第10話 えっとですねー……うむっ! むーっ!?
リアムとルナは、並べられた色とりどりのテーブルを巡り、普段ならば口にすることのできない、様々な種類の料理を心ゆくまで味わって回った。
途中でルナはもう満足したのか、勢いが収まらないリアムと一旦別れ、一人で椅子に座り休憩をしていた。
そんなルナの元へ、ジレッタとルクルットがやってくる。
丸いテーブルには対角に四つの椅子が置かれており、ジレッタとルクルットは、ルナが座る椅子を真ん中に挟んで両側へ座った。
「料理はもういいのかしら?」
ジレッタは、未だに食べ続けているリアムに視線を向けながらルナに問いかける。問いかけられたルナも、リアムを見てクスリと笑うと、お腹がいっぱいだと示すように軽く腹部を擦りながらジレッタに答えた。
「もうお腹いっぱいです! 久しぶりにこんなにご馳走を沢山食べました!」
そう言ってにこやかに笑うルナに、隣のルクルットも柔らかな笑顔を向けた。そして、ルクルットがこの場に座った理由の一つでもある、ある質問をルナに投げ掛けた。
それは夕食会が始まる前の、業火とリアムの衝突の際の出来事の話であった。
「ルナちゃん、少し質問いいかな?」
急なルクルットの質問にルナは目をぱちくりとさせた。ルクルットはそれを見て優しく微笑んで見せてから質問を続けた。
ルナが変に緊張しないようにとの、ルクルットなりの細やかな気遣いだ。
「はい? ルナに答えられることでしたら」
「ごめんね、ありがとう! さっきのリアムくんが業火くんを吹き飛ばした時の事なんだけど、あの時ルナちゃんは、瞬時にリアムくんを身体強化したように見えたんだ。確か紹介の時にルナちゃんは低級の悪魔だってリアムくんは言っていたけど、あの速度の身体強化は上級悪魔並みだと思ってね。それが少し気になったんだよ」
本来、契約悪魔による身体強化は、悪魔が霊体化していて、かつ、ハンターの極めて近くにいるからこそ即座に発動できるものだ。だが、あの時ルナは霊体化をしていない。それにリアムとルナの距離もわずかに離れていた。
あの状態であれほど速く身体強化を出来るのは、上級悪魔か一部の優秀な中級悪魔ぐらいのもので、低級であるルナにできるというのは極めて稀な例外だとルクルットは考えたのだ。
だからこそのルクルットの質問だったのだが、ルナは小首をかしげて不思議そうな顔をする。
「えっと、あの時ルナは身体強化をしていませんでしたよ?」
「なんだって!? 身体強化をしていない?」
「ちょっと待って! それ本当なの?」
ルナの発言に、隣で黙って話を聞いていたはずのジレッタも思わず反応した。二人の驚きっぷりときたら、よほど衝撃的な事実であったのだろう。二人とも思わず目が点になっていた。
「はい……? ルナは何もしていませんよ」
「だとしたら生身であの動きか! リアムくんは想像を絶する凄い人だねえ!」
「ちょっと! 凄いなんてものじゃないわよ! 私だって一瞬反応が遅れたほどなのよ?」
ジレッタはあの時のリアムの動きを脳裏に再現し、やはり納得がいかないと小さく首を振る。
「あんなの生身の人間には無理よ」
あれがもし自分に向けられていた攻撃だったとしたら、少なくとも完全に無傷とはいかなかっただろう。ジレッタはそう考えて、尚更に納得がいかなくなっていた。
ジレッタには自身の実力に対する確固たる自信があった。トップランカーである自分を過信しているわけではないが、それでも実力を認められての今の地位である。
それが、そんな自分が、生身の人間に少しでも引けを取るなど到底受け入れがたい。だからジレッタは探ることにした。リアムがどんな人間で、あのぼんやりとした笑顔の裏に何を隠しているのかを。
そんなジレッタの深謀遠慮を知る由もなく、ルクルットはルナに純粋な好奇心から質問を続けていた。
「リアムくんはいつもあんな感じなのかい?」
「いえ、いつもはルナが身体強化をしていますよ?」
ルクルットの微妙にナイスな質問に心の中で頷きながら、ジレッタはどうやって探るかを考えつつ、適当に相槌を打つ。
「そうよね。それが普通よね」
そこで三人の会話が一旦途切れる。ルクルットが質問で話を繋げている隙間時間に考えよう。そう思っていたジレッタは、急に訪れた沈黙に焦るが、そこへタイミングよくリアムが現れた。
先程のルナと同じくお腹を擦りながら、テーブルの空いている席に座ったリアムは、満足するほど料理を食べることが出来たのだろう。その顔には『大満足』とでかでかと書かれているかのような、清々しくも幸せそうな表情を浮かべていた。
「いやー、もう腹一杯だよー。ルナもちゃんと食べれたかい?」
「はいっ! ルナももう食べれません! リアムさまも食べ終わりですか?」
「うん。さすがにもう入らないかなあ。それで? 三人で何話してたの? 俺もまぜてー」
「はい! もちろんです! えっとですねー……うむっ! むーっ!?」
ルナは急に口をジレッタに手で塞がれてしまい、モゴモゴと唸り声を上げている。
リアムが首をかしげてジレッタを見ると、ジレッタはにこやかに笑っていた。
(なんか仲良さそうだな)
そんなことをリアムが思っていると、ジレッタは常よりも早口で言う。
「えっとね、私の仕事を手伝わないかって話をしていたのよ! ねっ! ルナ? そうよね?」
何かを伝えようとしているルナの頭を、ジレッタは無理やり頷かせ、耳元で小さな声で「話を合わせて」と耳打ちをした。
ルナは全く持って意味がわからない状態であったが、とりあえず自分から頷いて了解の意を示すと、ジレッタは口を押さえていた手を離し、ルナは解放される。
そして、わかったと頷いたからには話を合わせなくてはいけないと考え、思い付く限り自然な流れで話をジレッタに繋げるために言葉を選んで話す。
「え、えっと、そうです! お仕事の話です! 詳しくはジレッタさんに聞いてください!」
とりあえずは上手く話を合わせたルナに、ジレッタは目配せで「ありがとう」と伝えて、リアムが来る直前にたまたま思い付いた仕事の説明を始める。
「明後日にちょっとした悪魔討伐と調査の大きな依頼があるのよ。そこで回復魔法が使える子が欲しくてね。いつもは専属の子がいるのだけど、その日は都合が合わないって言われちゃったの。それで回復魔法が使えるルナに頼もうかと思ったのよ」
この仕事の話自体は嘘ではないが、回復専属の子の都合が合わないというのは方便だ。
ジレッタは自分でも驚くほどスムーズに嘘をつけたことに若干の罪悪感と驚きを覚えたが、ここまできたら押し通すだけだと開き直った。
「ほうほう、なるほどなるほど。別にいいんじゃないかな? ルナが良ければだけどね」
意外にもリアムの答えはあっさりとした肯定的なものであった。これにはジレッタも面を食らったが、顔には出さない。
普通のハンターならば場所や、報酬の金額、その他の内容などを聞いた上で判断するものだが、リアムは何も聞かずに即決している。警戒心がないのか、何も考えていないのか。そんなことを考えながらも、ジレッタはあくまでも平静を装って話す。
「あら? まだ詳しい内容を話してないけど? 即決でいいのかしら?」
「いいですよ。ジレッタさんは信用できそうですからね。あっ、もちろんルナ次第ですが」
リアムの人となりを見極めようとした言葉のジャブのつもりだったが、見事にかわされ、逆に罪悪感を刺激される結果となってジレッタはすこしたじろぎそうになるが堪える。
「そ、そう? まあ変な依頼ではないはずよ。何せ、協会からの依頼だもの」
「ハンター協会のですか?」
「そうよ。もちろん無理強いなんてしないわ。因みに報酬は一日で金貨三枚ね。仕事の内容は私の治療よ。もし治療することが無くても金貨三枚は払うわ。どうかしら、ルナ?」
「え、えっと……」
ルナはリアムを見る。この目は判断を求めている目だとリアムは知っている。しかしリアムは判断を下さなかった。ただ一言「自分で決めな」と言っただけだ。
「う、うーん」
ルナは少しだけ考えてから、自らの意思で答えを出した。
「ジレッタさん! お仕事お受けします! よろしくお願いします」
「ええ、助かるわ。こちらこそよろしくね」
ジレッタから差し出された手をルナは握り返して握手を交わす。
そんな二人を見て、リアムはうんうんと頷いて、ルナのことを離したジレッタに、握手のために手を差し出した。
「それでは、当日はルナの事をよろしくお願いしますね」
「ええ、それはもちろんきちんと面倒は見るわよ。でも……」
ジレッタはリアムの手を取り固く握手を交わすが、その顔には含みのある笑みが浮かんでいた。
「でも?」
「リアム、あなたも一緒に来なさい」
これこそがジレッタの本来の目的だ。ルナをダシにすれば、自ずとリアムは来ざるを得ないと考えたのだ。
「え? どうして?」
「どうしてってあんたね……リアムはルナの保護者みたいなものでしょ? だったら一緒に来るのは当たり前じゃない」
「ま、まあ、そうなりますね。わかりました、ご一緒させてもらいますね」
「本来の報酬は討伐報酬だからリアムも討伐すれば報酬は払うわよ。因みに一体につき金貨一枚ね」
今回の依頼は、複数の野良悪魔の存在が確認されている地域の調査と討伐の依頼だ。
ハンター協会の依頼ということもあって報酬はそこそこ高い水準なので、リアムにとっても悪くない話であった。
「わお、結構貰えるんですね」
「討伐したら、だけどね。情報だとそれなりに数はいるみたいだから、リアムも頑張りなさい」
「うーん。足手まといにならないようには善処します。それじゃあ一緒に頑張ろうか、ルナ?」
もしかして一人なのでは、と心配していたルナは、リアムが来ると聞いて心底安堵する。無論一人でも引き受けるつもりではあったが、心細くないと言えば、それは嘘になる。なので不安が晴れたルナは、それはもう嬉しそうな笑顔で返事を返したのだった。
「は、はい! 頑張りましょうね!」
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