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葬霊の鞘と銀の月 ―百年戦争の残滓― 〜神を喰らう魔剣と、奇跡を紡ぐ少女〜  作者: ウィースキィ


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第05話 リアムさまは、ずるいです……


 広大なアーベルット伯爵家の敷地の中には、立派な屋敷だけではなく、美しい庭園が広がっている。玄関側にも庭園はあったが、中庭にも同じく広々とした空間が広がっていた。


 丁寧に剪定され整えられた木々や、美しくレイアウトされた花々が、生命力に満ちた花弁を開き、生き生きと太陽の光を浴びている。色とりどりな花がまるで『織りなされた虹』のように美しく咲き誇る、見る者の目を奪う庭園だ。


 そんな様々な植物に囲まれた庭園の中心には、少々広めの白亜のガゼボがある。そこに今日招待された人数分の椅子とテーブルが、整然と並べられていた。


 テトラの案内で六人のハンターがそこに集められる。テーブルは横二列、縦三列で配置され、各テーブルに椅子が二つずつ用意されている。


 着席を促されたハンターたちがそれぞれ椅子に腰を下ろす中で、リアムは出遅れたため、一番後ろの左側の席にルナと共に座る。


(んー? そういえば、みんなの契約悪魔は中級以上なのかな? って、ハンターならそりゃそうか)


 リアム以外の五人のハンターは、契約悪魔を霊体化――すなわち、その存在をハンターの中に内包している状態にしている。


 そのため、ハンターが一人でこの場にいるし、席に着いているのも一人ずつだ。一応、椅子は二人分用意されてはいるが。


 契約悪魔には、位階が存在する。契約悪魔の魔力量や、戦闘能力の高さ、もしくは固有能力の社会貢献度の高さなどが評価項目であり、最終的には低級、中級、上級、特級の四分類で評価される。


 契約悪魔として登録されている悪魔で最上位となる特級に分類されるのは全体の約〇・二パーセントであり、次いで上級が約一〇パーセント、中級が約七〇パーセント、低級が約二〇パーセントで、中間層である中級が最も多い。


 低級に分類される悪魔のルナは、魔力が足りずに霊体化ができない。なのでリアムの隣の席にちょこんと座っているのだが、そもそもリアムは、ルナが霊体化ができたとしてもルナに霊体化をさせるつもりはなかった。


 そんな背景もあって、周りのハンターの視線を全く気にせずにリアムはルナと並んで席に着くのだ。


 ハンターたちが全員着席すると、アーベルット伯爵家に仕えるメイドがそれぞれの机に淹れたての紅茶とお茶菓子を用意する。


 お茶菓子は、甘く香ばしいバターの香りを周囲に漂わせるクッキーと、ふわりと焼き上げられたチョコレートのシフォンケーキだ。


 美味しそうなお菓子に視線がくぎ付けのリアムと、本物のメイドの手際の良さに興味津々なルナ。対象的な二人だが、その行動はよく似てもいる。


「皆さん、紅茶の方は行き渡りましたね。それでは、本日はお忙しい中、ご参集いただき心から感謝いたします。改めまして、わたくしは今回皆さんに依頼を出させていただきました、アーベルット家当主、テトラ・アーベルットと申します。隣は執事のバビロです。本日はよろしくお願いいたします。では、早速ですが依頼内容を説明します」


 バビロが依頼内容を記した資料をハンターたちの机に配り始めるのと同時に、一人のハンターが席を立った。暗めの金髪で高身長の青年ハンターだ。


 爽やかな笑顔が好印象な彼は席を立ち、テトラに向けて意見を述べる。それは決して批判的な意見ではなく、むしろ彼のような社交的な人間ならではの提案であった。


「テトラさん、少し待ってくれないだろうか。まずは自己紹介といこうじゃないか! 僕たちハンターは、名前か通り名、契約悪魔の位階、そしてハンターランクを名乗るのが『暗黙の了解』だからね! そうだろう? ハンター諸君!」


 彼の提案に真っ先に反応したのは、美人だが表情が固く、少し不機嫌そうにも見える赤茶色の髪の少女だ。ハンター協会の白い制服を身に纏う彼女は、暗めの金髪の青年には目線を向けずに淡々と話す。


「それはマナーであってルールではないはずよ? まあ、だからといって別に嫌というわけではないけれど」


「そうかっ! それじゃあ君から頼むよ! 他の皆もそれでいいだろう?」


 彼からの問いかけに、異を唱える者はリアムを含めて誰もいない。肯定の無言か、無言の頷きが暗めの金髪の青年に返る。


 トップバッターを指名された赤茶髪の少女は、渋々といった感じに立ち上がり、五人のハンターたちに視線を向けた。堂々とした様子からは自信と余裕が伺える。おそらくこういったことにも慣れているのだろう。


「私はジレッタ・フェネビス。歳は十七、ハンターランクは九位よ。契約悪魔の位階は上級、名はアヌビスよ。以上、これでいいかしら?」


 ジレッタは紹介に合わせて、霊体化を解除したのだろう。一人の男性悪魔が霧のようにどこからともなく姿を表した。


 姿を現した男性は、紺色のスーツ姿で知的な印象を受ける好青年だが、肌の色は暗い赤色で、瞳の色は金色だ。背も一九〇センチほどあり長身で、背中には漆黒の翼を二枚携える。彼がジレッタの紹介にもあった契約悪魔のアヌビスだ。


 彼は軽くお辞儀をすると、再び霊体化して、そのまま姿を消した。


「おいおい、いきなり大物じゃないか! まさかトップランカーの『赤き死神』に会えるなんてね!」


 ハンターには、ハンターランクと呼ばれる序列がある。数字が若ければランクが高いため、ジレッタの九位というランクは最上位帯に位置し、ハンターの上位十名のトップランカーと呼ばれる者たちの一人だ。


 暗い金髪の青年は、かなり驚いた様子でジレッタに言う。というのも、基本的にトップランカーは、ハンター協会に属し、ハンター協会からの依頼を受けるため、一般の依頼にはあまり顔を出さないからだ。


 周囲からの興味の視線がジレッタに向けられるが、彼女の反応は薄い。相変わらず不機嫌そうな固い表情のままである。


「その呼び名は嫌いなの。普通に名前で呼んでくれる?」


「おっと、それは失礼! わかったよ、ジレッタさん。それじゃあ次は僕が。トップランカーの紹介の後には気が引けるが……僕はルクルット・モーリヤス。歳は十九だ。ランクは一〇四〇位! 相棒はこいつ! 名前はガゼットだ!」


 ルクルットの声に続き、姿を表したのは、体長が二メートルは優に超える大きな虎の姿をした悪魔だった。黒い体毛に金色の縞模様。見るからに雷を連想させる姿には、野生の畏怖の気持ちを抱かざるを得ない。


 しかし、黒き虎の悪魔ガゼットは、まるで忠犬のようにルクルットの隣に行儀よく座ると、ペコリと頭を下げてから姿を消す。ほんの少しだけ可愛らしさも持ち合わせた、そんな悪魔であった。


「位階は中級だよ。それと僕は、お話するのが好きなんだ! せっかくの出会いだ。できれば色々とお話させてくれると嬉しい。よろしく頼むよ! それじゃあ次はフードの君で!」


 ルクルットに指名されたフードのハンターは立ち上がり、軽く頭を下げた。目深に被られたフードの中は伺えそうにない。


「ふむ、俺はあまり正体は晒したくないんでな。悪く思わないでくれよ。通り名は『切り裂きジャック』なんて名で呼ばれている。呼ぶときはジャックでいい。ランクは一二四五位だ。契約悪魔は中級悪魔エルドラ。こちらも姿は見せられないが、よろしく頼む」


「うんうん! ハンターは身分をあまり明かしたがらない人が多いからね! 気にしないで! じゃあ次! 狐の面の君で!」


 いつの間にか司会者気取りのルクルットに指名された狐の面のハンターは小さく舌打ちをしてから立ち上がる。


 ジャックとは違い、落ち着いた雰囲気ではない。どちらかといえば不愉快な態度を見せる変わり者といった印象をこの場にいる全員が感じ取ったが、それは間違いではなかったようだった。


「最初に言っとくが、俺は療養してる兄貴の代理で来てるからな。通り名は『地獄の業火』だ。まあ、業火って呼んでくれや! ランクは一五三二位、契約悪魔は中級悪魔のレードルフだ。以上だ!」


 行動の一つ一つが雑な業火は音を立てて椅子に座り、両腕を組んでいた。


「そうかっ! 業火くんは代理なんだね! その兄貴にもよろしく言っといてくれ! それじゃあ次は騎士みたいな君!」


 ガチャガチャと音を立てて騎士の鎧姿のハンターは立ち上がる。なんとも暑そうな姿であるが、ハンターに鎧姿の者は結構多いので、この場でなければ浮くことはない。


「俺は『氷結の騎士』と呼ばれている。呼ぶときは氷結でいい。ランクは一〇九八位。契約悪魔は中級悪魔のフローレンスだ。彼女は人見知りなんでな、姿は見せることはないだろうが、よろしく頼む」


「おお! 君が氷結の騎士か! 最近ランクを凄い勢いで上げているから話題になっているよね! よろしく! それじゃあ……最後は君だね! この辺じゃ珍しい黒髪の少年!」


 ルクルットの言う通り、リアムのような真っ黒な髪の人種はこの大陸では珍しい。


 元々は東国の島国に住む人種だったが、その島国は先の『百年戦争』で跡形もなく消滅しているので、非常に珍しい人種となっているのだ。それにリアムは瞳が赤く、尚更に目立つ容姿でもある。


「あ、えっと、俺はリアムだ。ランクは圏外、というか試験を受けてないからランクは無い、かな? 契約悪魔は低級悪魔で隣にいるルナだ。よろしくね」


「うんうん! そうかそうか……って! 何っ!?  君ランク無いのか!?  今時珍しいなあ」


「まあ、そうだよね。確かに珍しいかもね」


 リアムがランクが無いと告げて、ルクルットが驚いている時にこの場にいる人の中で一人だけ空気が変わった者がいた。


 それは狐の面を被った男、通り名を地獄の業火と名乗った男である。彼は急に腹を抱えて笑い出していた。


「おいおいおい! うっそだろ? お前、ランク無しって! しかも低級悪魔と契約って! 家事の補助じゃねぇんだからよぉ! あーおもしろっ!」


「ちょ、ちょっと、業火くん? それは彼に失礼じゃないか」


「あ? だって本当の事だろ? 見るからに使えなそうな悪魔じゃんかよ! 俺なら廃棄してるわ! もう帰ったらいいんじゃねぇか? お前みたいな落ちこぼれは足手まといになるだけだろ!」


 周りの空気を乱し続ける業火をなだめるルクルットを見て、ジレッタはため息を吐いてから不機嫌そうに苦言を呈す。


「あら? あなたのその理屈だとあなたは失礼極まりなくて、空気の読めないおバカさんってことを伝えなければいけないのだけれどいいかしら?」


「あぁっ? なんだよ? トップランカーだからって調子に乗ってんじゃ……」


 くだらないと言わんばかりに腕を組んで業火へ視線を向けるジレッタに、テーブルから身を乗り出して、おそらくは睨んでいるだろうと思われる業火、今にも衝突しそうな二人を前にリアムは立ち上がり大袈裟に両手を使ってなだめた。


「ま、まあまあ。俺が落ちこぼれのハンターなのは事実だからいいですよ」


 そんなリアムのヘラヘラとした態度が気に食わないのか、業火は大きく舌打ちをして席に座る。


 そこで終わりかと思われたが、リアムは業火に向けて話を続けた。


「あー、でもね、えっと業火くんだっけ? 一つだけ言わしてもらうけどいいかな?」


 基本自分が貶されようと終始笑顔でいられる自信のあるリアムだったが、ことルナの話となれば話しは別だった。


 リアムのヘラヘラとした笑顔は一瞬で消えて、ルナにもあまり見せたことのない鋭く、冷たい視線が業火へ向けられる。


「俺の事は構わないが、ルナの事を悪く言うのは止めてくれるかな? ルナは君を不快にさせるようなことは何一つしていない。もしも存在自体が不快だなんて言うなら……その時は俺も自分の行動に責任は持てないよ。何せ俺は君が言うように落ちこぼれだからね?」


 リアムの発言により庭園内の空気が一変した。口調こそ優しく穏やかなものであったが、激しく強い怒りの波動が、この場にいる全ての人たちにしっかりと届いていた。


 これにはさすがの業火も茶化す雰囲気ではないと感じ取ったのか、反発するような発言はなかったが、小声で悪態をつく。


「……クソがっ」


 リアムは肩をすくめてから席に座った。そこには普段のとぼけたような笑顔に戻ったリアムが居て、まるで何事もなかったかのようにテトラに進行を促すよう声をかけた。


「それじゃあ自己紹介は終わりだね。テトラさん? 依頼内容の説明をお願いします」


「あっはい! それでは説明を始めますね」


 若干困り顔のテトラが説明を始めるなか、ルナは自分を庇ってくれたリアムの横顔を見る。いつも通りのとぼけた姿の彼の視線は説明を始めたテトラに注がれていた。


 ルナは思う。


(悔しいな。でも反論なんてできない。だって、ルナは弱くて足手まといだから――)


 ルナの心の中は自身に対する強い嫌悪感でいっぱいだった。小さな手を机の下の膝の上で強く握り絞めて、なんとか悔しさを誤魔化すが、それもあまり意味を成さない。


 結局とても悲しくなってしまって涙が出そうになってしまっていた。そして、考えたくもない事が頭を過る。


(ルナはいらない子なんだ。だって、何もできない、戦いの役に立てない。きっとリアムさまもそう思って――)


 リアムはきっとそんなことは言わないし思わない。それをルナは頭ではわかっていた。


 でもそれをわかっていても、そう思わずにはいられなかったのだ。


 もうルナには説明をするテトラの声は聞こえなかった。寂しくて、悲しくて、気が付くとルナはリアムに小声で声をかけていた。


 それは確かめたいという気持ちから来るもの。必要だと言ってほしいから、声をかけずにはいられない。それでもかけることのできる言葉は謝罪の言葉でしかなかった。


「あの、リアムさま、ごめんなさい。ルナのせいで……」


「えいっ」


「あぅ! な、なんですか? い、痛いですよ」


 ペチンッとルナの額を中指で弾いたリアムはそのまま手をルナの頭に乗せて、ちょっと涙目のルナにいつものように明るい笑顔を向ける。


「ルナは何も気にしなくていいの。心配しなくてもルナは俺の自慢のパートナーだからさ」


 ルナからの返事はない。


 うつ向いてプルプルと涙を堪えていたルナは返事をする事ができなかったのだ。今のルナは涙を堪えるので精一杯であった。


(まったく……強がりさんだなあ)


 未だぎゅっと握られたままのルナの手の上にリアムは自らの手を重ねた。これ以上、悔しさから手を強く握る必要は無いと伝わるようにと。


「リアムさまは、ずるいです……」


 小さく、とても小さく呟いたルナの声はリアムには届かない。リアムはすでにテトラの説明に耳を傾けていた。


 ルナはそれでいいと思った。聞かれなくてよかったと思った。


 そして雪が溶けるように、ゆっくりと開いていく手のひら。それをくるりと返してルナはリアムの少しひんやりとするがとても温かく感じる手を控えめに握る。


 するとすぐにリアムから握り返してくれて、ルナの堪えていたはずの涙はいつの間にかどこかに行ってしまっていた。


(ふふ、やっぱりずるいです。こんなの反則です)


 それはまるで魔法のようだった。優しくて温かくて、不安も寂しさも、全部を包み込んでくれるような、そんな素敵な魔法だ。


【登場人物】


■ジレッタ・フェネビス

挿絵(By みてみん)


■ルクルット・モーリヤス

挿絵(By みてみん)


■切り裂きジャック

挿絵(By みてみん)


■地獄の業火

挿絵(By みてみん)


■氷結の騎士

挿絵(By みてみん)


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