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一千年後の魔法世界  作者: 采
2/2

これまで

 「おい!」


 呼ばれて振り向くと途端に、バシャリと頭上から何かがかかる。

 質はそこそこだがあまり豪華ではない服が茶色に染まり、濡れた髪が顔へと張り付いた。


 「おい無能。お前は障壁も使えないのか?」


 俺を無能と呼び、泥水に塗れた俺を嘲笑ってくるのは俺の弟だ。腹違いの、だが。


 「おいっ! 聞いているのか!?」


 無能だの間抜けだのと罵倒する声をいつも通り無視して家へと戻る。


 大きくて立派なこの国の城。……の外れに立っているこの小屋がグラン王国の第一王子である俺の住まいだ。


 なぜ王子である俺がこんな掘立て小屋に住んでいるかって?


 ……まぁ簡単にいえば、魔法が使えないからだ。


 俺の母親である前王妃シャナネットは古い家柄の貴族で、父親である王とは幼馴染だった。父と母は貴族には珍しく、想いあって結婚した仲睦まじい夫婦だったという。

 だが、そんな父と母には1つ問題があった。 

 子ができなかったのだ。


 医師や魔法使い、さらには占術師まで、さまざまな分野で使えるだけの手段を使って調べたが、お互いの身体に問題はなく原因はわからなかった。

 おそらく、母は大病こそしたことがなかったが幼い頃から華奢で身体があまり強いほうではなかったのでそのせいだろう。

 とうとう子ができなかった両親は、王族として子を残せという周りからの強い圧に負け、側妃を娶ることとなった。それが現王妃ヴェロニカである。


 現王妃が側妃として迎えられて少しして、懐妊が発覚した。

 ヴェロニカではない。シャナネットが、である。

 この知らせには城中が喜んだ。もちろん両親も喜んだが、どうしても、この妊娠がもう少し早ければと思わざるをえなかった。だが、シャナネットが妊娠したとはいえ無事に産まれてくる保証も男児が産まれてくる保証もない。そして新興貴族ではあるが大型魔物の討伐により今最も勢いのあるアストロン家出身のヴェロニカを今更離縁することなど不可能であった。


 そしてその後すぐにヴェロニカの妊娠も発覚し、程なくして2人の男児が産まれた。

 2人とも極めて健康で、特にシャナネットの産んだ第一王子は建国以来と言われるほどの魔力の豊富さに将来を期待された。


 母はよく俺のことを、自分の命と引き換えでもいいからと女神フローリアに子を授けてもらえるように願って産まれてきたんだよ。あなたは女神から愛された子なの、と言っていた。

 母は俺を産んでから床に伏せることが多くなりその後亡くなった。まあ命と引き換え云々ではなく、元々身体が強くなかったのに無理をして俺を産んだからだと思うが。


 そして俺たちが5歳になり、王子として学ぶため様々な分野の教師がつけられた。

 もちろん魔法の教師もだ。

 そこから、俺の人生が変わった。魔法が一切発動しなかったのだ。


 やり方を変えても、教師を変えても、いくら練習しようとも発動しない。そのうち、王族として、いや貴族として考えても魔力の少ない弟の方が魔法を発動させた。

 俺は努力した。せめて魔法以外は、と。

 座学は得意で学べば学ぶほどいくらでも吸収できたが、武術はそこそこだ。顔も母似だが身体も母に似たのか、俺は体格が良くない。背だけは伸びたがあまり筋肉はつかないのだ。


 そうして俺は努力し続けたが、魔法が使えないというのは王子である俺にとってあまりにも大きなことだった。


 元々魔法というのは科学により滅びかけた地球に残された人間が、自然に寄り添い、自然を愛し、自然を敬った結果女神フローリアから齎された恩恵なのだ。


 それが俺にはない。


 女神フローリアではなく悪魔に祈って産まれた子ではないか。

 シャナネット前王妃は悪魔に魂を売り渡したせいで死んだ。


 いつしかそんな噂が流れ、城に居づらくなった俺はこの小屋に移り住んだ。普通なら問題になるだろうが、城を出る前にはすでに俺を気にするものはほとんどいなくなっていたので問題にはならなかった。

 俺が小屋に移り住んだことを城のみんなは笑ったが、俺にとっては悪意ばかりのあの城よりよっぽど過ごしやすくなったのだ。

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