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8.いとこといとこと


「これが、ガドリア、こっちがサーレン。この島がジェパというのは前、話したんだけど......」

モモさんが世界地図を広げて地理の授業をしてくれている。ジャンと出会ってから三年の月日が流れていた。洞窟の中にいる生活に変わりはないが、変わったこともたくさんある。

例えば、こうしてモモさんはジャンに行っていた家庭教育を、この洞窟で一緒にやってくれるようになったこと。モモさんは博識でなんでも知っている。元から本を読むのは好きで独学で得た知識はあったけれど、どうしても偏ってしまっていた。陸上生活の話は、やはり興味深い話ばかりでとても楽しい。


「ジャン?居眠りしちゃダメだよ」

私はうとうとしている、彼の肩を揺さぶって起こした。

変わったこと二つ目は、私の言葉遣い。一年前に染み付いてしまっていた命令口調はなりを潜めた。今では、あまり使うことはない。敬語の使い方も教えてもらって、社会性が上がってきたと思っている。

「ねえ、こんなことよりさ。はやく誕生日のお祝いしようよ」

ジャンはこんなに素敵な先生が母親なのに、勉強への熱意はあまりない。

「いいの!モモさんの話を聞いた後にケーキ食べるって約束でしょ!」

「ちぇっ」

ジャンは舌打ちをして横を向いた。本当にいつまでも子供っぽい。

「おーい!サリー!」

突然、洞窟の出入り口から名前を呼ばれた。そちらに顔を向けると、海中から顔を出した人魚のフライがいた。飛び魚の人魚、フライは私の従兄弟だ。癖っ毛の金髪に海の色みたいな青い瞳がこちらを見ている。

「あ、フライが来てる」

思わず呟いた。

「フライ君も来てるし、今日は特別な日だもの。授業は切り上げちゃいましょ」

「すみません、モモさん。せっかく準備してくださっているのに」

「いいのよ、サリーちゃん。ケーキ用意するから待っててね」

モモさんは私の頭をナデナデしたあと、世界地図をしまい始めた。

「あーあ、あいつが来る前にお祝い始めたかったのに」

机の上にジャンは突っ伏して、頬を膨らませてイラついている。何故か、フライのことをジャンは嫌いみたいだ。理由はよく分からない。

変わったこと三つ目は、鉄格子がなくなって、魚人族の兵士以外とも交流するようになったこと。ジャンやモモさんだけではなく、海王様は他の魚人族と接することを推奨するようになった。話し相手になってもらったり、魚人族の知識、遠泳方法を学ぶためだ。ただ深海から海上に来るまでに、いくらここの海流が強すぎて船も人も来れないと言っても、人に見つかるリスクはある。海王様に、強制じゃなくて、そういうリスクをふまえても会いに来てくれるという奇特な人がもしいるなら、お願いしたいと手紙にしたためた。すると意外なことに、話し相手希望者が殺到したという。魚人族は基本的に海底帝国アトラで一生を過ごし、地上に来てはいけないとされているので、憧れがあった者たちが、私の話し相手をするだけで地上に行けるならと手を挙げたんだとか。その中で、仲良くなったのが従兄弟のフライだ。二つ上の15歳で、知的で優しいお兄さん的な存在だ。ちなみに、私には男女含めて8人の従兄弟がいるらしい。


「おい、ジャン。きこえてるぞ」

イラついているジャンにフライが海の中に下半身を浸けながら声をかけている。フライは人魚だから地上に上がってこれない。飛魚だから海面ジャンプはできるけど、魚人と違って二本足はないので歩けないのだ。

「あ?天ぷら野郎。お前ケーキとか食べないんだから関係ないだろ、ひっこんでろ」

天ぷらとは、極東の島国ジェパに伝わる伝統料理らしい。初めてフライを紹介した時に、ジャンは「魚フライ、天ぷらじゃん」と反応して、そこからそんなあだ名で呼ぶようになった。すごく失礼だとは思う。

「その呼び方やめろって言ってんだろ、チビ」

フライもジャンもは普段は優しいのに、口喧嘩するときだけ口が悪い。ん?喧嘩だから当たり前か。

「ああん?うるさいなあ!ちょっとヒレが長いだけのくせに」

「ぷぷぷ、可哀想に。サリーに追いつけないなんて」

「この野郎、人が1番気にしていることを!」

ジャンが瞬間移動の如く、フライがいるところまで駆け寄って、またあーだこーだと口喧嘩をしている。ジャンは身長が私より低いことを気にしている。小柄な体格に主張の少ない鼻と口、艶やかな黒髪とまん丸の黒い瞳、全部モモさん似で可愛いから私は結構好きなんだけど。そう話しても、ジャンは男のプライドとかいうやつがあるから嫌なんだとか。ちなみに、ジャンは基本的には獣耳と尻尾は隠している。

「本当に、ジャンに同世代のお友達ができてよかったわ、サリーちゃんのおかげね」

罵り合っている2人を見て、モモさんは微笑ましいという表情だ。いつも喧嘩しているけど、あの関係はお友達になるんだろうか?ジャン家族はずっと放浪の旅とやらを続けていて、人に触れ合わないよう隠れて過ごしてきたそうだ。ジャンは初対面の時、フレンドリーにみえたけど友達がいたことないのは私と同じ境遇だったと後から知った。

「さてさて、あそこの2人はほっといてお祝い始めちゃいましょうか」

さっきまで勉強に使っていた机にコップに入ったジュースとケーキが置かれていた。モモさんが家で作って、ここまで持ってきてくれたらしい。断崖絶壁から当たり前のようにジャンがモモさんを背負って、この洞窟に来ているらしいんだけど......よく、ケーキを潰さずに持って来れるな。

「ろうそくはフライ君がいるし、やめとこうかしら」

モモさんが顎に手を当てて呟く。

「いえ!大丈夫です、モモさん!火には慣れました」

口喧嘩してた割にこちらの会話を聞いていたフライが手を挙げていた。

「だから、この魚。いなくていいじゃん、ケーキ食べないんから」

「そういう意地悪言わないの!」

ジャンがフライに悪態をつくので私が怒ると、さらにジャンはブスッとなる。本当にわかりやすいやつだ。

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