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アイ ~人型AIと1週間同居生活~  作者: 矢田水 万季
8月20日 木曜日
9/14

職場体験

 だが、意外にも時はあっという間に過ぎた。水曜は『Leaf』で買い出し。その後俺は夕食まで爆睡……。


 

 現在木曜日の午前9時41分。

 全く予定が決まらぬまま、俺は喫茶店の扉を開ける。


「はようざいまーす」


「よお。お前、一昨日はひどかったじゃないか。追い出すなんて。今すぐこのバイト、クビにしてもいいんだぞ?」


 店長が俺をめちゃくちゃ睨みつけてくる。


「勘弁してくださいよ、クビだなんて。ていうか、追い出したのも、アンタらが変なことばっか言って虐めるからじゃないですか」


「え~。変なこと言ってないけどお? 俺らは葵の初恋を応援したいだけだって~。ね、店長?」


 今日も玲が遅刻せずにやってくる。


「初恋じゃねえって‼ ただの同居人‼」


 俺は玲に向かって店内に響くくらい大きな声で言う。

 そんなムキになっている俺を見て、2人は笑う。

 俺を虐めるのが楽しいようだ。


(こいつら、絶対ドSだろ……)


 俺が顔を真っ赤にさせながらそう思っていると、店のドアが開いた。


「すみません、まだ営業時間じゃ……」


 店長の声が止まる。

 そこには、アイが立っていた。


「すみません。葵様がこちらの喫茶店のエプロンを忘れていったので……届けに来ました」


「アイ!? エプロンはありがたいけど……何でここが分かったんだ!?」


「葵様を解分析して、仕事をしているのがこの店だとは分かっておりましたので。一昨日会うまで佳織様と玲様の事は分かりませんでしたが」


(分析で好きなもの、嫌いなもの、勤務地まで分かってしまうなんて……俺の個人情報を、コイツはどこまで知っているのだろう)

 

 なんとなく顔がこわばる。

 その顔から伝わったのだろか。

 心を読むかのように、アイが答えた。


「分析をすることによって、いろんな情報を知ることができますが、特に大切な情報は本人に聞かれない限り、一切口外しませんので」


「あ、そう……」


 俺は返事をすると、アイからソムリエエプロンを受け取った。


「なあ、アイちゃん。今日1日、店の手伝いしてれないか? 一昨日葵の家に行ったのも、アイちゃんに料理教わりたかったからでさ。土曜日には工場に戻っちゃうんだろ? 勿論金は払うから」


 突然、店長が突拍子もないことを言い出す。


「私は構いませんが……私が教えるもことがあるかどうか……。料理と言っても、変わったものは作れないですし……」


「大丈夫。何か得意な料理を作ってるのを見せてもらうだけでいいから。それに、私も葵も虜になっているくらい、君の料理は美味しいからな。ぜひ、作っているところを見せてほしい」


 そう言って、店長はニヤニヤしながらこちらを見る。


(別に、俺は虜になったわけじゃないし……)


 そう思いながら、また顔を赤くさせる。


「了解いたしました。佳織様のお力になれるよう、頑張ります」


 アイが少し戸惑いつつも答える。


「よろしく。んじゃ、お前らもうすぐ開店なんだから着替えろ! ……アイちゃんは今日だけだし、エプロンだけ着てもらおうか。私についてきて」


「はい」


 そう言い、店長とアイは、2階――店長の住む部屋に行ってしまった。

 俺と玲は厨房裏で着替える。


 午前10時。

 俺が『CLOSE』の札を『OPEN』に替えていると、アイと店長が下りてくる。

 

 アイは桜色の小鳥の刺繍が施されたエプロンを着用していた。

 髪の毛は後ろで花柄のシュシュで1つに縛っている。

 いつもとは少し違う様子に、何故だかドキドキしてしまう。


「アイちゃんかわいー‼」


 玲が大声で言う。


「ありがとうございます。……でも、私みたいなのがこんな可愛いエプロンを着ても良いのでしょうか?」


「何言っているんだ。凄く似合っているぞ。元々アイちゃんは可愛いからな」


 他の女性なら恋してしまうようなセリフを、2人はサラッと言う。

 ……俺だって「可愛い」と言いたかったが、素直に言えなかった。


「いいんじゃね、そのエプロン……」


 ボソッと俺は呟いた。


「ありがとうございます、葵様」


 アイがこちらを向いて言う。

 それと同時に、「もっといいこと言えよ」と言わんばかりに2人がこちらをじいっと見つめてきた。


 午後1時43分。

 ラストオーダー後、店に客は1人もいなかったため、今日は早めに切り上げることにした。

 アイが有能なこともあるだろう。

 注文した品をすぐに店長が作るものと同じ味で作ってしまうので、回転も早かった。


 ちなみにアイは食事をしない分、料理を作るときは作った料理の味を分析するらしい。

 そして甘味・塩味・苦味・酸味・旨味などが脳内で数値化され、どんな味なのか知るそうだ。

 なので、店長の味と全く同じものを作れるのだろう。


「あーあ……もうくったくた……。早く帰りてえなあ~」


 玲があくびをしながら言う。


「あのなあ……バイト中に言うことじゃねえだろ」


「今は休憩中だからいーのっ! それより、今日も葵の家、寄っていいか?」


「嫌だよ……そう言ってもついてくるんだろーけど……」


「ご名答っ! だって……アイちゃんとはきっともう会えないんだろ? だからもう少し一緒にいたいんだよ」


 玲はアイを気に入っているらしい。


「でもいいのか? ちょっと前に彼女ができたばっかなんだろ? また俺の家に寄って……」


 俺がそう言った途端、玲の目つきが鋭くなる。


「ああ……いいんだよ。別れたから」


 まただ。

 玲は美形で女性の扱いがうまく、金持ちなため、いつも女が寄ってくる。

 だがそんな女、ロクなもんじゃない。

 欲しが深い、性格が悪い奴ばかりだ。

 なので玲の彼女はコロコロ変わっており、俺は1人も彼女を紹介されたことがない。


「ふうん。ま、いいけど」

 

 俺には関係ないので、適当に聞き流すことにした。


「やっぱ、俺、葵のそういう性格好きだわ。サラッと聞き流すところ」


 そう言って、玲がニカッと笑った。


「葵様、玲様。昼食ができました。お食べ下さい」

 

 賄いを作っていたアイが、俺たちに呼びかける。

 俺たちはカウンター席に座り、頂くことにした。


「うわっ、うまそ~!」


 玲がきらきらと目を輝かせる。

 今日はカルボナーラ風リゾット。


「いやあ、アイちゃんからは学ぶことが多すぎるな。私ももっと腕を上げなきゃいけない」


「その前に結婚式を挙げたら? 年とったら貰い手無くなるよ。あ、俺がもらってあげようか? 今フリーだから」


 玲が冗談めかして言う。


「うるさい。お前なんかに誰がもらわれるか」


 店長が玲を睨みつける。

 俺はそんなことに構わず、リゾットを食べる。

 ゴロゴロしたベーコンに、ご飯に絡むソースとチーズ。  

 濃厚でとても美味しい。


「美味い」


 俺が呟くと、アイがペコリと軽くおじぎした。


「どうだ、葵? 私よりも美味しいものを作る、アイちゃんの料理を食べた気分は?」


「別に……普通ッスよ」


「へえ……」


 店長がニヤニヤする。


(わざわざアイのいるところで言うのやめてくんないかな……)


 そう思いながら、俺はため息をついた。

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