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1話 ニューゲーム

ここは、アルトンの城下町にあるルイザの酒場

旅人達が仲間を求めて集まる出会いと別れの酒場

今日ここへオールバックの勇者が1人、足を踏み入れた


「魔王を倒す仲間が欲しい! 我こそはと思う奴は名乗り出てくれ!」


声を聴いて酒場内の数人が立ち上がる

勇者のカリスマに影響されたか、魔王を倒す名声に釣られたか

はたまた、財宝の匂いを嗅ぎ取ったのか…パーティの面子はすぐに集まった


***


 アールス 男 勇者 Lv1

 ジェニー 女 魔法使い Lv1

 ルピー 女 治癒師 Lv1

 ラストン 男 強化師 Lv1

 ラク 男 治癒師 Lv1


***


魔王の手下である魔物や獣を退治しながら各地を旅する

強化師ラストンの能力によって、強化された攻撃を

勇者アールスと魔法使いジェニーが放ち

誰かが傷を負ったら、ルピーと私…ラクが交替で治癒を行う


途中から私が盾を持って前に出る役を担うようにもなったが

そこまでバランスを欠いた…問題のあるパーティとは思えなかった

しかし1週間後、全員がLv9になった時、まさかアールスが…


「ラストン、お前にはパーティから抜けてもらう」


こんな、とんでもない事を言い出すとは…


***


ルイザの酒場の一角にて、大剣を背負ったアールスがラストンを指差しながら

冷たい視線を向けている。マッシュルームカットのラストンは動揺しつつ


「そ、そんな! 僕になにか悪い所が…?」


アールスに向かって弱々しく抗議する


「何もしていないのが問題だ。戦闘中も逃げ回るだけ…

これなら新たに別の強化師を採用した方がマシだ」

「そんな…」


俯くラストンに横から、三つ編みツインのジェニーが

被っているとんがり帽子を指でいじりながら追い打ちをかける


「あたし達は魔王を倒しに行くのよ? むしろ怠け者に早く気付けて

良かったと思うわ」


ミディアムヘアーのルピーもそれに続く


「私も…擁護はできないわ」


***


(…皆本気で言ってるのか!?)


内心焦りながらショートヘアのラクが口を開く


「ま…待ってくれ! そいつを追放するな!」


アールスとジェニーとルピーはキョトンとした表情でラクを見る

それに構わずラクはラストンの両肩を掴み


「ラストン! やっぱり強化を任意で解除する事は出来ないのか!?」

「あ、あぁ…ダメみたいだ…すまない…」

「ラク、何を言ってるんだ?」


ラクはラストンを離してアールスに向き直る


「ラストンは、強化を自分で解除できず、魔物が居なくても

寝ている間でも、自然にパーティメンバーに掛かり続けているんだ。効果は全能力倍増だ」

「なっ…そんなバカな事が!」

「信っじられない!」


アールスは驚き、傍で聞いているジェニーとルピーも

そんなことはあり得ないという反応だ


「強化は戦闘が終わったら自然に解除されるのが常識だろう

しかも全能力倍増なぞ…もう少しマシな嘘をつくんだな」


アールスがそう言うのも無理もないが、ラストンこそがパーティの支柱である現状を

何とか証明しなければ…ラクは焦る


今日は酒場内に他の旅人がおらず、一時的に仲間を入れ替えて

ラストンの強化具合を試すという事ができない

試しに一旦ラストンを外してと提案しても、今の理解度のままでは

外した瞬間アールスに席を立たれて終わりだろう


「そ、そうだ! ルピー!」

「えっ!? わ、私?」

「この前、グレーターヒールをLv7で使えるようになったと言ってたよな?」

「ええ…治癒師の中じゃ歴代最速だったとか」

「私もLv8で使えるようになっていたよ…通常はLv14で使用可能になるはずの

中級魔法を同じパーティ内で2人もこんなに早く…おかしいと思わないか?」

「それは…」


ルピーが考え込んだ時、ジェニーが口をはさむ


「ごちゃごちゃうるさいわね…あたしだって中級魔法ファイアボールを

Lv7で使えるようになったわ! でもそれは才能よ! こいつのお陰なんかじゃない!」

「うわっ…」


ラストンはジェニーに突き飛ばされ、尻餅をついた


「落ち着けジェニー! 冷静に考えて…」

「落ち着くのはお前だ、ラク」


ラクがアールスの顔を見ると、刺すような冷たい視線をラクにも向けているのが分かった


「荒唐無稽な事を言って俺達を混乱させようとするとは…仕方ない

ラク、お前にもパーティから抜けてもらう」

「何だって!?」


ルピーも口元を押さえて僅かに驚いていた


「アールス! 一度に2人も追放するなんて常軌を逸しているぞ!

これからどう戦うつもりだ!?」

「ふん…俺達にはこれがある」


アールスは自分の荷物の中から、豪華な装丁の本を取り出して右手で掲げた


「それは…昨日塔のダンジョンで手に入れた「覚醒の書」…」


***


使うと、勇者の次に強いと言われている「賢者」という職業になれる

賢者は魔法使いと治癒師の使う魔法を両方共使えるようになるので

旅人達にとっては垂涎の品


***


ラクが見ていると、アールスは覚醒の書を横にずらし

もう一冊の覚醒の書が見えるようにした


「2冊目!? いつの間に…」

「別に隠していたわけではないぞ、お前に使う事も考えてはいたが…

これで丁度良くなったな」


それを聞いたジェニーはアールスに擦り寄り


「まぁっ♪ 賢者にしてくださるのね?」


それに対してアールスは抱き寄せて微笑む事で肯定の意を示す


「私が…賢者に…」


ルピーも、擦り寄りはしないが喜びを隠せずにいた


「どうだ? 勇者に2人の賢者…募集を掛ければ引っ張りだこに

なること請け合いだ。分かったら荷物を置いてさっさと出て行け」

「くっ…分かった」


ラクは一瞬アールスを殴ろうと握りこぶしを作ったが、何とか心を落ち着け

自分の荷物から盾、メイス、薬剤等を取り出してアールスの近くの机に置いていく


「ん? その呪われたアイテムは要らないから持っていけ」


それは瓶に入ったマーブル模様の液体で、コルク栓で封をされている

効果は不明だが、封をしている限り害は無い事だけは分かっていた


「…分かったよ」


ささやかな抵抗も許さない目ざとさを見せてくる。それをラストンの能力を

見つけるのにも使って欲しかったが…そう思っていると

横にラストンがやってきて、同じ様に荷物を取り出していく


「ごめんよラク…僕のせいで君まで追放されるなんて…」

「気にするな…私もアールスには愛想が尽きた所だ…」


***


程なくして、荷物を出し終えた2人はルイザの酒場の出口に立ち

まず、ラクが振り返り口を開く


「じゃあ…世話になった」


それを聞き、アールスは鼻で笑いながら


「フン、魔王は俺達が倒すから安心していろ」


と返した。ジェニーは蔑むような目でラクとラストンを見るのみ

一方ルピーは心配そうな表情を、特にラクに対して向けていた


「ラク…」


ルピーに返事を返すことなく、ラクは酒場を出て行き

ラストンが後に続いた


(どうしてこうなってしまったのかしら…

ラクを追放するつもりなんて無かったのに…

でも賢者が…ごめんなさい)


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