妙ちゃんと絨毯
妙ちゃんはお正月に閉店間際のショッピングモールにお母さんと行きました。
「絨毯フェアだって!価格は半額って!」
「そう?お母さんは毛糸を買ってくるから、見ていなさい」
毛糸!メーカーが製造中止した本来なら一個数百円もする毛糸を、ザルに積めるだけ積んで乗っただけ千円プラス税で買えるお年玉企画!!!
妙ちゃんも楽しみに来てたはずなのに、なぜか今は絨毯に目が止まってしまいます。
「わあ!」
オレンジ色を基調に植物や動物、幾何学模様を配置した、なんとも言えない絨毯。
「よんまんえん…?価格は半額?」
今年は小学校にあがるから、親戚のおじさんたちからお年玉いっぱいもらってました!二万円なら買えそうです!
店員さんを呼んできて、これください!と言ったら、
「もう半額にした値段がよんまんえんです」
と言われて、ガーン!となった妙ちゃん。
「これの、小さいのでにまんえんのはないですか?」
「色違いならありますよ」
連れて行かれてみると、オレンジではなく、青を基調にしたものでした。
「うーむむむ」
「妙ちゃん!毛糸買ってきたよ」
「おかーさーん。青よりオレンジのがいいよね?ね?」
「そうねぇ、暖色系があったかいイメージね」
「絨毯〜」
「まあっ!だめよ!こんな高価なのっ!」
「ぶーぶー」
妙ちゃんはお母さんに引きずられるように帰って行きました。
家に帰るとお祖父ちゃんとお祖母ちゃんが来ていました。
「なんで妙は不機嫌なんかい?」
「絨毯が、絨毯で、絨毯なの!」
「たえっ!いい加減にしなさい!」
お母さんに叱られてしまいましたが、お祖父ちゃんたちがカンパしてくれました。
「絨毯!!」
妙ちゃんは次にお店に行ったときに買おうと思っていました。
「あの、ここにあったオレンジのは?」
「ごめんねー、売れちゃったんですよ」
お店は閉店間際だから、商品もがらがらになってきていました。
「これをください!」
他の人が見ている青の絨毯を指差しました。これも早いものがちに思えたのです。即決でした。
持って帰るとき、大きさはこれが妙ちゃんにぴったりだったことがわかりました。重さがやっとこ抱えられるくらいだったのです。
「たえっ!あんたはっ!すぐお店に返してらっしゃい!!!」
お母さんが大目玉です。
「い、や、だ」
妙ちゃんは絨毯をリビングルームに敷きました。
「青もいいな」
夕方、仕事から帰ってきたお父さんに、お母さんはぶつぶつ言っていましたが、お父さんは背広を脱いでネクタイを緩めると、妙ちゃんの絨毯の上ですやすや寝入ってしまいました。
「もう」
お母さんはお父さんに毛布をかけてあげると、夕飯の支度に台所へ行きました。
「お父さん」
「妙?ようやった!良いもの買ったじゃんか」
お父さんがニヤリと笑いました。
「えへへ」
妙ちゃんはお父さんと一緒に毛布にくるまって、絨毯の上で横になりました。
「楽しい夢見とるよ」
お父さんが呼びに来たお母さんにウィンクしました。
お母さんは肩をすくめてみせました。