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葬霊の鞘と銀の月 ―百年戦争の残滓― 〜神を喰らう魔剣と、奇跡を紡ぐ少女〜  作者: ウィースキィ


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第09話 はい。とても、大きいです……


「ルナ、これはやばいぞ……」


「はい、これは驚くべき事態ですね……」


 テーブルに並べられた豪勢な料理の数々に圧倒されつつも、二人が真っ先に手を伸ばした料理は、寸分違わず同じであった。


 それは、豪奢な肉料理。まさに二人は阿吽の呼吸で、同じテーブルの同じ料理を皿に手に取っていた。


「この肉さ、分厚いし、かなりでかいぞ……」


「はい。とても、大きいです……」


 二人が皿に取ったのは、美しい焼き目が付いた分厚いステーキ肉だ。その見るからに美味しそうな肉を崇めるように見つめたまま、二人は「ゴクリ」と揃って息を飲む。


 厚さが三センチはあるこのステーキは、見事なミディアムレアの焼き加減で、鉄板の上では「ジュージュー」と音を立てて油が細かく跳ねていた。香ばしい香辛料の匂いと焼けたお肉の芳醇な香りが混ざり合い、それは『食欲をそそる甘美なる香りの協奏曲』へと進化していた。


 そんな至高の獲物(お肉)を前に、リアムもルナもまるで神を崇めるかのような仕草を取っていた。


「ああ。後光が射しているよ」


「とても、眩しいですね……」


 横で二人の不思議な行動を目の当りにしていたジレッタは、若干困惑しながらも二人に声をかけた。


「いや、あんた達何をしているのよ……」


 ジレッタのその視線は間違いなく好奇なものを見る目だったが、ある可能性に気が付いたジレッタは、少し控えめになって、二人に疑問と質問を同時に投げかけた。


「え、何? もしかしてそういうお肉を崇める宗教か何かなの?」


 そこでジレッタの視線がめんどくさい人を見る目に変わったのを感じ取り、ルナは誤解されてはかなわないと首を振って否定する。


「いいえ、違いますよ、ジレッタさん。当ハンター事務所はリアムさまが全然稼いでくれないので、いつももやし生活なのです。なのでお肉は非常に貴重でして……それに、こんなに分厚くて美味しそうなのですから、つい拝んでしまったのです」


「あ、ああ……そうなのね。とりあえずリアムが駄目な奴なのはわかったわ」


 引きつった笑顔のジレッタは「可哀そうに」と言って、ルナの頭を優しく撫でてあげながら、駄目な主人であるリアムに視線を向ける。


 そんなジレッタの憐みのこもった視線にも気が付かずに、リアムは夢中で肉料理を貪りながら、心底幸せそうな顔をしていた。


「……あれは駄目ね。ほらっ! ルナ? あなたも早く食べなさい。あの勢いだとリアムに全部食べられちゃうわよ?」


「は、はい……! 相手がリアムさまであっても、こればかりは絶対に譲れません!」


 ルナは気合充分にフォークとナイフを構えると、まるで今から戦場に赴く戦士のように、勇ましく小走りでリアムの元へ向かっていった。


「ふふ、まったく。可愛らしい悪魔だこと」


 ジレッタはリアムの元に向かうルナの背中を目で追って、少し頬を緩める。そして、すぐ近くで談笑していたテトラとルクルットの元に歩いていった。




◆◇◆◇◆◇




 リアムの元に辿り着いたルナは、早速リアムにお説教を始めていた。理由は肉ばかり食べて、栄養バランスが悪いリアムに対する注意だ。


「リアムさま! お肉もいいですが、お野菜もちゃんと食べないと駄目ですよ? 食事はバランスが大切なんですから!」


 実にまともな内容の説教をするルナであったが、その手はすでに肉料理に伸びており、ルナの皿に盛られているのも肉ばかりであったため、あまり説得力はない。


 そこに目敏く目を付けたリアムは、楽しい肉食の時を邪魔されたくないから、という理由で反撃という名の揚げ足取りに走る。


「そう言うルナもさっきから肉ばかりじゃないか? 好き嫌いしてると背が伸びないぞー?」


 リアムの反論にルナはほっぺを大きく膨らませて対抗する。これでもルナなりの精一杯の威嚇なのである。


「むーっ! ルナは成長期なのでいいんですっ! それにルナの背が伸びないのはお肉不足のせいなんですから!」


「くそう! なんていう強引な理由なんだ……! だがしかし、肉は譲れんし、肉を食べても背は伸びないと思うぞっ!」


「そ、そんなことないです! リアムさまが日ごろからお肉を食べさせてくれていれば、今頃ルナだってテトラさんみたいに『スタイル抜群』だったんですから!」


 そんなルナの大声の反論に、リアムは一瞬ジレッタの冷たい視線の目と目が合った。


 だがリアムは「俺じゃないぞ……」と内心で言い訳をしながら、ゆっくりと目を逸らす。そもそも言ったのは本当にリアムではないのだから。


 それにジレッタは胸は多少控えめだが、美人でスタイルも良い。別に胸以外は負けているというわけではない。


 まあしかし、今回は相手が悪かった。引き合いにされるテトラは、愛らしくも凛々しい整った容姿に、白く綺麗な肌、豊かな胸に健康的にくびれた腰、終いにはすらっと伸びた細い脚と、全てが揃った完璧美少女なのだから仕方がない。


 その上でリアムはルナに言う。言わねばならなかった。現実は厳しいものなのだと伝えねばならなかったのだ。例えそれが涙を飲むことになろうとも。


「……いやいや、それは絶対ないだろ──」


 笑いながらそこまで言ったところで、ルナの強烈なグーパンチがリアムを襲う。


「って! いっ、痛い痛い! ま、待て待て! ルナ? 皿から料理こぼれるから! もったいないから!」


 ポカポカと強めに叩いてくるルナを、リアムは皿に乗せた貴重な肉が零れ落ちないようにうまくあしらいながら、数歩下がった。


「もぉーっ! リアムさまのバカっ! アホっ! ロリコンっ!」


 いつもの三拍子が今日も炸裂し、リアムは苦笑いだ。この場所ではやめてほしかったと思いながら。


「い、いやだからさ、バカとアホはいいけどロリコンだけはやめて……ほ、ほらっ! 誤解されてるじゃんかっ!」


 話を聞いていたジレッタとテトラからの微妙な視線を受けて、リアムは必死に否定する。だがそれがかえって怪しさを増していた。


「リアム、あなた……駄目な奴だとは思ってたけど、まさかそこまでだなんてね」


 ジレッタの軽蔑した目がリアムを捉えて離さない。結構真面目に軽蔑されているようだった。


「ま、待った! ジレッタさん? 違いますからね? ロリコンだなんて、あるわけないじゃないですか」


 必死に言い訳をするリアムを尻目に、ジレッタはそれを無視してルナに手を差し伸べる。


「……ルナ? 私のところに来る? ちゃんとバランスよく食べさせてあげるし、もうリアムなんてやめておきなさい」


「はいっ! リアムさまなんてもういいです!」


 ルナが伸ばされた手を取って、ジレッタの元に行くと、ジレッタはルナを後ろから手を回して抱き寄せ、二人して突き刺さるような冷たい視線をリアムに向けていた。


「お、おーい。ルナ? 嘘だよね? ルナは俺を見捨てたりしないもんな?」


「ふーんだっ! もうリアムさまなんて知りませんよー! ずっともやしでも食べていてください!」


「おーい! ルナさん? ルナさーん!」


 膨らましたほっぺのまま、顔を横に逸らしてしまったルナは、リアムの呼び掛けに答えない。結構本気で拗ねてしまっているようだった。


 そんな態度を取るルナに、リアムは持っていた皿をテーブルに置いてから近寄り、目の前で膝を着いて姿勢を低く落とすと、ルナの手を握った。


「ごめんっ! 悪かったよ。俺はルナがいないと生きていけないよ」


「ふ、ふーん……そうなんですかぁ……?」


「そうそう! マジで! ルナがいなきゃ駄目なの! 本気で!」


 ルナはリアムの必死な謝罪に、逸らしたはずの顔を少しだけ戻して、チラチラとリアムの様子を伺う。


「リアムさまにはルナが必要なんですか?」


 未だ顔は背けたままだが、目だけはリアムを見て、ルナは期待を込めてそう尋ねた。


 すると、リアムはぶんぶんと頭を縦に振りながら即答した。


「必要必要! ルナじゃないと駄目っ! 本気で!」


「そ、そうですかぁ……それならー……しょ、しょうがないですねっ!」


 リアムに必死に必要だと言われて、嬉しい気持ちを隠し切れないルナは、少々にやけ顔である。


 一応強がっていつも通りに見せてはいるつもりのようだが、周りから見ればバレバレだ。口元が緩みきっている。


 そんなルナの様子を見て、ジレッタは「ちょろいわね……」と心の中でだけの感想を口にしていた。


「ほ、ほらっ! リアムさま! お口にソースが付いてますよ! まったく……だらしないんですから」


 ポケットから取り出したハンカチでリアムの口を拭くルナは、文句を言いつつもまんざらでもない様子で笑っている。


 何を隠そう、世話焼き幼女ことルナはだらしのないリアムのお世話をすることが大好きなのだから。


「ご、ごめん。ありがとう」


「もういいですって。ほら、あっちの料理も食べましょう?」


 リアムの手を引いて歩くルナの足取りは、彼女の今の気持ちを表すかのように実に軽やかであった。


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