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葬霊の鞘と銀の月 ―百年戦争の残滓― 〜神を喰らう魔剣と、奇跡を紡ぐ少女〜  作者: ウィースキィ


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第06話 ふふっ、ほんのちょっとだけ見直しました


 テトラの説明が終盤に差し掛かった頃、テトラの話の最中にもかかわらず、ジレッタが質問の意を示すために手を上げた。


 まっすぐ伸びた腕は、彼女の真面目で一切の妥協を許さない性格を如実に示している。


「あ、はい! ジレッタさん、どうぞ」


「話の途中で申し訳ないわね。確認なんだけれど、まずテトラさんのお父様が殺害された時には屋敷にはお父様とテトラさんしかいなかった。そうですね?」


「はい、その通りです。夜中でしたので、使用人もみな別館に戻っておりました」


「ありがとうございます。では次に、屋敷の入り口は全て私兵の方々が警護していたので、誰も入ることはできなかった。これも間違いありませんね?」


「間違いありません。屋敷の入り口は一日を通して厳重に警護されています。誰にも見つからずに侵入するのは物理的に不可能です」


 ここまではテトラの説明にもあった話だ。先ほど配られた治安局の捜査記録にも書かれている内容であるため、ただの前提確認のための質問なのだろう。


 しかし、改めてテトラの説明を聞いていて、この場にいる誰もが同じ『核心的な疑問』を抱いていた。あえて口にはしなかったが、皆が思うところは一つだった。


 そんな皆が言いにくい『痛い真実』を、ジレッタは迷うことなく口にする。


「そうなると、テトラさんが一番怪しいということになりますよね? テトラさんは、何を根拠に悪魔の仕業だと考えていらっしゃるのでしょうか?」


 ピシャリと言い放つジレッタにリアムは感心していた。嫌われるようなことでも、それが必要なことであれば、彼女は迷わずに述べることのできる、真にプロフェッショナルな人間なのだろうと。


「ジレッタさんの仰る話はごもっともです。実際に治安局の捜査では、わたくしが犯人である意外は犯行は事実上不可能だとされていますので……」


 そう言って俯くテトラに、ジレッタは微かな笑みを投げ掛けた上で「勘違いはしないでくださいね」と言った後に話を続けた。


「それに関しては依頼を受ける際にも聞いています。それに私はテトラさんが無実だと信じています。そもそもテトラさんの無実を証明するために、私たちがここに来ているんですからね」


 ジレッタの言葉に、俯いていたテトラはハッと顔を上げる。驚いたようなその顔は、叱られると思ったら優しく褒められた時の子供のようであった。


「私も言い方が悪かったですが、テトラさんの味方であるという事はわかっていただけましたでしょうか?」


「は、はい! ジレッタさん、ありがとうございます。勿論、皆さんには心から感謝しています。それに、わたくしも犯人が悪魔であるとする決定的な理由がしっかりとあるからこそ、皆様にご依頼をしました。その理由ですが、父の死体には『悪魔の口付け』の跡があったのです」


「なるほど、悪魔の口付けですか……」


 悪魔の口付け――それは悪魔が殺した人間、もしくは殺す前の生きた人間の血を吸う時にできる跡の事を指す言葉だ。


 悪魔は人の魂と血を好む。血については理由は諸説あるが、血液に含まれる微量な魔力や魂を求めての事であると言われている。


 人類が契約の力を手に入れる前は、人間は悪魔の餌として消費されていた歴史もある。現在でも、ハンター協会に未登録の悪魔が人を襲う理由の八割は、人の生き血を求めてであるとされるくらいだ。


「それを治安局はなんと? あっ、僕も手を上げた方がよかったかな?」


「いえ、大丈夫ですよ、ルクルットさん。それと治安局の見解ですが、我々は悪魔に関しては管轄外だから、ハンター協会に依頼して専門家を呼んで捜査してもらえ、との事でした」


「へえ、意外と丸投げなんだね。そっか、それで証拠が見つけられなかったら、テトラさんが犯人になってしまうということだね?」


「そう、なりますね……」


 テトラは父親を誰かに殺され、さらにその罪を誰かに擦り付けられている。彼女の発言全てが本当であれば、なんとも酷薄な話である。


 リアムも心底同情しつつ話を聞いていたが、テトラと治安局のどちらの話も全面的には信じてはいなかった。どちらの言い分も殺害が可能だからこそ、どちらかにだけに絞った考えは、足元を掬われやすいことをリアムはよく知っている。


 だからこそ、あくまでも話し半分で聞き、後は自力で真実を突き止めるつもりだった。


「テトラさん、俺も質問いいかな?」


 今まで黙って話を聞くだけだったリアムであったが、ここで手を上げ質問に転じる。知りたいことが資料にも説明にも一切含まれていなかったからだ。


「もちろんです。わたくしに答えられることならば何でもお答えします」


「ありがとうございます。それじゃあ事件当時、屋敷の中にいた使用人に元ハンターはいましたか?」


「はい。治安局の調べでは九人ほどいました。私兵に八人と執事のバビロの合計九人です」


「なるほど、わかりました。では後でそのリストをもらうことはできますか?」


「リストですか? わかりました。バビロ、資料を用意してくれるかしら?」


「承知いたしました」


 バビロは手際よく資料を捲ると、ものの数秒で元ハンターが載っているリストを見付け出してリアムへと手渡した。リストには、氏名とハンター歴があるかのみ、簡潔に記されていた。


「ありがとうございます。俺からの質問は以上です」


 その後もジレッタやルクルットが質問を続けたが、リアムにとってはあまり役に立つような情報はなかった。


 終始無言で話を聞くだけの氷結の騎士、業火、ジャックとは対照的なジレッタとルクルットだったが、もはや有用な話ではないので、リアムはすでに上の空である。


 あまりにも興味がなさそうな態度のリアムに、ルナは疑問を抱いて小声で問いかけた。


「リアムさまはもう質問しなくてもいいんですか?」


「ん? あーうん。もういいかな。治安局の資料にある内容ばっかりだしね」


「意外と資料とかちゃんと見てるんですね……」


「意外ってなによ、意外って……俺だってちゃんと仕事はするのよ?」


「ふふっ、ほんのちょっとだけ見直しました」


「えー、ちょっとだけかよ……」


 ジレッタとルクルットのテトラに対する質問責めが終わり、庭園が静かになると、テトラは椅子から立ち上がった。


 急に立ち上がったテトラに皆の目線が集まり、彼女を捉える。


「皆さん、質問もそろそろ終わりのようですので、ここでわたくしから提案がございます。時間もそろそろ夕食時です。よろしければこの後、夕食の席でもいかがでしょうか? お礼というわけではありませんが、こちらで全てご用意させていただきますので、参加される方は挙手をお願いします」


 テトラの提案に手を上げたのはリアム、ジレッタ、ルクルットの三人だった。


 ちなみにリアムは三人の中で最速である。その素早い挙手に横に座るルナは若干呆れ顔だった。


「では、参加される方は最初に集まってもらったパーティーホールに移動をお願いします。不参加の業火さん、氷結さん、ジャックさん、本日はありがとうございました。帰りの馬車を用意しますので、馬車が到着しましたら移動をお願いしますね。それと、お手数ですが五日に一度、この屋敷で経過報告をお願いします」


 了解の意を込めて頷く業火、氷結、ジャックの三人は、馬車が庭園前に到着するまではそのまま庭園で待機となった。


 夕食に参加するリアムとルナ、ジレッタ、ルクルットの四人はテトラの指示に従い、椅子から立ち上がり移動を開始した。


「では、こちらにどうぞ。バビロ、案内を頼むわね」


「承知いたしました。では皆様こちらです。薄暗くなっておりますので、足元には十分お気をつけくださいませ」


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