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ティシポネの回顧録  作者: 葉月 悠人
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#3 Trust and betrayal 

気付けば私は大人になっていた。


そして銃を手に戦場に居た。


そこで友達が出来た。


今日まで生きてきた中で出来た最初で最後の友達。



監督の元へ来て何年か経った頃、私は一人前の兵士として訓練施設を『卒業』、前線部隊へと配属になっていた。


 訓練施設に居た時に図書室へと通ったおかげである程度の教養きょうようがつき、それなりの事は分かるようになっていた。


 今更な事だが私を買い取ったのは陸軍だった。


 軍は年端も行かない子供達を金で買い取り、兵士としての教育を施して前線へと送り出していたのだ。


 しかも私のような『恵まれない子供達』に狙いを定めたその『買い物』は、傍から見ればそれは美しい『慈善活動』に見えた事だろう。


 世間に対して好印象で徴兵するよりも確実な方法、それに何より誰も文句を言わなかった。  


 とは言え年端(としは)も行かない子供に軍事訓練を施し、躊躇ためらいなく敵を殺せるよう仕向けるあたり、軍という組織は中々にえげつない事を考えるものだ。 



 それでも、ある程度大人になるまで前線に送らない所を見ると、欠片(かけら)ほどの良心は残っているようだが、えげつないのは変わらない。


 だが、ここに連れて来られなければ私の人生はどうなっていたか分からなかったのもまた事実。 

 私は飼い主である軍に感謝と若干の嫌悪感を抱きながら今日も任務に励む。

 

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 部隊に配備されて早1年と数ヶ月。


 隣国との小競り合いが激化し、戦争が始まった。 

 当然、前線にいる私も戦地へと赴く回数が増えた。

 ただ国境を見回るだけの任務じゃない、銃を持って敵地へと踏み込む侵攻作戦だ。

 

 明日をも知れぬ日常が始まる。


 実戦経験の無い私だが、戦地に向う事に対しそれほどの不安は無かった。

 私の所属する前線部隊、そこで知り合った同年代の『エリーシャ』という女性兵士と出会ったからだ。


 小さな事で意気投合した私達は訓練を共にこなしていく中で、互いを信頼する程になった。


 『お互いに背中を預けて戦おう』

 

 エリーシャは笑いながらそう言った。

 お互いの背中を護りあえば怖いものなしだ。


 お互いに生きて帰れる。

 私達は一路、戦地への道を進んだ。


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 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 戦争が始まって3ヶ月。 


 当初優勢だった戦況は拮抗きっこうしてきた。


 最新鋭の兵器で圧倒していた私達に業を煮やした敵国は、少数で私たちの後方に回り込み補給物資を攻撃するようになった。


 人も兵器も腹を空かせば使い物にならない、敵はそれに気づいたのだ。

 

 動かない最新兵器のおかげで私達は泥沼への道を辿りつつあった・・・・


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 ある日、私の部隊に後方の森林地帯への出撃が下った。

 後方地域に潜伏する敵部隊を排除する事が目的だ。


 部隊は私とエリーシャを含めて6名、重装備に身を包んだ兵士がこれだけいれば怖いものは無い。

 後は敵を見つけるだけだ。


 生い茂る草を掻き分け、私達は薄暗い森の奥に進んで行った。


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 (ページが1枚破り取られている)


  


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 改めて日記に記す。



 先日、エリーシャが死んだ。


 最期の光景は私の脳裏に鮮明に焼き付いてる。


 

 巧妙こうみょうに隠されていた地雷じらいから私を庇ったのだ。


 ついさっきまで生きていた彼女の体から、生温かい鮮血せんけつが溢れ出して私の戦闘服を赤黒く染めていく。


 それと入れ替わるように私にかぶさる彼女が冷たくなっていくの感じた。


 あの温もりと冷たさが体から離れない。


 そして瞳孔の開いた生気の無い瞳は、永遠に私の記憶から消える事は無いだろう。



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 作戦から帰還して数日後の今日、私にエリーシャの荷物を(まと)めるように指示が下った。


 同室の一角、彼女の机やクロゼットの中から衣類や遺品を集めた。



 ふと、彼女の机の上の写真に目が止まる。



 十数名の子供たちと数人の大人の集合写真、『アインツァルト孤児院』と書かれた看板の傍での写真だ。 



 彼女は孤児院から引き抜かれてきたと言っていた。


 ならばこの荷物は写真の孤児院へと送られ、彼女を知る者達はその訃報ふほうに涙する事だろう。


 

 自らの死を悲しんでくれる者が居る、それがどれほどの幸せなのか?


 実の親からも人として扱われなかった私には到底理解の及ばない所だ。 


 


 そんな事を考えながら開けた机の引き出しの中には、一枚の封筒だけが入っていた。

 

 宛先は私だった。

 

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 私はエリーシャの、戦友の死の真相を知った。



 私は彼女を親友として信じていた。


 しかしエリーシャは私を道具としか見ていなかった。


 封筒の中身は私への裏切りの言葉がつづってあった。


 



 「ごめんなさいキャシー、貴女を利用して死ぬ私を許して」



 

 彼女は何時からか『死』を渇望かつぼうしていた。


 しかし同室の私にあらぬ嫌疑けんぎがかかるのを恐れた彼女に自殺は出来ない。


 だから『致し方のない』形での死を求めた。


 

 結果が『戦死』だった。 

 

 エリーシャは自分にとって『戦友』であった私を地雷から庇う事で『仲間を庇い犠牲となった勇敢な兵士』として逝ってしまった。


 

 彼女が死を渇望かつぼうするようになったのは何時からだったのか?

 

 私が出会う前から死を望んでいたのか?


 それとも今の戦争を駆け抜ける中で彼女の何かが壊れてしまったのだろうか?



 エリーシャの死と裏切り。

 

 2つの事実は私の心をかき乱すには十分すぎた。




ページの間から何かが落ちた、よく見ると日記の様だ。




(破られたページの日記)


嘘だ。


エリーシャは私を驚かそうとしてるんだ。

今もこうして半泣きで日記を書いているのをどこかで笑いながら見てるに違いない。


あの時の服に着いた血も、エリーシャの体から飛び出ていた内臓も、全部作り物に違いない。

ともすればあの時の死体も、実は精巧な人形だったに違いない。


エリーシャ、隠れているなら出てきてよ。


私を驚かすにしてもこんなのは笑えない。

とにかく早く出てきてよ!!








・・・・もしかするとこれは夢なのかもしれない。


目が覚めるとエリーシャが居て、コーヒーを淹れてるかも知れない。


絶対そうだ、じゃあ早く眠らなきゃ。


はやく寝て・・・・はやくこの悪夢から目覚めなきゃ。


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