表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

3話 ある勇者の末路

ラクとラストンが森で狩りをしている一方

アールスとジェニーとルピー、そして新たな女の強化師と男の戦士は

人さらいの目撃情報があったという洞窟の前に来ていた

入り口は人が2人同時に入れる位の大きさだ


まずアールスが簡単な作戦を提示する


「着いたな…まず戦士が盾を構えて前進、敵が攻撃してきたら

適宜対応を頼むぞ」

「おう…」


適当な指示に不満を覚えつつも、戦士は大きな盾を構えて前進する

狭い通路は程なくして終わり、広い空間が広がる


広間内部は石造りの隠し神殿といった模様で、天井は暗くて見えず

狭い通路から見て右手には崩落して埋まっているように見える通路

左手には松明の付いた石造りの通路が見える


「この部屋には敵は居ないようだ」

「よし! 左手の通路に向かおう」


アールスの指示で戦士を先頭に、左手の通路に移動する

通路は人が3人横並びできる位広く、壁沿いに複数ある松明で見通しも良い

程なくして、通路に3体の魔物が見えた。戦士が叫ぶ


「さまよう鎧だ! 皆気をつけろ!」


打ち捨てられた古い鎧に亡霊が宿って動かすアンデッドモンスター

動きは遅いが剣と盾で武装している、決して油断できない相手だ


「よし! 強化を頼む! ジェニーとルピーはファイアボールだ!」

「任せなさい!」

「分かったわ」


1体のさまよう鎧が突出して向かってくるが、走れないのか

接敵前に魔法を放つ猶予は十分あった


「「ファイアボール!」」


だが何も起こらなかった。2人の顔が驚愕の表情に変わる

まごついている内に、さまよう鎧の剣を戦士の盾が受け止める


「どうした!?」

「な、なんで出ないのよぉっ!」

「俺がやる! うおおおっ!」


アールスが前に出て、戦士が止めているさまよう鎧を大剣で突く

その勢いでさまよう鎧は吹き飛ばされたが、いつもの手ごたえが無く

一部が欠けただけのさまよう鎧はゆっくりと起き上がる


「おかしい…いつもなら一撃で倒せてもいいはず…」


その間にも、2体のさまよう鎧が向かってくる


「ファイア!」


とっさに初級攻撃魔法を放ったのはルピーだった

2体の鎧の頭部を焦がし、動きを止める


「チャンスだ勇者! 畳みかけるぞ!」

「言われなくても! うおおおっ!」


アールスと戦士は、反撃で若干の手傷を負い

疲労困憊になりつつも3体のさまよう鎧を殴り倒すことに成功した

だが喜ぶ者はおらず、重苦しい空気が流れる


***


ジェニーはショックからか、へたり込んでブツブツ独り言を呟いている

ルピーは険しい表情になりつつも、限界までヒールを繰り返してアールスと戦士を癒す


「はぁっ、はぁっ…」

(そんな…もう限界なの? いつもならこの位のヒールで疲れる事なんてないのに

グレーターヒールも使えないし、やっぱりラクの言う通り…)


アールスは強化師の能力を訝しみながら口を開く


「力が思うように入らない…他の強化師ではこんな事は無かったんだが」


その言葉に憤慨しながら、女の強化師が言い返す


「何よ! 私の強化は攻撃力と防御力の三割増しよ!

自分で言うのもあれだけど…一流なんだからね!?」


強化師の言葉に戦士も続ける


「あぁ…それは間違いなく一流だ。自分の実力不足を他者のせいにするとは…

このルピーというお嬢さんはマシのようだが、とんだ貧乏くじを引いてしまったようだな」

「んなっ!?」

「だが言い争うのは後だ、こんな所に長居は無用…すぐに脱出するぞ

皆立てるか?」


そう戦士が言った時、ガシャガシャと金属の擦れる音が聞こえてきた

前方から4体のさまよう鎧がやって来たのだ


「くっ…挑発!」


戦士は盾を剣で叩きながら4体の攻撃を誘導し、一身に受け止めた


「このまま後退する! お前達は入り口まで走れ!

外に出さえすればどうとでもなる!」


この状況においても戦士は冷静だった。しかしその狙いは

パーティの後方から飛来した一つの投げ斧によって崩される


「アグッ!? ア…」


女の強化師の首に運悪く直撃した。ほぼ即死である

叫び声に振り返ったアールスとジェニーとルピーが見たものは…


「フーッ、フーッ…」


半裸の大男である。その顔は硬いフェイスマスクに覆われていて表情は見えない

だがマスクごしでもわかるギラギラと光る眼光、普通ではない


崩落して埋まっているように見えた通路は、暗くて見え辛かっただけで

実は通れて、大男はそこからやって来たのだ


戦士は横目で大男を見て


「挟まれたかっ…勇者! 鎧共はこっちで抑えるから

その大男を倒せ! でないと帰れないぞ!!」

「っ…くそおおおっ!!」


アールスは大剣を腰に据えて突撃した。しかし…


ガイイィィン…


大男は剣先を左手で払うように叩いて勢いを方向転換させ

その結果無防備になったアールスのみぞおちを、右手で強打した


「うっ…グボッ…」


強化師を失った今、勇者はただのLv9の雑魚と化していた

大男の足元に倒れ伏し、胃の内容物を吐きながら白目をむいている


その様子を見ながらジェニーが足を震わせながら立ち上がる


「ふざけんじゃ…ないわよっ…賢者になれたのに…

あたしの…才能よおっ!!」


ジェニーは絶叫しながらファイアボールを出した

それは直径2センチ程の大きさで、大男にゆっくり飛んでいき…


パン


大男が両手を使って左右から挟み込むように叩くと

小さなファイアボールは跡形もなく消えてしまった


「あ…あ…」


大男が迫る


「こ、こないで…」


迫る、迫る


「いやあああっ!」


思わず背中を向けて逃げ出そうとするジェニーに対して

大男は勢いそのままに拳で真っ直ぐ突いた、ジェニーは勢いよく倒れ伏し

再び起き上がる事は無かった。そして大男は横にいる次なる獲物

ルピーを視界に収めた


「ヒッ…」


その時、戦士の方から手のひら大の球体が投げ込まれ破裂し

辺りを煙で充満させた


「そいつは俺の煙幕だ! 今の内に逃げろ!」

「で、でも…」

「早く! この洞窟の危険性を伝えに行くんだ!!」

「っ…はい!!」


ルピーは入り口に向かって走り出した。一方大男は

女の強化師の首に刺さったままの投げ斧を引き抜き

そのままルピーに向けて投げつけた


「ああああっ!!」


脇腹に命中し、ルピーは倒れた


***


4体のさまよう鎧の攻撃を受け続けて満身創痍

背後に放った煙幕の向こうから大男がやってくる


「全く…とんだ…貧乏くじだ…ぜ…」


勇者のパーティは全滅した


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ