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下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞

魔王様の暇つぶしに付き合うこっちの身にもなってみろっ!

作者: 夏月七葉

 これは困ったことになった。ゾルダートは頭を抱えてしゃがみ込みたいのを我慢して、目の前に立つ勇者と対峙した。

 勇者は剣を構え、敵意を込めてこちらを睨んでいる。彼の一歩後ろに控えた二人の仲間も同様だ。

 相手は三人。こちらは一人。――いや、これは絶対に勝てないのでは!?

 そもそも、ゾルダートは一応兵として訓練を受けてはいるが、兵の中では下っ端、魔族の中でも最下級なのだ。いくら魔族が人間よりも強いとはいえ、下の下であるゾルダートが勇者を名乗る人間に勝てるわけがないのだ。

 ああ、このまま尻尾を巻いて逃げてしまいたい。しかしそうした場合、その事実が魔王の耳にでも入ったら、首を刎ねられる恐れがある。

 進んでも地獄、退いても地獄。一体自分はどうしたら良いというのだろうか。

「お前、ここで何をしていた?」

 ゾルダートの苦悩など知る由もない勇者が、そんなことを訊いてきた。

 何をしていたも何も、何もしていないのに……。

 ゾルダートは一介の魔王軍の下っ端兵だ。魔王の統べる魔界は、数百年前に人間との戦いを終え、平和な世が続いていた。魔王軍も命を賭けた戦いなどはせず、悪さをしでかす魔族を取り締まるくらいの役割しか担っていなかった。

 そんな平和な時間が退屈だったのか、魔王はある日突然言い出したのだ。

『人間界を征服することにした!』

 その宣言は瞬く間に魔界に広がった。平和に飽き飽きしていた者は盛り上がり、反対に戦争など望まない者は困り果てた。

 大きく二分されたその後者に、ゾルダートも含まれていた。生活はそう裕福ではなかったが、それなりの暮らしには満足していたのだ。

 しかし、一介の兵が魔王に盾突いて良いはずもなく、否応なく人間界に派遣されてしまったというわけだ。

 そして派遣された直後に勇者と出会ってしまうという……なんと運の悪いことか。おまけに、人間界に転移する際に不具合があったのか、一緒に飛ばされた同僚も近くにいない。

「答えろ! 何をしていた!」

 いきなりの怒鳴り声に、ゾルダートは肩を竦めた。見ると、勇者の表情が益々険しくなっている。

「な、何も……」

 我ながら情けない声だ。涙が出そうになる。

「そんなわけがないだろう! 正直に答えろ!」

 一歩前に進み出た勇者に、ゾルダートは叫び出したくなった。

 魔王様の暇つぶしに付き合うこっちの身にもなってみろっ! と。

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