別れ
「豚の希望を叶えてやろう。」
豚じゃなくて、1年の織田信忠。
「活動内容を勝手に変えて言いのかい?」
エレンの突然の方針転換に、僕は心配になって生徒会長のハブに聞いた。
「何を言ってる。だいたいだな、おかしな名前じゃなきゃ入れないなんて、人権無視もいいとこだ。そんなの、認めるわけないだろ。」
そういって、僕に申請書の写しを見せた。活動目的には、自分探しとあった。
「ヘレナに出しなおしさせた。あいつは、こうなることをわかってたようだ。ゼロはお人よしだが、度胸が足りない。メアリは自分の殻に閉じこもり、自分の存在意義を見失っている。もっと自分に自信を持たせたい。それには、自分のルーツを好きになる必要がある。自分の名前が誇れるようになれば、親や周囲の人間の思いも理解できるようになる。だから、変わった名前が入会条件だって言った。」
ハブは一呼吸置くと、話を続けた。
「だけど、それは明かせないだろ。だから、僕らが名探偵同好会として周囲に認知できるように、学校に伝わる七不思議を解決させたんだ。おかげで、教師も生徒も普通の探偵同好会だとすっかり信じている。これは謎を解く同好会じゃない。自分を探す同好会なんだ。」
僕らは、こいつの手駒として小さな盤の上を転がされていたってわけだ。
「君らがこの部屋にいるのも偶然じゃない。生徒会直属の同好会なんだ。」
そういう彼が指差す会長の欄にはハブの名前が書かれてあった。そして、これからは代々生徒会長が同好会の会長を受け継ぐことになってた。
「ノブタダ君を推薦したのも僕だ。彼は、偉大すぎる先祖の名前に恐れをなしている。だから、自分の先祖を知ることで、自分の存在理由を認識できると考えた。」
僕は何をしていたんだろう。まさか、周囲がこんなに僕らのことを考えていてくれたなんて思ってもいなかった。
僕は、帰りにマリの様子を見に行った。
「あいつは、母親と暮らすって出て行ったよ。レイに会うと、決断が鈍るって。ここは居心地がよすぎるってさ。新しい自分の居場所を探すんだって。しばらく動画もやめるって。向こうには場所が無いからって、機材は置いてった。今日学校には転出届を出したって。」
主を失った部屋は寂しげだった。