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4 自己紹介

 ベッドに横になっていると天幕の外にいる人の話し声が聞こえてきた。


「団長が女性を保護するなんて珍しいな。女嫌いって噂は嘘なのか?」


「あれだけいい男なのに浮いた話は聞かないからな。でも宮廷魔術師のグレンダさんと仲が良いって聞いたけどな」


「仲が良くても結婚は無理だろ。彼女は平民だから次期侯爵家当主の団長とは結ばれないって」


「身分違いの恋かぁ、燃えるねぇ」


 さっきのローブを着た人と、別の誰かのお喋りで団長さんが身分の高い人だとわかった。


 グレンダさんという魔術師の女性が恋人なのかどうかはわからないけど、そういう人がいてもおかしくないよね。


 いろんな事がありすぎて疲れてしまっていたらしく、私はいつの間にか眠っていたようだ。


 ガヤガヤと外がうるさくなって来た事で目を覚ますと、ちょうど天幕の入り口から団長さんが入ってくる所だった。


「待たせてすまなかったね。ゆっくり休めたか?」


 私は前がはだけないように布を掴み直すと慎重に起き上がった。


 あの村が襲われていると連絡があったのか、元々追っていた人攫い達だったのかはわからないが、そのためにここにいるのは明白だ。


「いえ、お仕事ですから当然です。それよりも助けていただきありがとうございます」


 あのまま放っておかれてもおかしくはないのにわざわざここまで連れてきてもらったのだ。もう一度ちゃんとお礼が言いたかった。


「流石にその格好では出歩けないだろう。私の服で申し訳ないがこちらに着替えてもらえるか? ちゃんと洗濯はしてある」


 団長さんはそう言うと、ベッドの横に置いてあった木箱から服を出してきた。


「外に出てるから着替え終わったら声をかけてくれ」


 私の横に服を置くと天幕から出て行った。


 団長さんが置いていった服を広げてみると、白いシャツと黒いズボンだった。


 私はブレザーとブラウスを脱ぐと団長さんのシャツに袖を通した。


 …うわぁ、これって彼シャツ?


 この世界でもそういう認識があるのかはわからないが、袖は長いし胴回りもブカブカだ。


 だけど、スカートは無事なのにどうしてズボンまで出してきたのかな?


 そう思ってさっき抱き上げられた時の事を思い返した。


 団長さんは私を抱き上げる前に足先まで布でくるんだのだ。


 もしかして女性は足を見せちゃいけないって事かな。


 そう考えるとズボンまで出されたのも納得だ。


 腰回りが入るかどうか不安だったが、無事に履けてホッとした。


 裾は折り曲げなきゃいけなかったけどね。


 脱いだ服を折り畳んでまとめると、ベッドを下りて天幕の入り口に向かった。


 出入り口の幕を開けるとそこには団長さんの背中があった。


「…あの、着替え終わりました」


 団長さんは振り向くと私を見てスッと目を細めた。


 ちょっと笑ってる?


 その笑顔の破壊力にダメージを食らいつつもなんとか笑顔を返す。


 団長さんは天幕の中に入ると私をテーブルの方に誘導した。


 向かい合って座ると私を安心させるように柔らかく微笑んだ。


「まだ自己紹介をしていなかったね。この騎士団の団長をしているエイブラム・ジェンクスだ。君の名前は?」


「アリスです」


 日本名の名字なんて言っても通じるかどうかわからないから、アリスだけで通す事にした。


「アリスか。君はあの村の人じゃないね。何処からか攫われて来たのかな?」


 転移してきたなんて言っても信じてもらえるかどうかわからないから、私はコクリと頷いた。


 人攫い達に罪を着せるようで悪いけど、私一人攫ってきた事を追加した所で極刑なのは変わらないだろう。


「君の髪の色をみるとこの国の人でもないようだ。何処から来たんだ?」 


 何処からって聞かれても「日本」って答えてもわからないよね。


「…わかりません。気がついたらあの村にいました」


 これは本当の事だから問題ないよね。


 だけど団長さんは別の意味に捉えたようだ。


「攫われたショックで記憶を無くしたのか。可哀想に…」


 団長さんは少し黙ったあと、私にニコリと微笑んできた。


「すぐには君を帰す事は出来ないが、記憶が戻るまで家に来るといい。それでいいかな?」


 そこら辺に放り出されても文句は言えないのに、わざわざ自分の家に連れて行ってくれるなんていいのかな?


「…そんなの、ご迷惑じゃ…」


「気にしなくていいよ。家の母も君がいれば喜ぶさ。それじゃさっそく行こうか」


 団長さんは立ち上がると私に手を差し出してきた。


 私はその手に吸い寄せられるように自分の手を重ねた。

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