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第一話 魔王を倒した女勇者の憂鬱①

 王国では王城から第一防壁までを繋ぐメインストリートを全て使用した盛大な戦勝パレードが開催されることとなり、国民の誰もが皆偉大な英雄を讃え、三日三晩のお祭りで賑わっていた。

 最終日には王城の大広間にて国王主催の慰労会が開催され、勇者パーティは勿論のこと、魔王戦にて活躍した複数のパーティに豪華な料理と報奨金の受け渡しが行われ大いに盛り上がった。


 魔王支配下にあった都市は大きな爪痕を残したものの、徐々に復興の兆しが見られ、人々の明るい表情で満たされつつある。


 きっとこの国はこれから大きく発展していくのだろう。


 女勇者のアスカは城のバルコニーから王都を見下ろしつつ、夢だった「平和で人々が幸せに暮らせる世界」が

現実になったことの余韻に浸る。



 思えば長い長い道のりだった。



 田舎で細々と畑仕事をしていた自分にはこの光景が想像できただろうか…

 あの日、命からがらモンスターと対峙して、女神様から勇者スキルを授かった時から私の冒険は始まった。

 失ったものも多かったが、守り切ったものもたくさんある。

 辛かったことも、泣きそうになったことも、心が折れそうになったことも全部糧として今の私がいる。


 

 あぁ…今隣にあなたがいてくればどんなちょっかいを仕掛けてくるのか…


 めでたい日にシラけた面をしていることをおちょくるだろうか?

 酔っ払ってダル絡みをしてくるだろうか?


 それとも…またあの時のように優しく寄り添ってくれるのだろうか…



 今となってはあなたに伝えることはもうできないけど、私は本当に、本当に…あなたのことが…




 アスカは用意していたボトルの栓を開け、2つのグラスに注いでいく。泡泡とした黄金色のお酒が星一面の夜空と溶け合って幻想的な色を生み出す。




 カチン




 グラスが寂しげに音を奏でる。


 アスカは左拳を胸に当て、グラスを持った右手を空に掲げた。



「ありがとう。そしてさようなら。私の愛しき友よ」



 

 グラスに口をつけると同時に一際大きな流れ星が王都の夜空に流れた。











「んで、その後飲み慣れない酒のせいで咽せたんだっけ?」


「ち、違うわよ。急に流れ星が流れたから驚いただけで、」


「まぁ確かにタイミング的にはバッチリだったしね」


「ほんとあの時はびっくりして死んじゃうかと思ったんだからね!まったく…」


「わるかったって、自分だってまさかそんな想いに耽ってるなんて思ってなかったんだからさ」


「そりゃ私だって溜まりに溜まるわよ。魔王城であなたを失って以来、ずっと心在らずだったわ」


「あれはマジで人生最大の窮地だったよ。たまたま落ちる前に女神様の指輪を思い出してね。咄嗟に使ったらあらビックリ、どこか知らないお空の上に転移したってわけさ。まあ後々それが別大陸だって気づいて王都に戻るまでにかなり苦労したけどね」


「せめて連絡のひとつでもしてくれればよかったのに」


「遠すぎて魔力が全然足りなかったよ。そもそも戻るのに必死でそこまで考えられんかったなぁ」


「でも本当に。今では良い笑い話ね。あれからもう5年かぁ…」


「最近は後輩達にあれこれ吹き込んでるって聞いたけど?」


「指導ね、指導。ギルドの後輩達を鍛えてるのよ。この頃魔物が王都周辺でウロウロしてるみたいだし、人手が足りなくて猫の手も借りたい気分だわ」


「可愛い後輩ちゃんたちを傷つけられたくないってことね。良い先輩になってるじゃない。勇者始めたばかりの頃はゴブリン相手にヒーヒー言ってた頃が懐かしいよ」


「うるさいっ、そういうあんたはどうなのよ。性懲りも無くまた遺跡にこもってお宝探し?相変わらず金欲だけはピカイチね」


「そりゃシーフなんだし当然さ、遺跡探索で一攫千金。貯めた金でこうして豪遊できるしさ」


「あんたまだ歓楽街のあの店に入り浸ってるわけ?」


「なになに?嫉妬してるの?」


「ちっちがうわよ!過去とはいえ勇者パーティの一員であるあんたが毎晩のように遊び耽ってるのが良い噂を聞かないって話よ。ただでさえ目立つんだから悪評が流れたりしたら大変でしょう?」


「とか言って、自分が他の女とイチャコラしてるのが気に食わないんだろー?分かってるって。イチャイチャまでだよ、床まではイッてない」


「ちょ、そんなことまで話さなくていいわ!」


「怒らないでよー、共に愛を誓い合った仲だろ?」


「何を寝ぼけたことを…誓い合ったのは魔王討伐でしょ?それに私はまだあんたにそこまで心を許した覚えはないわ」


「ほう、じゃあどこまでなら許してもらってるのか気になりますねぇ。あの時の接吻はABCのAで良いのかなぁ?」


「…バカ」


「ははっ、まぁあれだ。なんだかんだ長い付き合いだしお互いの気持ちもよく分かってるだろ。とりあえず今晩はずっと付き合うぜ、私の王子様。ほら乾杯」


「はぁ…まぁいいわ。乾杯」




カチンッ




二つのグラスが音を立てた。


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