2話 魔王を倒せない者の生活
ラクとラストンは、ラクが借りている賃貸部屋にやってきた
1Kであり少し狭い。布団が畳まれて隅に置いてあり
服や食器等は、棚が無いので床に置きっぱなしである
「狭いけど、まぁ上がってくれ」
「お、お邪魔します…」
ラクは座布団を1つ持って来てラストンを座らせ
自身は畳んである布団に座った
「アールスに文句は沢山あるが、これからの生活の事を考えないと
特にラストンは仕送りもしなきゃいけないんだろう?」
「あ、うん…」
「装備は没収されたが、予備の物なら…」
そう言いながらラクは部屋の反対側に移動して、置かれている装備の中から
古い革の盾と短剣を取り出してラストンに手渡した
「これを貸しておこう、全能力倍増なんだから弱めの魔物を選べば安全に稼げるだろう」
「ありがとう…でも、なんでこんなに親身になってくれるんだい?」
それを聞き、もう一つの古い革の盾と棍棒を自分用に取り出しながら、ラクは言った
「なんでって…ラストンとパーティを組んでいるだけで全能力倍増なんだぞ?
これは私自身の為でもあるんだ、そんなに卑屈になる必要は無いぞ」
「じゃあ、僕とパーティ組んだままで…?」
「勿論、望むところだよ」
「あ、ありがとう…!」
ラストンは勇者のパーティからの追放に巻き込んだ罪悪感から、半泣きになりながらもラクと握手した
ラクは微笑みながらも、なぜこんなに自己肯定感が低いのか分からず心は晴れなかった
***
明日からラクの部屋の前で待ち合わせをすると決め、一旦ラストンを帰らせて
布団を敷いて仰向けに寝ころんだ
「ふぅ…」
右手で、アールスに渡せなかった呪われたアイテムを目の前に持って来て
ぼーっと眺めながら思いにふける
「まさか勇者ともあろう者が…なぁ…」
軽く振ってみる、しかし不思議と、マーブル模様が混じりあう事は無い
「ルピー…大丈夫だろうか」
治癒を同期で学んだ者、これからの苦労を考えると少しは同情してしまう
「仕方ないか…生活がかかってるんだ。数日もすれば…アールスの
頭も冷えるだろう」
そう言うと、呪われたアイテムを荷物にしまい、眠りについた
***
次の日の朝、ラストンと一緒にルイザの酒場にやってきた
別に勇者でなければ仲間募集ができないわけではない
もしLv1とかの旅人初心者がいたら一時的にパーティを組むのも良いだろう
そう思いながら入り口を見ると、丁度アールスが出てきた所だった
「おや、偶然だな?」
「私もそう思うよ」
続いて賢者の恰好になったジェニーとルピーが出てきた
ラク達を見てふんぞり返り、自らの姿をひけらかすジェニー
とっさにその陰に隠れるようなしぐさを取るルピー
そして新たな女の強化師と男の戦士が出てきた
5人揃ったところでアールスは続けて言った
「フフ…偶然にも強化師と「挑発」スキルの専門家を仲間にできてね…
正に盤石といった所さ」
「挑発」…魔物の注意を使用者に向けさせ、攻撃担当の安全を確保する
前はラクがその役割を担っていたが、やはり本職には敵わない
そんなラクの考えを知ってか、アールスはニヤリと笑う
「それは良かったな、では私たちは酒場に用があるから失礼する」
今のアールスにどんな説得をしても無意味だろうと考え
ラクは、及び腰になっていたラストンと一緒にアールス達の横を通る
アールスは見下すような笑顔のまま黙って見送った
***
「…誰も連れ出せる人が居ない?」
「はい、先程の2人だけでした」
ルイザの酒場のスタッフの言葉にラク達は驚きを隠せない
まるで勇者に都合の良いように仲間が導かれているようだ
ラクは顎に手を添え、少し考えてから
「…居ないものは仕方がない、2人だけでも行けそうな場所には心当たりがある、行こう」
「わ、分かった」
***
鬱蒼とした森の中、獣達の悲鳴が響き渡る中心にラクとラストンがいた
ラクが棍棒を振るうと、狼は一撃で頭が潰れ
ラストンが短剣を振るうと、猿は一撃で首をはねられる
積み上がる獣達の死体
「どうだラストン! これがお前の実力だ! 卑屈にならなくていいだろ!」
「ああっ! うおおおっ!!」
2人は夢中で狩り続けた。やがて周囲から小物が居なくなり…
「ガオオオン!!」
大きな黄色い獣が現れた
「ライオンだ! 奴の毛皮は良い金になる!」
「あ、あれは…ちょっと強いんじゃないかい!?」
「大丈夫だ! 私が前に出る!」
ラクは、ライオンが牙を立てて突進してくるのを、古い革の盾で受け止めた
そしてラストンは横に回り込んで、ライオンの脇腹めがけて短剣を突き立てた
「そこっ!」
「グガウゥ!!」
「うわっ!!」
ラストンはライオンの前足による反撃を受け、短剣を離して吹っ飛ばされる
そのスキを見逃さずラクは脳天に棍棒を振り下ろす
「ふんっ!!」
「ガ…ア…」
ライオンは脳を揺らされよろめいたので、さらにラクは横にまわって棍棒を手放し
刺さったままの短剣に力を入れて内臓の奥深くまで押し込んだ
「とどめだ!」
ライオンは盛大に吐血して絶命した
「ふぅ…流石に強敵だったな、ラストンの強化がなければどうなっていたか
…と、大丈夫か? グレーターヒール!」
ラクは倒れたままのラストンに歩み寄り、回復魔法を掛けてから
手を差し伸べて起こす
「あ、ありがとう」
「よし、早速ライオンを素材屋に持って行こう。査定が楽しみだな!」
***
夕方、狩ったライオンの毛皮を始めとする獣肉の査定が終わり
2人で山分けにしても十分な金額となった
それぞれ1つずつ金貨袋を持ったラクとラストンは笑みを浮かべながら
帰路についている
「まさかここまでの金額になるとはなぁ…酒場で誘う奴が居なくて良かったかもしれないな」
「うん、そうだね…お互いLv11にもなれたしね」
「…そうだ、明日からしばらく休みにして仕送りしに行ったらどうだ?
こういう纏まった金を得られる機会はそう無いだろうしな」
「え…いいのかい?」
「私の事は気にしなくていい。1人でも装備の手入れや買い出しをして過ごすさ」
「助かるよ…正直、この1週間帰るタイミングを見つけられなかったんだ」
「そうだろうと思ったよ、家族に元気な顔を見せてやれ」
そして笑顔で手を振って各々の家路についた