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アイ ~人型AIと1週間同居生活~  作者: 矢田水 万季
8月18日 火曜日
8/14

賑やかな夕食

いつもより少し長くなっております。最後までお付き合いしてくださると嬉しいです。

 午後2時過ぎ。

 ランチの最後の客が帰ったところで、店長が賄いを作り始めた。

 今日は日替わりランチのハンバーグプレートの余りで、合いびき肉のドライカレーだった。


「うわあ、美味そう! じゃ、いただきまーす!」


 そう言って玲がバクバクとカレーを食べだす。

 俺も手を合わせてからカレーを食べ始めた。


「どうだ? 美味いだろ?」


 店長がニヒヒっと笑いながら尋ねる。


「マジ美味い!」


 玲が大声で答える。


「なっ‼ 葵も美味いだろ?」


「……ああ」


 俺は玲の問いかけに少し沈黙してから答えた。

 おかしい。

 玉ねぎと人参とひき肉のドライカレー。

 すごく美味しいのに、なんだか少し物足りなく感じる。

 いつもは美味しいと言いながら食べていたのに……。

 もしかして、アイの料理を食べていたからか?


「……どうした葵? お前、なんかビミョーな顔してるけど」


「……そういや葵。お前AIに起こされたって言ってたよな。もしかして、他のこともやってもらってんのか?」


 勘の鋭い店長が尋ねる。


「え、ええ……料理とか、掃除とか……」


「ははーん。その子の料理が私の料理より美味しくて、物足りなさでも感じてんのか。物足りなさ感じるのはいいけどな、もうちょっと誤魔化せよ」


(うっ、勘が良すぎる……!)


 俺は言葉もでなかった。


「え、マジかよ葵! 余計その子のこと気になるじゃん! 俺絶対行くわ」


「私もその子、気になるな。葵、家に寄らせてくれ。その子に料理を教えてもらう」


(店長まで来るのか!?)


 俺は驚愕した。

 この2人に俺の暮らしをめちゃくちゃにされるのは嫌だ。


(……まあ、きっと冗談だよ……な?)


 そう思わずには居られなかった。


 案の定、冗談ではなかった。

 

 午後5時過ぎ。

 バイトを上がろうとしたら、店長と玲がついてきたのだ。


「え、なんで一緒に帰るんスか!?」


「なんでって……昼に言っただろーが。家に寄らせてくれって」


「じょ、冗談かと……」


「俺らが冗談言うわけないだろ? なっ、てんちょー!」


「お前はしょっちゅう冗談を言うが、私は冗談を言わない」


「え~! 俺冗談言ってないけどなあ……。てか、そのアイって子、可愛いのかなあ。俺気に入ったらら口説くかも!」


「やめとけ玲。その子、葵のお気に入りみたいだから、葵が拗ねるぞ?」


「えー! でも葵が拗ねるところも気になるぅ!」


 2人は俺の歩く後ろで勝手に盛り上がっている。

 平凡な顔の俺の後ろで美形2人がいるのも、周りの視線が気になって仕方なくて嫌だし……。

 俺は「さっさと家についてくれ!」と願いながら、早歩きで帰路を急いだ。


 自宅に着く。

 俺がドアを開けると、玄関でアイが出迎えた。


「おかえりなさいませ、葵様」


「すっげー! 本物の人間みたい! てか、言葉遣いがウチのメイドと一緒だな~」


 玲がアイを指さして大声で言う。


「あの……葵様、この方々は?」


「あ、アイごめん。俺のバイト先の仲間と店長。勝手についてきちゃって」


「そうでしたか」


 アイは返事をすると同時に玲と店長をじいっと見つめる。


「……分析終了。山崎佳織様と如月玲様ですね。アイと申します」


 数秒後にアイが言う。

 以前俺にやったように、この2人の分析を行ったようだ。


 「マジか……AIってすごいな」


 店長が口をポカンと開けながら呟いた。


「……部屋にどうぞ。正直入れたくないですけど……」


 俺は本音を交えつつ、2人に声をかけた。

 そして和室に案内する。


「葵様、お二方も料理をお食べになるのですか?」


 アイが俺に向かって尋ねる。


「え~! アイちゃんの料理~!? 俺食べたーい‼」


 部屋に入って早々くつろぎ、会って数分のアイに馴れ馴れしくちゃん付けで呼ぶ玲が、手を挙げながら言う。


「私も食べてみたい。アイさん、お願いできるか?」


 店長まで手を挙げる。


「了解いたしました」


「ごめんな、アイ。いきなり料理を2人分も頼んじゃって……」


 俺がアイに申し訳なさそうに言う。


「いえ、大丈夫です。すぐにお作り致しますので、葵様も和室でお待ちになっていてください」


「分かった」


 アイの言う通りに俺も和室で待つ。


「なあ葵~。アイちゃんめっちゃ可愛くて良い子じゃん。よく普通に同居してられるな。俺だったら可愛くて従順すぎて無理。絶対口説くもん」


 玲が頬杖をつきながら言う。


「まあそうだな。お年頃で、しかも気になっている子だって? なんでアタックしないんだよ。あの子、お前の事主人としか見てないぞ。やっぱAIは生き物の気持ちは分からないのかねえ」


 続けて店長が呆れた顔でこちらを見てくる。

 

(余計なお世話だっての!)


そう思いつつ、この会話がアイに聞こえていないよう願う。


「葵様」


「はぅッ!」


 俺がそんなことを考えていた時に、アイが後ろから声をかけてきた。

 いきなりの事に驚き、変な声が出てしまう。


 ゆっくり俺が振り返ると、アイがコテンと首を傾けながら、両手に皿を持っていた。


「お食事の用意ができましたが、どうかなさいましたか?」


「いや、別に……。それより、食事の準備、早くないか?」


「今日はコース料理に変更いたしました。お客様がいらっしゃいますので、普通の料理ではご不満かな、と。それにコース料理なら、料理を1つずつ出している間に次の料理の調理ができ、早く料理を食べさせられるので」


 アイがそう言いながら、キャベツと人参のサラダを机に3皿置いた。


「あれ? アイちゃんの分は?」


 玲がサラダを見つめながら尋ねる。


「私はAIなので、食事は必要ないんです」


「ふうん」


 アイの答えになぜか玲は少し不服そうだったが、気にしないことにした。


「では皆様、サラダをお食べ下さい。これから他の料理もお作りしますので」


 そう言ってアイは台所に戻る。

 俺たちは手を合わせてからサラダを頂くことにした。

 サラダをムシャムシャと食べる。

 どうやら、人参はマリネだったようだ。

 酸っぱすぎなくて食べやすく、サッパリしている。


「お前の家、マリネが出るのか。オシャレだな」

 

 店長が感心したように言う。


「いや、今まで食べたことないんスけどね……。いつ作ったのか……」


 そう言って、数分で全員食べ終わると、いいタイミングでアイがスープを運んでくる。

 そして空の皿を持って台所に戻る。

 

 深めの皿の中をのぞくと、オレンジ色の液体が入っていた。

 人参スープのようだ。

 一口ゴクリと飲む。

 甘くてクリーミーで、人参の甘味が伝わってくる。

 チラリとみると、玲と店長は、もうスープを飲み終わっていた。


(アイが作ってくれた料理を一瞬で食べてしまうなんて……もっと味わえよ……)


 なぜ自分がアイの料理についてわざわざ心の中で怒っているかは分からないが、この2人を見てモヤモヤしているのは確かだった。

 まあ、それは胸のうちに秘めておくとしよう。

 

 俺がスープを飲み終わった後、アイがチーズがかかったアラビアータを持ってきた。

 そしてまた、皿を台所に持っていく。


「え~! アラビアータ!? 俺好きなんだよね!」


「玲様を分析した結果、トマト系のものがお好きと分かり、アラビアータにさせて頂きました。佳織様は酢の物がお好きだったようですので、たまたま作ってあった人参のマリネを出させて頂きました」


 知らないうちにアイが俺の後ろに立っていた。

 俺はポカンと口を開けながらアイを見上げる。


「へえ~! 分析でそんなことも分かっちゃうの!?」


 玲がらんらんと目を輝かせる。


「へえ、AIってすごいんだな……。もしかして、今のAIは、分析で感情も分かったりするのか?」


 店長は早速アラビアータを食べ始めながら、アイに質問している。


「いえ、感情は顔に出してもらわないと分かりません。AI自身、あまり感情を出しませんから。……ですが、葵様いわく、私は感情を出している方のようです。感情を持っている方がいい、お前らしいとも言ってくださいましたし……」


 アイが発言した後、すぐに4つの目がこちらを向く。

 瞳はらんらんと輝き、顔はニヤニヤしている。


(絶対に質問攻めにされる……。アイ、お前、最後の言葉いらなかっただろー‼)


 心の中で叫びながら、俺は冷汗をかいて目を瞑った。

 アイが台所に戻った後、予想通り、2人にいじられ、質問攻めにされてしまった。


「え~、『お前らしい』なんて言葉使うなんて、告白みたいなもんじゃん。え、何? 『今のお前らしいお前が好き』って言ってるようなもんじゃない!? そんな意味じゃなくても、普通言わない言葉だよなあ!」


「お前、意外に攻めてんじゃねーか。もしかして、本当は付き合ってんのか? やっぱラブラブなのか? 工場なんかに返したら、アイちゃんと遠距離恋愛になっちまうんじゃないか? こんないい子で可愛い子、なかなかいないぞ。工場に返すのやめたら?」


(うるせぇ!!)


 俺は心の中で大声で叫ぶ。

 ホントにこの会話が彼女に聞こえていないことを願う。


 結局、アラビアータを食べていても、ニヤニヤ笑いながらこっちを見てくる2人が気になって、味はよくわからなかった。

 まだまだこの話を続けたそうだった2人を夕食の後速攻で追い出し、俺は「ふう……」と、大きなため息をついた。


「葵様、追い出してしまって良かったのですか?」


「いーんだよ、別に。……今日は料理変更させて手間かけさせて、悪かった」


「いえ、私が勝手に料理を変更しただけですので、葵様が謝ることはございません」


 アイが首を振って答える。


「でも、勝手に連れてきたっていうか……ついてきたっていうか……。……そういや、料理とか作ってあった? 料理を変更しなかったら今日食べるはずだった料理があったんだろ?」


「はい。今は冷蔵庫に入れていますが」


「じゃあ、それ、明日の朝食に出しといてよ」


「了解いたしました」


「よろしく。じゃ、もう寝ていいから」


「了解いたしました。皿を食洗器に入れてから、スリープモードになります。では、先い言っておきます。おやすみなさい」


「ん、おやすみ」


 アイと玄関で別れて、俺はシャワーを浴びに行った。

 その後和室に向かうと、アイはおらず、いつものようにキレイに布団が敷かれていた。

 俺は少し課題に取り組んでから、布団に入る。


 現在午後9時17分。

 あの2人がいたので、夕食もだいぶ長引いたようだ。

 それにしても、アイが来てからは布団に入ることも、夕食を食べることも、朝起きることも一気に早くなったと思う。

 そう思いながら俺はスマホを起動する。


(……明日は買い出しで、明後日はバイト……。……アイを返すのは土曜だから……どこか行くのは金曜しかないな……)


 そう考えながら、土曜にはアイとは別れることに今更ながらに気付く。

 なんだかじわじわと感じるものがあるが、今はそれは置いておいて、金曜に何処へ出かけるか考えることにした。 

 金曜は晴れのはずだから、天候に構わず遊びに行ける。  

 さて、何処がいいか……。

 スマホで検索し、いくつか良いスポットを見つける。


(まあ、まだ時間はあるんだし、ゆっくり計画表を作るとするか……)


 そう考えながら、俺は眠りについた。

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