ぬくもり
「今は、そんな先のこと考えてない。小学校の頃は届け物をするだけの関係だった。でも、この1年は一緒に冒険してとても楽しかった。僕がピンチの時はいつもマリが助けてくれた。」
そう言う僕の背中に何かが当たった。そして、重みとともに暖かさが伝わってきた。
「僕のほうこそ、君には助けてもらってばかりだ。ごめん。君はうそつきじゃない。うそつきは僕のほうだ。僕は男の子になりたいわけじゃない。ただ、弱い女の子として見られたくないんだ。だから、強がってしまう。君はいいな。自分に正直に生きられて。僕もこの1年は一番楽しかった。エレンもいたし、君もいた。君たちは素の僕を受け入れてくれた。男とか女とか関係なく扱ってくれた。だからかな。中学を卒業した先のことを想像したら怖くなったんだ。みんな僕の周りから居なくなってしまうって。」
僕は天井の隅を見上げて想像して見た。
「未来のことはわからない。可能性は一つじゃないから。マリは一人ぼっちじゃないよ。僕らが側にいるじゃないか。」
「ずーとずーと、一人だったら。」
「僕らは、ずーとずーと、側にいる。心の中に。」
「君は昔と変わらないんだね。その心も、背中のぬくもりも。」
僕の脳裏に、幼い昔の記憶がフラッシュバックした。
赤い服の泣きじゃくる女の子。小学校でいつも側にいた男装の子。目深にパーカーのフードをかぶる子。マリはいつも僕の側にいた。僕が側にいたんじゃない。彼女が僕の側にいたんだ。
「ごめん、気付けなくて。」
僕はそっとつぶやいた。その言葉に返事はなかった。