどころか彼女にたどり着くことすらできなかった。
「親父…、出来の悪い息子でごめん…」
震えた声でつぶやく。そんなオレの肩に誰かの手が触れた。それはゆっくりオレを引き上げて仰向けに反転させた。
見えた視界は延びる建物と空と、あの女の子の顔だった。心配そうにオレを覗き込み「よかった、まだ意識ある」と、安堵してオレの頭をやさしく撫でた。するとその手が真っ赤に染まった。壁にぶつかったとき、あるいは力尽きて倒れたとき頭のどこかを切ったのだろう。
「あら…?あなた」
オレをパレードであった人物だと気づいたらしい。
「病院に運ぶから、もう少し頑張って」早口でそう続けた。
目の前が徐々に暗くなり、まどろみ始めた意識の中で聴覚だけはまだ健在だった。
「あ、こっちこっち!みんなーーーっ!!」
女の子の声に呼応して遠くから複数の足音が近づいてくる。応援の警吏たちが到着したようだ。もはや指の1本も動かせず意識はなくなる寸前。彼らから逃れることはできない。病院には運んでくれるみたいだが厳重な監視もセットだろうし、もちろんその後は地獄の尋問からの処刑が待っている。
もう駄目だおしまいだ。
「細かいことはあとで説明するから、この方を病院へ運んでちょうだい!」
緊迫した彼女の言葉に応援の警吏たちが礼儀正しく答える。
「かしこまりました。それよりお怪我はありませんかレテシアさま」
「わたしは大丈夫、ありがとう」
複数の手がオレをつかんで狭い路地をえっちらおっちら運びはじめる。
レテシア……?
誰かがそう言った気がする。が、それ以上考える間もなくオレの意識は完全に途切れた。
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アル・ネリ君の歩いたルート
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