第3章 勇者イオリ
カズマサ「マリーよ…俺はそろそろ出掛けて来るが…君はどうする?」
マリー「お留守番してるわ…くれぐれもやり過ぎないでね?」
カズマサ「おう…なら留守番頼んだぜ!!」
魔王就任初日
カズマサは配下のブラックドラゴンに乗ると地理の確認も兼ねて空の散歩へと出掛けた。
新米魔王が早速仕事を始める中
新米女神も勇者スカウトの仕事を無事に終えており
2人が創る世界は
初日から大きく動く事となった。
受付嬢「女性ですので少し非力ですが全体的に高いステータスです!魔王討伐!頑張ってくださいね!」
イオリ「はい…頑張ります!」
女神マミの力によって異世界に転生した宮野伊織
元々ボーイッシュだった事もあって見た目はほとんど変わらなかったがその髪は茶髪になっており
半袖ミニスカートの高貴な騎士服と中性的な容姿や声も合わさって
ギルドの冒険者達の視線を独り占めにしていた。
イオリ「パーティの募集は…どうすれば…」
アサミ「困ってるみたいだね期待の新人さん!」
イオリ「あ…貴女は…?」
アサミ「私はアサミ!こう見えても賢者なんだ!」
掲示板の前で困っていたイオリに声をかける少女アサミ
水色のセミロングな髪
ノースリーブと短いスカートのワンピースを纏った彼女はギルドのアイドル的存在であり
高い露出度とそれに見合う綺麗に手入れされた身体は
同性であるイオリすらも魅了する程だった。
イオリ「賢者って…あの賢い者…?犬の者とかじゃなくて?」
アサミ「君…中々失礼な事言うね…」
イオリ「ご…ごめんなさい…」
アサミ「このブラドゥークの街は始まりの街だからね…周りに強いモンスターが出現しない代わりに冒険者達も初心者だらけなんだよ…」
イオリ「そうなんだ…」
アサミ「良かったら私が案内するよ!君の実力も知りたいしね!」
街どころかこの世界に来たばかりのイオリにとって
彼女の案内は非常にありがたいものであり
街の中を一通り回ると
2人は街の外へ向かった
イオリはこの世界に転生する時に女神マミから風の魔剣ファントムブリーズを授かっており
グリズリーと呼ばれる熊のモンスターが出現すると
彼女の風を飛ばす斬撃がグリズリーを一撃で真っ二つにしていた。
アサミ「グリズリーを一撃で倒しちゃうなんてね…最近見た冒険者…いや…勇者様の中では最強だよ!」
イオリ「でも…それはこの魔剣が…」
アナウンス「緊急事態発生です!!ブラドゥークの冒険者は至急ギルドまで集合してください!!繰り返します!緊急事態発生です!!」
イオリ「緊急事態!?」
アサミ「ちょっと強いモンスターでも現れたのかな?何も街の外までアナウンス飛ばさなくても…」
アナウンス「賢者アサミさん!!緊急事態です!!今すぐギルドへお戻りください!!」
イオリ「名指しされてるけど…」
アサミ「もぅ…人気者は辛いわねぇ!!いくわよイオリちゃん!!」
イオリ「はぁ…」
街の外まで響き渡る緊急事態発生のアナウンス
アサミが名指しで呼ばれた事もあって
街へと戻った2人だったが
2人を待っていたのは魔王就任の挨拶にやってきた魔王本人だった。
カズマサ「ごきげんようブラドゥークの諸君…私が新しく魔王に就任したカズマサだ!!」
アサミ「!!?」
カズマサは地理の確認を兼ねて全国各地の主要な街に挨拶回りをしており
如何にも凶悪そうなオーラを纏った魔王の威圧感は
冒険者達の危機感を煽るには十分な効果があった。
挨拶に来ただけで侵略や攻撃の意志は全くなかったのだが
勇者として転生した幼馴染みを見たカズマサは現世で奴隷にされていた事を思いだし
イオリの足元に火炎魔法を放った。
イオリ「ひっ!!」
その威力に思わず思わず弱々しい悲鳴をあげてしまうイオリだったが
そんな彼女にギルドのメンバーから声援が飛び交う事となった。
冒険者女「イオリちゃん!魔王になんかに負けないで!!」
イオリ「み…みんな…」
声援を受けて魔剣を抜くイオリ
戦意を見せた彼女に対して魔王は当てるつもりで火炎魔法を放ち
イオリの風の斬撃は襲い来る炎の球を次々と斬り裂いた。
カズマサ「少しはやるようだな小娘…!!」
イオリ「私は勇者イオリ!女神様から授かったこの魔剣ファントムブリーズで魔王!お前を倒す!!」
カズマサ「ほう…なら俺も先代魔王から授かった炎の魔剣を見せてやろう…」
炎の魔剣バルフォース…
先代魔王のゼロから引き継いだこの魔剣は凄まじい勢いの黒炎を纏っており
2人の剣が交わると
圧倒的な力の差でイオリは弾き飛ばされた。
イオリ「ああっ!!」
魔剣と騎士服以外に何のボーナスもないイオリと魔王補正で魔改造されたカズマサでは勝負になるはずもなかったが
力負けして涙目になってるイオリに対して
魔王は言葉の暴力で冒険者達全員を威圧した。
カズマサ「我が黒炎は対象を焼き尽くすまで消えない暗黒の炎…この生意気な勇者に燃え移ったらどうなるかな?」
イオリ「う…うぅ…」
冒険者女「嫌ぁぁぁ!!イオリちゃん!!逃げてぇ!!」
カズマサ「それっ!」
イオリ「や…やめ…あああああっ!!」
イオリの騎士服に着弾する魔王の炎…
ちなみに黒炎の話は全部デタラメであり
イオリの騎士服は破れた箇所から下着が見える程度に損傷した。
イオリ「う…うぅ…」
カズマサ「(こうして見ると…女の子らしいところもあるんだな…)」
ダメージが重くその場に倒れるイオリ
傷ついた騎士服から露出する綺麗な身体には、転生前には見る事の出来なかった彼女の魅力が詰まっており
細い脚を震わせながら立ち上がろうとするイオリに
カズマサはすっかり見とれていた。
カズマサ「(やり過ぎてしまっただろうか…でも…下手な負け方をしたら魔王としての威厳が…)」
イオリに見とれつつも冷静に状況を考える魔王
これ以上の攻撃は彼女の命に関わると考えた彼は、どうやって負けるかを必死に考え
そんな魔王に、救いの手となる強烈な水魔法が襲いかかった。
アサミ「アビス!ソリチュード!!!」
カズマサ「!!?」
アサミの両手から放たれた極太の水流ビームは魔王であるカズマサを吹き飛ばし
彼女は傷ついたイオリの元へ駆け寄ると回復魔法を発動させていた
魔王であるカズマサを吹き飛ばした水魔法は凄まじい破壊力であり
攻撃しても大丈夫と判断したカズマサは即座に立ち上がり
魔法を発動させたアサミの背後を捉え
彼女のか細い首を絞めあげた。
アサミ「あああああっ!!」
イオリ「や…やめてよ…」
首を絞められ悲鳴をあげるアサミ…
今にも死にそうな彼女の表情を見たギルドの冒険者達は、勇気を振り絞って魔王に向かっていき
それに気づいたカズマサは
自分が絞めあげている少女の強さを理解する事となった。
カズマサ「(こいつ…俺の攻撃を誘って味方全員の士気をあげたのか…?)」
冒険者男「今だイオリ!!やっちまえ!!」
思わずアサミを解放するカズマサ
少女の声が響き渡ると
視線の先には風の魔剣を構えた幼馴染みの姿があった。
イオリ「風の魔剣よ…私に力を!!ストーム!!ブレイカー!!!!」
カズマサ「ぐああああっ!!」
風の魔力を纏った魔剣の一撃を受けるカズマサ
断末魔の叫びをあげた魔王は綺麗に崩れ落ち
彼はブラックドラゴンを召集すると、自らに回復魔法をかけ撤退を始めた。
イオリ「はぁ…はぁ…」
カズマサ「軽い挨拶のつもりだったが遊び過ぎてしまったようだな…イオリと言ったな…この俺を倒したければ修行を積んで我が城まで来るがいい!!ふははははは!!!」
自己評価では100点満点の挨拶
新米魔王の力によって始まりの街ですら魔王軍の警戒が必要な世界へと変わり
世界中のギルドや武器屋の売り上げは瞬く間に跳ね上がった。
城へと戻ったカズマサは
自らの手で魔王軍の編成を始める事となり
魔王城に伝わる禁術を用いて
彼は幹部候補となるモンスターの精製及び召喚をスタートした。