マリの秘密
「その子はヤマトじゃなかったんだ。」
僕は、手がかりを失った。しかし、どこかほっとした気持ちがあった。
「マリと最初に会ったのはいつだったろう。」
昔のアルバムを引っ張り出して彼女を探した。幼稚園にはいなかった。ならば、小学校だ。写真はあるものの、名簿はない。おかしな法律のせいで、卒業アルバムから同級生や教師の名前がすっかり消されてしまったのだ。6年から遡ってみていくが、それっぽい女の子はいない。写真にうつりたがらないやつだったのか。
1、2年のころの記憶はほとんどない。エレン以外の女の子と遊んだ覚えが無い。
「エレン。マリって卒業アルバムに写ってたか、わかる?」
翌日、僕はやむなくエレンに尋ねた。
「何言ってる。お前の後ろに写ってるじゃないか。これも、それも。」
エレンが指した先には、顔は見えないが一人の男の子が写っている。
「3年から学校に来なくなったからな。」
そうだ、思い出した。確かに、いつもそばにこの子が居た。
「令は知らなかったのか?マリは性同一性障害と診断されたので学校では、男の子のように過ごしていた。」
エレンの言葉に戸惑いを覚えた。じゃあ僕はいつからマリのことを女の子と思ったんだ。
「お前が、私に女の子だと教えてくれたんだぞ。」
僕は最初から知っていた?
帰り道、僕はエレンに連れられ、マリの部屋に立ち寄った。
「最近学校こないね。」
ぼくは、思ったままを尋ねた。余計な気遣いは、彼女に失礼だと思った。
「ああ、気が向かなくてね。」
彼女は、昔みたいにまたパソコンに向かっている。僕も彼女のほうは見ないように後ろを向いて座った。
「皆、心配してるよ。」
「別に皆のために学校行くわけじゃないし。」
マリの言う通りだ。
「そうだね。」
「レイも学校に行ったほうがいいと思うか?」
僕は正直、来て欲しかった。でも、そうはいえない。
「僕には決められないよ。ただ、友達だからね。一緒に居られれば楽しいかなって。」
「うそつき。高校になったら別々だろ。一緒になんか居られないさ。」
僕は、自分の言葉には嘘はなかったが、軽率だったと感じた。