婚約破棄をしないという選択~やっぱり王子が好きなので、泣いて縋りたいと思います~
「お前との婚約を破棄する!!」
「うわぁぁぁぁん! どぉぉぉしてだよぉぉぉ!!! やだよぉぉぉぉ!!!!!!」
学校の卒業式のパーティで、元婚約者だった王子から告げられた婚約破棄。
大号泣して彼に縋り、それを取り消して貰ってから早くも20年がたった。
あんな暗愚のようだった王子も今では立派な王で、あんなに醜く泣いていた私も今では立派な王妃である。
「あなた、今日の夕飯はステーキよ。シェフに頼んでおいたから楽しみにしていらして」
「あぁ、わかった……」
「あ、エレット居たの? あなたの分は無いから…… カップ麺で我慢してくださる?」
お昼になると、彼に弁当を届けると共に夕飯のメニューを告げるのが私の日課、1日の始まりだ。
今日の夕食はこの世でもっとも美味しいとされるワニのステーキ。今から楽しみで仕方がない。
「じゃあお仕事頑張って下さいな」
「あぁ」
「……王妃様もお気をつけて」
いつも正午まで寝ている私は、ここから1日が始まる。
まず部屋に戻ってするのは、"今月の美女"の選定だ。
「カレンは…… 先月やっちゃったわね。それじゃあアンナにしておきましょう!」
「え、私ですか!?」
「そうよ? 嬉しいでしょう?」
「……」
王の後宮から選定した、今月1番王に可愛がられた寵姫である彼女を連れだって、私は街へと下りる。
綺麗な彼女はとても目立ち、平民達の視線も釘付けだ。
「いいわねぇ。私より目立ってる!」
「いえ、そんなことは……」
「いいのよいいのよ。謙遜しないで」
恥ずかしがる彼女の姿も、とても可憐で美しい。
だから……
「おい、ランド!! 来たわよ!!」
「は、はいー!」
私たちは街のハズレにある店へやってきた。
ここであるものを売るためである。
ひょこひょこやってくるここの店主に、持ってきていた"鎖"を手渡し……
「じゃあアンナ。元気でね…… ううっ、うう……」
「王妃様…… おうひぃぃぃぃ!!!」
私を慕う彼女の叫びを後に、私は店を出る。
こんな人を売るような汚い店には、長くはいられない。
「はー、すっきりした!!」
これで朝のリフレッシュは終了だ。
家である城に帰り、お気に入りのジュエリー達を眺めて過ごす。
「はー、もう少し大きいダイヤを買おうかしら…… うん、そうしましょう!」
眺めている内にもっといい物が欲しくなったので、お抱えの商人を呼んで指輪の注文。
そしてお昼寝を開始する。
そして気付けば夕食どき。
私たち夫婦の、2人だけの時間……
の、筈なのに!
「エレット! なんでいるの!?」
「シェフのご厚意で……」
あのシェフはクビだ。せっかく美味しいステーキを作れるのに。
「まったく、なんで貴方と言う人はこの女に甘いんだか……」
「それは、お前……」
王を睨みつけ、そしてにっくい顔をした女を睨みつける。
「パパ……」
「大丈夫だ、エレット」
不安げにする女にたいして、優しい顔をする私だけの王様!!
許せる訳がない。許せる訳がない!!!!
「騎士! 騎士! あの女を殺せ! あの、女豹を! 私から王を奪う気だ!!!」
騎士を呼ぶ。アイツを殺せと命じる。
騎士が来る。そして……
「王妃さま、お眠りください」
軽い衝撃とともに、目の前が暗くなる。
薄れゆく意識の中で、最後に聞こえたのは……
「パパ、きっとこの人がお母さんを殺したの!! 後宮のお姉さんたちもいなくなってる!! なのに……」
「公爵家からの援助がなければ王国は立ち行かん。……仕方ないのじゃ」
私に婚約破棄を迫らせたクソ女の声と、愛しい夫の声だった。
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