アイとの出会い
※この物語に出てくる機械・電化製品・AIの能力は、全て作者の想像によるものです。そこのところ理解してお読みください。
20✕✕年。
AIが当たり前のように暮らしで使われている時代。
今や人型のAIも普通に製造されている。
人型AIは頭は良いし、気は利くし、とても有能だ。
ただし、そんなAIは数百万、数千万するため、持っているのは芸能人や大手企業の社長、政治家くらい。
「結局、金が無いとダメなのかねえ」
そういいながら俺こと宮下葵は、クーラーの利いた和室で寝そべって、ソーダ味のアイスを食べていた。
現在アパートに1人暮らし。
平凡な夏休みを謳歌中だ。
目の前にあるテレビでは、『進化は続く! AI特集』という番組が流れている。
少し前までAIが人間の仕事を奪うなんて言っていたけれど、結局はAIを人間のために利用している。
俺はそう考えながら、残りのアイスをかじってのみこんだ。
ピンポーン
インターホンが鳴る。
俺は食べ終わったアイスの棒をゴミ箱に捨て、玄関に向かった。
ドアを開けると、大型ドローンが俺と同じ身長くらいのデカい箱を持っていた。
(え? え? 俺こんなデカいもの頼んだっけ?)
動揺を隠せない俺。
だがドローンが配達先を間違えるはずがない。
「宮下葵様、オ届ケ物デス」
「は、はい……」
俺は戸惑いつつも荷物を受け取った。
そしてドローンについた液晶画面の指紋認証に指を置く。
確認が終わると、ドローンは「アリガトウゴザイマシタ」と言って、空を飛んで行った。
(マジでなんだよ! このデカい箱!! 何か頼んだ覚えもねえし……ていうか、送り主不明だし)
箱に貼られたシールには俺の名前と住所以外、何も書かれていなかった。
怪しかったが、恐る恐るシールとガムテープを剥がして箱を開ける。
……中には人型で女性のAIが薄紅色のワンピースを着た状態で入っていた。
一瞬、女子が入ってるとビビるくらい、普通の人間と変わらない顔立ちだった。
(へえ、髪の毛の質も人間と変わんねーなあ。顔もまあ可愛いし……)
そう呑気に思いながら俺がジロジロ眺めていると、AIがいきなり目を開けた。
「えっ!?」
俺はいきなりの事に尻もちをつく。
そんな俺を気に留めず、AIは俺に顔を向けて数秒間動かなかった。
「…分析終了。宮下葵様ですね。私のご主人様でよろしいでしょうか?」
「え、いや……」
「では、私に名前をつけてください」
「いや、話を聞けよ!!」
俺の話に耳を傾けず、一方的に話すAIに思わずツッコむ。
「了解しました。私の名前は『いや、話を聞けよ』ですね」
このAI、全く話を聞かない。
俺はため息をついた。
「名前はともかくとして、何で君みたいな高性能AIが俺の家に来たの? 頼んだ覚えないんですけど」
俺の質問に、やっとAIが耳を傾ける。
「私は高性能が売りの最新型人型AIの中の不良品でした。ですがどこかの方が、私を欲しいと言ってくださったそうです。ただし、私はその方の名前も住所も知りません。だから、この私を受け取った人が私のご主人様なのだと聞いております。つまり、貴方、葵様が私のご主人様なのです」
つまり、発送ミス。
元々俺宛になっていたから、このAIを造った工場かなんかが、宛先を間違えたのだろう。
今は宛先を入力すれば、その宛先の住人の名前も同時に入力されるから、こういう発送ミスが世の中多いのである。
俺はまたため息をついた。
「……悪いけど、俺はお前のご主人様じゃない。今から工場にお前を返す」
「ご主人様、お名前は……」
「話聞けよ!!」
さっき会話が成立したのは奇跡だったようだ。
本当にこのAI、ポンコツである。
「……ですがお名前をつけてもらわないと、呼ばれたときに応答できません。ですから、私に名前を付けてください」
(……このAI、名前をつけないと絶対話が通じない…)
俺はそう思い、仕方なく名前を考えた。
(名前……名前ねえ……思いつかねーなあ。……AIをローマ字読みしてアイでいっか……)
そして名前で呼ぶ。
「アイ」
「はい?」
「お前の名前はアイだ」
「アイ……了解いたしました」
よし、これで話を進められる。
「じゃあアイ、今からお前を工場に……」
「ちなみに昨日から1週間、私を造った工場は夏休みに入り、製造ラインは停止しております。今行っても誰もいません」
(……それを早く言えやーーーーーー!!)
俺は心の中で叫んでいた。
送り返すのも金がかかるし、家に置いておくしかない。
炎天下の中、1週間も外に放置するのは、さすがの俺でも胸が痛むのだ。
「……仕方ない。俺の家に1週間いればいい」
俺がやれやれと思いながら言うと、アイは「ありがとうございます。葵様のために何でも致します」と言った。
丁度その頃、洗濯機で洗っていたシーツが洗い終わり、『ピーッ、ピーッ』と音が鳴った。
「あ、干さなきゃ」
俺が立ち上がって洗面所へ向かおうとすると、それをアイが手で制した。
「私がやります。葵様はごゆっくりなさってください」
「あ、そう……」
いわれるがまま、俺はまた座りなおして、アイが洗面所の場所を教え。向かうのを見送った。
15分が過ぎた。
……遅すぎる。
シーツを取り出すのにこんなにかからないはずだ。
AIなら尚更。
……そういえば、ここのアパートは家電が古い。
一般的に使われているのは冷蔵庫型の洗濯機。
冷蔵庫のように上部がドアで、上に引っ付いている棒にハンガーにかけた服を引っかける。
そしてドアを閉めてスタートボタンを押せば、洗濯も乾燥もしてくれる。
だが、俺はそんな高い洗濯機を買うほどの余裕はない。
だから、水道代しかかからないアパートのドラム式洗濯機を利用している。
アイは不良品のAI。
不良品でなかろうが、ほぼ世の中で使われていない洗濯機なんて知らないかもしれない。
俺は焦って洗面所へ向かった。
……そこには、シーツをあたふたと探すアイの姿があった。
「シーツさん、どこにいらっしゃいますでしょうか? いらっしゃったらお返事してください」
(……思った以上にポンコツだった……)
俺はあんぐり口を開けて彼女を見ていた。
洗濯機の下や、洗面台の周りを探す彼女。
俺はあきれつつ、声をかけた。
「……アイ」
アイが振り向く。
「申し訳ございません、葵様。シーツさんはいらっしゃらないようです」
「なあ、アイ、洗濯機から取り出して欲しかったんだけど……」
「……洗濯機って冷蔵庫型のものですよね? ……そのようなものはこの部屋では見受けられませんが……」
アイはコテンと首をかしげる。
俺は「ハハッ……」と苦笑いながら説明した。
「これも洗濯機。冷蔵庫型の洗濯機よりも少し型が古いの」
そう言って指をさす。アイは自分の後ろを振り返ってキョトンとする。
「これが洗濯機……ですか?」
「そう」
そう言いながら俺は洗濯機のドアを開け、シーツを取り出した。
「……ここにシーツさんが……」
彼女は不思議そうに洗濯機を眺める。
予感は当たったようで、不良品だからか、それとも元々プログラムされていないのか、古いものや見かけることがあまりないものに対しての情報は持っていないようだ。
(この同居生活、案外大変かもな……)
俺は同居を決めたことを後悔した。